ロンリーセンター
現在チョーアンでは、入念な会議が行われていた。
その中でも中心となっているのは、先日の戦争で大戦果を挙げたジョー・ホースであろう。
引退した老雄たちに交じり、王都奪還へ向けた戦術の構築を急いでいた。
「敵にもモンスターが補充されたと聞きます。これでは戦術が立てにくいですな」
「相手は理性を持つモンスターの集団、それもAランクの性質を色濃く受け継いでいるとか……」
「それが組織的に運用されるのであれば、果たしてどう対処すべきか」
「聞けば、ジョー将軍は先日の戦争で、そうしたモンスターを上手に立ち回らせたとか。敵の手の内も、概ね読めるのでは」
老雄たちによる参謀陣は、試すように尋ねた。
そして実際、モンスターの顔ぶれが分からない以上、読むのは難しい。
「概ね、というのは不適当だ。ほぼ読める」
それに対して、第一将軍は力強く断言していた。彼らしからぬことだが、場にはそぐう。
それを分かっているからこそ、参加しているショウエンやリゥイ達も、意外そうな顔をすることはない。
「皆、難しく考えすぎる必要はない。祀、昏はあくまでも援軍……おそらく、旗色が悪くなれば逃げに徹するであろう『外』の兵だ。であれば分散させて軍の中に紛れ込ませず、独立した軍として運用するのが自然だろう。あちらがそう願うはずだからな」
祀と西重は利害が一致している。西重は央土を滅ぼしたいと思っており、祀は央土の戦力である四体の魔王を倒したいと思っている。
なので今回の作戦では、祀も昏という戦力を出してくる。だが、西重には後がなく、祀や昏はそうでもない。
今回勝てればそれでいいが、勝てなければ逃げるのが適切だ。そして逃げる敵を叩くほど、央土に余裕はない。
「それだけではない。雑兵は怯え、正規兵は不満を持つ。いきなり現れた実力者に対して、反発が生じるのは必然だろう。わざわざ一緒にする意味がない」
ジョーらしくもない、率直な言葉だった。
だがこの場においては、余計な飾りなど不要だろう。
「逆に言えば……こちらも同じことだ。我等が彼女たち、征夷大将軍閣下の配下と連携できたのは、長年の信頼あってこそ。前回のように部隊の中へ紛れ込ませるのは無謀だ」
如何に仲間だと分かっていても、怖いものは怖い。
そして、怖がられるというのは、気分が悪いものである。
この国を守るために戦うのに、この国の民から怖がられる、というのは無駄に嫌だろう。
「それに前回は、彼女達の存在をギリギリまで隠しておくことに意味があった。今回はお互いに手札が分かっている、意味のない行為だ」
「……ではおそらく」
「ああ、モンスターの軍勢同士の戦いになるだろう」
央土軍と西重軍、昏と魔王軍。
正規軍と正規軍、傭兵と傭兵。
そうした戦いになることが、既に推測されていた。
「こちらとしてもありがたいことだ、征夷大将軍閣下の配下に、人間の味など憶えて欲しくないからな」
狐太郎の危機感は、もちろんこの世界の住人も抱いている。
亜人ならまだいい、外国人のようなものだからだ。だがクラウドラインやらグレイトファングやらが人間を襲って食べるところなど、たとえ敵国相手でも見たくないだろう。
「では……報告にあったアイテムについてですが……」
「これについては、注意には値するが対策の必要がない、という結論に達している」
獅子子は仕事のできる女である。
すでに何度か西重の要人と接触し、外交チャンネルを構築しつつあった。
その要人が自ら『戦後』のための保険になっているので、現状では機能しない。
しかし、既に多くの情報を得ていた。
「おそらくだが……実際に今回の戦争で投入されるものは、強い武器と防具、あとは馬具の類か……兵士にいきわたるのは、その程度だろう」
もちろん、効果は大きい。10の力を持った戦士たちが、12ぐらいになる。
それが一対一ではなく何千何万にもいきわたれば、実質戦力全体が1.2倍だ。
しかし、全員が小銃を携帯している、爆撃機が配備されている、という何かの冗談のような状況ではない。
もしもそうなら、1.2倍どころではないだろう。
「まず前提として、祀と西重は全面的な協力関係にない。そのうえで西重の首脳は……彼らの提供してきた品のほとんどが……盗品ではないかと推測している」
軽量で硬く、振動にも強い。
夢のような新素材、それ自体の持ち込みはおかしくない。
おかしいのは、加工用の工具まで持ってきたことだ。
