増え続ける厄災
狐太郎たちは現在、書面上は王都にいますよ、ということになっている。
もちろん実際には各地の視察と言う名目で、お忍びの旅を楽しんでいる。
その最中に悪魔の被害者から発作的な攻撃を受けるというアクシデントもあったのだが、そこそこに旅は順調である。
この日一行が休むことになったのは、さる貴族の屋敷だった。屋敷と言っても別邸だが、もちろん普通の宿よりは豪勢だった。
具体的に説明すると、その屋敷にいる奉公人を全員避難させてから、一時的に狐太郎たちが入って寝泊まりして、翌日出ていくのである。
当然だがこれは事前に連絡されていることであり、後日莫大な報酬が、援助という名目で送られることになっている。
もちろん狐太郎の死蔵していた現金がほとんどなのだが、ある程度は王家からも送られる予定である。
なぜわざわざこんなことをしているかと言えば、まず狐太郎が一応次期大王であるということで、その彼を泊まらせても問題ない格式の宿が近くになかったということであり……。
あるいは単純に、悪魔を連れている狐太郎を、少しでも隔離したかったのかもしれない。
とはいえ、問題はない。幸いにして狐太郎にはフーマ一族がついており、身の回りの世話に問題はなかった。
やはり身の回りの世話ができる者、というのも護衛の一種であろう。少なくとも彼に不自由はないのである。
(もしかしてフーマ一族は、武装メイドというジャンルの職員なのだろうか)
諜報員が侍従として働いていることに対して、狐太郎は不真面目なことを考えてしまう。
もちろん純粋な戦闘員ではないので、戦闘能力においてはネゴロ十勇士にさえ劣る。
本職の兵士よりも強いメイドさん、という妄想の存在ではない。
(メイドか……モンスターパラダイス7にいたなあ……)
そんなことを考えながら、狐太郎は護衛達と一緒に食事をしていた。
本来の意義からすると護衛と護衛対象が一緒に食事と言うのは良くないのだが、ネゴロ十勇士とフーマ一族、そしてササゲ以外の悪魔はちゃんと近辺の警備についているので問題なかった。
護衛の中にもヒエラルキーがあるのかと思うと少し嫌になるが、別に無休の無給でこき使っているわけでもないのでそんなには気にしていない。
(思い返すと、アイツらのせいで酷い目にあったしな……今でも大王様を騙しているし……)
もうすっかり、大きめの家具で生活することにも慣れてしまった。
流石に食器は小さいものを使っているが、その気になれば大きいものも使えるようになるだろう。
やはり人間は強い。
(落ち着かないねえ……私も表に行きたいよ……)
なお、ピンインはまだ慣れていない模様。
彼女の仲間とクツロは外でどんちゃん騒ぎをしており、この屋敷の中にまで音が届いている。
本当は一緒に食べるべきなのだろうが、流石によそ様の屋敷を汚すのは良くないので、外で食事をしてもらっている。
もちろん、本人たちは大喜びである。
「せっかく旅行に来たのに、クツロ達は普段通りだね~。この地方の名産だって料理を、わざわざ作り置きしてもらったのに」
「そういうな、アカネ。亜人たちが食べている肉や酒は、この地のものだという。それを楽しんでいるのだから、茶々を入れるな」
ちゃんとテーブルマナーを守っているアカネは、最初からテーブルに着かない連中にがっかりしていた。
そんなアカネに対して、食欲や食生活に理解のあるコゴエは、やはり冷静な指摘をする。
「テーブルマナーと言えば、貴方の部下たちは凄かったわよねえ。もう建設現場か何かの工場だったわ」
「ああ~~……そうだねぇ。思い出しても凄かったよ」
種族ごとの食事マナーから連想して、ササゲは竜の民による食事風景を思い出していた。
ノベルだけは例外だが、他のほとんどの者はドラゴンたちに料理を作る人々の、大掛かりな調理風景を覚えている。
「凄かったですよねえ、本当に!」
それを聞いて一番反応したのは、やはりバブルだった。
侯爵家の生まれとは思えないほどに興奮した様子で、食器を手にしたまま話し始める。
