表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
467/545

一周回って無罪

 狐太郎が了解したことで、シャインとコチョウは一旦下がった。二人は退室し、帰り始める。

 だがコチョウは、その中でシャインへ謝っていた。


「すみません、隊長。ご迷惑をおかけしました……狐太郎様にも……」

「いいのよ、コチョウちゃん。貴方の気持ちは、よくわかるわ」


 元々コチョウは、弟が狐太郎へ迷惑をかけたので、シュバルツバルトへ贖罪に来たのだ。

 その彼女自身が、狐太郎へ迷惑をかけるなど本末転倒だろう。


「でもね……貴方の弟さんの罪は、もうとっくに償われているわ。むしろずっとたくさん、狐太郎君は感謝しているのよ。そうでなかったら、彼は貴方の力にならないわ」


 狐太郎は相手を役に立つかどうか、役に立っているかで見ている。

 これは女性に対しても同じであり、役に立たなければ決して評価することはない。

 正直どうかと思うところもないではないが、彼が置かれていた状況を思えば仕方ない。

 それに、男女如何に関わらず、能力があれば評価する、と言えば見方も変わるだろう。


「それに狐太郎君はああ見えて、……粋のわかる男よ。貴方の我がままに、全力で協力してくれるわ」


 討伐隊でも屈指の実力者、シャイン。彼女は全幅の信頼を、彼に預けていた。



 学校に通いたい。その言葉が、狐太郎に響いていた。

 思えば彼女も、学校を途中で辞めたのだ。正しくは学校の学部が潰れたのだが、通えなくなったことに変わりはない。


 その彼女が学校に通いたいと言っているのなら、尽力するのもやぶさかではなかった。


「……」


 椅子に座って浸っている狐太郎は、ちらりと侯爵家四天王を見た。

 思えばこの四人も学業を切り上げた身ではあるが、仲間と協力して青春をしていたと言えなくもない。


 真面目に一流の精霊使いを目指していた彼女である、切磋琢磨する友人もいただろうし、尊敬する教師もいただろう。

 彼女はその関係性を、永遠に失ったのだ。


(すげー見てくる……)


 なお、見られている四人は肝が冷えていた。

 まさか自分たちを見て、憧憬に浸っているとは思うまい。


 しかしながら、四体の魔王は狐太郎に共鳴していた。

 学校生活を求めている彼女へ、思うところがあったようである。


「シャインさんもコチョウさんも、すごくお世話になったもんね! 私も頑張るよ!」

「アカネに出番があるかはともかく……私も彼女の夢をかなえてあげたいわ」

「まあどうせバレるでしょうけど……最初ぐらいは、楽しい夢を見せてあげないとね」

「私からもお願いします。どうか彼女へ、最善を尽くしてあげてください」


 力になってくれた人から頼られたのだ、力になってあげたい。

 狐太郎たちは基本暇なので、全力でコチョウの経歴詐称に協力する所存だった。


「フーマ一族、来い」


「はっ!」


 狐太郎の侍従であるフーマ一族を、狐太郎は呼び寄せる。

 忍者のように、ではなく……割と普通に傍にいた彼女たちは普通にやってきた。


「魔女学園の主要人物と、その親類で、戦争災害を被っている人を探ってくれ。俺の名前を出していいし、公的な資料の範囲でいい。それから……魔女学園の一番偉い人へ、アポイントメントを取ってくれ。ただ、早くても一週間後以降だ。それより早いと、お前たちの情報収集が間に合わないからな」

「承知しました」


 狐太郎の指示が『公になっている範囲』と指示したことと、狐太郎の名前を出していい、というものだったのでフーマたちはあっさりと請け負った。

 家に忍び込んで二重帳簿を探ってこいとかじゃないので、ちょっと事務作業するだけである。

 戦闘能力に乏しい一方で、そういう調べものが得意な諜報員も多いので、ネゴロと協力しつつことに当たれば簡単だった。


 基本的に今の狐太郎は暇である。

 彼の抱えている戦力のほとんどが、央土以外から引っ張ってきているだけに、この復興期でも比較的手が空いていた。

 だからこそ狐太郎は、それを活用するつもりだった。


「あら、ご主人様。恐喝とかはしないの?」

「変なことを頼むわけじゃないからな。コチョウさんも言っていたが、同級生にだけでも口止めさせたいんだろう? ちょっとしたおままごとみたいなもんだし……気持ちは共感してもらえると思う」


