夢から覚めて、また次の夢へ
王都での慰霊は、滞りなく行われた。
王都の直近での慰霊であったため、王都の民やその周辺の民が王都の直ぐ外へ出るだけで、既に『現場』である。
死体は既に弔ったが、それでも壮絶な戦いの跡は残っている。
チョーアンを出たときよりも大幅に減った兵たちの数が、それを物語っている。
地獄だ、地獄だった。
あの戦場は、拮抗したからこそ地獄だった。
敵が強かった、味方が強かった、一方的ではないからこそ地獄だった。
慰霊には王族だけではなく、各地を守っていた将軍たちやAランクハンターも参加し、当然ながら王都奪還軍の主だった者たちも祈りをささげた。
それが死者に届くことはないし、生きている者たちにしても心に響いたかはわからない。だが尽くした、と言えるだろう。
もうできることはないのだ、悲しいことに。
そして今生きている者たちは、より一層悲しみをまき散らす。
それが愚かだと言われれば、まあそうかもしれない。
しかしそれが被害者から加害者への制裁と思えば、不当とは言い切れないだろう。
「引退したAランクハンター、圧巻のアッカを西方大将軍に据え、西重を征伐する」
慰霊の場で読み上げられた言葉を聞いて、国民の誰もが湧いた。
圧巻のアッカを知らないまでも、Aランクハンターは知っている。
既に英雄の倒れた西重に、これへ抗う術はない。
極めて一方的な勝利が待っている、もはやまな板の上の鯉であろう。
「西重という国は滅び、国土は我らが版図となり、王の血は絶える。民は奴隷となり、子々孫々まで我等へ服従し続けるだろう」
煮るなり焼くなり。
もはやどう調理するべきかという段階であって、そこには苦難や困難などない。
全財産を突っ込んで負けたものなど、そんなものである。
「我らは勝った、勝ったのだ」
大王は丁寧な口調で、勝利を報告した。
喜びきることはできないが、それでも勝ったのだ。
負けるよりは、マシだったのだ。
※
慰霊の後で、大王は自分のハンターを集めていた。
各隊の隊員も、狐太郎の護衛も、全員である。
それでも相当な数なのだが、世界最強の国の大王である彼からすれば、慎ましやかなパーティーといえただろう。
それはいよいよの別れ、討伐隊の完全なる解散を意味していた。
「慰霊を済ませた後に、大酒を飲んで大騒ぎというのは、余りにも不謹慎だろう。よって酒ではなく水だ。だが……勝利の水だ」
酒ではなく、水。用意した食事も、慎ましいものである。
普段ならハンターに気を使い、ハンターの好むものを用意している彼だが、今回だけは流石に死者へ気を使った。
隊員たちもそれを理解しているのは、今回の戦争がそれだけ惨かったからだろう。
「長きにわたった、シュバルツバルトの討伐隊も、これにて解散となる。カセイが再び再建されるかはわからないが……少なくとも君たちには無縁だろう。息子が再建のために動いているが、ゼロからやり直しだな」
(息子さんかわいそうだな……)
「……本当に、君たちには感謝している」
狐太郎の心情など気にもせず、大王の目から涙がこぼれていた。
「こんな言い方は良くないが、君たちが勇者として語られていくこと……それが嬉しい。君たちこそ、私の……友人であり、仲間だ。君たち全員が、私の誇りだ」
勝利の涙、安堵の涙だった。
長くカセイを治め、これから国家を治める大王は、心中を素直に吐露する。
「今までありがとう……君たちのこれからの人生が、実り豊かなものであることを願って……乾杯!」
一つの組織が終わり、構成員が解散する。
それは決して悲しいことではないが、寂しいことではある。
あんな馬鹿みたいな仕事を押し付けられる人がいなくなるといいなぁと思いながら、大王は乾杯をした。
水の盃に不満の有るものたちも多いが、今日ばかりは流石にしめやかである。
普段は話をしないような別の隊の隊員とも苦労を語り合いながら、静かに時間が過ぎていく。
最強の討伐隊、最後の時である。
「いやあ……お疲れ様だな、ジューガーの旦那。これから大王になって大変だろうけどよ、たぶんカセイの領主やってるよりは楽だぜ」