「玉手箱やその中身を作ったのは、竜の民とされてきました。彼らはドラゴンに守られながら、ドラゴンに忠誠を誓い、ドラゴンへ多くの貢物を送っているとされてきましたけど、実際にはどうやってドラゴンが食べるほどの食料を作っていたのかは謎で、実際に確かめたものはいないとされてきました! いくつかの仮説があって、その中の一つにはドラゴンが小型に変身して、人の料理を人のように食べるというトンチキなものがありましたけど……これはやはり誤りで、実際にはドラゴンと人間が共同で調理をしていたわけですね! あの光景はしっかり目に焼き付けて、後で絵にしました! もちろん学校に提出して、正式な史料にしてもらったんですよ! もちろん、描いた絵は十枚や二十枚じゃないです。でも専門家の方からは、遠景だけじゃなくて近景も欲しいと言われてて、それもこんど描きたいんですよ!」
酒が入っているわけでもないのに、中々の饒舌ぶりである。
これが彼女の素だと言うのなら、彼女も狐太郎の護衛として馴染んできたということだろう。
(ば、バブルの悪い癖が出た……)
(いや、これは悪い癖じゃないだろう。相対的にマシな癖だ)
(どのみち癖じゃない)
「あらあら、思いのほか学者さんじゃないの。いえいえ、学生さんだから当然かしら?」
「博物学、というのかもしれない。やはりこうした人間らしい人間には、一種の敬意を感じるな」
気分よく語っているバブルを止められない同級生三人だが、ササゲやコゴエは好意的に見ている。
話の内容が真面目であり、学問の観点からすれば歴史的なことだからだろう。
未知というものがほぼ残っていない世界から来た二体には、彼女のような人間がほほえましく見えるらしい。
それをみて、三人の同級生もほっと一息である。
(場の空気が緩んできたねえ……)
空気を固く感じていたピンインも、ほっと一息である。
意図して固くしていたわけではないのだが、やはり四冠の狐太郎と同席と言うのは、緊張してしまうのだろう。
下手なことにならないように、慎重になるのも当然であった。
「……ところでだ、キコリ」
その緩んだ空気に紛れて、ロバーが切り出した。
「お前、本当にバブルと結婚したいのか?」
「な、なんだよ!」
「こう言っては何だが、お互いのためにもこのまま別れた方がいいぞ」
まるで無礼講のような空気に任せて、ロバーが真面目な話をする。
真面目なようで不真面目なような話なので、こういう場所でしかできないことだった。
「おい、俺が婚約破棄を撤回したがってるって、狐太郎様以外には……」
「そんなことは、お前の未練たらたらの恰好を見ていれば分かる」
「……バブルがいる前で言うなよ」
「アイツがお前の話を聞くと思うか?」
「……いうなよ」
「竜の民はドラゴンの下僕とされていたけども、実際にはドラゴン側も雇用者、保護者としての振る舞いをしていて、若いドラゴンに対してはお目付け役のような役割を担っていることがショウエン・マースー将軍の手記にも書かれていて、実際に先日も参陣が遅れたウズモたちのことを報告していて、それを信じてもらっていました。つまり長老でさえも己の孫よりも、下僕である人間を信じているということであり……」
なおもご機嫌で話しているバブル。
おそらく止めろと言わない限り、このまましゃべり続けると思われる。
「とにかくだ……とにもかくにも、狐太郎様を巻き込むな! どうせ今回の旅行も、お前が言い出したことだろう」
「りょ、旅行に行こうって言ったのは、俺じゃなくて……」
「お前が要らぬことを頼んで、その結果だろう。狐太郎様は寛大なお方だ、私たちが頼めば聞いてくださる。だがそれは、弱みに付け込むようなものだ」
ロバーがキコリに説教をしていると、申し訳なさそうにマーメが狐太郎に軽く頭を下げた。
どうやら二人には、この旅行の趣旨が分かっていたらしい。
「勘違いするな、キコリ。私はお前やマーメにも感謝している。もちろんバブルもそう思っている!」