 ササゲは茶化すように笑うが、狐太郎は真摯だった。

 経歴詐称するといっても、教師全員が把握しているのなら問題にならない。

 在学中の一般生徒たちにも口止めをすることになるが、それも教師たちからやった方がいいだろう。


「実利を少しと、美談を少し。それで十分な案件だろう?」

「あらあら、ご主人様も融通を利かせるのねえ……」

「無理に悪いように言うなよ」


 ササゲは狐太郎をからかっているが、その顔は慈しみがある。

 決して悪だくみの類などしていない、ちょっとからかってやろうという程度だった。


「……でもさ、これぐらいならシャインさんでもできるんじゃないの?」

「できるだろうな。でもあの人は忙しいだろうし……効果が違う」


 狐太郎が何をやろうとしているのか察して、アカネは疑問を提起した。

 斉天十二魔将元五席であるシャインも、相当な権力者である。狐太郎がやろうとしていることも、頼るまでもなく実行できる可能性が高かった。

 だが彼女には、ネゴロやフーマのような手足がいない。蛍雪隊の隊員たちにももう暇を出していたし、元々事務作業ができる人ではない。


「結局俺か、陛下に頼むしかないだろう。それなら暇な俺に回ってくるというわけだ……ああ、陛下にも話を通しておいた方がいいな。お忙しいだろうから、メール……手紙でも書いておくか」


 狐太郎は決して怪物ではない。

 歴史の偉人のような、人誑しというわけではない。

 際立って優れた能力があるわけではないし、一流にも達していない。


 だが彼は大金持ちだし、私的な武装集団を抱えているし、実績もあるし、大王とも親しい。

 そういう人間の一挙手一投足には、途方もない影響力があるのだ。


「じゃあ報告が上がるまでの一週間、何をしようか? やりたいこととかあるかな?」

(……すごくいい生活してるなぁ、この人)


 そんな彼の側近であるブゥは、指示を終えている狐太郎へ感嘆の念を禁じえないのであった。



 さて、王都の魔女学園である。

 非常にいまさらだが、コチョウが現在在籍している教育機関であると同時に、かつてシャインが属していたところでもある。


 軍属を嫌ったシャインだが、突き詰めれば魔女学園側も彼女を軍に推していたのだ。

 だから彼女は自分でシュバルツバルトへ向かったのだが……。それはまあ、昔のことである。


 現在魔女学園のトップ、理事長の関心ごとは、やはりコチョウであろう。

 なにせ、()第四将軍である。それも王都奪還軍という歴史的な意味を持つ、すでに勝った軍の将である。


 元々彼女はこの学園に在籍していたし、現場で経験を積んだ後で、さらに戻ってきたのである。

 彼女がこのままこの学校を卒業し、さらに教員などで籍を置けば、それは魔女学園にとってこの上ない権威となるだろう。


 狐太郎の護衛を務めた侯爵家の四人でさえ、学校の名前を変えるほどである。

 それを大きく超える彼女へ、多くの期待を寄せるのは当然だった。


(もとより魔女学園は国内でも最高位の学校だったが……王都の占領によって、一度は地に落ちた。再起しなければならない)


 理事長としては若い中年男性である彼は、経営者としての愛校心を持っていた。

 王都陥落の責任は魔女学園にないが、王都の権威と学園の権威は直結している。

 少なくとも王都が占領されたことによって、学園の設備に被害が出ており……今後も狙われるのではないかと、入学希望者が減っている。


(このままではよくない……シャイン君が我が校の広告塔になってくれない以上、彼女に期待するしかないのだが……いや、期待もなにもすでに実績があるのだが……)


 彼は決して間違っていないし、悪人でもないし、無能でもない。

 少なくとも罰を受けるような真似はしていない。


 だが彼は、悲しいかな、コチョウとそこまで親しくなかった。

 何なら、ランリのこともあって疎んじていた時期があったほどだ。


 だからこそ彼はコチョウから頼られることなく、それどころか……。

 人を介して、圧迫を受けることになっていた。


「どうも初めまして、狐太郎と申します」

「ようこそ、わが校へ……四冠閣下をお招きでき光栄でございます……」


 ぶっちゃけコチョウ本人でも同じようなこと、圧迫ができるのだが……。

 それだけでは交渉がうまくいかないことも事実だった。


 なのでさらに重圧を課せられる上に、解決能力を持った狐太郎がここに来たのである。


「本日は我が校を視察なさりたいということですが……」


 彼は校門で理事長をはじめとした、多くの教員たちに迎えられた。

 当然彼の周りには魔王やら四天王やら元十二魔将やらがおり、まるで戦争という雰囲気である。


 それこそ一国の王を守るような、圧倒的な戦力による護衛だった。

 

「何か問題でも?」

「いえ! そのようなことはまったく!」

「私の戦友である元五席のシャインは卒業生、第四将軍コチョウは在学生……彼女たちのように優秀な生徒を輩出されている学園です。それに……精霊学部の復活も聞いておりましたので、一度は視察させていただこうかと」


 それに守られている狐太郎は、とんでもなく目立っていた。

 その彼の周囲には、学校中から責任者が集まっているので、やはり途方もなく目立っている。


「で、では……精霊学部を重点的に?」

「いえ、皆さんにお任せいたします。先日の占領から改修が終わっていないところもあるでしょうし……助成が必要な箇所についても、案内していただければ」


(て、てっきり精霊学部だけ労いに来たのかと思ったが……!)

