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悪魔の群れ

 冠婚葬祭、あるいは冠昏喪祭。

 モンスターの国を生み出し、維持するための宝。

 それを聞いた狐太郎は……。


(婚はダサいな……)


 あまり、いい印象を受けていなかった。

 冠、葬、祭は、まあいいのだ。祭具とかそういう意味があるのだろう。

 だが婚の宝で生み出された彼女達を見ていると、正直哀れに考えてしまう。


 製造された目的が真面目なので茶化す気にはならないが、まずそこに考えが向いてしまった。

 とはいえ、切り替える。Aランク上位モンスターは、コケにして笑う存在ではない。


 少なくとも、この場で戦っていい相手ではない。

 もしもこの場で彼女と戦えば、背後の街は全壊する。


 空論城の住人を守るために全力を尽くすと言っているのだ、少なくとも今回の襲撃は防ぐ必要がある。

 であれば、彼女の提案を呑むべきだろう。むしろ、提案がなければ困ったことになっていたかもしれない。


「……」


 ちらり、と『三人』を見る。他の、多くの悪魔も見る。

 彼らはやる気のようだった、文句がないのなら結構である。


「わかった、ならBランクで……」

「ありがとうございます。いやあ……こんなどうでもいいことで部下を巻き込んで死なせるなんて、私も嫌なんですよ。流しでお願いしますね、こっちは殺す気ですけど、どうせ勝てないと……」


「士気をさげるな」


 背中から炎の翼を広げるスザク、彼女の胴体がちぎれた。

 傍らに控えていた、飛び散る火の粉をうっとうしそうにしていた副官が、右手をドリルに変えて突っ込んだのである。

 突っ込んだ、というのは、ドリルを体の中へねじ込んだという意味だ。つまり、物理的に突っ込んだのである。


「ほぉ!?」


 ドリルが体に突っ込まれたことで、彼女の胴体はちぎれた。

 下半身は無様に倒れ、上半身も地面に落下する。

 燃え盛る彼女は、下半身を一瞬で再生させながら起き上がった。


「な、何するのよ、ミゼットちゃん。私、今お仕事の話をしていたのよ? 我等の宿敵と、真面目で真剣な交渉をしていたのよ? なんで攻撃するの?」

「へらへらしながらこびへつらうことを、真剣で真面目と言わないで」

「怒らせたらどうするのよ。とにかく、もうちょっと待って、ね?」

「うるさい」


 ミゼット、と呼ばれた副官の『髪』が、蛸や烏賊の足のように動く。

 燃え上がるスザクの体に絡みつき、締め上げていく。


「いだだだ! 不死鳥だけども、痛くないわけじゃないのよ?! 離して! あと怖いの! 本能的になんか怖いの!」

「私も本能的に食ってやろうかって気分になるから、抑えさせてちょうだい」

「わかったわ! わかったから! 離して!」


 しばらくして、副官の『髪』が解けた。

 スザクの顔には吸盤の跡が残っており、微妙に痛々しい。


「大変失礼しました。では真面目な話に戻らせていただきますが……まずそちらへの配慮として……貴方達が戦わなければ、その街を襲います。それが嫌なら、逃げずに戦ってください」

「わかった」

「現在昏のAランクは、私と副官……このスザクとミゼットだけ。他の者はBランク上位……これで相手をさせていただきます。そちらも、Bランクだけということで」

「わかった」

「ある程度戦って、旗色が悪く成れば撤退させていただきます。その場合は静止のために私も動きますが、どうかご容赦を。そして……撤退の妨害をされれば、私も副官も、相応に抵抗をさせていただきます」


「だから士気を下げるな」


 真面目な話をしていたのだが、その頭がちぎれた。

 首から下が制御を失い倒れかけるが、それよりも先に頭から上が復元する。


「……あのね、ミゼットちゃん。悪いところがあったら謝るから、もうやめて、ね?」

「部下を案じる気持ちはわかるけども、士気を下げないで。こうも心配されたら、やる気がなくなるわ」


 スザクがこうも予防線をはっているのは、それこそ部下が可愛いからだろう。

 だが部下たちは憤っている。副官だけではなく、ほぼ全員が。狐太郎とは逆で、彼女の言動は配下のやる気をそいでいるようだった。


「……部下を信じるのが上官の仕事じゃないの?」

「そうね……先に言っておくけども」


 スザクは、狐太郎たちの方ではなく、部下たちの方を見て話し始めた。

 その背中は、完全に隙だらけである。



「今日、貴方達が勝てなかったことは、気にしなくていいわ。相手が強かった、それだけだもの。死なない限り、諦めない限り、まだまだこれから強くなる! 敗北を糧に、もっと強くなりましょう!」



