故郷が錦を飾りに来る
怱々兎太郎
登山道とロープウェイがあったら、行きは登山道帰りはロープウェイ。
旅行では、計画を楽しむタイプ。
ムイメ
実は友達があんまりいないので、旅行の前の買い物を、他の三体とやるのが好き。
キクフ
種族の特性もあって、とても友達が多い。
旅行から帰ってくると、いつも友達に愚痴っている。
しかしその話をするのが好きでもある。
ハチク
いつも日記をつけているので、旅行の内容も書いてある。
旅先の苦労を読み返したりするのが好き。
イツケ
遊園地やプールなどの観光地よりも、歴史のある建物や大自然のような大人向けの観光地が好き。
ネットなどでそうした観光地を見るのが好きなのだが、実際に行ってみたいと思いつつも、自分で計画を建てるほどではなかった。
何気に兎太郎がいろいろなところへ連れまわしてくれることが好きで、今回の月面旅行は特に楽しみにしていた。
だがそれを言うと兎太郎の同類扱いされるので、徹底して隠している。
モンスターパラダイス6
テーマは暴走する浪漫、伝わらずとも届くもの。
本気でゲームにするのなら、ボス部屋以外にも通路へなぞ解きを設置したり、久遠の到達者を動かすためにいろいろとイベントを挟むことになる。
本気で実写化するのなら、まずモンスター要素を一切排除して、登場人物を全員家庭に問題を抱えた子供にして、最後は全員が脱出艇に乗って帰還という形にすることになる。
キンカク、あるいは先代の大王曰く。
十二魔将に必要なのはただ強さだけであるという。
一理ある。
近衛兵の頂点に位置する十二魔将が、弱いわけにはいかない。
まず強くなければ、話にならない。
そのうえで、もう一つ必要なもの。王家への忠誠心。
これを大王がどう思っているのかと言えば、自分に求められている、と考えている。
つまり端的に言って、近衛兵の忠義が足りないのなら、それは大王側に問題があるということだ。
先日までのダッキを見れば、それも納得だろう。アレに心酔し、忠義を誓う方がどうかしている。
もちろん、末端の貴族のように王家と接点のない輩が『王家はけしからん』と言っているのなら、それは大体言いがかりだろう。
だが側近である十二魔将から忠義を得られないのなら、それは大王が十二魔将へ十分な配慮をしていないということだ。
実際のところ、それは狐太郎も同じである。
彼の配下である四体の魔王も、誰彼構わず忠義を誓うような、どうかしている輩ではない。
人間上位の社会で生きていたが、人間全体を崇拝しているわけでもない。
狐太郎が凄いバカになり下がれば、ぶん殴って矯正するか、あるいは見切りをつけて離れるだろう。
そこまで行かなくても、あほな命令には断固として従わないはずだ。
逆に狐太郎本人も、現大王であるジューガー以外に忠誠を誓うわけではない。
ジューガーの命令ならどんな無茶でも従う、という程ではないが、手勢を率いて救援に向かうぐらいはやる。
それは相手が大王だからではなく、普段から彼と付き合いがあったからだろう。
結局は、その程度のこと。
主従関係も人間関係、インチキなど通用しない世界である。
※
現在キンカクたち三人は、体から湯気を噴出させながら、大きな矛を振るって鍛錬を積んでいた。
周囲には多くの兵がおり、十二魔将の鍛錬姿を見て感動さえしている。
まるで合戦直前のように気合いが入っているが、これから実戦が始まるというわけではない。
いよいよブゥの兄と姉が来るので、その試験に備えて体を温めているらしい。
「こう言っては何ですが、試験の相手を殺しそうな勢いですね」
「場合によってはそれもあり得るだろう。なにせ十二魔将だ、半端なものは彼らが許すまい」
それを見ているのは、狐太郎とジューガーである。
今ブゥはチョーアンの外へ迎えに行っており、そろそろ連れてくるころだ。
「物騒な試験ですね。いえ……シュバルツバルトの討伐隊にも言えることですが」
「それよりは穏当だよ、彼ら自身に穏当に済ませる気はないだろうが」
なにせ命がけの仕事である、弱い者には務まらない。
試験で死ぬようならば、その程度の実力で来たことを怒られるだろう。
「君たちは余り討伐隊に思い入れがなかったようだが、あの三人は違う。彼らは十二魔将へ、とても思い入れが深い。それこそ、死ぬ勢いでやるだろう」
「それなら、俺のことも追い出す勢いにしてほしいんですが……」
「立派に職務を果たしている君へ、文句をつけるほど彼らも狭量ではないよ」
(融通を利かさないでほしい……)
一生懸命働いている身ではあるが、そうせざるを得ないからそうしているだけなので、評価されても嬉しくはなかった。