(やはり寄付を前提とした視察!)


 狐太郎は、あえて案内を任せた。

 それは見せたくないところは見せなくていいということであり、逆にどうしても見てほしいところへ案内していいということだった。

 それは相手の急所を探る気がないということであり、とがめに来たわけではないという意思表示である。


 もちろん『見せてもいい場所』でさえ問題が起きていれば、その時はいろいろとアレだが……。


(それだけは……殺してでも阻止する……!)


 理事長は周囲の教員に目くばせをする。

 彼らは真剣な表情で応じ、断固たる決意を向けていた。



 さて、狐太郎である。

 四冠と名を授かった彼であるが、今は休業状態である。


 表向きは『王都奪還ご苦労様、ゆっくり休憩してね!』ということである。

 邪推する者は『奪還しろとは言ったが死なせすぎなんだよ! 謹慎してろボケ!』と受け取るだろう。


 実情がどうかと言えば、むしろ表向きがそのまま正解である。

 だが国民感情に配慮し、裏向きについて否定はしていなかった。


 そのため、彼がダッキと結婚して、この国の王になるかは不明なのだが……。

 それを抜きにしても、彼がかなりの資産家であることは事実だろう。

 もしも彼に見初められれば、人生大逆転ホームランである。


 この魔女学園は、戦争を経て人数が少々減った今でも、教師も生徒も多数在籍している。

 その半数が女性であり……その中のごくごく一部の夢見がちな者たちは行動を起こしていた。


(この大講堂はね、今は立ち入り禁止なんだ……ほら、机とか椅子とか、だいぶ壊されて汚されてるから)

(うん、昔は奇麗だったのにね……戦争で略奪されちゃったもんね……)

(だから! 噂の四冠様も、きっとここに視察に来るはず……! 偶然を装って、会っちゃえば……! ワンチャンあるかも!)


 強気そうな女生徒と、弱気そうな女生徒。

 二人の可憐な少女たちは、略奪された後の大講堂に身を潜めていた。

 国家を救った英雄、四冠の狐太郎。

 彼がこの学園へ視察に来るので、ちょっと期待している次第である。


(四冠様はね! 次期大王で元征夷大将軍で元斉天十二魔将主席で現Aランクハンターなのよ! 政治も軍部も近衛も狩猟も、全部トップなんだからね! その人と一緒になれば、どんな願いも思うが儘よ!)


 強気な少女は、夢を見ていた。

 ものすごくふわふわしている、具体性のない夢。

 しかし狐太郎と恋に落ちれば、実現しうる希望だ。


(本妻になるのは無理っていうか、ダッキ様と正式に結婚してもらった方がうれしいんだけど! 愛人とか、秘密の関係とかになればさ! それでいいじゃん!)

(う、うん……)


 一方で弱気な女子は、別種の期待をしていた。

 彼女は王都からカセイへ避難していたので、狐太郎の宣誓を遠くから見ていたのだ。


(西重に攻め込まれて、心細かった時……あのお方が私たちを助けてくれた、迎えてくれた、受け入れてくれた……)


 亜人の王が、悪魔の王が、火竜の王が、精霊の王が、配下を従えて彼をたたえていた。

 彼こそはまさに、伝説の英雄。もう駄目だと思っていたこの国を、自分たちを救ってくれた人。


(きっと……素敵な人なんだろうな……ダッキ様っていう素敵な王女様と、素敵な恋をしているんだろうな……)


 伝説の英雄のような人なのだ、伝説のような素敵な私生活があるのだろう。


(きっと、私なんか、相手にしてもらえないだろうな……でも、せめて……感謝の言葉ぐらいは……)


 弱気な少女が強気な少女に付き合ったのは、それなりの理由があったからこそ。

 淡いあこがれを、強い感謝を、少しでも伝えたかった。


 その思いで、立ち入り禁止とされている大講堂の中に潜んでいた。

 


「探知属性を使ったところ、視察願うはずの大講堂に二人分の気配が……」

「狐太郎様を狙う侵入者だな。我が校の生徒や教員が、立ち入り禁止の部屋にいるわけがない」

「そうですね、おそらくは西重の残党でしょう。警備に捕えさせ、憲兵に引き渡します」



 アポイントメントがあったとはいえ、四冠がやってくるともなれば学園内は大慌てである。

 授業中の風景も見てほしいということで(授業中の風景を見せられない理由があると思われるのが問題なので)、生徒たちへの授業は普段と変わらず行われている。

 もちろんこの場合の普段通りとは、時間割が普段通りという意味であって、間違っても普段と同じ基準の授業ではない。


 だが多くの教員が狐太郎に同行している関係上、普段の業務が大いに滞っていた。

 教師という職業は、生徒へ授業をするだけの仕事ではない。いや、もちろんそれが特に大事なのだが、生徒へ滞りなく授業を受けてもらうためには、たくさんの地味な裏方仕事が必要だった。

 それが滞れば、必然的に授業にも支障が出る。よって授業が始まるギリギリの時間になっても、まだ教室についていない教師まで出てしまった。


(まずい……超まずい……! このままだと授業が始められない! いつもは先輩に助けてもらってるのに、その先輩が四冠様の対応をするっていうから……!)


