嵐に備えて
暗雲が立ち込め、雷鳴がとどろき、竜が旋回し、悪魔が笑い、民も臣下も怯える。
そのチョーアンにて、西重を滅ぼすための会議が始まろうとしていた。
「空論城の悪魔を、完全に掌握してくれたそうだな。流石は四冠の狐太郎、私も驚いたぞ」
央土国大王、ジューガー。
「なんかこう……騒がしくしてすみません」
斉天十二魔将首席、征夷大将軍、次期大王、Aランクハンター、虎威狐太郎。
「ははは! まさか全部引っこ抜いてくるとはなあ! 流石俺達の大将だ! ブゥ、お前も活躍したんじゃないか?」
斉天十二魔将二席、Aランクハンター、西原のガイセイ。
「いえいえ、そんな……僕は本当に何もしてませんよ……本当に」
斉天十二魔将三席、ブゥ・ルゥ伯爵。
「俺なんか一体でやっとなのに……流石魔物使いの専門家ですね」
斉天十二魔将四席、Aランクハンター、『抹消』ホワイト・リョウトウ。
「まったくだわ。この短期間でBランクのモンスターを千体も服従させるなんて……私たちの出番がなさそうね」
斉天十二魔将五席、Bランクハンター、シャイン。
「いえいえ、僕たちにもやれることはありますよ。力を合わせて頑張りましょう」
斉天十二魔将六席、Bランクハンター、原石麒麟。
「……狐太郎様。正直に申し上げて、ここまでの成果を挙げるとは思ってもいませんでした」
斉天十二魔将七席、キンカク。
「悪魔を手なずけるだけではなく、賭けに出したという十二魔将末席にも相応しい人材が入ってきました。我ら三人、感服しております」
斉天十二魔将八席、ギンカク。
「これだけの戦力をあっという間に集めるなど、ギュウマ様にもアッカ様にも不可能でしょう。モンスターたちが崇める、魔王の主……その手腕には兜を脱ぎます」
斉天十二魔将九席、ドッカク。
「この度の遠征に同行させていただき、感謝しております。我等ルゥ家にとり、末代までの誉れとなりましょう」
斉天十二魔将十席、ダイ・ルゥ。
「我ら三兄弟、今後もお傍に居させていただきます。何なりとお使いください」
斉天十二魔将十一席、ズミイン・ルゥ。
「私めも、同じでございます。十二魔将の席を頂く以上、当然大王様の配下として務めさせていただきますが、私は狐太郎様の配下。四冠の座を辞した後も尽くさせていただく所存です」
斉天十二魔将末席、ノベル。
「ははは……狐太郎君、何か辛いことがあったら相談に乗るよ。とても苦労したようだね」
王都奪還軍第一将軍、ジョー・ホース男爵。
「一体どうやればこれだけの戦力を……」
王都奪還軍第二将軍、ショウエン・マースー。
「……」
王都奪還軍第三将軍、リゥイ。
(どうしよう……あの末席になった人を、調べたいって皆さんが……私に言えるわけもないのに……)
王都奪還軍第四将軍、コチョウ・ガオ。
計十六名の将が、大王の座るテーブルについていた。
「外の空模様も合わせて、なんか世界征服でもしそうな勢いだね。もしくは人類の絶滅」
竜王アカネ。
「それはあのウズモが原因じゃないかしら、雲や雷の精霊が散らないのはクラウドラインがいるからでしょう」
魔王ササゲ。
「いや、お前の配下に加わった、千からなる悪魔のせいでもあるだろう」
氷王コゴエ。
(不味いわね……ここで亜人が参加しても、パンチが足りない気がするわ……)
鬼王クツロ。
計四体の魔王も、狐太郎の背後に控えていた。
※
「さて……あえてキツイことを言わせてもらうが、狐太郎君……やり過ぎだ」
錚々たる顔ぶれがそろった状況で、あえて大王は最初にそれを言った。
「私の期待以上に悪魔を従えてくれたが……こうも誇示しては、かえって民衆が怯える。いや、かえっても何もないな……悪魔をあれだけ目立てて引き連れれば、それは怯えるに決まっている」
「おっしゃる通りです……」
「悪魔が遊び好きなのは知っているが、そこを君に抑えて欲しかったのだが……」