三つも四つも兼任させられているので、一つぐらい解任させてほしいものである。なんなら無職にだってなってもいい。
「一応お伺いしますが、貴方を普段から警護なさっている方から不満はないのですか?」
大王になる前から大公だったジューガーには、当然護衛を務める者が多くいた。
中には白眉隊にも劣らぬ強者もいたらしいが、その彼らが十二魔将になるという話はまったくない。
「まったくない。もちろん内心ではいろいろあるだろうが、実力不足は理解しているのだろう」
大公の護衛を務める兵たちは、実力がある上で生まれも育ちもよいものばかり。
その彼らをして、やはり十二魔将は高すぎる存在のようである。
「それにだ、彼らには彼らで、いろいろと仕事を任せている。自分で言うのもどうかと思うが、冷遇などしていないよ。彼らもまた、私の宝だ」
(よく考えたら、俺も側近らしい仕事はしていないしな)
ゲームをやっているわけではないので、一軍に劣るものを露骨に蔑むことはない。
むしろ普段の護衛を彼らに任せることで、狐太郎たちの負担を和らげる意味があった。
「おや、来たようだよ」
「……そうみたいですね」
ブゥを先頭にして、女性と男性が後に続いている。
そのうちの片方は、ズミイン・ルゥ。以前に封印されていたアパレを持ってきた、女性の悪魔使いである。
どこか獅子子に似た雰囲気があるが、彼女の方が筋金入りだった。
そんな彼女の後に続いているのが、ブゥの兄であろう男だった。
身長だけならば、ガイセイやキンカクたちよりもやや劣る。だが隆々たる筋肉は、やはり戦士のそれだった。
(当たり前だけども、ほぼ全員ムキムキだな……)
どうにも人物の特徴を挙げると、ほぼ全員が大柄で筋肉ムキムキという、逆に没個性的な状況になる。
ホワイトが見てきたように、大抵のハンターも兵士も、普通はそこまでは強くない。
狐太郎の周りにいる者たちの水準が高いので、どうしてもムキムキぞろいになるのだ。
「大王様、兄と姉を連れてきました」
「うむ、よくやってくれた。さて……」
改めて、大王の前にルゥ家の兄弟が跪く。
本来ならもっと大仰な歓迎をするべきなのだろうが、あいにく今は戦時下であった。
「急な招集に応じてくれて、感謝しているぞ」
「この国難に、参戦を命じられることは名誉であります」
「我がルゥ家を厚遇くださっている陛下に、はせ参じることが遅れたことをお許しください」
特に面白くもない会話だったが、むしろこの状況で面白いことのほうが問題であろう。
大王の御前である、普通はこうだ。
(俺の気が緩んでいるな……)
そして、そんな普通の姿を見て、狐太郎は少し反省した。
今までで大王に慣れ過ぎて、かなり失礼な行動が板についていた。
これではガイセイを笑えない。
「ダイ・ルゥ。これより戦陣に加わります」
「ズミイン・ルゥ。同じく」
「うむ……お前達には、特に重要な役目を任せたいと思っている。そのために呼んだのだが……」
ちらり、と大王はキンカクたちを見た。
それを合図にして、汗だらけの大男三人がやってくる。
その表情は、とても険しいものだった。
「その実力を、疑うわけではない。だが、確認はさせてほしい」
「当然のことかと」
「覚悟はできております」
流れるように、二人とも立ち上がり、長柄の武器を構えた。
それに応じる形で、ギンカクとドッカクも大矛を構える。
お互いに本身で、当たればただでは済まないだろう。
(流れが自然すぎる……)
狐太郎からすれば一種時代劇めいた流れなのだが、大王が招集した戦力を確かめるのだから、むしろ時代劇そのままであろう。
むしろ狐太郎だけが浮いている、ともいえた。
「あわわ……」
なお、ブゥも浮いていた。
二人の傍から、慌てて下がっている。
これで十二魔将の三席と言うのだから、世の中わからんものであった。
なお、首席は狐太郎である。
この国がどれだけ追い込まれているのか、よくわかる人事だった。
「ふぅ……」
既に体が温まっている、ギンカクとドッカク。
体格だけならばガイセイにも劣らぬ二人が、気合いの入った顔で大矛を構えている。
それだけでも、狐太郎の心臓は止まりそうだった。
(よく止まりかける心臓だな……)
それを前に、体格のやや劣るダイと、大きく劣るズミインは、まったくひるまずに長柄の得物を構えている。
それを見るだけでも、二人の肝が据わっていることはわかるだろう。
だがそれだけで、ギンカクもドッカクも納得しない。
肝が据わっているだけで勝てるのなら、十二魔将は壊滅していない。
「おおおお!」
「はあああ!」
流石は、歴戦の雄であろう。
今まで狐太郎の傍にいた戦士たちは、大抵若かった。