 彼女の熱いアドバイス、その顔は狐太郎たちには見えない。

 しかし彼女の熱い声援を聞く部下たちは、もう泣きそうにさえなっていた。


「先に言い過ぎじゃないかしら……」

「戦う前から慰めてる……」


 クツロとアカネは、部下たちに同情していた。

 負けた後のセリフを戦う前から言われると、信じられていないのだなと思ってしまう。

 これでは奮起を促すどころか、背中から刺されそうだった。


「士気を下げるな」


 刺された。


「ああ! だから刺さないで! みんなを元気づけたかった、それだけなの!」

「だから勝ち目がないと言わないで。勝利を信じているわ、と言いなさい」

「ええ、何時か勝てる!」

「今勝てると信じてちょうだい……はあ」


 至らぬ隊長を補うのは、副官の務め。

 ミゼットは泣きそうになっている配下を見て、勇気づけた。


「いざとなったら、私たちが手を出すわ。でもその必要はない、むしろ相手が救援を求めてくるはず。なぜなら貴方達は強いのだから」

「そうそう、負けても立ち上がるのが本当の強さ」

「士気を下げるな」

「痛い!」

「あえて言いましょう……命令するわ、勝ちなさい。もしも負けたのなら、罰を与えます」


 厳しいことを言うミゼットだが、部下たちからの信頼は厚かった。

 手厚く保護されることよりも、むしろ発破をかけて欲しかったのだ。


「じゃあ私は慰めてあげるわ!」

「士気を下げるな。まったく……では、始めましょうか」


 改めてスザクを絞めながら、ミゼットが命令する。

 体のあちこちにモンスターの特徴を持っている女性たちが、闘志を燃やしつつ並んでいた。


 その陣形に、狐太郎は一種の既視感を覚える。


(理性的で、人に近い形を持つ、Bランク上位モンスターの部隊か……俺のところもそう思われてるんだろうな)


 軍用のBランク上位モンスター、と言えばサイクロプスを思い出す。

 カセイ攻略に投入されたが、アカネたちを前にして戦意喪失して逃走しようとしていた。


 それが、彼女達にないことはわかる。間違いなく、勝ち目が薄くとも最後まで戦うだろう。

 もしもあの日、彼女達もいればどうなっていたか。負けることはなかったとしても、多くの犠牲者がでていたはずだ。


 体も強く、心も強い。それが集団となって襲い掛かってくるのだ、とても恐ろしいことである。


「ダイさん、ズミインさん。お二人には、いきなり過酷なお役目を押し付けます。それに、こちらの戦力を出さないことも……」


「気になさることはありません、我等の仕事ですので」

「友軍を出してくださる城主の、その城を守るのです。被害を抑えるために、我らが動くことは当然かと」


 そんな相手に、二人をぶつける。しかも自分は戦力を出さない。

 文句を言われるかとも思ったが、二人は否と言わなかった。


 大将軍に遠く及ばぬ者が戦場に立つのは、大将軍が暴れられない場所で戦うため。

 Aランクが戦えない状況ならば、極めて正しい運用である。


「では……」


 前に出ようとした、ダイとズミイン。

 その二人を、あえて大悪魔たちが止めていた。


 セキトやアパレ、その眷属さえ加わって。

 ササゲに従う悪魔の連合軍が、本当に軍の規模で並んでいた。


「狐太郎様。一旦は我らにお任せを」

「え? いや、でも……二人も強いですし、悪魔使いなら……」

「おっしゃりたいことはわかりますが、それでも、一旦お預けください」


 Bランク上位の悪魔が十一体、Bランク中位の悪魔が百体近く、下位に至っては千に達するかもしれない。

 本来勝手な悪魔たちが、意気を燃やし、人間の兵の如く尋常に戦おうとしている。


「我らは一生分笑わせていただきました。いいえ、あれだけ笑える悪魔など、そうそうおりますまい。そして……どう言い訳をしても、我等の不始末を押し付けたことに変わりはなく……」


