初心忘るべからず
さて、ここまで来るのにいろいろとあったし、いろいろと話したが、それに意味があったかと言えばないだろう。
この氷の台地の中心、凍結した湖。
そこで泰然としている巨大な鳥を、メズヴは捉えていた。
「……ヤングイと言ったな、感謝するぞ。これは確かに、大物だ」
寒冷地に生息する、Aランクのモンスター。
しかも彼女でも見たことがない、二足歩行の鳥。
氷水牛よりも数段大きいそれを見て、彼女は大いに笑っていた。
「一応申し上げておきますが、私は邪魔をしません。命だけは保証します……いえ、違いますね。死んだら困るので、死ぬ前に回収します」
「ご配慮ありがたい、狐太郎殿。では行くぞマック、Aランクモンスターを手に入れる!」
走り出した当初は、遠近法の関係もあって、メズヴとマックにも勝機があるようにも思えていた。
だが実際に接近を始めれば、彼我の大きさの差が露骨になっていく。
この世界の住人を何人でも軽々と乗せられるであろう、氷水牛のマック。
しかし氷喰いの足元まで行くと、サイズの違いは歴然だった。
氷喰いを人間とすれば、マックは犬程度の大きさしかない。
氷喰いの足が長いことを含めても、膝の高さまでしかないというのは、『力』の差をサイズ比で示しているようだった。
氷水牛とあまり大きさに差がない鵺と、同じAランク下位だというのだから、やはり見た目だけでモンスターのランクは測りにくい。
だがそれでも、氷水牛やメズヴでは、到底かなわない強者であることは明白だった。
(おれが言えたもんじゃないが……ここまで大きさに差があると、まず気付いてもらうことが難しいな)
メズヴも狐太郎よりは大きいはずなのだが、遠くから見ればネズミ程度にしか見えなかった。
犬に乗ったネズミが、人間に襲い掛かる。サイズ感から言えば、それぐらいにおかしなことだった。
「フレキシブルクリエイト……スプリングロープ!」
凍り付いた湖の上で、釣り人の如く、どこに魚がいるかと考えていた氷喰い。
その巨大な二本の足に、実体化した柔軟属性のエナジーが張り付く。
まるで逆バンジーのように、張り付いたロープに引っ張られて、メズヴは一気に氷喰いの胴体の上へ乗り上がっていた。
貼り付けた部位が膝のあたりで、乗った先が胴体である。
それが遠くから見てもわかるのだから、彼女は己のエナジーを繊細に操作していると分かる。
だが乗り上がったほうは、それどころではなかった。
「これが、Aランクの背か……」
ヒクイドリに似ているようで、しかしその羽毛の分厚さと大きさは、その一枚だけでも人間よりも大きい。
己の体温を逃がすまいとしつつ、外気を遮断する。
とても寄り合っている、大量の羽を圧縮したような『地面』は、呼吸や脈拍によって規則正しく動いていた。
「ははは……蚤の気分だ!」
後悔が、少なからずあった。
事前に求めていたように、Aランクモンスターの背に乗っている。
自分なんかが百人いても敵ではない、そんなAランクの背に乗っているのである。
己の才気ではどうにもならぬ怪物に乗った彼女は、よせばよかったと思ってしまった。
思ってしまう己を、馬鹿かと笑った。
「さあて、蚤の意地を見せてやろう!」
この鳥に乗って後悔するぐらいなら、あの征夷大将軍に出会った時に後悔するべきだった。
彼に対しても啖呵を切ったのだから、この程度の鳥に怯える方がどうかしている。
西重を滅ぼした英雄にもデカい口を叩いたのだ、もう誰も恐れることなどない。
「フレキシブルクリエイト、ファットアナコンダ!」
作り出したのは、極太の大縄であった。
それをえいやと投げて、見事長い首の先にある氷喰いのクチバシに挟ませたのである。
「さあて、魔境のはぐれ者! 私の物になってもらおうか!」
伸縮自在であり、極めて変形しやすい太い縄。
だがそれが口の間に挟まったところで、巨大な鳥である氷喰いにはなんの問題もない。
