新四天王
ローレライについて。
魔力がある限りいくらでも再生できる特異体質。
水の精霊と親和性が高い特異体質。
タイカン技で大量の水の精霊と融合している。
これによって、現在の彼女は巨大な水の塊となっている。
一体化している水の一滴からでも自己再生が可能。ただし世界中の水と一体化できるわけではなく、一体化できる水の総量に限界はある。(現在のベネにある水が、その限界)
蓄積限界があるので『いくらでも何度でも』再生できるわけではない。
他人に治してもらうのならともかく、自分の力で治す場合限界がある。
雑に言うと、自己再生するごとにMPを消費する。
だが逆に言うと、自己再生をしなければMPは消費しない。
普通の『治癒限界がない特異体質』なら、腐敗すると流石に蘇生できないし、そもそも頭が吹っ飛んだら自分では再生できないのだが、水の精霊と完全に融合しているので水のまま生存もできる。
強化限界はあるので際限なく強くなれるわけではなく、Bランク上位がやっと。
基本ただの生き物であるモンスター相手にはとても強いが、エナジーによる攻撃や防御ができる人間相手には弱い。
その関係もあって、都市に侵入してくるモンスターを殲滅するのは得意。
ただ人間の軍には力負けするので、英雄を雇用する必要がある(もういる)。
体が水の精霊で構成されているため、電撃や高熱などに弱い。
体を拡散させている関係上、ベネの水路や農業用水に電気を流すと本人もダメージを負う。(拡散させているのでダメージは薄い)
高レベルの即死は普通に死ねる。
だが即死が効きにくい精霊の体であり、タイカン技による融合であるため、よほど高レベルの即死攻撃か、即死耐性を下げまくってからの即死攻撃でないと意味がない。
ぶっちゃけ、戦闘はあんまり得意ではない。
四天王の中でも最弱で、戦場で武勲を上げるタイプではなかった。
ムキになって戦っていると力尽きて死ぬことが自分もわかっているので、暗殺や粛清、偵察などを行っていた。
逆に単独で無謀な奇襲をかまして、一回体を壊されたら魔王の元で再生する、というクソ戦法もやる。
戦局全体に影響を与えるほどではないが、いるとすげーうっとうしい敵であった。
祀や昏が至った『飯を食いたかったら農民が必要』とか『家で暮らしたかったら大工が必要』とか『農民や大工を維持するには役人が必要』とか『役人や農民を守るには軍隊が必要』という問題にはだいぶ前に直面し、それを解決するためにベネを作った。
そのあといろいろあって、気づいたら東威という国ができていた。
よって東威の建国者と言うか、東威という国の有力者の一人でしかない。少なくとも本人はその認識でいる。
ちなみに、ベネの長であるヒミコが『不老長寿』の特異体質であることは、それなりに有名。
というかノベルもそうなのだが、特異体質を複合して持って生まれる者は、タイカン技を抜きにしても不老長寿という性質を得やすい。
よって、実際に信じるかどうかはともかく、不老長寿の為政者というのはこの世界において不自然でも異常でもない。
なので誰も、彼女が長く生きていることをそこまで気にしていない。(もちろん水の精霊との完全親和については、一部の者しか知らない)
基本的に、ベネで暮らしている人間たちのことは、自分の財産だと思っている。
悪く言えば自分の所有物なのだが、一般的な農家が家畜に向けている愛情ぐらいは持っている。
暇つぶしに殺したりしないし、食べたり痛めつけたりもしない。むしろ外敵から守ったり、虫や獣にたかられないように気を使ったりしている。
長く発展させているところから見ても、優秀で有能な為政者であることは確か。
彼女が為政者をやっているのは、あくまでも自分が快適に暮らすためであるので、現状で満足しており世界征服とかは考えてない。