「貴殿らは生粋の武人であり、怪しげな商人ではない。だが考えてもみて欲しい、素材と工具がそろっていて、なぜそれをそのまま売りつける」
片方ずつなら、分からないでもない。
素材が西重にあって、加工するための技術や道具がない。そこへ怪しい商人が、加工用の工具を売り込んでくる。
あるいは西重が加工できる程度の素材を、向こうが売りつけてくる。
それなら、まあ分かる。何もおかしなことはない。
しかし両方揃えているのなら、逆に一つの者が欠けている。
馬車などを作る職人だ。
素材と加工用の工具が、きわめて高レベルで用意されている。
なのになぜ、それを使う職人がいないのか。あるいは既に完成されている商品がないのか。
決まっている。完成品も職人も、盗むのが難しいからだ。
新素材も加工用の工具も、完成品や職人に比べれば盗みやすい。
「未知の素材に、未知の加工道具。それらを渡された西重の職人たちは、四苦八苦しながら大量の荷車を作ったそうだ。……なぜ完成品を卸さないのか、それは盗品だからだ。西重の首脳はそう考えており、実際我等もそう考えている」
盗品だろうと、厄介であることに変わりはない。
しかし逆に言えば、盗める範囲のものしか支給できないということだ。
「十二魔将の麒麟、およびその仲間の千尋獅子子、甘茶蝶花。そして征夷大将軍閣下に従う四体の魔王。そうしたお方の持つ優れた武具が、大量に支給されるということはない」
(ではなぜ、その面々はそれだけ豪華なものを持っているのだろう……)
この世界の常識においても、武具を大量に盗むというのは、ほぼ無理である。
なにせ兵器を大量に盗み出すようなものだ、よほど末期的な国家の腐敗した軍隊でしか通用しない。
そして、そんな国の武器や兵器など、怖くて使えないだろう。
「呪い避けなども同様だ。実際に悪魔の呪いを防ぐことはできるらしいが、完全に無効化できるほどではない」
「しかしそれは、大量に用意できない、という意味ですな」
「その通りだ。氷対策も呪い対策も……少数ならかなり良いものを用意できるだろう」
普通なら、『どんな氷も効きません』とか『どんな呪いも効きません』など信じることはない。
だがあいにくと、究極のモンスターという実例がある。まったくの無敵ではないが、上限のない存在だ。
であれば、際限のない氷無効、上限のない呪い無効ぐらいは現実的にあり得るだろう。
「とはいえ、それらは相手方の大将軍たちにしか支給されないだろう。悔しいが、我らが考えるべきではない。問題なのは、ワープ技術だ。戦術の前提を覆すアレは、我等にとって脅威という他ない」
ワープ技術があるということは、二歩のない将棋のようなものだ。
どんな陣形にしても、まったく意味がなくなる。
現に敵は封印の瓶を使って、討伐隊の目前にモンスターを配置していた。
前回は討伐隊の総数が少なすぎたので逆にあまり意味がなかったが、今回にそれをやられると対応が難しい。
というよりも、ほぼ無理と言わざるを得ない。
「モンスターの影に隠れがちだが、相手には武将としての格を持つ精鋭が大量にいる。それこそ、リゥイ将軍が数百いるようなものだ。もしも彼らをワープで運用すれば、とんでもないことになりかねない」
感覚がマヒしがちだが、Bランク中位を単独で撃破する実力者たちが、西重には大勢いる。
その彼らが、前回の討伐隊のように集中運用されれば、とんでもないことになるだろう。
それこそ、集めた央土の軍が壊乱しかねない。
「だが、まったく対策が取れないわけではない」
ここまで言ったのである、ジョーには策があった。
この状況をどうにかできる、具体的な作戦があった。
「既に征夷大将軍閣下にも許可を頂いている。かなり無謀な策だが……閣下は快諾してくださった」
そして、その口から出た『策』を、実際に王都周辺の地図で再現する。
それは見ている者が呆れる、無茶の極みのような策だった。
「斉天十二魔将の半数を投じる狂気の策だが……だからこそ、敵にしてもやりにくいだろう」
「……失礼ですが、閣下は本当にこれでいいと?」
提案するほうもどうかしているが、許可するほうもどうかしている。
これはそういう作戦だった。
「ああ。前線で散る将兵のためにも、命をかけるとおっしゃっていた」
(アイツはだいたいこんな感じだしな)
(そうなんですよね……)
とてもではないが正気とは思えない作戦だった。