今回のことで、城内はパニックを通り越していた。
誰もが逃げるかベッドに入り込むか、或いは念仏を唱えるように狐太郎への忠誠を誓うかだった。
(まあ今回のことで、狐太郎君を排斥しようというものがいなくなったことは事実だが……余波が大きすぎる)
狐太郎たちが危ぶんでいた、戦後に処刑されるというルート。
それは今回の悪魔騒動で、完璧に吹き飛んでいた。
なにせ相手が悪魔千体である。子々孫々まで続く、わけのわからない呪いをかけられても不思議ではない。
「君の働きには感謝している。しかし民の不安をあおるような真似は控えて欲しい」
「はい……肝に銘じます」
悪魔をできるだけ引っ張ってこいと命じたのは、他でもない大王である。
その彼が『悪魔を誇示するな』というのはおかしな話だが、実際多くの者が迷惑をこうむっていた。
特に仮設住居の中では、西重へ亡命しようという者まで出ているらしい。
さもありなん、アカネが言うように、これでは悪魔に国家が乗っ取られたようなものだ。
たとえ敵でも、人間の方がマシだろう。
「おい、どうしたリゥイ。いつものお前なら、もっと激しく怒鳴っているところだろ」
「……」
からかうガイセイに対して、リゥイは緊張した顔のまま無言だった。
聞こえていないわけではないだろうが、反論もしなかった。
「おいおい、どうしたんだ? お前らしくもねえ」
「そうだな……どうしたんだい、リゥイ。普段なら暴力に訴えることもあるだろうに」
「そうね……なにかあったの?」
ガイセイだけではなく、ジョーやシャインも驚いていた。
過激なほど潔癖な、リゥイらしからぬことである。
「……そう、だな!」
決然としたリゥイは、力強く叫んだ。
「狐太郎!」
「あ、はい!」
「実は俺も……我知らずに、市民を威圧してしまったのだ」
「……どこの誰を行方不明にしたんですか?」
「それだと威圧じゃないだろうが!」
(怒るポイントがおかしい……)
狐太郎の中では、一灯隊が怒ると誰かが行方不明になる、という図式が存在している。
忍者である獅子子よりも、ずっと多くの人を闇へ葬ってきた、凄腕の人間ハンター達だ。
なお、流石にチョーアンではそれを控えている模様。
「トウエンの子供が、チョーアンの子供へ『俺は狐太郎様の知り合いだ、呼べば飛んでくるぞ』と言ったんだ」
(『俺は第三将軍の弟分だ』って言えばいいのに、なぜそんな嘘を……)
「お前のことを話題に出したことも腹立たしいが、そんなことよりも気を引くために嘘をついたことが許せなかった。うそつきは泥棒の始まり、横領の始まり、不正の始まりだからな!」
かつて実害をこうむったことがあるだけに、とても厳しい姿勢を見せるリゥイだった。
彼の中で、窃盗は死に値する罪である。
「もちろん子供を連れて、嘘をついた子たちの家を巡った。嘘をついてすみませんとな! だが……軍服のまま挨拶をしてしまった。身分を明かしたのも良くなかったみたいでな……」
(それはそれで怖かっただろうなあ……)
本人としては、身分を明かすのは誠意のつもりだったのだろう。
だが普通に『この子の保護者です』と名乗ればよかったのではないだろうか。
「規模は違うが、お前と同じことをした俺に、お前を叱る権利などないと思っていたが……叱るだけが指摘ではない! 俺もお前も! 今後気を付けよう!」
「あ、はい」
圧力が凄かったので、思わず同意する。
(……リゥイに呆れている場合じゃないな、俺の方が規模が大きいし)
改めて、反省する狐太郎である。
「普段通り過ぎて、話が進まないな……」
比較的新顔のホワイトは、現状に微妙に困っていた。
役職上は錚々たる顔ぶれなのに、やっていることがカセイと同じである。
ある意味、本音で話し合える仲間なのかもしれない。
※
やや脱線したが、もとよりほぼ全員が真面目である。
