原点回帰
世の中には『幸せそうにしている奴のすべてを奪うのサイコー!』という考え方の持ち主がいるのだが、それをオープンにしている者は珍しいだろう。
というか思っていても実行に移すのは少数派のはずだ。
世間の大多数は『普段はゴロゴロして、たまには友達と一緒にきままな旅をする』というのを幸福とするであろう。
もちろん中には『すげー金持ちになって四方八方からちやほやされたい』という者もいる。
現在の狐太郎は、現時点だけ切り取ってみれば、誰もがうらやむ成功者であった。
周りの人へ『俺旅行行くから、予定たててね』と言うだけで、へへー、と動き出す。
それこそ漫画の金持ち、漫画のお貴族様状態であった。
漫画の主人公並に大活躍して、漫画の主人公並に国家の命運を背負って、漫画の主人公並に命を狙われて得た地位である。
多分労力に見合っていない。
「面倒なこと言い出しますねえ、狐太郎さん。いいじゃないですか、王宮でゴロゴロしていれば。貴方は旅行中気を抜けるんでしょうけど、僕はむしろ仕事になっちゃうんですよ。例の子たちだってそうじゃないですか」
「たしかによく考えたらその通りだけど、文句言うのは流石にどうかと思うよ。胸に秘めておきなよ」
現在狐太郎は、サカモの背に乗って移動中である。
もちろんその周囲には狐太郎の護衛一行もおり、結構な大所帯であった。
大名行列と言えば流石に誇張だが、兵力的にはその域を超えている。
まず四体の魔王がいる。
さらにブゥとセキト、アパレがいて、アパレの眷属も一緒である。
侯爵家の四人もいるし、ピンインとその仲間のキョウショウ族もいるし、ネゴロ十勇士もフーマ一族もいるし、おまけにノベルもいる。
サカモの背に乗っていることも含めて、すさまじいほどの悪の軍勢なのだが、ドラゴンたちがいないのでまだ全力ではない。
なおブゥはセキトと一体化して浮遊し、狐太郎と同じ目線で移動している。
「もうあれじゃないですか、前にみんなで体を休めてた森に引っ越して、死ぬまでぐーたらしましょうよ。あそこでなら、僕も結構お休みできますし」
「その意見は一考に値するけども、物には限度があると知ってくれ」
狐太郎がダークマターの毒ガス攻撃にさらされて倒れた後、狐太郎たちはのどかな森でのんびりしていた。
あの日々がずっと続けばいい、というのはわからなくもない。実際あそこに住むのはアリだ。
だがずっと、というのは流石にない。結局たまには移動したくなるだろう。
今だってそうなわけであるし。
「いえね、僕だって旅行はいいと思うんですが……狐太郎さんと違って、僕は仕事が終わってなくて……むしろ狐太郎さんが偉くなった分、僕の責任も重大でして……」
「それはそうだけども、俺が王都にいるときは君だって暇してるだろう」
「ずっと暇でいたい……とまでは言いませんが、もうちょっと間が欲しかったですね」
むにむにと、ブゥは自分の腹を撫でた。
そこは西重の将、カオシとヘキレキから受けた傷の有った場所である。
「狐太郎さんもきつかったと思うんですけどね」
僕もきつかったんですよ。
あえて言わないことで、強調されることもある。
「……」
感謝しているのに、何も言えないことだってある。
結局、二人ともわかっている。
お互いに被害者で、加害者で……当事者でもないのに引っ張り出された身だと。
「やめようか」
「そうですね」
二人は友人なので、愚痴を言い合う。
なんだかんだと、結構な付き合いだった。
ここで区切って、互いに気分を切り替える。
「仕事頑張ってくれ」
「はい、お任せを」
ぱたぱたと悪魔の羽を動かして、ブゥは少しだけ狐太郎から離れた。
「ふふふ……実にほほえましいですね。狐太郎様はブゥ様と特に仲がよろしいと聞いていましたが、本当のようですね。もちろん陛下がたを除いてですが」
ふわりと浮かび上がって、風に乗っているノベル。
軽い岩石に変身した彼女は、ブゥに入れ替わる形で狐太郎と話を始めた。