当然だろう、人間からすれば細い糸が後ろから回り込んできたようなものなのだ。
うっとうしいだろうが、それだけだ。呼吸はできるし声を出すこともできる。
だがしかし、うっとうしいことは事実である。
というよりも、とんでもなく不愉快だろう。
歯の間にカスが挟まるだけでも不愉快なのに、一本の糸が口の間に挟まっている。
人間ならば、それを手でどうにかしようとするだろう。
だがそれは、人間に腕があるからだ。同じ二足歩行でも、ダチョウと変わらない骨格をしている氷喰いにはできないことである。
怪鳥の叫びが響いた。
飛ぶことができなくなっている翼を広げて、足をばたつかせながらもがいている。
もちろんただイライラしているだけで、何ならこのまま食事を始めてもいいくらいなのだが、そうもいかなかった。
氷喰いは、パニックに陥ったのである。
誰にも脅かされることがなかったはずのこの地で、いきなり後ろから口に糸を挟まされたのだ。
それが一向に切れる気配がないとくれば、それは慌てて当然だろう。
その長い首を上下左右に動かし、振りほどこうとする。
そして後ろを向く形になり、自分の背中の上に乗っているメズヴに気付いた。
「やっとこっちを見てくれたか。大型の獣は、まず気付いていもらうのが大変なのだ」
さっきまでは口に何かが入ったとか、その程度の認識だった。
だが自分の口に何かを挟んでいる者がいる、ということをこの氷喰いは理解した。
メズヴがどう頑張っても絶対に勝てない上に、メズヴに対して全く配慮をしない怪物が、苛立ちをあらわにした。
「ははは……大した声だ、荒々しくて安心したぞ!」
いくら背中の上に立っているとはいえ、攻撃されないわけではない。
もしも一発でも攻撃が当たれば、それこそお陀仏間違いなしだろう。
そんな状況で、彼女は笑っていた。
「さあ……私がお前を御するか、お前が私に従うか……勝負といこうか!」
戦力差は、ダチョウと虫。
なるほど、到底勝負になるものではない。
大きさの差が、そのまま力の差になっている。
だがしかし、大きさに差がありすぎることも事実だった。
羽をばたつかせつつ、クチバシでメズヴを狙う氷喰い。
それに対してメズヴは、手綱を放さずに、むしろ手綱を使って跳ね回っていた。
「獣を御す極意は、相手の次の動きを予測し、それに対応すること! 私を落とすのは簡単ではないぞ、Aランクモンスター!」
まるで、ロープアクションだった。
氷喰いに噛ませている手綱を維持しながら、それを伸縮させて移動し、攻撃を回避しているのである。
それだけ聞いていると楽しげでさえあるが、もちろん本人は必死である。
笑っているメズヴの顔は、この厳寒の中でなお汗まみれだった。
体重を乗せて攻撃してくる相手の攻撃を避けるのではなく、ただぱんぱんと叩き落とそうとしてくる相手に触れぬように避けているのである。
当然だが『避ける』のは後者の方がよほど難しい。それに加えて、跳ね回るだけではなく寝転がることさえ始めた。
巨大な鳥にしがみつきながら、しかしその巨体につぶされぬように立ち回る。
それは、まさに危険な遊びであった。
「どう思われますか、狐太郎様」
「ここまでは、驚くようなことじゃないでしょう」
一方で狐太郎たちは、遠くからその光景を見守っていた。
四人で火鉢を囲み、その上でお餅を焼いているのである。
四角い切り餅ではなく、丸い餅。
それを炭火で焼きながら、時折醤油を垂らしている。
かまくらの中で、焼き餅を海苔で巻いて食べている。
もちろん、サカモも人型になってご一緒していた。
「Aランクモンスターは、倒すのが難しい、頑丈で強大なモンスターですが……逃げられないわけではないし、足止めできないわけでもない。それなら、ロデオだってできるでしょう」
狐太郎はシュバルツバルトで、多くのAランクモンスターを見てきた。