「とてもそうは思えないんだが……」
「……今のは無しだ」
「そうかよ!」
「とにかく、私たちは確かに狐太郎様や国家に貢献している。その点について一切の偽りはないし、偶然でも奇跡でもない。それは先生方から言われた通りだ」
侯爵家の四人は、既に期待の新人ではない。
もう実力も実績もある、立派な護衛である。
実力と実績が釣り合っていない気もするが、むしろ実力以上の成果を出したと言えるだろう。
そこには士気と鍛錬の成果があるだけで、奇跡だとかなんだとかは関係がない。
しかしそれはそれとして、どんなわがままでも通していい、というわけではない。
「だがな、狐太郎様ご自身が国家に対して極端な要求をなさらないのに、その護衛でありこの国の貴族である私たちが狐太郎様へ要求するのはおかしいだろう!」
「それは、まあ……」
「今更旅行を中止にしろとは言わないが、今後は慎め。今の私たちには、当主様や恩師の方々でさえ注意できないんだぞ。私たち自身が慎むしかないのだ」
「……うん」
改めて、ロバーとキコリはそろって狐太郎へ頭を下げる。
やはりなんとも青春であった。
「その上でだ……バブルのどこがいいんだ?」
「……いや、そのさあ」
「あの時の弱音は、確かにみんな思っていたことだぞ」
「そうよ。絶対別れた方がいいわよ」
バブルに対して、キコリは土壇場で酷いことを言った。
それに対してバブルは冷静に婚約破棄を決定したが、仲のいい二人はまったくキコリを咎めていない。
一体どれだけ、バブルは酷いことをしたのだろうか。
「お前は普通の感性なんだ、バブルには合わない」
「そうよ、貴方は通常の神経の持ち主なのよ。バブルには合わないわ」
「……それはわかってるけどさ」
「お前もわかってるだろう、お前がどれだけ頑張っても、バブルは何とも思わない!」
「あの子には貴方への感謝の気持ちがないのよ!」
(俺はそんな子に体を治してもらっていたのか……)
話を聞いていると、狐太郎の心臓が少し痛くなった。
何時だったか、心臓が止まった時に彼女に治してもらったことがある。
リァンに治してもらった時よりも深刻で、彼女は手を尽くしてくれたのだ。
それはとてもありがたいことだが、彼女の事情を知った後だと一気に不安になってきた。
動き出した心臓が、また止まりそうである。
「はあ……人間はこっちでも奥ゆかしいよねえ……。こっちのドラゴンなんて、いきなり踊り出してケンカして帰ってくんだよ? 酷いと思わない?」
(まあそうかもしれないけども、命をかけて戦って来いと言われるほどではないと思う)
思えば今狐太郎の走狗として央土を駆け回っているドラゴンたちも、元はアカネへ玉手箱を献上しようとして、途中で雌とケンカして壊して帰ってきて怒られた雄たちだった。
文章にすると非常に情けないが、真実なので仕方ない。それに若い雄のしたことと思えば、狐太郎も人間の男として咎められなかった。
「そういえば、狐太郎さん」
「なんだい、ブゥ君」
ドラゴンやら人間やらの恋愛話を聞いていると、狐太郎の腹心であるブゥはある疑問を口にした。
「狐太郎さんは、ご結婚相手とか考えてらっしゃらないんですか?」
もちろん婚約者としてダッキはいるのだが、狐太郎の腹心であるブゥは、『ダッキだけはないな』と知っている。
彼こそは、よき理解者であった。
「結婚相手ねえ……考えたくない」
「わかりますよ」
「やはり君もかい……」
狐太郎もまた、ブゥのよき理解者であった。
「いろいろ置いておいても……まず結婚したいという女性に巡り合っていなくてね」
「そうでしょうねえ……」
狐太郎もブゥも、結婚には問題がある。
しかしそれらを抜きにしても、彼らは結婚したいと思う相手がいない。
まず恋愛対象として選べないのである。
その状況で、結婚願望もなにもあったものではない。
「あらあら、ご主人様もまだまだ若いわねえ。そんなことを言っていると、一生結婚できないわよ?」