「私もノベルと言う名を賜った以上、狐太郎様から格別の信頼を得たいものです。もちろん、従者としてですが」
「……そんなに寄せなくていいんだぞ」
狐太郎が彼女へノベルという名を与えたのは、彼女が自分に何ができるのかをつらつらと説明してきたからである。
もちろん他にも一応の要素はあるのだが、彼女はそれを気に入った。
陳べる。なんとも素敵な名前だと、彼女は受け入れていた。
だが狐太郎としては、彼女が意図して多弁に振舞うところをみると、『貴方が私にノベルという名前をくれました』とずっと言われている気になる。
シャレた名前、或いはシャレ過ぎた名前、もしくはふざけた名前だ。
いっそふざけに振り切った名前にするべきだったか。
(いや、それもないな)
ホワイトは結構考えた名前を全部没にされて怒って、結局究極という酷い名前に落ち着いた。
究極のモンスターうんぬん……僕が考えた最強のモンスターという出生を抜きにしてもひどすぎる名前である。
もちろん彼女も辛いだろうが、ホワイトもきっと嫌で仕方なかったはずだ。
名前を付けたら、本人からダメ出しをされるのは。
(……何様だ、俺は)
自分の行為行動を省みると、狐太郎は沈んでしまう。
いやはや、もっとありふれた名前にするべきだった。
瑠璃とか翡翠とか珊瑚とか……そういう、体質にちなんだ名前を。
(いや……それを本人がいやがる可能性もあったな。気に入っているのなら一番か……)
今更だが、狐太郎は自分のモンスターに、クツロやアカネ、ササゲやコゴエという名前を付けた。
だが、それに対して彼女たちからリアクションをもらったことはない。
それでよかった、それがよかったのだ。
狐太郎からすれば、だ。おそらくはホワイトも、そうして欲しかっただろう。
(俺達の都合だな、まったく……嫌がっても拗ねるし、好かれても恥じるとは)
狐太郎は割り切ることにした。
彼女がノベルという名前を気に入っている、それがすべてだ。
気に入りすぎて、それをアピールし過ぎているが……まあ悪いことではない。
恥ずかしいだけだ。
「ではこれにて。私めとしてはもっとお話をしたいところでありますが、余り独占すると陛下の機嫌を損ねましょう。旅は始まったばかりなのです、焦っていいことは無し。またの機会に……」
彼女はまたも自分の『材質』を変えた。
ふんわりと着地すると、そのままサカモに並走を始める。
「……みんな、悪いな」
みんな、と狐太郎は言った。
もちろんその対象に、サカモは入っていない。彼女はただの飯炊きであり、足代わり。
それなりには狐太郎へ敬意を表しているし、使い走りのようなこともするが、慕っているわけではない。
少なくとも、相手にしなさ過ぎて拗ねる、ということはないのだ。
「ご主人様が人気者過ぎて、私も鼻高々……といいたいけど、流石に拗ねるところね」
ふわふわと浮かんでいるササゲが、やはり不満そうにしていた。
せっかくの旅行なのだから、もっと親しいものだけで過ごしたいのだろう。
護衛と話し込むというのは、双方ともにプロ意識に欠けている。
「そういわないの、ササゲ。せっかくの旅行だし……そもそもそんなに長々しゃべってないじゃない」
割と大人で、もっともなことを言うクツロ。確かにその通りである。
そんな彼女は現在狐太郎の後ろで、彼を抱えながら背もたれになっている。
「それはいいんだけどさ、この世界に来てずいぶん時間が経つのに、いまだに私がご主人様を乗せられないのはどういうこと?」
恨みがましい目で、下から睨んでくるアカネ。
未だに彼女は、狐太郎を乗せることを諦めていない。
諦めなくてもいいのだが、正しく努力をするべきだろう。
「お前が成長していないからだ」
塩対応をするコゴエは、サカモを挟んでアカネの反対側にいた。
サカモの足の間から、彼女へ容赦のない指摘をする。
「ええ~~、あんなに練習したのに?」