「アッカ……お前が言うとシャレにもならんな」
長く大王を支えた、先代Aランクハンター、圧巻のアッカ。
彼は長く世話になったジューガーへ、その労をねぎらった。
「……お前にも世話になったな。だがまさか、またお前の力を借りる日が来るとは。そしてもっと言えば……カセイの終わったあと、討伐隊が不要になった祝いを、お前と一緒に過ごす日が来るとはな」
「旦那の夢だっただろ、よかったじゃねえか」
「……」
「ははは! まあそれどころじゃねえのもわかるけどな、爺さん同士で湿気た話しても仕方ねえだろ」
「そうだな……」
圧巻のアッカ。
大王をはじめとする王族や、近衛である十二魔将たちが全員死に絶えた後に、王都を守る決断を下した男。
彼がその決断を下していなければ、それこそ王都は、これからの西重のようになっていただろう。
失われていた命を思えば、自分と言う戦力を正しく活用したアッカは、何も間違えていないのだろう。
「……アッカ、これからも頼むぞ」
「おう、俺も子供たちに格好いいところを見せないといけないしな」
二人が話をしている姿を、狐太郎も遠くから見ている。
狐太郎自身、ジューガーとの距離が近いことを感じていたが、狐太郎の側がジューガーに気を使っていたので、やはりすこしだけ距離があった。
だが十五年以上の付き合いがある二人に、それはないようである。妬ましくはないが、羨ましくはあった。
(……俺の仕事が終わらないんだよなあ)
その一方で、狐太郎は思う。
戦争さえ起きていなければ、ガイセイやホワイトに役割を引き継いで、狐太郎たちは隠居できるはずだった。
にもかかわらず、戦争が起きてしまったせいで、前線基地は崩壊したのに狐太郎の仕事は続くのである。
(別に隠居したいわけじゃねえんだよ……でもなんで責任が四倍とかになってるんだよ……意味わかんねえよ……)
狐太郎も、人生を舐めているわけではない。
世の中の仕事に楽なものがないと知っている。
しかしなぜ国家の君主になりかけて、近衛兵のトップになって、国軍の最高司令官になって……。
そのあとも何か外交官的な仕事をすることになりそうである。
(何一つとしてチート能力がないのに、なんでこんなことになってるんだろう。おかしいなあ……少なくとも幸せじゃないぞぅ……)
積み上がる責任を果たすために、戦力をさらに積み重ねた。
その結果もっと忙しくなって、しかもまったく幸せではない。
「なあ、クツロ。ちょっと聞きたいんだけどさ」
「な、何でしょうか」
「この間の問答……俺必要だったか?」
脂とか肉とか酒とかアルコールがないので、テンションの低い大鬼クツロ。
彼女に対して、狐太郎は質問を投げていた。
「Aランクハンターとか十二魔将首席候補とか大将軍とか王族とか、俺のところに来て話し合ったけど……俺何もしてないし、ただ愚痴聞いただけなんだけど……」
「……そうですね」
「必要ねえのになんで俺んところに来るんだよ……」
「け、結果論ですよ!」
なんかダッキが解決案を出して、大王やリァンが調整をした。
狐太郎は過去の確執とかを聞いただけで、何も仕事をしていない。
「必要なかったじゃん、結果論もなにもなくない?」
それを肯定していくアカネ。
身もふたもないが、一面では真実である。
「必要なくとも、一つ一つ手順を踏むべきでしょう。その手順の中に、ご主人様への説明があっただけでは。それに今後ご主人様が大王になった場合を思えば、全員がそろっている時に話をしておきたかったのでしょう」
「コゴエ、それはフォローになってないわよ。いよいよご主人様が大王陛下になっちゃうわよ」
コゴエが狐太郎へ業務的な説明をするが、ササゲはそれが狐太郎を苦しめていると理解していた。
狐太郎はただ、目の前の問題を解決していっただけなのに、気づいたら大王になっていた。
やだな~、そんなつもりないですよ~、とか言いたくなる。
「でもさ、ご主人様が大王様になったら、なんかいいことあるの?」
「なにもねえよ……っていうか、あったとしても、見合わねえよ……」
アカネが基本的なことを問い、狐太郎が答えた。