「ササゲに言われると、確かにごもっとも、としか言いようがないな」
笑いながら茶化してくるササゲ。
彼女の言うとおりであり、選り好みをしていると結婚できなくなる、というのはよくある話だ。
(しかし一国を救った俺が、なぜ結婚相手に文句を言えないのだろう……)
だが狐太郎は悩んでいる。今の自分は普通ではないはずなのに、キコリ達以上に偉くて、誰とでも結婚できるはずなのに、と。
「まあそもそも、俺は結婚願望があんまり……いや、あるけども。ただ結婚したい相手とか、結婚したい相手に求めるものがないからな……」
最近は寂しさを忘れてきたが、それでも根の部分でそれが残っているのかもしれない。
相手がいればとは思うが、その相手に何を求めるのかさえ、狐太郎の中にはなかった。
「私は色恋沙汰に共感できぬ身ではありますが、人の曰く『これがいい、はなくとも、これが嫌はある』だそうで。ご主人様は、絶対に結婚したくない相手の、その条件はございますか?」
「あ、それ私も聞きたい!」
好きなタイプが思いつかなくとも、嫌いなタイプはいくらでも思いつく。
なるほど狐太郎にも、それはある。
「とりあえず、目の前で人を殺さない女性だな」
まずそれが先に来た。
ピンインもブゥも、三体の魔王も頷いている。
アレは酷かった。
「いくら俺のことを大事に思ってくれても……たかが暴言を吐かれたくらいで、目の前で暴力を振るわないでほしい」
今は王女となったリァン。
彼女の犯行は、今でも頭に焼き付いている。
「他には……清潔だとか食べ方が汚くないとか、そんな普通のお願いもあるけども……」
ちらりと、狐太郎はバブルを見た。
「クラウドラインの長老は、魔王様たちが倒れたときにいらっしゃって。やっぱり鱗の大きさがウズモよりも大きかったんですよね。つまりクラウドラインは鱗の総数は変わらなくて、成長に合わせて鱗の大きさが変わるらしいのよね。これは胴体が長いタイプの蛇型モンスターにも共通する身体的特徴なのよ。でもアクセルドラゴンやワイバーンのように、二足歩行や飛行型のドラゴンは、鱗の大きさは変わらないけど成長と共に鱗の数も増えていって……」
悪人ではないだろう。
少々自己中心的ではあるが、むしろ学者気質と考えれば熱心の部類に入る。
だが結婚相手にしたくはない。
「ポリシーとかイデオロギーとか、志を持っていない人がいいな。普通の人がいいんだ、普通の人が」
そんなことを考えている狐太郎は、しかし知っている。世の中には意外と……『普通の人』はいないのだと。
そして普通の人は、次期大王兼Aランクハンター兼元征夷大将軍兼元斉天十二魔将首席と結婚したがらないのだ、と。
(俺と結婚したがる奴が、普通である筈がねえ……いいや、むしろ普通の人には、普通の幸せをつかんでほしい……)
※
さて、央土の南方である。
王都から戻ったカンシンは、その一帯を治めるシカイ公爵に会いに行っていた。
その主な用件は、当然ながらナタが抜けることである。
「シカイ公爵殿……太志のナタは、王都の守りに復帰なさるそうです。ろくな挨拶もせずに別れることを、彼は謝っておいででした」
「そうですか……」
南方大将軍カンシンからの言葉を聞いて、シカイ公爵は悲し気になっていた。
それは決して、大戦力が抜けたことを嘆いているわけではない。
それよりも深い悲しみが、彼の中にあるのである。
「元より、彼は先代陛下よりお借りしたお方……これでいいのでしょう。いいえ……」
シカイ公爵は、申し訳なさで泣いていた。
「彼は……王都にいるべきでした!」
彼の真面目さは知っている、彼がどれだけギュウマや十二魔将を愛していたのかも知っている。
ことあるごとに、彼は十二魔将のことを誇っていた。そこを抜けた今でも、彼は十二魔将に心を置いていた。
その十二魔将が壊滅し、大王も死に、王都も陥落した。
すぐにでも向かいたかったであろうに、南は彼を放せなかったのだ。
いいや、そもそも……彼を王都から引き抜くべきではなかった。