「食事作りの練習をやめろとは言わん。だが乗せる練習はしろ」
「それはそうだけどさ~~……私はご主人様を乗せて、一緒に風を感じたいんだよ」
(死ぬわ)
もう問答をするのも面倒な話である。
周囲の者たちも狐太郎の貧弱さを知っているのだから、彼女もそれを知ったうえで行動してほしい。
「でさ~~……ぶっちゃけ今のご主人様って、すごく偉いじゃん。貴族の子たちが守ってくれてるわけだしさ」
「そうだな」
「これから行く先で、パーティー開いてどうのこうの、ってやるの?」
「まあ言いたいこともわかるが……今回はそういうの無しでってことにしてある」
アカネの言う通り、狐太郎はとてもえらい。
今までは外国の貴人がAランクハンターに、という程度だった。
それでも結構なことだが、今は四冠である。それも旗印となって国家を救った英雄である。
ただの事実として、一大セレモニーになって……ということになりかねない。
「一応事前に手紙で連絡しているし、相手からも許可はもらっている。料金も先払いだ。だが……一応お忍びということになっている」
「それでいいの?」
「良く考えろ、この国は戦争が終わったばっかなんだぞ? それで物凄く偉い俺をおもてなし……なんて無理があるだろう」
狐太郎をもてなしたい気持ちはあるだろう、今後に備えて狐太郎に恩を売りたいだろう、或いはもっと純粋に狐太郎へ感謝を伝えたい者もいるはずだ。
だがしかし、名実ともに大王の次ぐらいに偉い……どころか大王の権威の保証人をしている男である。
その彼を正式にもてなすとなれば、それこそとても大変なはずだ。
南万では兵を集めたせいで各地が疲弊したように、央土でも先日の戦争で各地が疲弊しているのである。
その状況で要人を迎えることなどできるわけもなく……。
ただお金を落とすお客さん、ぐらいにしておきたいのだろう。双方の意見の一致であった。
「結局むこうだって同じだ。正式に俺を迎えて……なんて怖すぎるんだろう」
狐太郎は、ふと並走している侯爵家四人組を見た。
特にぎこちないところがあるわけでもない、息切れしているわけでもない面々である。
(きっと努力したんだろうなあ……)
今回の旅行の発端となった者たちを見る。
狐太郎はこの世界に来て、この世界の常識を学んだ。
その常識から言って、今この速度で走っているサカモに並走するというのは、相応の努力がいることだ。
狐太郎を一度もてなすだけでも大変なのに、ずっと守らなければならないという重責は計り知れない。
それを今後も背負い続ける彼らに、できるだけ報いたかった。
「ま、難しいことは抜きだ。適当に緩く行こうじゃないか」
はっきり言えば……狐太郎は油断していた。
英雄と呼ばれ、実際に英雄としての武勲を上げていても、彼はやはり油断をしていた。
※
サカモは瘴気を必要とするモンスターである。
子供の姿なら消費は極端に少なくて済むし、合体しても人の姿になっておけばやはり節約できる。
だが狐太郎を乗せて走るときは、さすがに本来の姿にならざるを得ず、多く瘴気を消費する。
シュバルツバルトにいるときはそんなことを気にする必要などなかったが、安全地帯を進むとなればそうもいかない。
強い瘴気の有る強い魔境に行かないのであれば、小さい魔境でしばらく腰を下ろす必要があった。
もとよりそれを抜きにしても、ずっと同じ姿勢を維持する、ずっと座り続けるというのは負担である。もちろん走り続けることも、当然疲れることだ。
狐太郎の休憩のためにも、同行している者たちの為にも、彼らは魔境の近くで休憩する。
そこは山の中の魔境であり、普通の山と境界線があいまいな魔境であった。
シュバルツバルトははっきりと、草原と森によって内外が分かれていた。
だがこの魔境は瘴気の少なさもあって、空間の歪みも乏しい。
森へ向かう道の前に、看板が立ててあるほどだ。それが無ければ、通り過ぎたとてわかるまい。
Dランクの大きいネズミやら狸やら、その程度が湧くだけの魔境。