もちろん印象深いのは、頂点にして異常を極める、Aランク上位モンスターだろう。
だがもちろん、他にも多くのAランクがいる。
狐太郎の仲間以外では、ガイセイやホワイトぐらいしか倒せなかったが、他の隊も食らいつくことはできていた。
絶対に倒せないということと、一瞬で鎧袖一触はイコールではない。
前線基地を守ろうとする、侵攻を阻もうとするから大変なのであって……ただ取りつくだけなら、相応の技術さえあれば可能だろう。
問題なのは、そこから先のことである。
「ただ……よくわからないんです。ああやってずっと背中にへばりついていたら、それだけでモンスターを屈服させられるんですかね?」
彼女の目的は、長時間Aランクモンスターに張り付くことではない。
あくまでもAランクモンスターを御し、己の乗騎にすることだ。
Aランクを相手に単独で縋り付いているのは大したものだが、これを続けることの意義がよくわからない。
「引っ付いているだけでAランクを従えられるなら、みんなそうしていると思うんですが……」
「ええ、おっしゃる通りですね。おそらくまったくの無策でしょうが……戦いの中で活路を見出せるのでしょうか」
「サカモ。同じAランク下位であるお前に聞くが、あのやり方でどうにかなると思うか?」
「冗談でしょう。あのやり方で従っても、適当な時に逃げますよ」
四人は餅を食べながら見守っている。
凍り付いた湖面で腰を下ろし、観光しながら状況を観察していた。
「恐怖だけで従えるなんて無理なんです。恐怖しているのなら、従うんじゃなくて逃げるのが普通ですからね。それは人間も同じでは?」
「そうですね……サカモさん、貴重なご意見ありがとうございます」
サカモの意見を聞いて、ヤングイも喜んでいる。新しい知見を得るのは、やはり楽しいものだ。
喜んでいる一方で、些か残念そうでもある。
このまま失敗して、大けがをして、はいおしまい。
というのは、些か以上に趣に欠ける。
もちろん個人的な嗜好なので口にすることはない。
こうなって当然という結果に収まるのは、ちょっとだけ残念と言う程度。
本命はむしろ、別なのだし。
「メズヴは上手くやっているが、ゴールにたどり着く流れが見えない。そのうち疲れて終わるだろうな、何かが起きる余地がない」
この広い雪原の中で、動くのは巨大な鳥だけ。
それに必死で喰らいつくメズヴだが、そこから先はありえない。
もちろん、狐太郎が協力すれば、その限りではないだろう。
だが彼女自身がそれを拒む。それで何かを得ても、絶対に納得しないはずだ。
彼女は恥知らずではない。
彼女は己の強さ、勇気の証明として、Aランクモンスターを欲しがっている。
だからこそ、己の強さと勇気以外の要素が入り込むことを許さない。
よって、終わりは決まっているのだ。
「恐れながら、ご主人様」
そう読む狐太郎に、コゴエが少し寄った。
最高のコンディションを保っている雪女が、少しだけ悲しそうにしている。
「……どうした、コゴエ」
「誠、恐れながら……私はそれ以外の要素を感じております」
何を悲しんでいるのか、そう思った時である。
狐太郎は己の不明を恥じていた。
「そうか……そうだな、俺が悪かった。まだわからないな、どんな決着になるのか」
ここには確かに、氷喰いとメズヴしかいない。
だがだからこそ逆に、それ以外の可能性が生じつつあったのだ。
「お前が信じるなら、俺も信じよう。この場に、彼女が屈服する以外の可能性があることを」
果たして、コゴエは何に気付いたのか。
狐太郎はそれに気づいて、どう思ったのか。
サカモはきょとんとして、しかしヤングイは嬉しそうにしていた。
(なるほど……通じ合っている、ということですか。こういうところは、流石の魔物使い、流石の精霊使いですね)
精霊使いに必要なのは、精霊を好きな気持ちだという。