「じゃあ丸損じゃん」
「そうなんだよ……」
政治家のポスターには華々しい政治的なキャッチコピーが書いてあるが、狐太郎にそんなことはないわけで。
むしろ自分の安全が第一である。
「で、ですが! 祀やら昏やらという敵もいるじゃないですか! それと戦うのなら、国家の力も必要ですよ!」
「……そうだな、クツロ」
狐太郎は正直、『でもこいつらを見捨てたらそれだけで俺は狙われなくなるんだよなあ』とちょっと思ってしまった。
人の心は弱いものである。可能性がよぎると、上手く心が動かないのだ。
「ははは……戦争が終わり、征夷大将軍の大任を終えても、まだまだ大変そうだね」
そんな狐太郎のところに、ジョーが現れた。
彼だけではなく、ショウエンやリゥイ、グァンやヂャンも一緒である。
王都奪還軍に於いて将軍職を担った者たちが、狐太郎のところへ挨拶に来ていたのだ。
「ジョーさん」
「……初めて君と出会った時、ホワイト君と一緒に試験を受けに来た君を見たときは、こんなことになるとは思っていなかったよ」
しみじみと、ジョーはそう言った。
うんうん、と全員頷いている。
「なんでこうなったんでしょうね……」
「私にもわからない……」
誰もわからなかった。最初の段階でBランクハンターになり、実質個人としては最高位に近かったのに、大ジャンプを数回繰り返して、他の役職も兼任するに至っていた。
しかも名義上ではなく、実際に全部ダブルワーク、トリプルワーク、クアドラプルワークである。
過労死しないのが不思議だった。
「今となっては、妹が貴方に言ったことが、本当に重くて……」
「そ、その、ショウエンさん……?!」
「もしも私が死んだとき、父や妹になんと言えばいいのか……!」
ジョーに続く形で、ショウエンがものすごく申し訳なさそうにしていた。
もしも死後の世界があったとして、彼の父や妹がこれを聞いてどう思うだろうか。
『兄さん、ごめんなさい。お父様から聞きました……私が暴言を吐いたせいで、皆が迷惑を……』
『……本当に大変だったぞ』
『それで……あの後どうなったんですか?』
『お前が死んだ後、征夷大将軍になって斉天十二魔将首席になって大王になった』
『……兄さん、話を盛り過ぎよ』
『本当だ!』
流石に妹も信じてくれないのではないだろうか。
「ショウエンさん! 実はですね、先日震君のジロー様とお話をしたんですが、その時に妹さんへ『若いんだからミスぐらい見逃してあげるべきだった』って言ってましたよ!」
「なんと……元北方大将軍であらせられる震君のジロー様が……! 妹のことを……!」
ジローやアッカとの話が、役に立った瞬間であった。
(伏線回収早いな……)
なお、カンシンやガクヒ、オーセンとの会話が役に立つかは不明である。
「いや! 駄目だ! ちゃんと罪は償うべきだ! 奴は死ぬべきだ! 死んでしかるべきだった!」
なお、それをぶち壊していくリゥイ。
その後ろでグァンとヂャンが頷いている。
「若くても罪は罪だ! そうだろう!」
「……そうですね、おっしゃる通りです」
「リゥイ……やめてあげて」
ジローとの会話が結果につながることはなかった。
「リゥイ君、そんなことを言いに来たわけじゃないだろう」
「そうでしたね、ジョーさん……狐太郎、俺達はアッカ様とともに、西重の征伐へ参加する予定だ。それこそ、ハンター自体引退することになるな」
如何にアッカが強くとも、一人で広範囲を制圧できるわけではない。
それこそ本当の意味で、軍が必要とされる状況である。
「アッカ様の下で、ビシバシ制圧してビシバシ弾圧してビシバシ搾取してビシバシ後悔させてくる」
(ビシバシの使い方が直球で擬音だな……)
「長い任務になる、もう当分会わないだろう。今まで……お世話になりました!」
きりっと姿勢を正して、きりっと深く頭を下げた。
それこそまさに、大王へするような深いおじぎである。
「Aランクハンター、狐太郎様! 鬼王クツロ様! 氷王コゴエ様! 竜王アカネ様! 魔王ササゲ様! 今までありがとうございました!」
それに倣って、グァンもヂャンも頭を下げている。