 真意を悟るには、十分すぎた。

 まさにいましがた思い出した、サイクロプスのことである。


 彼らは従うと誓ったのだ、一刻も早く戦いたいのだろう。

 ただの野生動物とは違い、対等以上の相手にも逃げないと、証明したくてたまらないのだ。


「元より我らの城を、我らが守るだけのこと……どうか、お許しを」

「……わかった」


 数で圧倒しているが、声色には覚悟が見え隠れしている。

 つまり苦戦を覚悟の上で戦うつもりのようだった。そこに水を差すほど、狐太郎は野暮ではない。意思を尊重し、短く許可を出す。


 悪魔たちはゆっくりと前進し、昏の戦士たちと対峙した。

 どちらが善でどちらが悪でもない、野生動物同士の縄張り争いでもない。

 異形のモンスターたちが、己の意思をかけて戦おうとしている。


「……スザク隊長やミゼット副隊長に怯えていた連中が、ずいぶんと勇ましいな。我等なら勝てるとでも思っているのか」

「もちろんだ」


 より異形なのは悪魔たち、数で圧倒しているのも悪魔たちだ。

 だが戦力的にどちらが優越しているのかと言えば、やはり昏であろう。


 少なくとも、多くのモンスターを見てきた狐太郎には、そう思えた。


「ならば……試してみるがいい!」


 今更ではあるが。

 Bランク上位とは、軍を動員してようやく勝てる規模である。

 それらが二十体以上、まっこうから衝突する。

 その規模は、まさに周辺一帯を震撼させるものだった。


「しょ、正直に言うね、みんな。私、Bランク同士だから大したことにならないと思ってた!」

「俺もだ!」


「うん、舐めてた! よく考えてたら、俺らもそんなに大したことなかった!」

「完全にマヒしてたわ! あの百足を退治したから、気が大きくなってた!」


 侯爵家四人衆が、必死でバリアを展開する。

 直接攻撃されたわけではないので、流石にバリアは壊れない。

 しかしバリアを通じて、途方もない威力が伝わってくる。


「今更だけど! 真面目に努力してよかったよ!」

「努力してなかったら、そもそもここにいないんだけどね!」


 彼らは四人で協力して、クリエイト技を発動させていた。全員が一人前だからこそ、余波を防ぎきっている。

 他でもない彼ら自身こそが、未熟だった時代を知っている。そよ風やバケツ並みの水にも耐えられなかった時代から、大いに進歩していると分かる。

 分かるが、怖い。散々教員に言われていたが、努力してもこの程度だった。Aランクの参加していない戦場においてさえ、余波を防ぐのに必死である。


(皆強くなったな……!)


 だが防げていることに変わりはない。

 私語を慎む余裕のない四人へ、一々注意をするほど狐太郎は狭量ではない。

 バリアの外や地面は、大いに揺れている。だがバリアの内部は、そよ風さえ起きていない。

 それは貧弱な狐太郎にとって、ありがたい堅牢さだった。


「どうやら、あの四人はよくやってくれているようだな。アレならば、ご主人様も安心できるだろう」 

 

 そんな四人を見て、コゴエも安堵している。

 氷で壁でも作ろうかと思っていたが、それも余計な気遣いのようだった。

 以前は守られて尚命が終わりかけたというが、今回はそこまでではない。

 気にするべきは、やはり戦場だ。


「……あの子たち、強いよ。多分元になったモンスターが、強力な奴ばっかりなんだよ」


 戦況を見守るアカネは、始まったばかりの戦いをそう評した。


 Bランク上位モンスター。これに位置するすべてのモンスターが、まったく同じ強さというわけではない。

 そもそもランクとは、非常に雑なものである。モンスターの強さを、十段階で測り切れるわけがない。

 同じ種族でさえ、クラウドラインの長老とその孫では、やはり大きな差がある。ましてや完全に別種では、苦戦するがまず負けないというほどの差があっても、同じランクにされてしまう。


