道理に勝る刃無し
さて、現在暫定首都になっている、チョーアンでの出来事である。
戦時中とはいえ、チョーアンの内部では日常がある程度保たれていた。
その分非日常への警戒が強くなり、少々のトラブルが起きることもあったが、制御可能な範囲に収まっていた。
しかしそれは大人の理屈である。
子供たちは抑圧に飽き、普段通りに遊び歩こうとしていた。
そして実際、それでも問題はなかった。
この街の中に限れば、普段よりも安全だったのである。
チョーアン内部にある、小さな公園区画。
その中で、彼らはこんな話をしていた。
「最近、あのでっかいドラゴンを見ないよね~~」
「四冠様が、どこかへ行ってるからだって~~」
「へ~~……」
何分子供なので、四冠の狐太郎というのを『四冠という名前の偉い人がいる』というふうに解釈していた。
まあ卑称ではないし、陛下という名前の偉い人がいる、というようなものなので余り問題ではなかった。
そんな彼らにとって大事なのは、クラウドラインというモンスターである。
物凄くでっかくて恰好良くて、とっても強い(らしい)。
そのドラゴンがここしばらく空を飛んでいない。なので子供たちは、少しつまらなそうに空を見上げていた。
そんな時である。
子供の一人が、こんなことを言った。
「俺、四冠様と知り合いなんだぜ!」
たわいもない軽口であった。
「うそだ~~!」
「四冠様は、次の大王様なんだぞ~~!? お前なんかが知り合いなもんか!」
「ふけ~~だ、ふけ~~だ!」
その大言雑言を、子供たちは大笑いして否定する。
無理もないだろう、そこいらの子供が四冠の狐太郎と知り合いであるわけがない。
むしろここでそれを信じる方が、いろいろな意味で心配だった。
「嘘じゃない! 本当だもん!」
「じゃあ今度ドラゴンが来たら、ここに来させてみろよ!」
「嘘つきがばれるだけだぞ~~!」
さて、当然だが。
狐太郎と知り合いの子供、などいるわけがない。
もちろん嘘をついているのは、狐太郎の知り合いだと言った子供だ。
「本当だもん! 呼んだら来てくれるはずだもん!」
周囲の子供の気を引きたくて、大きなことを言っただけである。
ただそれだけのことで、そこに何もありはしない。
問題だったのは、彼が『トウエン』という孤児院の子供だったことだろう。
※
さて、狐太郎がドラゴンズランドの竜から好意的に思われているのは、エイトロールの巣の近くで暮らしているからである。
ちゃんと参陣していることも含めて、尊敬の対象である。これでもしも、アカネだけを現地において、自分が安全圏でぬくぬくしていたら、絶対に敬わなかっただろう。
とはいえ、戦力として来てくれるかは微妙である。現在送り込んできた若きドラゴンたちは、どちらかと言えば懲罰的な意味が大きい。
彼ら自身が大戦力を送ってきてくれるとは限らないだろう。
精霊使い達にしてみれば、自分の国の要人である。
しかもこんな状況で、国家を立て直そうとしているのだ。心酔まではしなくても、それなりには尊敬している。
そしてそれを抜きにしても、大将軍からの緊急動員である。狐太郎云々を抜きにしても、戦うしかない。
悪魔たちについては、言うまでもない。
狐太郎のセンス、ユーモア、インテリジェンス……『顧客に本当に必要だったもの』をちゃんとお出しできたことが評価につながっている。
アパレやセキトは、契約上ルゥ家の配下だが、その範囲内で狐太郎へ全力で援護をするだろう。
とまあ今のところ、狐太郎の集めた戦力は、狐太郎自身へ好意的である。
しかしながら、すべての兵士がそう思っているわけではない。
当たり前だが、人間には人間の価値観がある。
誰もが狐太郎を仰ぎ、敬意を示すわけではない。
チョーアンの憲兵隊が抜山隊と素手で戦って、『なんだこいつらめちゃくちゃ強いぞ』という事実を知って評価を改めたように。
強い、というのはそれだけで敬意に値する。その上で、弱いくせに偉そう、というのはそれだけで低評価だ。
兵士だって、男である。
命令されるのは気に食わないし、可能なら自分が命令をしたい。
だがそれでも我慢して命令を聞く側に回れるのは、納得できる理由があってこそ。
端的に言えば、強ければ納得する。
なにせ逆らったら殴られるのである、それは普通に恐ろしい。
とても原始的な理屈だが、戦場自体が原始的だ。
加えて言えば、強い上官がいることは、安心にもつながる。
戦場における強い兵というのは、物凄く仕事のできる男ということだ。
彼の下で戦っていれば、死なずに済むだろう、という楽観さえできる。
加えて言えば、強いというのは勤勉の証拠でもある。
