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モンスターパラダイス3~僕が、僕らしく生きるために~

タイトルを変更いたしました。

今後もよろしくお願いします。

 先祖返り。


 モンスターパラダイスの世界において、稀に生まれる超人たち。

 かつてモンスターと戦っていた時代の人間と同様の力を持っている彼らは、先祖返りと呼ばれていた。


 人間同士の戦争が過熱化していた時代では、まさに英雄として扱われていた。

 しかし人類同士の争いさえ過去になった近年では、ただ珍しいだけの存在になっている。


 そして、原石麒麟。

 彼は先祖返りの中でも、特別に強い才能を持っていた。

 長い寿命をもつモンスターたちは、彼がかつての勇者に匹敵する才能を秘めているとまで言い切っていた。


 もちろん、それだけなら何のこともなかった。

 なにせ魔王ははるか昔に封印され、さらに一人目の英雄と呼ばれる青年がモンスターと共に葬っている。

 勇者の力は活かされることなく、ただの人間として生きて死ぬはずだった。


 だが彼にとって、現代社会は窮屈だった。

 普通の人間として生きることは、彼にとって窮屈だった。


 そう、ただ窮屈だった。

 例えば特別背の高い人間が、天井に頭をぶつけそうになりながら生活していることと同じだ。

 彼は強い力を持っていたが、それで日用品が壊れることはなかった。ある程度制御は利くし、そもそも大鬼さえ普通に暮らしている現代では『力が強い種族用の製品』も溢れかえっている。