 こういう時特に苦労するのは、普段仕事ができない教師である。

 普段は他の人に手伝ってもらって、それでようやくという状態だからこそ、一人では回りきらなくなる。


 しかしそれは、本人が無能だからとは限らない。もちろんその場合もあるが、新人であれば仕方ないこともある。

 というか新任して間もなく王都が占領されて、城にかくまわれて、すし詰めの生活をして、開放されて、学校の復旧を始めて……。

 それで指導が行き届くわけがなかった。


(ああもう……なんでこんな時期にお偉いさんが来ちゃうのよ!)


 新人女性教師は、たくさんの教材を持ったまま走っていた。

 この世界の住人は屈強だが、鍛えていなければさほどでもない。

 もっと言えば、この世界の教材はデジタル化もくそもないので、基本的に重くて大きい。

 それを抱えて走っていれば、早く着くわけがない。


(もうすぐ鐘が鳴る……多分、多分だけども! でもこのままだと間に合わないよぅ!)


 彼女は涙目だった。

 なまじ真面目だからこそ、遅刻した場合が恐ろしいのだ。


(この大事な日に遅刻なんて、きっと私だけ……生徒からの尊敬を失い、先輩たちからの信頼も失っちゃう!)


 さて、これはよくある話である。

 人間は失敗が迫ると、選択を誤ってしまう。

 というよりも……より大きな失敗の可能性が見えなくなってしまう。


(っていうか、普段は使える廊下とかを、四冠様が通るからって封鎖しているのが悪いのよ! それさえなければ、間に合うかもしれないのに……はっ!)


 授業に遅刻したら、それはもう怒られるだろう。

 だが要人が通るので封鎖している廊下を強行突破するのは、もっと怒られることだ。

 もちろん彼女も、そんなことはわかっている。

 上司や先輩から『絶対に通るな』と言われているし、自分でも生徒へ『絶対に通るな』と言っている。


 だがしかし、教師だからこそ知っていることもある。

 四冠を通すとき以外は、警備が手薄だということを。


(そもそも私はこの学校の教師だし、身分証明書も持っている! だったら、四冠様に遭遇しない限りは大丈夫! 行ける!)


 前がろくに見えないほど、どっさりと教材を抱えている若き女性教師。

 彼女は封鎖されている廊下を突っ切るべく、全力で走り出した。


(うおおおお! まにあええええ!)



「封鎖されているはずの廊下を、大量の荷物を持った女性が突破しようとしていました。この学校の教師であると名乗り、身分証明書も提示しております」

「そんな人物がこの学校の教師であるはずがない。憲兵に突き出せ」

「承知しました」



 学校という施設には、危険な教材もたくさんある。

 ノベルが変身するような危険な鉱物は当然のこと、ごく普通の危険物である塩酸や硫酸、あるいは燃料なども存在する。


 中でも特に危険なのは、エンチャント技の見本であろう。

 爆発属性や火炎属性のような、危険な効果を付与された鉄球などが多く保管されている。

 もちろん頑丈な錠前でしっかりと施錠され、さらに鍵も金庫にしまわれている。その金庫も理事長室に置かれているため、やはり一般生徒も一般教員も見ること自体ができない。

 実質的に死蔵レベルで多重プロテクトをかけてあるのだが、だからこそ略奪されることがなかったともいえる。


 というよりも、学校で資料として保管されている危険物など、軍隊から見れば量が少なすぎる。

 そんなものをわざわざ探すほど、彼らは武器に困窮していなかった。


 だが個人が武器として使用する分には、過剰すぎるほど、ともいえるだろう。

 特に狐太郎という貧弱一般人を殺すには。


「ぶっ殺してやる……ぶっ殺してやる……」


 狐太郎がこの学校を訪れているということで、相対的に狐太郎周辺以外の警備は甘くなっていた。

 追い詰められている顔の女子生徒は、理事長室に忍び込み、金庫をこじ開け、鍵を盗み出し、危険物の保管庫に入っていた。

 数日間寝ていないかのような、鬼気迫る表情で、危険物を体に巻き付けていく。


「ぶっ殺してやる……絶対ぶっ殺してやる……全部全部、あいつが悪いんだ、あいつをぶっ殺せば全部元通りだ……あいつがたたえられているなんて、絶対に許せない、ぶっ殺す……! 殺す! 殺す!」