「それは違います、公爵殿。もしも彼がここに居なければ、南万は南方戦線を突破し、王都に攻め込んでいたでしょう。そうなれば事態は、さらに悪化していた可能性も……」
だがそれを、軍事の専門家は否定した。
ナタをここに置いた、先代大王の決断は間違っていなかった。
西重だけではなく南万まで王都に侵攻していれば、果たしてどうなっていたか。
(ナタはともに死ぬことを望むだろうが、それは軍人のするべきことではない。アレで良かったのだ、戦略的に考えれば)
結果論ではあるが、布陣は正しかった。
少なくとも、ジューガーが各前線を招集しなかったことは、国土の維持からすれば正しかったのだ。
たとえそれが、どれだけ犠牲を生んだとしても。そうしなかった場合を考えれば、相対的にマシだったのだ。
「それでも、彼は救われません。あれだけこの地に貢献してくれた彼に、私はなにもできなかった。それどころか……」
「足を引っ張ったというのなら、私でしょう。もしも私に、アッカ殿や狐太郎殿のような器があれば……」
二人とも、しばらく黙った。
互いに大人である。失ったものを嘆くことはいいが、嘆き続けることは良くないと知っている。
しばらくしてから、二人は切り替えた。
「それから、君がいない間に南万から情報が入った。どうやら大将軍サイモンが『病死』したらしい」
「……本土を守っていた、彼がですか?」
カンシンはこの時点で理解していた。
これは軍事レベルのことではなく、別のこと、政治的な理由によるものだと認識したのだ。
「そして同時に、ホウシュン殿とゴー・ホースが発見された。どちらも女王が保護しているらしい、二人の子供も含めてな」
「……さようですか」
二人ともうかつなことは言わない。
だが既に、何が起きたのか大体把握していた。
一種奇跡のような悪運によって、央土は救われていたのである。
「まだこれは内密のこと……ジョー・ホース閣下には、内密にお願いします」
「ええ……これは確かに、慎重に運ぶべきでしょうな。ではこのことを知っているのは……」
「私と、貴殿。そして……娘だけです」
二人の声は、自ずと小さくなっていた。
「……なぜご息女に」
「……大丈夫、娘は口が堅いので」
「そういう問題ではありません……」
「……娘は耳が早いのです」
※
央土に届いた『海路で帰れ』という手紙を偽造したのは、王家にゆかりのある大将軍サイモン。
だが彼の思惑から外れ、本当に海難事故にあい、長く遭難していた二人。
その二人が如何なる手段によってか帰還し、おそらく二人を護送したであろう異国の英雄によって、口封じをしようとしたサイモンは討たれた。
(それが真相でしょうねえ……央土が勝ったのはいいけど、面白い話じゃないわ)
真実を知った彼女は、既に興味を失っていた。
政治的な価値はともかく、彼女の中での価値は無に帰していた。
つまりことが判明する前に想定されていた、いくつかの仮説。そのうちの一つが正解だったというだけのこと。
よって、まったくもって、これっぽっちも『謎』ではなかった。
「やはりどの謎もありきたりの陳腐なもの……インテリジェンスもユーモアもセンスもない。あるのはただ、欲だけ……期待できるのは、彼だけね」
シカイ公爵の娘であり、公女の一人。ダッキに勝るとも劣らぬ、美しき姫。
趣味の琵琶を弾く彼女は、楽譜ではなく一枚の報告書を読んでいた。
「冠頂く四体の魔王を従える、央土国内で四つの最高位に座すお方……私の理想とする、私よりも『頭のいいお人』だと良いのだけど」
戦争が終わって動き出す女性は、一人だけではない。
平和になりつつある国家のなかで、新しい騒動が動きつつあった。
「いいえ、期待できるわね……空論城の者をして、『悪魔よりも悪辣』と言わしめたお方なら……私を満足させる『謎』をお持ちのはず……!」
期待に胸を膨らませて笑う彼女は、余りにも妖しかった。
「今私が……ヤングイが参りますわ、最強の悪魔使い様」