よほど才能に恵まれていたとしても、相応の努力をしていなければ相応の実力は得られない。
強いということはそれだけ一生懸命頑張っている証拠なのだから、敬意を抱くのは当然ということだ。
そこで、狐太郎である。
そこで、ケイ・マースーである。
実際に暴言を吐くなど許されないが、なんの努力もしていない者を軽蔑する、というのは普通のことだ。
ましてや何もしていない者が高い地位にいれば、なおさら正当に努力している者ほど怒るだろう。
どう言い訳をしても、狐太郎は強くなるための努力を一切しないまま、近衛兵の頂点にして王都奪還軍の頂点に立ってしまった。
生まれが貴く、部下が強いというだけで。世が世なら、排斥されても当然の状況である。
よって狐太郎は征夷大将軍でありながら、人間の軍には顔を出さなかった。
単に他の仕事で手いっぱいということもあったが、人間の軍については三人の将軍に任されていた。
ジョー・ホース、ショウエン・マースー、リゥイ。彼ら三人は、とても普通に強者である。
破格の才能があるわけではないが、十分に強く、努力も惜しんでいない。
先日の戦争でも武勲を上げたということで、周囲からの好感度も高かった。
十二魔将と将軍だと前者の方が凄そうな雰囲気もあるが、将軍だって十分大したものである。
十二魔将になった六人と比べて、彼らが冷遇されているということはなかった。
しかしそれは、彼らの仕事がきつい、ということでもあった。
「今日もがっつり絞られたぜ……」
「そうですね、やはり私たちが指揮を執るのは、難しいのでしょう」
「そうだな! だが大王様からの信頼にこたえるためにも、俺達が頑張らないといけない!」
リゥイ、グァン、ヂャン。
彼ら三人は、当然ながら大軍を率いる経験がない。
もちろんジョーにもショウエンにもなかったが、彼らはもともとそのための教育を受けていた。
一切予備知識なくそれをやることになったリゥイ達が、完璧にこなせるわけがなかった。
とはいえ、そんなことは大王もわかっている。
彼は引退していた老雄へ声をかけ、彼ら三人の幕僚になってもらった。
それによって実務の問題は大体解決したのだが、だからこそ老雄たちは彼ら三人へ将軍としての教育を始めたのである。
三人がかりでも、各々に才覚があったとしても、そううまくいくものではない。
彼らは連日体と頭をパンクさせながら、なんとか頑張っていた。
それもこれも、チョーアンの中で暮らしている家族の為である。
彼らはどれだけ忙しかったとしても、必ず新しい孤児院に帰り、そこで食事と睡眠をとっていた。
よって、前線基地でハンターをしていた時よりも、孤児院の子供たちと接することができていた。
今回のことは、それによるものであろう。
チョーアンの壁の内部にある、孤児院とは思えない程大きくて豪華な屋敷。
そこへ帰ってきた三人へ、一人の子供が抱き着いてきた。
「リゥイ兄ちゃん! お願いがあるんだ!」
栄養をばっちりとり、精神的なストレスを受けていない、過剰な労働を課せられているわけでもない、健康で元気な子供。
当たり前のはずで、しかし孤児院では難しいこと。三人だけではなく、一灯隊の全員が守りたいと思っている『当たり前』だった。
「ああ、どうした? 何か欲しいものでもあるのか?」
世の中には、子供のころから贅沢をさせてはいけない、という考え方もある。
その一方で、子供のころに抑圧すると大人になったとき反動で贅沢をしてしまう、ということもある。
なまじ、経済的に余裕があるからこそ、大人には慎重な判断が求められる。
稼ぎ頭であるリゥイには、だからこそ軽々な『いいよ』は許されない。
その一方で、子供が元気であることが嬉しい彼は、とても嬉しそうにしていた。
これでは大抵の無茶を、聞いてしまいそうである。
「兄ちゃんたちは、あの四冠と一緒に働いてるんだろ!」
「……うん、まあな」
一気に、三人の顔が曇った。
引きつった、ともいう。
他でもないこの三人こそ、狐太郎を嫌っている面々である。
そこそこに長い付き合いがあり、同じ職場で働いてきたからこそ、そこにほぼ誤解はない。
お互いのことを知っているうえで、あんまり好きではないのである。
とはいえ、それはこの孤児院の子供には関係のないことだ。
むしろ、変に偏見を持たれる方が、彼らの人生に暗いものを落とすだろう。
(あの野郎め……)
なお、三人の心中は良くない。
いつか言われるだろうとは思っていたが、物凄くむかついていた。
(アイツが有名になったせいで、ウチの子にも良くない影響があったらどうするんだ……!)