「大変です、理事長! 四冠様を殺そうとする生徒が現れました!」

「そんな生徒がいるわけもない、憲兵に……」

「いえ、本当に、生徒が、狐太郎閣下を殺そうとしていたんです!」

「……は?」

「ほら、例のあの女子生徒です! 戦災で家族を失った、あの!」

「……王都の防衛に参加していた父を西重の兵に殺され、カセイへ逃げる際に母が病死し、王都奪還軍に参加した兄と恋人が殉死したという、彼女か……!」

「はい! 幸い拘束に成功しましたが、狐太郎様を殺害すると、殺意を顕にしています……憲兵に差し出せば、死刑は免れないかと……」

「そうか……彼女をそこまで追い詰めてしまったのは、我らの責任でもある……保健室に連れて行き、可能な限りのケアをしてあげてくれ……」



 学校側の涙ぐましい努力があってなお、狐太郎の安全な視察を脅かしかねない輩が複数名出てしまった。

 しかし真剣な教師たちの尽力によって、狐太郎にそれが達することはなかった。

 彼は真剣に勉強する生徒たちの姿や、破壊されてしまった校舎や設備などを視察することができていた。


(なんかみんな頑張って説明してたけど、すごい暇だったね……)

(これぐらい我慢しなさい、コチョウさんのためでしょ。貴方もお世話になったじゃない)

(それは、うん、まあ……だから頑張るけどさ)

(あくびとかしたら駄目よ?)


 もちろん、この学校に全く興味のない輩は、まったくもって暇だった。

 なんなら狐太郎もかなり暇であったが、何とか真面目な学生に戻った気分になって、なんとかやりおおせていた。


(よし、ここからだ……気合を入れるぞ)


 椅子の数なども不十分な会議室に案内された、狐太郎とその護衛たち。

 彼らは視察を総括する前に、ある女生徒を呼んでいた。もちろん狐太郎がここに来ることになった原因、コチョウ・ガオである。


(狐太郎さんが来るってだけで、ここまで騒ぎになる……やっぱりこの人は、凄くなったんだなあ……)


 黙って隣に座っていて、と言われた彼女は、狐太郎の脇にいる。

 精霊使いたちを招集したときと同じポジションであり、全部狐太郎に任せればいいので楽だった。

 とはいえ、窮屈である。大ごとになるとは思っていたが、実際になると緊張もひとしおであった。


「い、いかがだったでしょうか?」

「心苦しい、と言わざるを得ませんね」


 学校の視察という暇な仕事をした狐太郎は、それでも真面目な言葉を切り出した。

 彼の話が始まったので、理事長をはじめとする理事たち、各学部の長たちも思わず生唾を呑む。

 呼吸が浅く、小さくなり、うまく息ができなくなっていた。


「王都にある、由緒正しい学園が、この凄惨なありさま……奪還から数か月が経過してなお、色濃く爪痕を残している。一時は軍事を預かっていたものとして、申し訳ないほどです」


 半分嘘で、半分は真実だった。

 正直に言えば、この学校を見ても凄惨さはわからない。


 だが占領当時が凄惨だったことは知っている。

 それを憂う気持ちには、一切嘘がない。


 狐太郎はしばらく黙った。

 それが合図のない黙とうであると察し、彼の護衛たちも参加する。

 彼らも奪還戦、あるいはカセイの防衛に参加した者たちである。

 敵軍の恐ろしさは、肌で感じている。


 辛くも勝利した彼らでさえ恐ろしかったのだ、味方の軍が全滅した後の彼らがどれだけ恐怖に震えていたのか、想像できてしまう。

 その祈りに、心の中でそろばんをはじいていた教師たちも涙ぐんだ。


「……教育は国家百年の計だと聞きます。その中でも王都にあるこの魔女学園が、このままでいいはずはありません。国家が多くの予算を組み、速やかな復興をするべきでしょう」


 だが悼む気持ちだけでは進まない、狐太郎は算盤に話を戻す。


「しかし……今回の戦争は、まさに大戦と呼ぶべきもの。西部や王都は特に被害が大きいですが、各地も決して軽くない。他の重要施設と比べて、教育機関の復興が後手に回ってしまうのも……悲しいことですが、仕方ないのかもしれません」


 これもまた、事実だった。

 この魔女学園も、復旧は十分とは言えない。

 しかし一応授業はできている。それで十分だと思え、という意見も多い。


 教育も大事だが、衣食住の方が優先度は高い。

 その優先度に従って、復興の予算が配分されている。


「私も少々調べさせていただきましたが、理事の皆さんのご実家も被害を受けられたようですね」

「あ、は、はい……王都ほどではありませんが」

「いえいえ、西部にご親族がいらっしゃるでしょう。そこに比べれば、ここはアッカ様に守られていましたからね」


 狐太郎はコゴエに持たせていた書類を、会議室のテーブルに置く。

 本来はとても質のいいテーブルなのだが、今は傷だらけになっていた。

 それの上に、テーブルがかすむ程の痛ましい被害が並んでいく。


「この学園は本来、国家からの予算だけではなく、理事や学部長を務めておられる方々の、その実家からの寄付金によって成り立っているとか。現在はそのご実家が被害を受けたため、寄付も望めないと」