だがそれがシュバルツバルトの討伐隊、その長がよくやる作戦でもあった。
※
竜、精霊使い、悪魔。
四体の魔王の配下となる、優れた者たちが集結しつつあった。
後に残るは、亜人だけである。
元より亜人と央土は、それなりに親交がある。
このそれなりの親交とは、肉体労働者が出稼ぎに来たり、あるいは傭兵として若者を呼ぶことだ。
ドラゴンズランドのドラゴンを戦力として活用するとか、精霊使いを大量に動員するとか、空論城の悪魔を全部配下に置くとか。
そうしたことに比べて、比較的簡単である。少なくとも、前例はいくらでもあった。
だからこそ、ピンインのような女ハンターが、キョウショウ族の若い衆を集められたのである。
現金ではなく、現物。
信用取引ではなく、現品取引。
とてもシンプルな世界で生きているが、だからこそ難しい。
そうした輩と信頼関係を結ぶのは、それなりの気骨が求められるところだった。
お店に行って、お金を払って、買う。
そんな取引とはわけが違う、正真正銘の口説きが求められるところだ。
「この際だ、はっきり言っておきましょう。ごねる気はねえ、ええ、ねえ……あるわけがないんですよ」
竜の背に乗って、狐太郎たちはピンイン達が先行していた、亜人たちの暮らす魔境にたどり着いた。
コゴエは既に『山』へ向かっており、乗っているのは三体の魔王。他にも侯爵家の四人やネゴロ十勇士、ノベルも護衛として同行している。
しかしながら、交渉をするのは狐太郎の務めである。
彼はクツロやピンインと共に、亜人たちの集落、その長老衆の会合に招かれていた。
いや、裁判所に近いのかもしれない。
裁判所に招かれた、というだけで、貴賓として招かれたわけではなかった。
「戦わねえ、とは言ってねえ。もらうもんはもらっちまったし、食っちまった。ええ、美味かったですよ。むしろ戦わねえから、返せって言われる方が困る」
ピンインは、確かに前払いとしての『現物』を持ってきた。大量の、食肉用としての家畜である。
前払いとは言っても、通常の倍の量だった。つまりは、終わった後にまた同じ量を持ってくる、という話でもあった。
悪い話ではない。特に、前払いが多い、というのは嬉しいことだ。なにせ今既に、約束が果たされているのだから。
もちろん、踏み倒そうと思えば踏み倒せる。
送り込む戦力も、ケチろうと思えばケチれる。
だがそれをすれば、今後一切美味しい話は来ない。
通貨を持たぬ彼らにも、信用という概念はある。
これから支払うよ、という話なら踏み倒すが、もう受け取ったものについては誠実であろうとする。
しかしそれも、相手が誠意を尽くせば、の話だ。
「聞けばアンタ、まず精霊使いを呼んだそうじゃないか」
「ええ。学徒や教員を……普段は戦わないような方にまで来ていただきました」
「だがアンタの国の奴だ、そうだろ」
「もちろんです」
長老たちは、不機嫌そうだった。
もちろんぶっ殺してやる、という程ではない。
話も聞かずに追い返すほどでもない。
だが怒っていると主張する程度には、怒っていた。
「それは結構だ。まずアンタらが戦うべきだ、俺達だけ戦わせようなんて恥知らずにもほどがある。ねえ、魔王様」
「ええ、その通り。払う物を払ったんだからと言って、自分たちは痛い目を見たくないなんて……恥知らずにもほどがあるわ」
「ははは! そう、その通りだ」
長老たちは、報酬には満足していた。
もちろん他の亜人たちも、満腹になるまで食ったのだから、文句などない。
狐太郎本人が交渉に来たことも、悪く思っていない。
クツロと一緒に現れて、来てほしいとお願いするのは筋を通すことだ。
「その後は、悪魔だったか? まあこっちにはよくわからねえが……けったいな奴らだ。それは知ってるさ」
悪魔は基本的に人間だけを襲う。
亜人たちを相手にすることはないので、亜人たちからすれば形が変な、気味の悪い連中でしかない。
とはいえ、その悪魔によって多くの人間が破滅してきたことは知っている。
悪魔が人間の天敵、ということだけは理解していた。
「で……あっしらが最後ってか?」
「なるほどねえ、仕方ないったら仕方ねえ」
「順番ってもんがあらぁな……なあ」
彼らが怒っている理由。
それは一番最後、後回しにされたことだ。
約束も何もかも、放り出すほど怒っているわけではない。
だが、尊厳にかかわる怒りだ。
細やかであっても、バカにはできない。
(さあて、お怒りはごもっともだ……どう治める?)