 決して力を使ってはいけないと言われていたわけでもない。

 魔法が使える種族もいるのだから、一種の試射場も存在している。


 だが、窮屈だった。

 車よりも速く走れるのに走ることが許されず、重機よりも力があるのに物を持ち上げることが許されなかった。

 迫害されているわけではなく、区別されているわけでもなく、不便ですらない。

 ただ、ただ、窮屈だった。


 好きな場所で好きにふるまいたい。

 彼がうっぷんをため込んでいくことは、ある意味当たり前のことだった。


 そして、同じ思想を抱くものが現れる。


 先祖返りたちによって構成された組織、『新人類』。

 現在の『公正』で『公平』な社会への反逆者だった。


 自分たちが『優遇』され、『厚遇』され、『活躍』できる社会であるべきだ。

 自分たちは普通の人間よりも優れているのだから、普通の人間こそが一歩下がるべきだ。


 その思想に、彼が傾倒するのは当然だった。

 誰よりも強かった彼が『新人類』の象徴、ヒーローとなることに時間はかからなかった。


 活動は本格化していき、各地にいる先祖返りたちが集まっていき、いよいよ理想の社会が実現しようとしていた。


 多くの同志がいた。

 同じうっぷんを抱えた者たち、優れているのに周囲へ怯えていた者たち。

 互いに孤独を埋め合って、共鳴し共感し、強く結びついていった。


 だが、それも終わりを迎える。

 後に三人目の英雄と語られる、一人の青年とそのモンスターたちによって。


 彼はほぼ独力で新人類を倒していった。

 古代に存在していた職業を得る儀式によって力を手に入れた『新人類』達は、同じように職業の力を手に入れたモンスターたちによって倒されていく。


 原石麒麟は、側近であり師であった千尋獅子子と甘茶蝶花と共に、最後の決戦を挑む。



「なぜだ、なぜ僕の邪魔をする?」


「僕たちは、ただ普通に生きたかっただけだ」


「それの何が悪いんだ?」


「誰かを傷つけたかったんじゃない、殺したり奪いたいわけじゃない」


「ただ走りたかった、背筋を伸ばして歩きたかった。それだけなんだ」


「お前が倒した、僕の同志たち……彼らだって、同じことを考えていた!」


「お前は、それを悪と断じる! なぜだ!」


「お前はただ、英雄になりたかっただけじゃないのか!」


「僕らを悪として、正義に酔いしれたかっただけじゃないのか!」


「答えろ、猫太郎!」


 小判猫太郎。

 どこにでもいるはずの、強いモンスターを従えているだけの男だった。


 先祖返りでもなんでもなく、戦うための訓練を受けているわけでもない。

 麒麟はおろか、一般の構成員よりも弱い。

 のびのびと生きている、普通の人間だった。


「お前の主張なんてどうでもいいんだよ」


 彼は、本心からどうでもよさそうだった。


「お前らが何を考えてても、なんとも思わねえよ」


 害虫を見るような目で、蔑んでいた。


「俺は、俺の好きにやるだけだ。俺はお前たちをぶちのめしたくて、それを我慢したくないだけだ」


「お前らが泣こうがわめこうが、走れなかろうが背筋を曲げて生きていこうが、どうでもいいんだよ」


「お前らは俺が邪魔をしていると思ってるんだろうが、全然違う。お前らが、俺の、邪魔をしてるんだよ」


「俺が普通に生きることの、邪魔をしてるんじゃねえよ」


 はるかに弱いはずの一般人は、はるかに強いはずの麒麟を心底から相手にしていなかった。


「みんな、こいつらをぶちのめしてお縄にして、警察に突き出すぞ。それで全部終わりだ。こいつらの大嫌いな不自由をプレゼントしてやろう」


 あまりにも傲慢で無慈悲で、容赦がなかった。


「そうするしかありませんね。彼らが悔い改めるためには、一度きちんとした罰を受けるべきなのでしょう」


 天使にして旗手、シュンレイ。


「同感だわ。今まで通り、戦って倒して、敗北を与えましょう。彼らは敗者になり泥の味を知らなければなりません、屈辱こそが自覚を与えるのですから」


 戦乙女にして衛士、カヘイ。


「思想を罰することはできず、信念もまたしかり。同志を募り、友好を深めることもまた、この時代では許されている。誰もが心は自由、行いによってのみ罰を受けるのだ」


 死神にして憲兵、シュウケイ。


「建設的じゃないわねえ……これが若さ(ロック)なのは知っているけど、音楽とか芸術方面で発揮してくれないかしら?」


 天女にして機織り、トウコウ。


 各々が背に白い翼をもち、手には武器を持って猫太郎を守るように浮いている。

 神話の時代から生き続ける彼女たちは、モンスターと呼ぶにはあまりにも荘厳だった。


「……なぜだ! なんでお前達モンスターは、僕らに反対する! お前達だって、抑圧されているだろう!」


 先祖返りたちが抑圧されているように、モンスターたちもまた抑圧されている。

 弱くなってしまった人間に合わせて生活をするのだから、窮屈な思いをしていることに変わりはない。


「貴方と話すことはもうありません。貴方は社会の秩序へ挑戦をしたのですから、抑圧が潰しに来るのは当然でしょう」

「お前は納得できなくとも、我等は納得している。現代の社会は、暴力によって是正されなければならないほど腐敗していない。もしもそうなら、お前はとっくに殺されている」

「同調だけを求めるのなら、お前はそれまでだ。同意だけの小さな世界でしか生きられぬのなら、それは世界が過酷なのではなく己の狭量と卑小さ故と知るがいい」

反逆(ロック)だけで世界は変わらないわよ? 革命したけど何も変わりませんでした、なんてしょっちゅうなんだから。学校行って社会、歴史の勉強しなさい。大事なことは学校が教えてくれるんだから」


 ようやく、彼は理解した。

 敵とはつまり、意見が違う者。

 世界の真実を知り可能性を知っても、なお自分たちに同調しない者だと。

 

「……僕は戦う! 僕が、僕らしく生きるために!」


 最後の戦いが始まった。


 戦いは苛烈を極めたが、どんどん押し込まれていく。


「なんでだ!」


 蝶花も獅子子も、必死で麒麟をサポートする。

 しかし、それでも四体は強かった。

 