「……ええ、仕方がないことです」

「私がこの学校へ寄付を出すことは簡単ですが……それをよく思われない方もいらっしゃるでしょうね」


 いくら何でも、ひいきが過ぎる。

 国中が大変なのに、一教育機関にだけ注力するなど、普段その学校に援助している家の方が不満を持つはずだ。

 狐太郎の懸念は、極めてまっとうである。


「であれば、順番通りに進めるべきでしょう。幸い私にはドラゴンズランドの貴竜をはじめとして、多くの優秀な部下がおります。彼らの力を借りて、まずは各地の復興に努めようかと」

(何言いだしているの、この人……)


 これには、隣に座っているコチョウもびっくりである。

 学校へ視察にきたのに、その学校の出資者たちへ支援をすると言い出したのだ。


「すでにご存じかとは思いますが、貴竜たちは戦闘能力が高い上に、土木工事や建設なども得意としております。彼らの力があれば、危険な魔境にある加工の難しい木材石材を使って、落ちた橋や崩れた城壁などを速やかに復旧させることが可能です」


 理事たちは、もっと驚いていた。

 学校へ出資してくれるのかと思ったら、実家への復興支援の話を始めたのだ。


「逃亡兵や西重の残党、各国から流入してきた賊などによって治安が悪化している地域も多く見受けられます。これについては少々手荒になりますが、私の悪魔を派遣しようかと」


 当然だが、学校一つ立て直すよりも、その出資者たち全員へ支援をいきわたらせる方が大変だ。

 それを提案している者が狐太郎でなければ、絵空事にしか聞こえまい。


「戦時に借金を重ねてしまった、というお家もある様子。そちらには少々直接的ですが、資金援助を申し出るつもりです。こちらは具体的な支援の内容をまとめた書類ですので、どうかご確認を」


 最初から学園そのものへ支援する気がなかったので、各地への大雑把な支援内容はすでにまとめてあった。

 いきなり出された豪華支援へ、理事たちも学部長たちも、目を丸くしながら目を通す。


「その内容に問題がないようでしたら、私がこの場で改めて押印をさせていただきます。とはいえ、私がいきなり支援を申し出ても、信用はいただけないでしょう。お手数ですが、皆様からご実家へ送っていただきたいのです」


 狐太郎の言葉に、理事たちは更に目を丸くする。

 つまり狐太郎は、彼らに花を持たせてやろうとしているのだ。

 それも、超豪華な花である。


 俺たちの手腕で、四冠様から支援を引き出したんだぜ。


 そんな形にしてやろうとしているのだ。


「この学校への支援は、それが一旦落ち着いてから、ということでよろしいでしょうか?」

「あ、ありがとうございます! 十分です!」

「それはよかった、お待たせして申し訳ありません」


 ものすごく大物感あふれる動きだった。

 その支援をあらかじめ聞いていた侯爵家の四人は、互いの顔を見合わせる。


(すげ~~……この話が広まったら、俺の実家からもいろいろ言われそうだな……)

(私の実家、戦時徴税でヤバいって話あったのよね……)

(おい、やめろよ。本当にやめろよ?)

(二人とも品がないな~~)


 コチョウがおねだりしただけで、とんでもない額の金と労力が動いていた。

 狐太郎はどれだけ力を持っているのか、側近をして計りかねるほどだ。


「では、私からの要望を伝えさせていただきます」


 そして、本題が始まる。


(本題なんてどうでもよくなってきた……)


 本題が始まる前に、コチョウは心が折れかけていた。

 ここまでのビッグプロジェクトなのに、やることは彼女の経歴詐称である。


「私がここまで支援を申し出たのは、それなりの理由があります」

「は、はい……」

「かなり表立った動きだと聞いています。もちろん理事の方も、ご存じだったのでは?」


 発言は丁寧で、声は大きくない。

 しかしかかってくる圧力は、潜水艦をも圧壊させる深海並みであった。


「……コチョウ・ガオ君への、過剰すぎる態度、でしょうか」


 理事長の言葉を聞いて、精霊学部の新しい学部長は汗をかいていた。

 不愉快そうなコゴエの視線が、彼を射抜いていたからである。


「私は先日、シャインさんを通じてコチョウさんから相談を受けました。以前のような学園生活を送りたいのに、誰もが元第四将軍として接してくると。学友も教員も、自分を閣下と呼んできて気が休まらないと」

「そ……そのような話を、確かに聞いておりました」

「もちろん、事情は察するに余りあります。この学校で再編された精霊学部の教員や生徒、その中でも特に抜きんでた力を持つ者たちは皆、先日の戦争で武勲を上げた方々です。だからこそ、声をかけにくかったのでしょう」