一番怖いのは、『僕も悪魔使いになる~~!』である。
本当に、比喩誇張抜きで危ない。
多分狐太郎もブゥも、全力で止めるだろう。それぐらい危ない。
もちろん『僕もシュバルツバルトで働く~~』というのも、同じくらいヤバいのだが。
「あのドラゴンとも知り合いなんだろ?」
「……いや、アイツとはあんまりないな。それがどうかしたか?」
サインが欲しい、と言えば断腸の思いで頭を下げに行くつもりだった。
ドラゴンの鱗が欲しいと言われたら、アレは高額すぎるから駄目だ、というだろう。
しかし、それとは別のことを、彼から言われてしまった。
「今度会わせてほしいんだ! 俺の友達の前で、自慢したいんだよ!」
びしり、と三人の顔が真顔になる。
それは明らかに、不快を通り越した怒り顔だった。
「よく聞くんだ」
リゥイは腰を下ろし、その子供の両肩をしっかりとつかんだ。
巨大な武器を振り回す彼の腕力は、当然子供が暴れたぐらいでは剥がれない。
「い、痛いよ!」
「聞くんだ」
子供へ暴力を振るっていいのか、振るうべきではないのか。
あるいは、肩を掴むことは暴力に入るのか。
それはわからない。
しかし確かなことは、この男の子が一線を越えかけているということだ。
そこは、直さなければならないことだ。
「いいか……アイツに、お前に付き合う暇はない」
「えっ……」
「今アイツらは、必死になって働いている。この国を守るために……大王様を守るためにな。そのアイツに、お前たちに会ってくれ、なんて言えない」
確かにリゥイは、狐太郎を嫌っている。
その一方で、彼が仕事をしていること、身を危険にさらしていることも知っている。
リゥイから嫌われていることも知ったうえで、配慮もしてくれている。
先日の戦争でも、鵺のサカモを非戦闘員の護衛につけてくれた。
そして今も、悪魔を引き入れるために危険地帯へ身を投じている。
クラウドラインのウズモもそうだ。
確かに一度は情けなくも逃げ出したが、戻ってきてからはきちんと働いている。
子供の我儘に、付き合わせることなどできない。
「だから駄目だ。あいつらは、お前たちの為にも頑張っているんだからな。たとえ休日があっても、それはしっかり休むための一日なんだ。わかるな」
真摯に、なぜ駄目なのかを伝える。
それが伝わると信じているからこそだ。
「で、でも俺……皆に、知り合いだからって……会わせてやるって」
「嘘をついたのか」
リゥイもグァンもヂャンも、かつて身内に裏切られた男たちである。
他でもない同じ孤児院で育った、一灯隊の隊員にさえ裏切られた過去がある。
だからこそ、どうしようもなく潔癖なところがある。
「お前は、よく知りもしないアイツのことを知り合いだと言って、呼んだら来ると言ったのか」
「で、でも、だって……!」
見栄を張るとき、嘘をつくとき、人は特に考えを巡らせない。
とにかく気を引きたい、目立ちたい、いい顔をしたいだけだ。
それが悪いことなのか、と問うだろう。
悪いに決まっている。
それを謝るならまだしも、他人を巻き込んで騙そうとするのだから。
「この街でできた友達に、嘘つきだって言われて……嫌われちゃう」
「仕方ないだろう。本当に嘘つきなんだからな」
厳しく、しっかりと問題点を指摘する。
「俺は今、お前が嫌いになったぞ。この嘘つきめ」
大人として、しっかりと、彼は怒っていた。
怒ったことを、子供に伝えていた。
「ご、ごめんなさい……」
「よし……じゃあ謝りに行こう。もしかしたら許してもらえないかもしれないが、謝ればきっと伝わる筈だ」