 加えて言えば、悪魔は同じランクのモンスターの中では、比較的弱い部類に入る。

 魔境に縛られず、特殊な能力を持っているが、しかし直接的な殴り合いには弱い。

 特に、悪魔対策をしているであろう相手との真っ向勝負は、極めて不利と言えるだろう。


 対策を取らなければ危険だが、対策をとれば倒せるということ。

 それが害である一般モンスターと、悪である悪魔との大きな差だろう。

 悪魔退治を専門とする悪魔使いを、ハンターと呼ばないことも含めて、そもそも専門性が違うと言える。


 戦えないわけではない。だが戦うことに特化したモンスターを相手にするには、やはり悪魔だけでは力不足だろう。


「さあ、気合を入れていくよ! だああああああ!」


 Bランク上位モンスター、ドラミングゴリラ。

 多くの猿を配下とするモンスターであり、胸を叩くことによって強化属性のエナジーを放出。

 自分だけではなく、仲間のモンスターも大いに強化できる。


「まずい! あの音を早く止めろ!」

「体を鎖や網に変えろ! 拘束するんだ!」

「中位だけじゃ足りない、下位も力を貸せ!」


 そしてとても単純に、巨大で力強い。

 その馬力は、同ランクの悪魔では、とうてい太刀打ちできないほどだ。

 ましてや格下が相手ならば、力で封じることは不可能だ。


「ふん、こんな黒い鎖で……何ができる!」


 ドラミングゴリラを元とする昏の戦士は、女性でありながらガイセイに匹敵する巨体を持っていた。

 その彼女へ体を鎖へ変えた悪魔が、大量にしがみつき抑え込もうとする。

 しかし、効かない。多少なり相手を弱める効果を持った悪魔の鎖が、音を立ててちぎられていく。


「くそ、地力が違い過ぎる……! 化物め!」

「大悪魔様と同等だ、これぐらいは当たり前だろう。活躍できると思ったのか?」

「格上のモンスターと戦うことになるとはな、こんなことなら鍛えておくべきだったぜ!」


 悪態をつく悪魔たちだが、戦況は決して芳しくない。

 抑え込むこともできない相手へ、傷を負わせるなど夢であろう。

 格上と知って、しかしそれでも戦わなければならない。

 

 少なくとも、大悪魔たちは、既に手がふさがっている。


「身代わりの藁人形は知っているな? アレは当然、私たちも持っている。限度はあるが……お前達の呪いを防げる」


「で? だから諦めて帰れとでも?」

「やれやれ……それを教えてどうする気なのか……リスクを軽減する道具を自慢されてもね」


 セキトとアパレは、眷属を率いて『一体』のモンスターと対峙していた。

 彼女の姿は、基本的に哺乳類のそれ。体毛は深く、爪はするどく、牙も大きい。

 しかしそれでも、元になったモンスターが『哺乳類』に近いものだとは察しが付く。


「インペリアルタイガー。お前たちは何度か狩ったことがあるらしいな……だが、野生動物と同じにされても困る」


 ビッグファーザーの親衛隊を務める、屈強な大虎。

 彼女の毛並みは、なるほど、原型に近いものがある。


「大きさや重さ、力ではやや劣るだろうが……『回転』が違う。とくと味わえ」


 ジャブのように、軽やかに、爪を振るう。

 それは牽制程度の攻撃だったが、それだけで下位や中位の悪魔は吹き飛んだ。


 だがセキトもアパレも、それに気を使えない。

 両手を剣のように変えて、なんとか空気の刃を弾く。


「流石に強いな、だが直接はどうだ?」


 直接、二体同時に切りかかる。

 右手と左手で、セキトとアパレを同時に攻撃する。


「ぐぅ!」

「づ!」


 刃に変えた腕が、刃こぼれを起こす。

 当然ながら、二体にとってもダメージである。

 ただ体の一部が欠けただけではない。痛烈な一撃を受けざるを得なかったがゆえに、体が軋んでいた。

 普段はブゥの武器になっている二体だが、久方ぶりの生身のダメージである。


 もしも二体がそろってブゥに使われていれば、少なくともここまで押されることはないだろう。

 そうでなくとも、ダイやズミインに一体ずつ使われていれば、互角以上に持ち込めるはずだった。

 すべてのエナジーを攻撃や硬化に回せる、人間に使われている状態と違って、体を維持する必要がある今は、どうしても力負けしてしまう。

 

(まったく……ブゥが恋しくなるなんてね!)