 狐太郎の言う通りだった。

 ランリのせいで取りつぶしになった精霊学部だが、復活した現在は戦争の英雄として扱われている。

 実際に戦争へ参加し、黄金世代の将軍たちとしのぎを削ったのだから無理もない。


 その彼らへ注意するなんて、コチョウでさえできなかったのだ。

 ましてや救われた側の理事長たちが、進言することはかなうまい。


「私も正直に申し上げて、精霊使いの皆さんには、十分な報恩ができているとは思っておりません。そのせいもあって、彼女へ期待をしてしまうのでしょう。ですが……」


 狐太郎は、真摯な目で『教師』たちを見た。



「彼女は他でもないこの学園で、生徒として生活したいと願っています。貴方たちは教師として、その願いに何も思うことがないのですか」



 狐太郎は、自分を動かした言葉を、そのまま教師へ伝える。

 精霊学部の長も含めて、誰もが赤面してうつむいていた。


「コチョウさんからではなく、あなた方から私へ相談していただきたかった。私へ負い目のある彼女が、私へ嘆願するときの気持ちが貴方たちにわかりますか」

「……申し訳ありません。配慮が、間違っていました」

「現在の彼女は、好きな指導者を選ぶことができ、学校に通うとしても好きに選べる立場です。その彼女があえてこの学園を選んだ、その信頼をこれ以上裏切らないでいただきたい」


 狐太郎の警告を受けて、特に精霊学部の学長が羞恥する。

 学部全体で彼女を褒め殺ししていたのだ、それを客観視すれば赤面せずにいられない。


「私も故郷では、学生だった時代があります。学園に通うということは、ただ学業に勤しむだけではない、健やかな時間を楽しむものだと知っています。それは彼女も同じこと、だからこそ彼女はここに戻ってきました」


 狐太郎は、シンプルすぎる言葉で責め立てた。


「……彼女は経歴や名前を偽り、入門部へ編入し、一からやり直したいと言っています。それが詐称であることは事実ですが、そうせざるを得ない事態に追い込んだのはこの学園全体の風潮です。それは明らかに、全体の罪。それを償うためにも、彼女の我がままに付き合ってあげてください」


 この国最高の権威を持つ男、狐太郎。

 彼の咎めを聞いて、誰もが恐縮する。



「おい」



 そして、絶対零度の権化が口を開いた。

 雪女であるコゴエが、らしからぬ粗雑な言葉を発する。


「後で話がある、従軍した精霊使いを集めておけ」

「……はい」


 誰も彼らに反論できない、助けを乞うこともできない。

 教員たちは、これから先に待つ責め苦に凍えていた。



 コゴエの説教は、数分で終わった。

 電光石火の勢いで集まった精霊使いたちは、夏の終わりの死にかけたセミのように散っていった。


 かくて、狐太郎は要求を通した。

 既に精霊学部に通っている生徒を、経歴詐称して入門部へ編入させるという暴挙は、ここに成立していたのである。


「よかったね、コチョウさん! きっとシャインさんも、一緒に喜んでくれるよ!」

「あ、はい……」


 王都にある学園から、城に戻っていく狐太郎たち。

 同行しているコチョウの顔は、大変に浮かない顔だった。


「……こ、ここまで大きな話になるなんて、思っていませんでした」

「じゃあどんな話になると思ってたんですか?」


 何気にコチョウと同期であるブゥは、憔悴している彼女へ聞いていた。


「賄賂を渡すとか、嘆願するとか、威圧するとか、命令するとか……」

「全部やってましたねえ」

「でも、スケールが違います。まさか学園のスポンサーへ支援するとは……」


 恐るべきことだが、嘘だと思っているわけではない。

 コチョウは彼の持つ、財力や権力、武力を把握している。

 だがここまで発揮するとは思っていなかったのだ。


「貴方が気に病むことではない、コチョウ殿。今回のことは、私からもお願いしたことなのだから」

「コゴエさん……」


 熱い想いを秘めた雪女からの、熱い友情。

 冷たすぎる氷は火傷の原因になるというが、熱すぎる雪女は一周回って背筋を凍らせてくる。


「気にしなくていいですよ、コチョウさん。俺たちは今暇ですし、お金も有り余って使い道がないんで」


 狐太郎は、完全に開き直っていた。

 金銭感覚がマヒを通り越していて、金銭に対する執着がなくなっていた。


 株とかFXとかでもうけすぎて、通帳の残高がゲームのスコアにしか見えなくなったとか、そんな境地であった。


「陛下も出資を止めなかったものね。私が大会を開くって言ったときは、それだと実質ただ働きになるからダメだって言ってたけど……もうそういう段階じゃないものね」


 クツロはしみじみとしながら、過去を振り返った。

 狐太郎はビッグネームになりすぎて、『これ売って』『四冠様からお代などいただけません! その代わりといっては何ですが、四冠様御用達の看板をお許し願いたく……』という具合になっていた。

 コマーシャルに出演している有名人、みたいな感じである。


「家賃や食費に光熱費だって、城で住んでるからタダだものね」

(正しいけども、なんで城に住んでたら無料になるんだろう……)