彼女の体質や役割を知った者たちは、大抵の場合『この女が人力で防疫とかしてたんだ……』となって性格の酷さも許容する。
都市の最高責任者としての生活は気苦労も多く、昔の気楽な四天王生活に戻りたいとも思っている。
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さて、あまり関係の無いことだが……。
戦略ゲームにおいて、プレイヤーは人道に反する行いをする。
独裁者のロールプレイと言うこともあるだろうが、一般的な戦略ゲームは人道を無視したほうが合理的に進められる。
設定されている難易度次第では、それが前提になることもしばしばだ。
それは単に『捨て駒』として使うことなどではなく、食料が不十分なまま人員を雇用したり、休憩や娯楽を与えなかったり、或いは指揮能力の限界を超える量の兵力をつくったりと……。
とまあ、地盤を固めて土台をつくる、という前提を放棄した『戦略』を行うことがある。
当然だが、これが許容できるのは『プレイヤー』だからだ。
ゲームの世界で勝とうが負けようが、リセットしようがハードが壊れようが、クリアしないまま放置しても問題ないからだ。
結局のところ、真面目にコツコツ戦力を整えるのが、一番近道である。
一足飛びにやろうとすると、失敗への対処が重なって、結局遅くなるのだ。
失敗は成功の基、トライアンドエラーが大事というが……。
処理能力が有限である、ということを忘れてはならない。
祀も昏も順調から程遠く、失敗ばかりで上手く進んでいないが、それは『失敗するやり方』を学んでいるだけなのだ。
これもまた、前進するための一歩なのである。
とはいえ、失敗とは繰り返されるもの。
根治は不可能であり、一つ一つ対応していくしかない。
「ここが例のブツがあるという洞窟……」
「よし、忍び込もう……」
新人らしき昏の隊員が、二体。
警備の敷かれている洞窟の入口へ来ていた。
素早い動きを特徴とするBランクモンスターから生まれた彼女たちは、その特徴を活かして洞窟の奥へ入っていく。
自然の洞窟を利用して作られた倉庫、その中には木の棚と、棚に乗せられたズタ袋が置かれている。
そのズタ袋へ近づいた二人は、その指を袋に突っ込んで、中身を確かめた。
「へへへ……これは上等なブツだね」
「うん……これなら極上のアレが出来上がるよ……!」
舌なめずりをする二人。
彼女たちは他の袋にも指を突っ込み、中身を確認していく。
そして……。
「ああ!」
「声が大きいよ!」
「ほら、コレ……」
「……じゅるり」
大きな瓶を見つけた二人。
彼女たちはそれの中身を、この場で飲もうとして……。
「何をしている」
「あ、あぎ!」
「ご、ごお?!」
その二人は、太く大きな『腕』によって絡められた。
すさまじい力で拘束され、締め付けられていく。
これはもはや捕縛ではなく、絞め殺す勢いだった。
「み、みぜっと、ミゼットさま……」
「こ、これには訳が……お許しください……!」
「駄目だ、えぐる」
洞窟の中に潜んでいた怪物、ノットブレイカーのミゼット。
イカの触手によって拘束している彼女は、さらにその甲殻を罪人へねじ込んでいく。
「わ、わたし! わたし再生能力がありません! 狙うなら相棒を!」
「嘘つかないで! アンタ手足なら生えてくるじゃん! 再生能力がないのは私です!」
「二人ともえぐる」
人数が増えるということは、不埒な輩が増えるということ。
もともと結構不埒な輩ばかりだった気もするが、人数が増えると『自分だけはいいだろう』という心理が働いて罪を犯してしまうのである。
「「うぎゃあああああ!」」
それを取り締まるのは昏四天王が一角、最精鋭である食料防衛部隊を率いるミゼット。
現在昏には他に欲しいものが無いので、食料を守るということは財産を守るに等しかった。