狐太郎は精霊に理解を示し、それを伝えている。
そこには確かな、確実な信頼という好意があった。
※
食堂に行こうとしたら、大きなハエがぶんぶんと飛んでいて、振り払っても縋ってくる。
そんな状況になったら、多少空腹でも食欲が失せて、逃げ出してしまうだろう。
実際に氷喰いもそうなっていた。
何時までも引きはがせないメズヴにうんざりして、さっさと逃げだすことにしたのである。
それでもメズヴはなんとかこらえていたが、やがてはエナジーが尽きて気絶した。
氷喰いは引きはがせたことにも気づかず、己の巣穴へ走り続けた。
少なくとも今日の内は、餌を食いに来ないだろう。
そして気絶したメズヴは、当然氷喰いから落ちた。落下の最中で、コゴエが精霊を動かし確保。
そのまま狐太郎たちのいるかまくらへ持ってきたのである。
すっかり汗だくになった彼女を、ヤングイが脱がせて汗を拭きとり、さらに乾かした服を着せていた。
それでもしばらくは寝ていた彼女も、やがてかまくらの中に立ち込める食べ物の匂いで目を覚ました。
「う……生きては、いるようだな」
「ええ、ご安心ください。大きなけがもされていませんよ。ただエナジーが尽きただけです、それに氷喰いは逃げ出しましたから、貴女の勝ちと考えていいのでは?」
「……助けてもらって、勝ち誇ることは出来んな」
ヤングイの説明に対して、メズヴは一応強がった。
しかしながら、その顔には満足感がある。
(あのAランクは、鵺と違ってずいぶんと荒々しかった。本気で私に攻撃してきたしな……ふふふ、私の技術も捨てたものではない)
彼女は力尽きるまで戦い続け、ついには生き残ったのである。
殺し合いではなく根競べとはいえ、Aランクに勝ったことは彼女にとって誇らしかった。
相手の強さを肌で感じたからこそ、生き残ったことが誇らしかった。
「とはいえ、手ごたえはあった。あの氷喰い、確かに気に入ったぞ。必ず乗りこなして、屈服させてみせる!」
意気込む彼女には、達成感があった。
一度目でここまで上手くやったのだ、二度目はもっとうまくやってみせる。
そう思うほどに、彼女はやる気を燃やしていた。
「正直に申し上げますが、このまま乗り続けても嫌われるだけだと思いますけどね」
「慣らしをするにも、まず意識してもらわねばならない。私とマックもそんなものだったぞ、貴殿はどうだったのだ?」
「……さて、どうだったのやら」
メズヴの問いに、狐太郎は答えを濁した。
やや憂いを見せつつ、コゴエの方を見ている。
「……初めて会った時、とても嬉しくて、ドキドキしていました。それだけは、今でも覚えています」
「そうか、それは私も同じだぞ。とにかく、最初は嫌われていても、接し続ければ相手の心も変わっていくはずだ」
狐太郎の本心に共鳴するメズヴ。
その興奮を思い出した彼女は、大いに奮い立っていた。
「あれだけのモンスターを従えれば、一族の面子も戻る! 偉大なるエツェルの娘は、他の王の娘を越えているのだと証明できるのだ!」
改めて聞くと、立派である。
彼女は自ら培った力によって、一族に貢献しようとしているのだ。
それはとても素晴らしいことであろう。
「それは結構ですが、お食事を食べたほうがよろしいのでは? 梅のお粥ができてますよ」
「おお、なにやら香しいな! 異郷の地で異郷の料理と言うのは、興が乗る。だが、その前にマックを呼ばなければ。マックあってこその私だからな」
上機嫌になっていても、彼女は友を、己の乗騎を忘れない。
むしろその感動を分かち合おうと、かまくらの外に出た。
だがしかし、夜の風が荒れる表には、氷水牛はいなかった。
「……ま、マックはどうした。まさかあの氷喰いに……」
「いや、そうではない」
硬い声に、熱を込めて。
コゴエは彼女に状況を説明した。
「お前の仲間は、今己に試練を課している。意味は分かるな?」
「……!」