 ササゲの言葉を聞いて、狐太郎は実情に疑問を持った。

 今までなあなあだったが、家賃とか食費とか払った方がいいのではないだろうか。

 大金を持っているのに代価を払わないのは、著しくモラルに反するのではなかろうか。


「今回のことで狐太郎さんがお金に困ったら、その時は徴税すればいいとして……」

(ブゥ君は伯爵なのに政治センスゼロだな、スキルツリーが戦闘全振りだな……)

「確かにちょっとやりすぎたんじゃないですか?」


 金に困ったら追加で徴税すればいいじゃん、という今までで一番恐ろしいセリフを吐くブゥだが、それ以外はまともな疑問である。


「狐太郎さんの感動的な演説で、みんなうるっときていたじゃないですか。それで済ませておけばよかったのでは?」

「何を言うんだい、ブゥ君……」


 思わず狐太郎は、思ったことを口にした。


「金も出さない人間が口を出したって、誰も聞いてくれないよ」

「……それもそうですね」


 さっきまでの感動が台無しである。

 身も蓋もない真理だが、だからこそ言わないでほしかった。


 これでは金を払ってくれたから感動したようではないか。

 まあそうなのだけども、もうちょっと言い方を考えて欲しい。


 だが実際にコチョウを助けた狐太郎なのだから、多少変なことを言っても許されていた。


「そりゃあ高圧的に出れば表向きは従ってくれるけど、無駄にヘイトを買うじゃないか。ボランティアして金払うぐらいで、要請に従ってくれるうえに感謝までしてもらえるなら安いもんだろう?」

「命がけで戦わなくてもいいのはお得ですねえ」

(どうしよう……その通りだなって、私も思ってしまう……)


 狐太郎とブゥは共感しており、コチョウも同意しかけていた。

 なんだかんだ、討伐隊は命がけで戦ってきた。

 それに比べれば、お金を払うなんて安いものであろう。

 なにせ金には困っていないのだし。


「まあそれに……きっと彼らも、実家から言われていたと思うしね。これで板挟みも解消されて、コチョウさんへ圧力をかける理由は減ったと思うよ」


 狐太郎はフーマ一族に、理事や学部長たちの親類に、戦災を受けた家がないか調べさせた。

 その結果、多かれ少なかれ、すべての家が被害を受けていることが分かった。


 ほぼ間違いなく、その実家から『コチョウを通じてジューガーや狐太郎に支援を要請しろ』と言われていたはずである。

 よって彼らは自分の意志と関係なく、コチョウをパーティーに誘ったり、見合い話を持ち掛けなければならなかったのだ。


「で、ですが、その……私がお願いをしたということで、一度支援をすれば、その……」

前例(マエ)ができるって話ですか? それについては、考えがあるので気にしないでください」


 今回のことで、コチョウに圧をかければ狐太郎が動いてくれるということが実証された。

 つまり今後も、彼女へのアプローチが激化する可能性が高いのである。


 解散した王都奪還軍の主要人物の中で、一番立場が弱いのは彼女である。

 他の面々は今も要職についており、圧をかけるどころではないのだからしかたない。


「それに、出資するといっても復興支援ですからね。後ろ暗くないですから、気にしないでください」

「……はい」

「それから」


 狐太郎は、一番大事なことを教えておく。


「どうせバレますから、その時は気にしないでください」

「……」

「私は貴方が、できるだけ楽しい学生生活を送れるように協力したいんです。それを駄目にしてまで、身分を隠さなくていいんですよ」


 まったくもって、感動的な言葉だった。

 実際に自分を助けるため、多大に援助をしてくれた人だからこそ、その感動さはとんでもなかった。

 そして自分の矮小さを思い知る。


(やはり私は、将軍とは名ばかりの仲立ちだった……)

「あ、あの、えっとね?」


 その落ち込みようを見て、アカネは彼女を元気づけようとした。


「私たちが頑張るのは、コチョウさんが頑張ってくれたからだよ? あの時の感動的なセリフがあったからじゃないよ?」

「……アカネさん」

「その通り。貴方が貢献していなければ、私たちは力を貸すことはなかった」

「コゴエさん……」


 コネクションとは、ズルではない。

 コチョウが討伐隊や王都奪還軍に参加して得た人脈は、彼女の労働の対価である。


 彼女が役に立っていなければ、彼女がどれだけ苦しんでも困っても、狐太郎たちは助けたりしない。

 彼らは決して、お人よしではないのだから。


 お人よしではない人から助けられる人間は、それだけ価値があるということだ。


「……ありがとう、ございます!」


 謝罪ではない感謝を、彼女は吐き出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 虎の威を借り過ぎて中身まで虎になりかけてますね 実際悪魔の懐柔や囮作戦など、虎の威抜きでも虎レベルの活躍をしてるし
[一言] お礼を言いたかった気弱な子は、手紙とか送った方が良かったと思うよ。 「直接お礼を言いたい」って気持ちが全然分からん。とは言わないけど、危険人物が化けてる可能性も存在するからね。 それはそれと…
[良い点] やっぱ狐太郎さんが出てきたらめちゃくちゃ面白いですわ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