ガイセイはやや粗暴だが、流石にこの状況でふざけることもない。
にやにやと笑っているが、しっかりと黙っていた。
「それで、狐太郎君。今回空論城で、祀に接触したらしいな」
「直接話をしてはいませんが、悪魔たちを通して間接的に……」
「それでも十分だ。君のことだ、もう聞けるだけのことは聞いてあるのだろう」
「……もちろんです」
祀との接触、およびその下部組織である昏との戦闘。
それは説明するには、狐太郎たちの素性を明かす事が避けられない。
もちろん、黙っているなどありえない。狐太郎は背後の四体へ目くばせをしてから、状況の説明を始めた。
「少々突飛なので、麒麟君以外には伝わりにくいと思うのですが……とりあえず、必要なことだけを簡潔にお話します」
この場で狐太郎たちのことをほぼ把握しているのは、当人を除けば麒麟ぐらいであろう。
その麒麟も、祀が自分たちの故郷の技術を使っていると聞いていたので、既に覚悟を決めた顔だった。
「まず私の仲間である四体……彼女たちは魔王なのですが、それは魔王の冠を、先代の魔王から奪ったからなのです」
今まで本格的に説明されたことはなかった、魔王とその冠。
それについて、その主から説明がされ始めた。
(これって、後で他の人に話していいのかしら……)
なお、コチョウはかなり困っていた。
「魔王の冠を持つモンスターは、一時的に自分を強化したり、反動と引き換えに強力な技を使えます。そして他のモンスターに殺されると、そのモンスターへ冠が移動するのです」
「……つまり君や君のモンスターは、先代の魔王を殺して、その冠を奪ったと。それまでは、魔王の力が使えなかったと」
「はい」
「……そうか」
正直驚くべきことだが、納得できなくもないことだ。
なにせ魔王としてパワーアップをした場合、長期にわたって疲労が蓄積する。
デット技と同様に、フルで使い切れば昏倒するほどだ。
つまり普通のAランクモンスターと違って、持久戦に持ち込めば勝てなくもないのである。
また四体は魔王にならなくとも、相当に強い。であれば、魔王として強化した形態を、なんとかやり過ごすこともできるだろう。
他でもないクツロがジューガーの前で、デット技の使い手に勝利している。それを思えば、四体がかりならいけるだろう。
「そしてその魔王の冠……俺達は特に、その出所を知らなかったのです。つまりどこの誰が、何のために作ったのかは知りませんでした」
昏の言っていたことは、おそらく真実だろう。
少なくとも狐太郎は、そう思っていた。
「しかしどうにも、祀という組織がいうには……魔王の冠とは、モンスターの国を統べるために、祀の先祖がつくったものだそうです」
これに関しては、ブゥも以前に聞いていたことだった。
魔王がモンスターの国を作っても、維持することができなかったのである。
「そして祀の目的は、魔王の冠を含めた『四種の宝』をすべて集めることだとか。そのうち一つは既に手元にあり、もう一つはまだ未完成で……残る一つは行方が分からないとか」
「少なくとも相手はそう主張し、魔王の冠も自分たちが持つべきだと言っているわけだな」
「ええ……そうです。私の従えている四体のモンスターを、自分たちで殺し、魔王の冠を奪うつもりのようです」
「それが目的で、西重に協力していると?」
「それも、別のようで……どうにも、未完成の宝……祭の宝を完成させるのに、西重の協力が必要なようで……詳しいことまでは」
詳しいことを聞き始めると、ふわふわとしてきた。
軽く接触しただけなので仕方ないが、彼らの目的が狐太郎のモンスターを倒すこと、ぐらいしかわかっていない。
「ただ完成している婚の宝、その成果は見ました。どうやら強力なモンスターを、飼いならせるように改造するもののようで……私が確認しただけでも、Aランク上位が二体、Bランク上位が十体以上いました」