「僕は強いんだ! なのに、なんで勝てないんだ! 僕には魔王を倒した勇者と同じ、最高の才能があるんだ! なのに……どうして!」


 職業の力を得たモンスターが相手とはいえ、麒麟は最強の職業である勇者の力を得ている。

 そのうえでサポートを受けているのだから、四体よりも弱いわけがないのだ。


「お前一人で、四体に勝てるわけねえだろ」


 呆れながら、猫太郎が教える。


「かつて魔王を封印した勇者ってのも、一人じゃなかったらしいぜ。お前と同じぐらい才能のある連中が何人もいて、それでようやく魔王を倒せたそうだ」


「ふざけるな! それじゃあ、蝶花と獅子子が弱いから、僕は負けるっていうのか!」


「そうだ。お前が自分で言ってるようにな」


 蝶花と獅子子も、決して弱いわけではない。

 しかし才能の差は明らかで、麒麟には大きく劣っていた。

 だからこそサポート役に回っているのだが、サポート能力が極端に異常なほど高いわけではない。


 麒麟は確かに強く、二人のサポートを受ければなお強い。

 しかし猫太郎に従う四体を、まとめて相手にできるほど強くはない。


「一応言っておくけどな、俺なんてたいしたもんじゃない。俺の仲間と同じぐらい強い奴も、割とごろごろいる。珍しくもなんともない」


 猫太郎は、勝ち誇ることもない。平坦で白け切っていて、どうでもよさそうだった。


「お前も知ってるはずだぜ。このご時世勇者と同じぐらい強いモンスターなんて、いくらでもいるんだからな」


 人間は弱くなり、モンスターは強くなった。

 それが時代の流れであり、人間の意志であり、モンスターに与えられた恩恵だった。


「モンスターは人間に従い、人間はモンスターを繁栄させた。それがこの世界だ、時代遅れの勇者が出る幕じゃねえよ」

「そんなことは認めない! 結局そうだ……お前たちは! お前たち多数派は! そうやって少数派を押さえつけるんだ!」

「ああ、はいはい。そういうのは裁判所とか取調室でやってくれ」

「数が多ければ偉いとでも思っているのか! そうやって優れた人間を痛めつけて、優越感に浸りたいのか!」

「うん、そうだよ。お前が正しいよ、全部お前の言う通りだよ、凄いね、格好いいね、強いね、みんな憧れてるよ、やったね」

「……ふざけるな!」

「マジレスするとだ……」


 強くなったモンスターを操る、どこにでもいる誰かは断言する。


「少数派を押さえつける多数派ってのは、まあ確かによくねえだろう」


 かけらも、寸毫も、興味も関心もない、ただの犯罪者を見る目だった。


「だがな、多数派に殴りかかっておいて、殴り返されたら被害者気どりってのはいただけないな」


 劣っている者が、優れている者を蔑んでいた。


「優れている者が偉いと言ったな、強い者が偉いと言ったな。なら俺達の方が偉いぞ、モンスターの方が偉いぞ。さあどうする? お前らの理想に則れば、お前たちはモンスターに従うべきなんじゃないか?」


「違う、そうじゃない! 僕たちは、僕達らしく生きたかっただけだ!」


「そうだ」


 言葉は届かない。

 言葉を交えても、何を思っているのかわかっていても、分かり合えない。

 決定的に、立場が違い過ぎた。


「お前たちは、お前たちのことしか考えてない。お前たちは、自分達さえよければそれでいいと思っている。お前らは優れている人間が虐げられていることが我慢ならないんじゃない、『自分達』の好きにできないことが気に入らないだけの、ただの犯罪者だ」


 共感の余地はなく、最初から決裂している話し合いに意味はなかった。


「街中で走ってたら、周りの人の迷惑なんだよ。なんか走りたいからなんて理由で走るな、バカが」


「走りたいと思ったから走ることが、そんなにいけないことなのか!」


「いけないに決まってるだろ、常識で考えろ、常識で」


「常識なんて、誰かが決めたことだ! お前はそうやって、多数派の正義を……声が大きいだけの弱者の意見を振りかざす!」


「面倒くさい奴だ……黙らせろ」


 何もしていない、何もできない男が、命令を下す。

 強者は従い、ただ暴力を振るう。

 人間が人間を守るため、モンスターと戦うために生み出した職業の力。

 それを得たモンスターが、職業の頂点に立つ勇者を叩きのめした。



「よし、拘束して警察に突き出すぞ。全く面倒をかけやがって……」


 戦いは終わった。


「みんなありがとうな、こんな奴の相手をさせて……殺さずに抑え込むのは大変だっただろう」

「いえいえ、大したことではありません。私たちとしても、彼を止めたかったですし」

「この手の輩はいつも現れる。人間同士が争っていた時代でも、モンスターと戦っていた時代でもな。ただ他人の言うことに従いたくない、反抗期の本能に忠実なだけのクズだ。これが勇者などとは笑わせる」