既存の仲間だけでは勝てないので、新しい仲間を求める。
それ自体は結構だが、最初からいた仲間はどう思うだろうか。
己よりも数段強いモンスターを、己の主が求めている。
それに対して、何も思わないのだろうか。
「……そうか、私はプレッシャーをかけたつもりはない。確かに氷水牛にも王はいるが、マックが王になれなかったことを咎めたことはないし、マックと縁を切る気もなかったのだが」
「予想外だったか?」
「ああ、予想外だ。いつも一緒だったので、別行動をとるとは思ってもいなかった」
どしりと、火鉢の傍に座る。
出されていた梅がゆを一気に飲んで、そのままお代わりを所望した。
「だが……マックも雄であったな。身近すぎて、忘れていた。力不足を仕方がないと諦めてしまえば、さぞ傷つくだろう」
「そうでもない、雌でも同じだ」
コゴエは火鉢の傍で狐太郎に寄り添い、ここにはいない『メズヴの仲間』を思っていた。
この極寒の地で、あえて火に当たる。コゴエは今、力よりも心を求めていた。
「だから応援したいのだ。お前はどうだ、マックの主よ」
「ふん、笑止! 応援などという『声』を出すことはない!」
にやりと不敵に笑う、『マックの仲間』。
彼女は自らの回復のために、最善を尽くそうとしていた。
「マックが頑張っているのなら、私も頑張るだけのこと! 飯を食って寝て、次に備える! マックもそれを望んでいるはずだ!」
己の乗騎が、健気にも己を鍛えている。
だがそれにほだされて、乗騎の元へ泣きながら走るなど、北笛の民のすることではない。
マックには強くなるという成果が必要であり、メズヴにはAランクを征するという成果が必要である。
マックに向かって『強くならなくてもいいんだよ、無理しないで』などということはない。
同様にマックも『俺が強くなるから、メズヴは何もしないでいいんだよ』とは言うまい。
お互いに、軟弱者など求めていない。
お互いに自分がやると決めた、己に必要だと思ったことをやり通すまで。
それが危険だったとしても、必要ならば仕方ないのだ。
そう、友情に必要なことなのだ。
「健全だな……」
その姿に、狐太郎は尊敬さえ覚えた。
お互いに尽くし合うのではなく、お互いに高め合う。
とても健全で、破綻の無い関係。
成長から遠い男は、まるで星を見るように北笛の娘を見ていた。
「ふふふ、そんな風に憧れていると、ご自分の仲間に嫌われますよ?」
「そのとおりです、ご主人様。私や他の三体も、ご主人様だけを認めていますので」
「……そうか、そうだな」
※
Aランクモンスターがこの地で生活を始めたということは、そのAランクモンスターが餌を多く独占するというだけではなく、多くの瘴気を消費してしまうということでもある。
ただでさえ一番の餌場である湖近辺に近づけないのに、湧いてくるモンスターも減ってしまうのである。
それは本来この地で捕食者の地位にいるBランクモンスターにとって、とても深刻なことだと言えるだろう。
ただでさえ激しい生存競争が、より一層激化している。
その戦場に、一体の氷水牛が現れた。
当然ながら、この地のBランクモンスターにとって、氷喰いと同じ外敵である。しかも、倒せる敵である。
氷水牛であるマックへ、捕食者たちは殺到してくる。
それを、マックは求めていた。
自分が王になれるとかなれないかとかは、大して重要ではない。
己が己のままであることを、彼は許容できないのだ。
メズヴは、上手く氷喰いを得れば、それで満足できるだろう。
だが自分はどうか? 新しい仲間、自分よりずっと強い仲間が入って、それで良しとできるのか。
できない、できるわけがない。
メズヴが王の娘であるのなら、マックはメズヴの獣である。
ならば今のまま、弱いままでいていいわけがない。
できるかできないかは重要ではなく……やることを彼は求めていた。