あるいは食べられるだけで、美味しいわけでもない野草が採れるだけの魔境。
そんな魔境の前で、一行は腰を下ろしていたのである。
「狐太郎様、一応念のため魔境の中を調べてきました。中には小物のハンターもどきが一人いるだけです」
斥候として警戒をしていたネゴロ十勇士が、狐太郎へ報告をした。
狐太郎たちが腰を下ろした魔境の中にいたのは、その狸やらネズミやらを罠で捕りつつ、野草を採集しているだけのハンターもどきだった。
流石に職務質問などしていないが、仮にライセンスを確認してもDランクがいいところだろう。
その程度のものが一人だけ、ただの仕事として魔境に入っているだけだった。
「如何しますか、人払いをしますか、待たせますか」
「放って置け、というか仕事の邪魔をするな」
ただノルマをこなすために、食事にありつくために仕事をしている。
お世辞にも一流とは言えないが、それでも真面目に頑張っているであろうお人だ。
旅行をしているだけの分際が、そんなお方へ『邪魔だ失せろ』など言えるわけもない。
「クリエイト使いには見えないんだろう、何か武器でも持ってるのか?」
「いえ……罠猟のようですから、精々鉈ぐらいでしょう」
「ならいいさ、むしろこっちが気を使うべきだろう」
魔境の入り口、看板の近くに腰を下ろす。
狐太郎はアカネの弁当を食べ、他の面々も同じように食事を始めた。
もちろん、侯爵家の四人も同じである。
「いや~~走ったね~~。学校で体力つけておいてよかったよ~~」
(普段通りだな、こいつ……)
汗を拭きながら、狐太郎が噛めない硬さのパンを食べているバブル。
その態度は婚約破棄を言い出す前と、良くも悪くも変わりはなかった。
そういうところが、バブルらしいと言えばその通りである。
意図してのことではなく素の振る舞いであり、ある意味天性のプロ意識なのかもしれない。
(……会話の機会を作るから頑張れって言ってくれたけど、コイツに何を言ったらどうにかできるんだろう)
自分も水筒の水を飲みながら、キコリは考えた。
逃がした魚は大きいというか、一種の惜しい気持ちというべきか。
バブルに対しての好意が再燃している彼は、なんとかバブルと話をする機会を探ろうとしていた。
(……キコリの奴、変なことを言わないだろうな)
(まさかバブルよりもキコリが足を引っ張るなんて……)
なお、同僚の二人には丸わかりだった。
はっきり言って、狐太郎と同じ心境である。
さっさと諦めて、次の相手を探すべきだった。
もちろん二人は、バブルの素行を嫌という程知っている。
キコリがあの土壇場で泣き言を言ったことも、決して咎める気はない。
だがそれはそれとして、あの発言が一線を越えたことも認めていた。
むしろ双方のために、さっさと別れるべきだと思っていたのである。
共に鍛錬を積み、死線を潜り抜けた者たちの、熱き友情。
(バブルと結婚しないほうがいいと思うしな……)
(バブルは結婚しないほうがいいと思うわ……)
二人はバブルの為というよりも、キコリのために再燃を阻止しようとしていた。
なお、そんな光景をピンインも見ている。
(はあ熱いねえ……羨ましいねえ……)
護送隊のハンターとして、自力でCランクに達し、さらにBランクとしての任務もまっとうした彼女である。
女性として家庭に入ることを至上としているわけではないが、それはそれとして、人並み以下程度には結婚願望もあった。
だが今回彼女は、Bランクハンターになってしまった。
彼女もカセイでCランクハンターをやっていたのである、世間という物を知っている。
というか自分が男だったとして、大王直属のBランクハンターと結婚したいか、という話だ。
(金目当てか地位目当てじゃない限り、望みは薄いねえ……)
はっきり言って、結婚したくなくなるような相手が殺到してくる未来しか見えない。