いいや、その二人だけではない。ジョーとショウエンも一緒に頭を下げている。
「貴方達がいなければ! カセイは崩壊し! 央土も滅亡していました! 本当に感謝しています!」
「……」
嘘ではあるまい。
リゥイという男は、こういう男だった。
裏表はある一方で、とても潔い男だった。
「俺達も……一灯隊や白眉隊には助けてもらいました。新しい戦場でも、頑張ってください」
「はい!」
深く下げた頭を起こして、リゥイはしっかりと力強く返事をしていた。
「……その、なんだ、コゴエ」
「なんだ」
一灯隊の三番手、ヂャン。
この世界の人間の強力さを最初に教えてくれた彼は、コゴエに話しかけていた。
「色々とあったが……最初が一番だったな」
「そうだな、お前は強かった」
「嫌味かよ……まあいい」
以前に狐太郎に突っかかったヂャンは、実際に戦ったコゴエへ握手を求めた。
「何度も助けてくれたな……ありがとよ」
「私もだ、お前たちの息災を願っている」
「……ああ」
お世辞にも友好的ではなかったが、それでも一灯隊はプロのBランクハンターであった。
彼らは狐太郎へ反感をもったまま、しかし最後まで一緒に戦ってくれた。
そして別れの時は、さわやかに。潔くも友好的に終わらせようとしていた。
それもまた、彼らの心意気なのだろう。
(でもリゥイはさっきショウエンさんに酷いことを言っていたよな……)
だが最後のお別れの初手は最悪だった模様。
「では私たちは失礼するよ。君たちに挨拶したい人は、他にもたくさんいるからね」
「……では失礼します」
やっぱり引きずっているショウエンを連れて、ジョーは去っていった。
もちろんリゥイ達も一緒である。
「リゥイとショウエンさんは引き離してあげるべきじゃないかな」
「そうだな」
アカネの所感を狐太郎は肯定する。
負い目の有る人とリゥイは、一緒にしないほうがいいだろう。
「おっ、ジョーの旦那たちはどっか行ったな。んじゃあ俺達の番だ」
入れ替わりで、ガイセイとホワイト、究極と麒麟、獅子子と蝶花が現れた。
どうやら前のグループが終わるまで、様子をうかがっていたらしい。
「まあ言ってもなあ、俺達王都に残る組だし。挨拶するのもおかしいんだけどな」
「私もガイセイもアッカ様に同行して、鍛えて欲しかったんですが……大王様に止められまして」
(そりゃそうだろ……何しに行くんだよ)
ガイセイとホワイトは力不足を痛感したらしく、アッカに鍛えて欲しかったらしい。
しかしながら二人ほどの大戦力をうかつに動かしたくないし、そもそも西重にそこまで戦力は必要ない。
元十二魔将の上位陣ということもあって、実質続投に近いことになったらしい。
「アッカ様に代わって、ナタさんが鍛えてくれるそうなので、王都でも鍛えられますしね。ナタ様も鍛える練習がしたいそうですし……」
(元次席と元四席を鍛えるって、実質首席じゃん)
この間の騒動は何だったのか、狐太郎は人間の愚かさを虚しく想っていた。
「俺としちゃあアッカの旦那が良かったんだが……んで、クツロ」
「何よ」
「……チタセーって爺さんに勝っただろ」
センカジやメンジュウと戦ったガイセイは、その時にいろいろと挑発された。
アッカの弟子なのに大したことがない、ウンリュウを倒したのに弱い。
言い返しはしたが、実際看板負けしていることも事実だろう。
それに比べて、クツロはきっちりと勝った。対策を練っていた相手に、勝ちきったのだ。
「次似たようなことがあったら、俺がお前の役をやってやるよ。それなら寝込まなくていいだろ?」
「あらあら、どうせ貴方でも寝込むでしょ」
「ははは、違いねえ」
笑うガイセイだが、やや力がない。
やはりクツロに対して、思うところがあるのだろう。
「狐太郎さん。僕たちも王都に残りますが……抜山隊は解散となりました。皆さん故郷に帰るそうです」
「麒麟君……そうか、解散か」
「この間の戦争が堪えたみたいで、故郷が恋しくなったそうです。子々孫々まで遊んで暮らせる額の報酬ももらったそうで、錦を飾るつもりだとか」
