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英雄に敗れた者

祝、400話! 今後も応援、お願いします!

「甲種や英雄にだけ効く……ですか?」

「そうだ、元々そういう風にできている。少なくともこの世界において、アレが意味を発揮できるのは英雄と甲種だけなのだ」


 祀の言葉を聞いて、実際に英雄と会ったことのある者たちは、些か信じられないという顔をしていた。

 あれこそは正に最強の生物、それを一方的に倒せるうえで、しかし他のモンスターや人間には意味がないというのは、少々以上に理不尽である。

 いっそ超火力で何もかもを滅ぼす方が、よほど理解できるという物だ。


「おかしいと思うか? しかし話を聞けば理解できるだろう……」

「まずそもそも……魔王の冠はどうやって作ったか知っているか?」

「人間たちの持つ『王へのイメージ』をそのまま反映した結果なのだ」


 魔物を統べる王、魔王。

 それを生み出すために、祀の先祖は魔王の冠を生み出そうとした。

 モンスターの力を強化する、魔王の冠を。


「国家には強大な王が必要だ。そう考えた我等の先祖は、王に与える力を人間から学ぼうとした。その結果……イメージが先行し過ぎたのだ!」


 先祖の失敗を素直に認める子孫たち。

 彼らは賢いので、失敗をきちんと引き継いでいる。

 あるいは、先祖の屈辱を後世に伝えていると言えるのかもしれない。


「天地を引き裂く技を持つ、敵に負けても立ち上がる、より優れた者が現れればそれに引き継がれる、とても大きい体! そうしたイメージに我等の先祖も納得し、実際にその力を持つ宝を生み出したが……微妙だった!」


 現在四体の魔王は、実際に多くの同胞を従えている。

 そもそも冠頂く魔王の存在は亜人を含めて多くのモンスターに知られており、その時点である程度はイメージ戦略として成功している。

 だが国家をまとめられるほどか、というと違ったのだ。


「想定されていた通りの機能を発揮したが、効果はいま一つだった。王がいればいい、民がいればいいというのは間違っていたのだ」

「今は民もいませんね!」

「そうだな! 今は切実に民が欲しい! もしくは全自動に工業化してほしい!」


 隊長であるスザクがちょっとおかしなことを言ったが、それには全員が同意する。

 もう農作業などうんざりだし、調理もうんざりなのだ。自分以外の誰かにやってほしいのである。

 それが、社会の姿だった。


「まあとにかく……王だけではどうにもならない。だからこそ、婚の宝と祭の宝、そして葬の宝が求められたのだ」

「王が強大で不死身でも、広大な国家を治めることなど不可能。実際に施行したからこそ分かった不備を補うために、新しく三つの宝を生み出そうとしたのだ」

「そうだ……漠然としたイメージではなく、明確な目的のために、必要な機能を注ぎ込んだのだ」


 結果完成した、手元にある二つの宝。

 それらは想定していた機能を、しっかりと果たしていた。


「支配者になりたがる人間の魂で生み出された冠、天寿を全うして幸福に死んだ人間の魂で生み出された婚、熱狂の中で果てた人間の魂で生み出された祭。そして……最も強い感情をもつ魂で生み出された葬。なかでも葬は、冠以上に意味がある代物だ」