最も堅物、最もツッコミ役。元々誰よりも昏の隊員から支持をされていた彼女が、この誘惑の多い隊を任されるのは当然だった。
「まったく……祀の提案でお酒を造ったり輸入するようになったけど、その分犯行が増えている気もするわね……」
甲種である彼女がその気になれば、丁種程度など一ひねりである。
同胞を文字通り締め上げて、さらに結構な傷を与えた彼女は、酒の入った瓶を見ながら愚痴を言った。
酒。
原始の昔から人類が作り続けている、質を問わなければ簡単で、しかも多くの人が求めるもの。
嗜好品としては初歩にあたるそれは、やはり昏の隊員が多く求めていた。
なのでその分、罰則は重いのだが……だからこそスリルとロマンを求めて、食糧庫へ忍び込むものが後を絶たない。
「まあいい……役目を果たすまでだ」
とはいえ、誰も求めないものを報酬にすることができないのも事実。
彼女は嗜好品の必要性と、己の重要性を確認しながら、新しい罪人を連行していった。
※
食料を保管するには、まず生産しなければならない。
瘴気機関によってヤミの畑と化した魔境で、収穫を行う部隊が存在していた。
それこそ最大派閥、収穫部隊であった。
比較的安全ではあるが、しかし労働は面倒でキツい。
そんな部隊をまとめているのは、やはり甲種の一角である。
「みんな~~! 今日はリンリンリンゴを収穫する日だからね~~! リンリンリンゴはね~~別に鈴みたいに鳴るわけじゃないけど、こんなふうに鈴みたいに生っているんだよ~~!」
のしのしと、全ての昏の中で一番大きい女性が、脚立や高枝切りはさみも使わずに果樹の収穫を行っている。
その巨大な掌では、リンゴもサクランボの如しであった。
「さあ収穫しましょうね~~!」
「は~~い!」
彼女ほどではないが、他の隊員もやはり大きかった。
果樹の収穫を行うのであれば、やはり体が大きい個体の方が適していた。
誰もが大きな籠を背負い、その中へころころと入れていく。
「あんまり入れすぎると底の方のリンゴがつぶれちゃうから気を付けてね~~!」
昏四天王が一角、収穫部隊隊長、ベヒモスのジャンボ。
最強の怪力と最強の速度を併せ持つ彼女は、その能力を特に生かさず、真面目に就労していた。
※
さて昏の上位組織、祀である。
本来昏を管理するのは彼らであるべきなのだが、昏の人員がある程度成長したことによってその業務から逃れていた。
学級委員に指導を任せている教師、という具合であろう。
現在彼らが何をしているかと言うと、まさにプレイヤーの如き行動をしていた。
「まずいな……異空間に設置した懲罰房だが、送られる隊員が多い……」
「やはり酒の製造はもっと後に回すべきだったか……?」
「いや、我らがもっとも恐れるべきことが造反である以上、仕方がないことだろう。多少食料や酒を盗むものが現れても、全体が裏切ってくるよりは……」
「だから! その犯罪者が多いのが問題なのだ!」
人材の配置と、問題への対処。
それを相談している彼らもまた、大事な仕事をしていると言える。
評議会とかそういうあれだ。
「幸いと言うべきか、食料防衛隊で横領するものは出ていない……だが裏切りそうにないものをミゼットのところに回し過ぎているのでは……」
「だがこれ以上人材を減らせば、ミゼットから苦情が来るぞ。彼女たちも激務だ、人数は必要だろう」
「そもそも他の隊に真面目なものを割くのは、意味があるのか?」
馬鹿々々しく見えたとしても、本人たちは真面目である。
そもそも国家の経営とは、国民を如何に御するかであろう。
放っておいても真面目に働くなら、政治家などいらないのである。
「幸いと言うべきか……横領や窃盗をしようとしているのは、主に見習い隊員たちばかり。既に教育を受けた隊員たちは、特に問題行動を起こしていないぞ」
「いや……それはそれで問題だろう。まだ教育されている間に、放任し過ぎているということではないか」