狐太郎の後ろに控えているピンインは、狐太郎の手腕に期待していた。
怒っていることは事実だが、本人たちも言っているように、ある程度は納得している。
竜が来たのは争いが本格化する前だというし、精霊使いを集めるのは当たり前だし、悪魔との交渉も長引くことが想定されたのだから仕方ない。
ピンインが大量の家畜を連れてきたことも、前払いだと言って食わせてくれたことも、むしろ誠意だと思っている。
しかし、待たされた。
それが気に入らないのも当たり前だ。
この場の長老たちだけではない、他の亜人たちも同じように怒っている。
不満に思っている彼らへ、やる気を出させるのは容易ではない。
だが、容易ではない、という程度だ。
何度も言うが、報酬を受け取っている、消費しているのだから、ごねてもいいことはない。
納得させてくれるような、何かを求めているだけだ。
「まずは……一番後回しにしてしまったことをお詫びいたします」
狐太郎は、深く頭を下げた。
もちろんそれだけで印象が変わることはないが、まず非を認めた。
「ご理解いただいているように、精霊使いや悪魔たちとも、私が直接交渉に赴かなければなりませんでした。一つずつ回らなければならなかったので、仕方がなかったのです」
別々の人間を送ることも、できなくはない。
特に精霊使い達に対しては、それこそ誰でもよかったはずだ。
だがやる気を出してもらうには、狐太郎とコゴエが必要だったのだ。
悪魔に対しては、言うまでもない。
そして、精霊使いや悪魔たちには狐太郎が直接赴くのに、亜人たちのところには別の人間が行く。
それをされた方が、彼らは嫌だったはずだ。
「で? それでまさか……適当な仕事についてほしい、とか言わねえだろうなあ?」
(そっちか)
この状況では、二通りの反応が予測できた。
予測できたことは正反対なので、相手が求めていることを、相手と話し合うことで探らなければならなかった。
つまり、『俺達を適当な数合わせにする気か?』という反応と『俺達を危ない鉄砲玉にする気か?』の二通りである。
どちらも想定できたことであるが、今は前者が該当する。よって、彼らに重要な仕事を任せることが大事だった。
「皆さんにはクツロと一緒に、私や王女ダッキの護衛をお願いしたいのです」
「へえ、護衛……なるほどまあ大事だわな」
「百足殺しの英雄、クツロ様とご一緒ってのはありがてえ」
「だがなあ、大軍に守られたお前さんの、『最後の砦』って奴かい?」
「それは面白くねえなあ……せっかくの益荒男が泣くぜ」
(まるで近衛兵だけど……まあ人間に囲まれたら面白くもないよねえ……私としては楽だけども)
ピンインたちは、他の亜人の戦士と共に戦うことになっている。
狐太郎の護衛ということは、それこそ千軍に守られた最奥の地だ。
一番狙われやすい分、一番防御が堅い場所だ。
長老たちの言うように、名誉ではあるが面白くない。
「……違います」
(は?)
「私の周りに、軍は置きません」
(は、はああああ~~!?)