「……よくわからないことばかりなのに、嫌なことがはっきりしているな」
ジューガーの言う通り、よくわからないことばかりの話だったが、重大なことはわかりやすかった。
モンスターの強さはよく知っている面々である、その脅威はよく戦っていたからこそ恐ろしい。
Aランク上位二体というのも脅威だが、Bランク上位が十体以上というのも脅威である。
これでは、悪魔を仲間にしても心もとない。
「対策として、ウズモ達を参戦させようかと。相手がモンスターですし、彼らもやりやすいでしょう」
「……大体解決したな」
敵に婚の宝があれば、こちらにはドラゴンズランドの竜がいる。
必ずしも互角ではないだろうが、不安をぬぐうには十分な戦力だった。
「……しかしだ。こうなるといよいよ、西重の判断が恐ろしくなってくるな」
複雑な表情で、大王は胸の内を明かした。
「私がこうして大王になり、国家をまとめられているのも、君たちと言う武力あってこそ。そして君たちこそ、この国に残った最後の戦力だ。使い潰すなど、恐ろしくてできない」
西重との戦争が穏当に終わり、首都を平和的に取り戻す。
兵力を消費することなく、抑止力のまま終わらせる。
それが一番ではある、理屈から言えばその通りだった。
「だが……兄が殺され、甥が目の前で死んだ。ギュウマと言う忠臣も、その配下も命を落とした。このまま戦争を終えたくない、という気持ちもある」
言葉では応じないが、キンカクたち三人は頷いていた。
理性的な判断ではないが、賛同を得られる考えであろう。
その賛同が、地獄への誘いであることも、また事実だが。
「主導権は相手にある。できることなら退いてほしい、その一方で交戦したい。どちらも、本音だ」
兄を殺されたかたき討ちを、目の前の戦力に代行して欲しい。
それを言われても怒らない程度には、彼らにも理解があった。
むしろ、人としてまともであろう。兄が殺されても、機械的にしか判断しないほうがどうかしている。
「祀が戦力を提供することで、西重が抗戦を選んでくれることを……どこかで期待している。それによって、君たちが死ぬのかもしれないのに、だ」
おそらく、祀が何もしなければ、西重は和平に乗らざるを得なかっただろう。
だが祀の目的が狐太郎のモンスターである以上、西重に大幅な協力をするはずだ。
Aランク、Bランクの強力なモンスターたち。
それらが友軍に回った時の心強さは、この場の誰もが知ることである。
だからこそ、果断に走る可能性があった。
「……コゴエ君、コチョウ君。君たちにはいよいよ、準備をしてもらう。いざという時に、備えてだ」
「承知いたしました」
「……皆、心の準備はできています」
「ブゥ君も、悪魔たちと連携を取れるようにしておいてくれ。ダイ君とズミイン君は、その補佐を」
「分かりました!」
「お任せください」
「仰せのままに」
亜人の精鋭については、まだわからない。
しかし英雄を越えうる二つの大戦力、その下準備は既に整っていた。
その敵が王都にいることも含めて、実際には行使されないことが一番ではある。
だがしかし、粗野な暴力性に身をゆだねたい、その誘惑もまた断ち切り難かった。
「他の皆も、いよいよ王都へ進軍する準備をしてくれ。もしもの時は……君たちにすべてを賭ける」
誰もが既に察していた。
このジューガーでさえ迷いを口にするほどの葛藤を、若き西の大王が抱えきれるだろうか。
祀や昏からの協力があれば、勝算があれば。
もっともらしい理屈をつけて、抗戦の指示を出してしまうのではないか。
なぜならば……耐えるよりも、決断をする方が楽だからである。
そして悲しいことに、其方の方が快いのだ。
己の心に従う、それは人の望むところであろう。
だがそれは、敵も味方も巻き込んで、破滅への道を進むことに他ならない。