「なにせ今の我らは、追われる身。仮に人間の奴隷をかき集めても、英雄をもつ国に見つかれば逃げるしかないのだ……」

「英雄を倒せる葬の宝、EOS。アレがあれば、人間どももうかつに手を出せなくなる」


 奴隷という労働力を守るために武力を欲するという、よくわかるようなよくわからないような話である。

 まず武力を確保してから奴隷、ということなのだろう。しかもその奴隷にやらせるのは普通の農作業である。


 まあ奴隷ってそんなもんなのだが……。

 チタセーも理解していたように、皮肉にも祀や昏の下で奴隷になったほうがいい人々もいる。


「……とはいえ、だ。葬の宝が英雄を殺すだけでいいのなら、そこまで難しいことはない。お前達も想像するように、英雄以上の力を出せばいいだけだからな」

「だが……甲種モンスターを倒さなければならない、となれば話は違う」


 その場の昏たちは、そろってミゼットとスザクを見た。

 ついでにマイクとジャンボも見た。


「なるほど……甲種は無理ですよね……」

「甲種は文字通り化物ですもんね……」

「存在そのものが理不尽っていうか……気持ち悪いっていうか……」

「おぞましいよね、同じくくりに入りたくないし……」


「……あのね、お姉様たち、そんなに嫌いにならないで」


 哺乳類型最強種、ベヒモス。

 不死性、単純な防御力と巨体。

 再生可能部位、なし。


「なによなによ! アンタたちに何を言われたって、私は全然平気よ!」


 魚類型最強種、テラーマウス。

 不死性、小さい体による隠密性。

 再生可能部位、歯。


「だそうですよ、隊長」


 軟体動物型最強種、ノットブレイカー。

 不死性、無敵の甲殻。

 再生可能部位、手足。


「私?! 私が一番の化物なの?!」


 鳥類型最強種、フェニックス。

 不死性、最高の再生能力。

 再生可能部位、全身。


 他にも甲種は存在し、それらは際立った能力を誇っている。

 英雄には勝ち目のないモンスターたちだが、英雄を殺せる手段が通じるとは限らない。


「際立って異常な力を持ったモンスターたちを倒すには、その異常性を無効化しなければならない」

「だがその異常性を無効化する手段があったとして……それはそのモンスターにしか通じない」

「無敵の甲殻を砕く武器も、ノットブレイカー以外には意味がないようにな……」


 英雄と甲種を倒すための最強兵器。

 それを目標として生み出した、EOS。

 それは極まりすぎて、結果的にやや使い勝手が悪くなっていた。


「英雄を倒す機能にしてもそうだ、英雄ほどの膨大なエネルギーを持っていなければ機能しない」

「よってそれさえあれば、誰でも無敵になれるというわけではない。まあそもそも、七人目の英雄のように無力な人間が使うための道具ではない」

「それこそお前達のように、最初から強いものや魔王が使うための道具なのだ。そう考えれば、特におかしなこともないだろう」


 もしもEOSが、誰でも無敵にするご都合主義の塊なら、持っている方はありがたいが、奪う方は大変だろう。

 そういう意味では、人間の英雄が所持している状況で、EOSに欠陥があったことはありがたい。


 だがしかし、その欠点は簡単に埋めることができる。

 それこそ天帝がやっているように、他の人に頼ればいいのだ。


「ですが、皆さま……冥王は既に二人の英雄と合流しています。あの面々と甲種を抜きに戦うのは難しい……いえ、犠牲を覚悟しなければなりません」

「そう難しく考えるな、ミゼット。何のことはない、簡単に解決できることだ」


 祀の一人が、意味ありげに笑った。


「天帝は我らを認識しているが、冥王やその周囲は我らを知らん。つまり……EOSが狙われていることを知らないのだ」

「……まあそうですね」


 本当に難しく考えすぎていただけだった。

 確かに狙われていると知っているのとそうではないのでは、警戒に割く神経が違う。


「なんのことはない、頼もしい仲間がいるのなら、引きはがしてやればいいだけだ。武器が強い仲間が強い護衛が強いというのは……結局本人が強いわけではない。簡単に倒せる」

「一旦引きはがしさえしてしまえば、EOSを警戒する必要もない。お前達甲種をぶつければいいだけのことだ」

「とはいえ、だからこそ、急がなければな。婚の宝を持っていた英雄……鴨太郎。奴やその意思を継ぐ者が、ここへ合流してくるかもしれん」


 できるだけ戦力を整えてから、南万の蛇太郎を襲う。

 それも周囲にいる兎太郎や狼太郎を引きはがしたうえで。


 とてもシンプルで、だからこそ比較的成功が見込める作戦だった。

 だがしかし、懸念はあった。


「よろしいでしょうか」


 やはりミゼットである。

 彼女が懸念しているのは、英雄や魔王の遺産だけではない。

 前回の戦争で自分達昏を追い詰めたのは、究極のモンスターだった。

 彼女がいなければ、今頃あの戦争に勝ち、冠も手に入り、こんな面倒なことなんてせずに済んだだろう。


「二人目の英雄に敗れた究極のモンスター、三人目の英雄に倒された新人類の首魁三人。これらが既に天帝と合流しています。他にも英雄に敗れた者たちが、この世界に来ていて……私たちを脅かしうるのではないでしょうか」

「……あり得るな」


 七人目の英雄である蛇太郎、彼の後に立った英雄たち。

 その彼らが異次元へ追放した、強大な敵。それはやはり、この世界にたどり着いている可能性があった。


「不完全なワープは、時間を大きく移動する。それによって今この瞬間にも、現れないとも限らない」

「まあもっとも、それを言い出せばキリがないが……以前のように、究極のモンスターを前に自己強化や弱体化技を使っても問題だからな……」


 ある意味では、祀も昏もそれに該当する。

 英雄を苦しめた、ラスボスたち。


「この世界に来ている可能性があるのは、あと二つ。一つは『対乙種級衛世兵器』、もう一つは『丙種級怨霊九十九』……いずれも楽園で生み出された危険物であり、同時に楽園の英雄ならば使いこなしうるものだ」

「もしも奴らがそれを手にすれば……あるいは、他の英雄と合流する以上に厄介なことになるかもしれん」

 

 祀は、その存在を知っている。

 この世界に来ている可能性を知っている。


 だが、その双方が目を覚ます時が来ているなどとは……。

 流石に都合が良すぎると判断するだろう。


 いずれにせよ、まだ彼らは最終的な勝利を得ていなかった。

次回 短編 石を投げる権利

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― 新着の感想 ―
[一言] 甲種や英雄にだけ効くEOS… そんでそれを持つ蛇太郎君がちゃんと元の世界でも英雄になっている… 今更だけどそんなEOSが必要となるレベルの敵がモンパラ世界に現れていたということに?(汗
[一言] >天寿を全うして幸福に死んだ人間の魂で生み出された婚、 狼太郎「子供も孫も全員天寿をまっとうした! どうだ凄いだろう!」  …………あっ(察し)
[気になる点] テラーマウスの「不死性、小さい体による隠密性。」というのは寄生虫であるリヴァイアサンと被ってそう。
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