そんなに結婚したいわけじゃないのでそこまで惜しくはないが、結婚できないよ、となれば流石にちょっと違う。
狐太郎ほどではないが、自分の人生が狭まった感覚に陥っていた。
(ああ、あれが件のハンターさんかい)
キョウショウ族たちと一緒に飯を食っているピンインたち。
もちろん全体の周囲には悪魔がいる。食事を必要としないアパレの眷属たちが、十勇士と一緒に警戒をしているのだ。
その悪魔たちを見て、魔境から出てきたばかりのハンターが驚く。
(そりゃあ驚くか……)
身なりからして、実際にDランクハンターなのだろうと分かる。
一段階違うだけだが、Cランクハンターだった時は見下していた相手だ。
どう見ても鍛えておらず、ちょっと押しただけで倒れそう。
エフェクト技もクリエイト技も使えないであろう、一般人に毛が生えた程度の男である。
すこし短い山刀らしきものを持っているが、他に武器らしいものはない。
収穫であるらしい小型モンスターや野草を縛って背負っているが、たぶん大した金にはならないだろう。
(今となっては羨ましいねえ、稼ぎは少なくとも気楽で……多分独り身だろうねえ、自分だけ食えればいいってだけの量だし)
この場で一番ハンターに理解のある彼女は、しんみりとしながら彼を見ていた。
もちろんその彼は、まったくピンインに気付いていない。
ただ、アパレの眷属である悪魔たちを見て、物凄く驚いているだけである。
それは、とても自然なことだ。
悪魔が大勢いるだけでも驚きなのに、人を守っているなど想定外のはずだ。
まあねえ、とにやにや笑うピンイン。
びくびくしながら逃げていくのだろうと思って、彼女はそのまま彼を目で追っていた。
もちろんそのハンターは、実際にそうした。
何度も振り返りながら、悪魔に守られている狐太郎を何度も確認しつつ、そのまま去っていったのである。
(狐太郎様が一番偉いと分かっても、まさか四冠の狐太郎様とは思うまいねえ……)
そんな彼のことが、去っていくその姿を、彼女はずっと追っていた。
だからこそ、気づいた。
彼が『想定外』の事をしようとしたことを。
「おまえらあああああ!」
その男が、山刀を投げたのである。
それは悪魔たちの頭上を越える軌道で、放物線を描きながら、回転しながら狐太郎たちのところへ向かっていた。
「抑えろ!」
「周囲を警戒しろ!」
「狐太郎様を守れ!」
不意を突かれたのは事実である。
だが狐太郎の護衛は、全員が一流であった。
既に十勇士はハンターの男を地面に倒し、毒付きのナイフを頸動脈の傍に置いていた。
悪魔たちは投擲された山刀を弾き落とし、さらなる追撃に備えて周囲へ敵意を向けていた。
キョウショウ族もすぐに武装し、ピンインも彼らを強化している。
もちろん侯爵家の四人も、既にバリアで狐太郎をかこっていた。
「……は、は?」
一切の脅威が達することがなかったからこそ、狐太郎はびっくりしていた。
何が何だかわからないうちに周囲が厳戒態勢となり、バリアに守られ……何やら捕り物まで起きていたようである。
「狐太郎様、敵襲でございます。既に鎮圧いたしました」
困っている狐太郎へ、ノベルが耳打ちする。
その彼女自身も変身をしており、体の表面が金属の光沢を帯びていた。
「……そ、そうか」
もしかして護衛がフルに活躍したのは初めてではないか。
そんな失礼なことさえ考えながら、狐太郎は戸惑っていた。
「……え?」
なお、ブゥも戸惑っていた。
物凄くびっくりした顔で止まっている。
(敵襲って……昏か? その割には……)
いきなり襲われたと思ったら、もう鎮圧が終わっている。
昏が仕掛けてきた割には、余りにも弱すぎる。
四体の魔王も、いったい何が起きたのかと驚いていた。
そして……。
今更思い出す。
この世界に送り込んできた男の、その言葉を。
「悪魔め……!」
今更のように、狐太郎は直面していた。
モンスターを憎み、それと仲良くしている狐太郎へ、石を投げてくる被害者と。