「それで友達じゃないって言われたら……もう遊ばないって言われたら……」
「その時は諦めろ。いいか……それはお前が悪いんだ。友達に嘘をついた、お前が悪いんだ。それで遊んでくれなくなっても、お前が悪いんだ」
「そんな……」
「それでも、謝らないといけないんだ……!」
謝れば許してくれる、というのは甘えだ。
だが謝らないといけないのだ、それが当然だ。
不利益を被るとしても、嫌われるとしても、それは当たり前だ。
「……グァン、ヂャン。俺は今から謝りに回ってくる。食事は先に済ませてくれ」
「何を言ってるんですか、隊長……いや将軍閣下。俺もご一緒しますよ」
「そうそう、俺達だって謝りに行きます。まあ、こんな時間なんで、ちょっと迷惑かもしれませんけどね」
かくて小さな嘘をついたことを謝るために、彼らは彼の友達の家をめぐることになったのだった。
少々大げさだが、これをしなければならない。他の子どもたちが真似をせずに済むように、きっちりとけじめをつける必要があるだろう。
※
さて日が落ちてしばらく後のことである。
チョーアンの中にある、比較的裕福な一般家庭で、和やかな夕食風景があった。
お父さんとお母さん、お兄ちゃんと妹。
とても普通でありふれていて、しかし孤児院では得られない小さな家庭だった。
「でさ、聞いてよ。最近友達になった子がね、俺は四冠様の知り合いなんだ~~って言ったんだ~~!」
「ははは! そりゃあ大きく出たな!」
「ええ、ずいぶん大きな嘘ね!」
その食卓で、笑い話が出てきた。
誰がどう考えても嘘で、本当に嘘なのだから、確かに笑い話である。
「え、嘘なの?」
妹だけはびっくりしているが、周りの皆が笑っているので嘘だと察し始めたようだ。
「そりゃあそうだろう。四冠様と言えば、征夷大将軍で次期大王で斉天十二魔将首席でAランクハンターなんだぞ? そんなお方の知り合いが、そこいらにいるわけないだろう!」
お兄ちゃんよりもなお幼い妹にとって、お父さんの言っていることは怪しい呪文のようなものだ。
何を言っているのかわからないが、とにかくありえないことのようである。
「可愛い嘘じゃない、私も子供のころは『本当はお姫様なの』とか言ったものよ」
嘘をつかれた方としては、笑い話である。
大法螺だからこそ、真摯に受け止める必要がなかった。
「だからさ、今度会った時に嘘つきって言ってやるんだ!」
「……それは良くないな」
子供と言うのは、間違いを指摘したがるものである。
正義の味方になって、悪を断罪したがるものである。
もちろん、悪になるよりはいい。だが限度を間違えると、それもよくない。
「もちろん嘘をついた子が悪いに決まっている。だけど、その子が謝ったら許してあげなさい」
俺は四冠様と知り合いだ、ここにドラゴンを呼べる。
不敬な話ではあるが、それで誰かが損をしたわけではない。もちろん、得をしたわけでもない。
誰かを陥れるため、誰かを困らせるための嘘ではない。精々、自分を大きく見せるための嘘だ。
謝ってきたのなら、許せる範囲のことだ。
「そっちの方が、格好いいぞ」
何よりも、他人の間違いを指摘することにはまってはいけない。
そのうちに、特に根拠もなく他人をバカにする、どうしようもない男になりかねない。
それを避けるためにも、他人を傷つけて遊ぶのは止めさせなければならなかった。
「……うん、わかった」
お兄ちゃんが、納得いかなそうに頷いた時である。
「夜分に失礼します」
家のドアを、ノックする音が聞こえた。