無法者めいた抜山隊の隊員たちも、流石に今回の戦争でいろいろと思うところはあったらしい。
国家全体が荒れたということで、故郷の再建でも考えているのだろう。
「本当は僕たちもいろいろと回ったりしたかったんですが……大王様が僕たち三人を引き留めまして……」
「というよりも、ほとんど全員の人から引き留められたわ……」
「のんびり旅行したかったわ……」
(おお、同志よ……)
なお、彼ら三人は有能すぎて引き留められた模様。
やはり特殊技能を持っているものは、どこの世界でも酷使される運命にあるらしい。
彼らには再び異世界転移が必要なのかもしれなかった。
「んじゃな。俺らはまだ当分一緒だし、長居は悪いだろ」
「ねえホワイト、僕まだしゃべってないんだけど」
「だから、俺達は別れないんだからいいだろ」
かくて、ガイセイ達は去っていった。
究極は何か言いたかったらしいが、具体的に言いたいことがあったわけではないらしく、引きずられていった。
「……狐太郎君、いいかしら」
「……シャインさん」
ひときわ暗い顔をして、無理に笑っているシャインが来た。
以前から軍属をいやがり、実際に従事してしまった彼女は、やはり心を痛めていたらしい。
「陛下が私のために研究所を作ってくれるの……そこの所長になるから、会おうと思えば会えるわ。でもまあ、狐太郎君は忙しいでしょうし、なかなか会えないでしょうね」
「……」
「そんなに気を使わなくてもいいのよ、もう終わったことだしね」
彼女は、アカネに殺してくれるように頼まれていた。
アッカから天才と称されるほどの彼女ではあるが、もう戦いから離れたいらしい。
「もちろん蛍雪隊も解散……おじいちゃんたちもいよいよ隠居ね、ゆっくりして欲しいわ」
「あとで、挨拶に伺わせていただきます」
「ええ、きっと喜ぶわ」
シャインは、静かにアカネの傍によった。
そして人に近い形の彼女の両手をとる。
「アカネちゃん」
「シャインさん」
能力の相性もあって共に戦うことも多かった二人は、しばらく見つめ合った。
もう一緒に戦わないことが、ふたりにとって複雑なのだろう。
「元気でね」
「……はい、シャインさんも」
思いが複雑すぎるときは、単純な言葉しか出ない。
二人はただお互いの健康を願い合っていた。
「それじゃあね……」
「はい」
シャインは去った。
おそらく、下手をすれば、このパーティーからも出ていくかもしれない。
討伐隊の中で一番傷ついたのは、彼女だったのだろう。
その後に現れたのは……。
「あ、あの、その……」
「コチョウさん?」
大変に申し訳なさそうなコチョウが、恥じらいながら一人で現れた。
心なしか、顔が赤くなったり青くなったりしている。
「あの……弟さんのことでしたら、もう気にしないでください」
「い、いえ、違うんです……実は、今回の戦争で私の部下になってくださいました、精霊使いの人たちが……後でお会いしたいと」
シャインと同じように従軍を嫌がっていたのが、無理やり動員された精霊使い達である。
第四軍という形ではあったが、兵ですらなく一般人に近かっただろう。
(俺が適当なこと言って戦わせたんだもんな……)
もう戦いたくなどないだろう。
おそらく、文句をつける気なのだ。
「分かりました、必ずご挨拶に……」
「じ、実は……その、東へ向かったウズモさんと、一緒に戦いたいと……」
「……なぜ」
なぜ従軍する。
狐太郎はひとえに疑問だった。
「実は戦争が終わった後、皆さんも学校や研究所に帰ろうとしたんですが」
「帰らなかったんですか?」
「……普段通りの術しか使えなくなったんで、無力感がヤバいそうです」
比喩誇張抜きで、普段の数千倍の術が使えていた精霊使い達。
コゴエやウズモの近くにいない今、数千分の一程度の力しか出せなくなっていた。
つまり普段通りである。
『ち、力が……全然でない……』
『も、もっとデカい術をぉ~~~』
『俺は英雄とも戦えたはずなのに!!』
万能感が消えて、無力感にとらわれたらしい。
「……ヤバいんですか」
「ヤバいんです」
それを言わされる立場のコチョウは、ヤバいぐらい恥ずかしがっていた。