(使い手としては最悪だが、いないよりはマシか……)


 二体がかりで、なんとかしのぐ。

 軽口をたたく余裕もなく、無言で襲い掛かり続ける人型のインペリアルタイガーを何とか止めていた。


「セキト様! 今参ります!」

「アパレ様ぁ!」


 その隙に、吹き飛ばされていた眷属たちも復帰する。

 縋り付いてでも抑えようとするが、しかしやはりあっさりと吹き飛ばされる。


「束にならなければ、こんなものか」

「言ってくれるわね、小娘!」

「腕っぷしが自慢ではないが、調子に乗られると面白くないな……!」


 ちらり、と二体は他を見る。

 やはりどの大悪魔も、眷属を率いてなお圧倒されていた。

 二対一で戦っているセキトとアパレでさえこれである、他の大悪魔たちが一体ずつでは、どう考えても無理があった。


「私は群青大将……猛毒の蛇なんだけども……悪魔って毒が効かないらしいのよね。その上絞めつけも効かないとか」


 鱗と肌の混じった体表をしている女性は、細く長い舌を出し入れしながら、目の前の獲物を観察している。 

 ねじれた腕や足が、花瓶のような胴体から生け花のように生えている大悪魔を、彼女は圧倒していた。


「でもこんなもの……基本的なスペックが違うと、やっぱり不利よね」


 一軍に匹敵するBランク上位モンスターを、なんとか抑え込んでいる。

 それだけ切り取れば、凄い話だ。だがそれだけでは、到底勝ちは狙えない。

 瞬殺されないとしても、劣勢に変わりはない。そして逆転を狙うには、呪いの防御がされている。


 もちろん無敵ではないだろう、呪いをかけ続ければいつか限界が来る。

 だがそれが、劣勢のまま狙えるとは限らない。


「……不利か」


 大悪魔は、その腕をよじった。

 手足をばたつかせることなく、ただひねる。

 それは激情の表れではなく、肩を動かす程度、首を動かす程度のことだろう。


「勝ち目がないって言ったほうがいいかしら。もともと邪道に特化した貴方達が、正攻法で戦うこと自体、無理があるのよ」

「違うな」

「あら、何が違うのかしら。もうこのまま、特にいいところもなく負けるより……さっさと悪魔使いを呼んだ方がいいんじゃないの?」


 腕や足の生えている花瓶、その底から黒い水のようなものが滲み、溢れてくる。

 それは闇のオーラであり、汚染の元であった。攻撃によるものではなく、どちらかと言えば出血、ダメージを受けているだけのことだろう。


「まだ早い」

「……悪魔は自分や仲間が傷を負うと、それをきっかけに呪いをかけられるというけど、それでどうにかなることなのかしら」

「それもある」


 大悪魔は、あくまでも平然としていた。

 苦痛はある。ダメージは確実に蓄積し、疲労も溜まっている。

 長く人間を虐げてきた彼にとって、身を切ること自体が初体験なのかもしれない。


「……返事が短すぎて、要領を得ないわね」

「そうか」

「悪魔は多弁と聞いたけど、貴方は違うみたい」

「そうでもない」


 あるいは、彼の眷属もまた、戦いへ身を投じることが初体験かもしれない。

 その中で彼らは、しかし変わらぬ思いを抱いていた。

 狐太郎への忠義、それだけである。


「今は戦う時だ、そうだろう」


 彼らは、この戦いに愉悦を見出していない。

 つまりそれは……勝ちに徹しているということだ。


「……どうやら、なにか隠し玉があるみたいね。ここまで劣勢なのに、何をする気かしら」

「禁じ手だ」


 楽しむ気がなく、喜ぶ気がない。

 それはつまり、何一つ面白くない必勝法に徹するということ。



「我ら自身ですら忌み嫌う『悪魔の群れ』の奥義(・・)……とくと味わうがいい!」



 狐太郎に勝利を。悪魔たちは無欲の勝利をもって、狐太郎に忠義を示そうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんやイカの方もちゃんもおるやんね。 イカの餌の鳥の子だけじゃなくてよかった。
[一言] 悪魔の一生ってどれぐらいの長さなんだ?
[良い点] スザクとミゼットのどつき漫才(ガチ)好き 昏は戦力としてはレデイス賊の上位互換、継戦能力のあるデット使いの集団みたいなものですかね [気になる点] >ちらり、と『三人』を見る。他の、多く…
感想一覧
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