小さな男の子が、外からこちらを呼んでいた。
「多分その子じゃないか? 行ってあげなさい」
「うん」
きっと、謝りに来たのだろう。
親御さんに相談したら、謝りに行くよう言われたのだろう。
少し見栄っ張りなだけで、いい子だ。いい親だ。
両親がそう思っていた時のことである。
「ぎゃあああああ!」
お兄ちゃんの、物凄くびっくりした声が聞こえてきた。
慌てて両親がドアに向かうと、そこには……。
「お騒がせして、申し訳ありません」
「驚かせてしまいました……すみません」
「少々お時間、よろしいでしょうか」
そこには、お兄ちゃんと同じくらいの小さな男の子と、すさまじいほど筋骨隆々な若者たちが三人もいた。
リゥイ、グァン、ヂャン。Bランク中位モンスターを単独で撃破する、王女リァンの護衛さえ任されるほどの若き実力者たちである。
非武装であっても、その肉体から強さがあふれ出ている。そんな彼らが正式な軍服のまま、ドアの向こうに立っていたのだ。
お兄ちゃんが驚くのも当たり前で、両親も思わず腰を抜かしかけていた。
「そ、その……失礼ですか……ど、どちら様でしょうか」
「王都奪還軍、第三将軍リゥイと申します」
「副将、グァンと申します」
「将軍補佐、ヂャンです」
お父さんが聞けば、返事は想像を絶するものだった。
しかし彼らの服装は、確かに並みの軍人が着られるものではない。
素人が見ても、彼らが相当上位の役職に就いていることは明白だろう。
ましてや本人たちがこれだけ強そうなのだから、嘘を言っているとは思えない。
「実は……私の預かっている子供が、其方のお子さんへ嘘をついてしまったようで……夜遅いことも承知ですが、一言謝らせていただこうかと……」
もう両親は返事ができなかった。
家で和やかな食卓を囲んでいただけなのに、いきなり王都奪還軍第三将軍が来たのである。
呼吸ができなくなるほど驚いていた。
「さあ」
「うん……」
腰を抜かしたままのお兄ちゃんへ、小さな男の子は近づいて、頭を下げた。
「ごめんなさい……俺、嘘ついてました……四冠様の知り合いだなんて、嘘です!」
「お、おう……」
やはりこの少年は、嘘をついていたのだ。
四冠の知り合いなど、真っ赤な嘘である。
本当は王都奪還軍第三将軍リゥイの、預かっている子供だったのだ。
知り合いどころではない、一緒に謝りに来てくれるほどである。
全然違う。
「また、遊んでくれる?!」
「うん……」
涙ながらに謝ってくる男の子。
お兄ちゃんは、腰を抜かしたまま応じていた。
それを見て、三人の若武者は満足げに頷き合う。
「では、失礼をします……本当に、申し訳ありませんでした」
やはりリゥイは頭を下げて、ドアの前から去っていった。
それに男の子も、グァンもヂャンも続いていた。
残ったのは、一般家庭である。
妹はどうして両親が驚いているのか、よくわからずに首をかしげるばかりであった。
「……なんで第三将軍の養子だって言わなかったんだろう」
正確には養子ではないのだが、そう思われるような振る舞いだった。
とはいえ、両親の言う通りであった。身近すぎると、逆に自慢しようと思わなくなるのかもしれない。
この後も各家を彼らは謝って回った。
軍服を着て、夜の街を歩いて、各家を訪問して回ったのである。
翌日、物凄い噂が回ることになったのであった。
※
数日後、リゥイは大王に呼び出されていた。
「お騒がせして申し訳ありません、大王陛下……」
「リゥイ、その、なんだ。事情は分かったが……せめて服を着替えなさい」
 