「どうなっているのだ、スザクよ」
祀たちが質問をするのは、やはり四天王筆頭、教導隊隊長、フェニックスのスザクであった。
教育委員会に呼び出された校長先生の如き彼女は、やはりニコニコと笑っている。
「見習い隊員から犯罪者が出ているのは私の力不足ですが、許容範囲内だと思いますね。むしろ見習い隊員以外で犯罪者が少ないのは成功していると言える部類では?」
最古参である彼女は、やはり主体性を持っている。
言い訳にも聞こえることだが、彼女が言うと不思議に説得力があった。
「それにこれはこれで、必要なデータでしょう。更生施設へ送り込まれた者たちが、どの程度更生して帰ってくるのか? 更生施設の程度を決めるためにも……なにより抑止力とするためにも、多くの見習い隊員へ『体験学習』をさせたほうがよろしいかと」
詭弁ではあるが、あながち間違っているとも言えなかった。
少なくとも参考にするべき意見ではある。
「大体、昏の隊員を増やすペースがやや早い、とも思えます。一人二人ずつ増やすならともかく、現状の調子で増やせば、仕方のないことでは? もちろん、慎重すぎれば時間切れにもなりかねません」
最終的に成功すればいい、最終的な破滅だけは避けなければならない。
それを信条としている彼女は、当然ながらそれがどれだけ難しいのかも理解していた。
「犯罪者をゼロにすることが目的ではなく、戦力を増やすことが目的なのです。それはそちらもご理解なさっているはず。つまり……これぐらい勘弁してください」
笑っているスザクに対して、祀たちはため息をついた。
士気を下げることを言うが、その一方で間違ったことは言わないフェニックスである。
「そうだな……実際に規律を乱すものが多く、大義を見失っていた」
「お前はよくやっているし、お前より上手くやれるものはいないだろう。今後も頼む」
「それで、更生施設についてはどう思っている?」
「とりあえずみんなしんどそうなんで、様子見でいいんじゃないですか?」
※
異空間に存在する、祀の生み出した牢獄。
強大な力を持ち、しかし祀に従わぬ昏を封じ込めている、恐るべき施設である。
そこには枷はなく、檻もない。
巨大な一室があるだけで、プライベートと言えるものもない。
祀の掟に従えぬ無法者たちをまとめるのは、四天王の一角にして、制御不能な危険人物。
「ふん……ミゼットがまた、持て余した隊員をここに送り込んできたわね」
別の隊員と喧嘩したり、ランクが下の隊員をいじめたり、盗み食いをしたり当番をさぼったものが仰ぎ見るのは、四天王にして最大の問題児。
「ふん、いいわ。今日から貴女たちも、私の仲間、部下と言うわけね!」
昏四天王、異次元監獄牢名主、テラーマウスのマイク。
前科十犯、全て盗み食い。昏史上最悪の犯罪者である。
「新人は三日間、ごはん半分よ! 割いた分は私に献上しなさい!」
現在無期懲役が言い渡されている彼女を見て、誰もが思うのだ。
もう二度と、悪いことはするまいと。
「あの……私たち、懲役一日なんですけど」
「なんですって?! 私は無期懲役なのに!! ずるいわ~~!」
ある意味反面教師となっている彼女は、自分の罪の重さをいまいち理解していなかった。
(駄目じゃないの、馬鹿正直に刑期をいったら……)
(私たちだって明日出所だけど、あと一週間ぐらいって言ってるのよ?)
(あ、そうなんだ……)
(なるほど、勉強になります)
社会の落伍者、アウトロー。
その存在はとても格好が悪いのだと、彼女は身をもって証明してくれているのだった。
「覚えてなさいよ、ミゼットめ~~。ここから出たら、あのイカ女なんて食い殺してやるんだから!」
南万へ侵攻するための戦力を整えつつある、祀と昏。
恐るべき作戦が実行されるまで、わずかな猶予しかなかった。