「愚か者には相応の報いが必要だ。だが、殺すことは我らの領分を逸脱している。人の法によって、人が裁くべきだろう」

「ようは殺すまでもないって話ね。刺激的(ロック)じゃないけど、何でもかんでも反抗するのも自分流(ロック)じゃないし」


 新人類のトップに立つ三人は、地面に倒れている。

 何もできないまま、何もなせないままに、力尽きていた。


「ま、後は……?! おい、倒れてたやつらはどうした?!」


 そう見えていたが、その姿が消えていた。


「なんてこと……逃がしてしまったの?!」

「大言を吐いた身で情けない……不覚!」

「往生際の悪い……」

「中々不屈(ロック)ね……逃げ場はないはず……探しましょう」


 かろうじて体が動いた千尋獅子子は、蝶子と麒麟を抱えて逃げていた。

 その逃亡先は、破損していたワープ装置である。

 移動先が指定できない、あまりにも不安定な動作状況。

 安全装置によって起動がロックされていたが、それさえ彼女は解除していく。


 このままではどこにワープするのかもわからないまま、彼女はワープしようとしていたのだ。

 それこそまさに、死中に活を求めるものだろう。

 最悪の最悪だけは、避けなければならなかった。


「おい、お前何する気だ! それはもう壊したんだぞ! かたかたプログラムを書き換えたぐらいじゃどうにもならん! 部品を交換しようが何をどうしようが、それはもう動かない!」


 猫太郎たちがそこにたどり着いた時には、もう間に合っていた。

 周囲の空間が歪み、ワープが発動しようとしていた。

 勇者さえ下した天使たちでも、近づくこともできない。


「大人しく捕まって罪を償え! お前たちが人間ならな!」

「違う! 私たちこそが人間だ! 私たちこそが、新しい人間であり、新しい人間の規範となる者だ!」


 猫太郎は叫ぶが、叫ぶことしかできない。

 捨て身の脱出は、既に成功していた。


「死んで逃げる気か!」

「違うな、私たちは逃げ延びる! 必ず、生き残ってみせる!」

「そこが地獄だったとしてもか!」

「ここよりはましだ! この、生きる甲斐のない世界よりは!」


 ぼろぼろの同志二人を抱えた彼女は、涙を流しながら叫ぶ。


「こんな世界に! 私たちは生まれてきたくなかったんだ!」


 光が収まった時、そこには何もなかった。

 壊れかけたワープ装置さえ、残っていない。

 部屋の骨組みさえなく、何もかもが無に帰していた。


 彼女たちのワープが成功したのか失敗したのかさえわからないまま、猫太郎は敗北感に打ちひしがれる。


「こんな世界に、生まれてきたくなかった、か……彼女たちは、世界を呪っていたのですね」

「いつの時代も、ああいう者が現れる。強いつもりの弱者だったが……哀れだ」

「所詮、己たちだけ逃げ延びた身……何もなせないまま、野垂れ死ぬだけだ」

「最後の叫びは素直(ロック)だったわね……時代に適合できなかった者か……」


 勝利はなく、達成もなく、取り返しもつかない。


「……もしかしたら、一人目や二人目も同じような心境だったかもな」


 大きな破滅は、未然に防ぐことができた。

 だがしかし、最後まで詰め切れなかった。

 魔王に道連れにされた一人目も。

 完成したモンスターを逃がしてしまった二人目も。

 結局やり切れず、だからこそ名前が残らなかった、残さなかったのだろう。


 これを、自分がやり遂げましたと、胸を張って言えなかったのだ。

 なにも、やり遂げていないのだから。


「中途半端なままに終わっちまったな……お前らがいたのに」


 ここから挽回しよう、とは思えない。

 ここに来るまで多くの苦難があり、これで終わらせるつもりだった。

 だが、終わらせられなかった。

 はっきり言えば、疲れてしまったのだ。

 そういう意味では、敗北したのだろう。千尋獅子子は、少なくともまだ戦うつもりだったのだから。

 あれだけ痛めつけられても、まだ戦える。

 それは、まさに……。


「ロックな奴らだったな……」


 ようやく称賛して、猫太郎は区切った。


 もう疲れてしまった、どこかにいるかもしれない、いないかもしれない相手を探す気力はない。


「帰ろうぜ、みんな」


 もしも本当に執念を持っていれば、どこまでも追いかけただろう。

 だが、そんなことをするような男ではない。

 敗北感を受けたまま、それでも割り切った。


「俺達は、俺達らしく生きればいいんだからな」

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― 新着の感想 ―
[一言] >先祖返りたちによって構成された組織、『新人類』 先祖返りならむしろ『旧人類』なんじゃ
[気になる点] 信条の自由、集会の自由はあるっぽいし警察がでばるわけでもないしこの人ら何をしたんだろうなぁ マジで公道を全速で歩行しただけとかならややかわいそうな気もするな [一言] 弱者が強者にあわ…
[良い点] >原石麒麟  いまだ磨かれる余地のある原石であり、麒麟児であるということか………わかりやすいな!? [一言] 集団・組織としての『新人類』は、ポケットなモンスターでいうところの太陽と月で出…
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