これには、全員驚いていた。特に、ピンインが驚いていた。
一番狙われやすい場所を、無防備にすると言っているのだ。
「私の周囲には、十数名の私兵と、数名の十二魔将を置くだけです。あとはクツロと……貴方がただけだ」
「……こりゃあ」
こりゃあ、剛毅だ。
そう言いかけた長老たちは、しかし二の句が継げぬ状況だった。
剛毅すぎて、剛毅とも言えなかったのである。
「分かりやすく言えば、私は餌。私を囮にして、他の軍の安全を確保します」
「選りすぐった勇者たちへ……一緒に餌になれと」
「そうです、私と一緒に死んでいただきたい」
狐太郎は、長老たちの前にいくつかの石を置いた。
地図の代わりに、石と土で陣形を説明するのである。
「ここが、王都。その近くに有る高い山に、精霊使いと氷王コゴエを。その反対側に、大量の悪魔を。そして埋めるように軍を配置して……この一角に私がつきます」
雑に言えば、王都を大きく四方から囲む陣形だった。
その一つを、狐太郎と亜人たちで担おうとしているのである。
「……失礼だが、相手には英雄様もいるんだろう。それが来るんじゃないか?」
「そいつの相手は、一体誰が……」
「寝ぼけてるのかしら」
ただでさえ、狐太郎が馬鹿にされて怒っていたクツロは、ようやく口を開いた。
巨大な魔王の姿になり、怒りの形相で長老や、その周囲にいる者たちを見下ろす。
「私がやるに決まってるでしょうが」
相手は英雄、この世界最強の生物。
それをこの魔王は、一体で相手にすると言い切っていた。
「クツロ、控えろ」
「……ええ、ごめんなさい」
しゅるしゅると、クツロは小さく戻っていた。
しかしその顔には、やはり怒りが込められている。
「とにかく……重大な仕事が欲しいのなら、くれてやるとおっしゃっているのよ。竜も悪魔も精霊も、ご主人様の傍には置かないわ。相手は大軍を率いる本物の英雄、それを相手に私の供をする……これよりも重大な仕事があるのなら、是非聞きたいわね」
いっそ、笑いたくなるほどの剛毅さだ。
もう完全に、ただの囮扱いである。
それを『重大な仕事』と言って買って出るのは、いっそ阿呆というものだ。
「否というのなら、仕方ない。その時は、貴方がた抜きでやらせてもらう」
狐太郎は、あえて選択をゆだねた。
「この、もっとも危険な仕事が嫌ならば、他の役割をお任せしよう。なんでも選んで構わない、これよりも危ない仕事などないのだから」
この、突き放す剛毅。
それを聞いた彼らは、一様に笑う。
「なるほど、手抜きをすればすぐわかる場所だなあ……すぐ死ぬもんな」
「ああ、違いない。押し寄せてくる敵を相手に、休む暇はねえし逃げる場所もないってか」
「死ぬときは一緒に全滅……悪くねえなあ。人間様の国の大王の命を、こんな田舎者が預かるってんだからよう」
囮になれ、と言われれば嫌がるだろう。
だが囮役から一緒に囮になれ、と言われれば、まあ笑うしかない。
(……え、ちょっと待って? 私も?)
これで笑わないのは、剛毅ではない。
腰抜けだ。
(ちょ、ちょ、ちょっと待って、四冠様?! 私も?!)
「受けてくださいますか」
「おうよ! お前さんが逃げねえんなら、こっちも逃げねえさ! お前さんが男を見せるんなら、こっちも男を見せるだけだぜ!」
(私! 女!)
誰もが覚悟を決められるわけではないが、一人が覚悟を決めているのならそれに付き合う者も現れる。
いいや、誰もが覚悟を決められないからこそ、この覚悟には名誉がある。
「大鬼様の英雄退治、俺達も拝ませてもらうぜ!」
(見たくない!)
改めて言う。
誰もが勇者になれるわけではないのだ。
※
「亜人たちが盛り上がってるな……流石は四冠様、話をまとめたらしい」
「あの人、ハンターっていうか外交官だよね……」
「しかしまあ、これで良かったよ。戦争本番なら、狐太郎様を守る俺達も安全だしな」
「そうよねえ、一番狙われるから一番安全だもんね~~」
もう一度言う、誰もが勇者になれるわけではない。