その若さの抜けきった、円熟した強さをもって、彼ら二人は大矛を振るう。
「ぬん!」
「ふぅ!」
それをダイとズミインは受け止めようとした。
しかし受けきれず吹き飛び、大きく後ろへ押されてしまう。
「おおお!」
「はあ!」
そこへ、情け容赦のない追撃が加わっていく。
一切手抜きなく、二人を斬り殺そうとしている。
「あわわ、兄さんと姉さんが……」
(二人が弱いわけじゃないんだろうなあ……)
伊達に長年、十二魔将を任されているわけではない。
ギンカクもドッカクも、急遽集められた二人を圧倒していた。
その姿に、ブゥも驚いている。
新入りに花を持たせる気はないらしい。
「二人とも悪魔使いと聞いていましたが、武術もやるものですね」
「ブゥと違って、無理ができるわけではないらしいからな。それで、どうだね」
「……あと数年は戦場で経験を積むべきでしょう。あの二人の攻撃を凌いでいることは大したものですが、攻勢に出れなければ勝ちはない」
大王の問いに、キンカクは冷静な意見を述べていた。
少なくとも『こんな雑魚が十二魔将になりたがるとは何事だ』と怒り出してはいない。
「しかし、この間戦った西重の黄金世代とやらよりは大分マシですな。十席、十一席を任せるには十分でしょう」
「そうか……それを聞いて安心した。君が太鼓判を押してくれるのなら、誰も文句は言うまい」
「あの、合格なら止めてほしいんですが……」
(すげえ怖い……死人が出そうだ)
※
今更だが、ルゥ家は元々子爵だった。
だがブゥが狐太郎の護衛になったことで、伯爵へと格上げされていた。
つまりルゥ家はジューガーによって、以前から厚遇されていたのである。
そのこともあって、ブゥの兄と姉は招集に応じていたのだ。戦時下の強権で、無理やり呼んだわけではない。
大王に招集され、十二魔将の席を預かる。
その大王の顔を立てるべく、奮起していた二人だが、結局古参の二人には力及ばなかった。
当然と言えば当然だが、やはり二人は申し訳なさそうだった。
「流石はギンカク様、ドッカク様。私も武には自信がありましたが、まったく及びませんでした」
「危うく、大王陛下へ恥をかかせてしまうところでした。より一層、精進いたします」
「……頑張ってください」
その二人とブゥはそろって、狐太郎と小部屋で話をしていた。
やはり今後のことについて、ある程度話をしておきたかったのである。
(凄い普通だな、二人とも……)
大王や討伐隊の面々は、狐太郎に対して同僚のように振舞う。
四体の魔王は、狐太郎へ家族や友人のように振舞う。
その一方で、精霊使い達や竜騎士は、狐太郎というか精霊やドラゴンへ注視する。
こうも普通に対応をされると、逆に困ってしまう。
なにせこの場合の普通とは、『四冠』への普通なのだ。
狐太郎が、いろんな意味で上司である。
(普通だからこそ、やりにくいな……)
特に抑揚がない相手、というのが逆に新鮮に感じられた。
まともな社会人からまともな上司扱いされると、自分がものすごく偉くなったようである。
実際そうなのだけども。
「は、はは……十二魔将の仕事は大変だと思いますが、頑張りましょう」
「精進いたします」
「全力を尽くします」
自分でも十二魔将の仕事云々を教えられる状況ではないので、ますます困る狐太郎。
自分の今いる地位が、分不相応であることを改めて思い知らざるを得なかった。
どうしようとは思うが、まさか冗談を言って和む相手ではあるまい。
そして狐太郎自身、冗談が得意でもなかった。とりあえず仕事の話をすることにする。
「……お二人とも、空論城についてはご存知ですね」
「はい。そこへ赴き、多くの悪魔から協力を取り付け、ブゥにとりつかせるということですね」
「我らは悪魔退治の専門家であり、交渉は不得手ですが、全力を尽くさせていただきます」
(やっぱり交渉は俺がやるのか……)
悪魔との交渉というのを、一度やった狐太郎である。
ある意味唯一役に立った機会だったが、二度とやれるとは思っていない。
というか、二度もやりたくなかった。
「すみません、狐太郎さん。僕たちにとって悪魔は、使うか倒すかだけでして……」
「いや、いいんだ……一緒に行ってくれるだけでも心強いから」
ブゥが謝ってくるが、しかし最初から期待していない。
悪魔の巣窟を通り越して、悪魔の総本山のような無法地帯である。
誰も行きたくないであろう場所へ、一緒に来てくれるのだ。
そのうえ悪魔退治の専門家というのは、うってつけであろう。
(あの四人は来たがらないだろうし……実際何があるのかわからないしな)
悪魔の王を従える狐太郎は、悪魔の怖さを知っている。
だからこそ今回は、侯爵家の四人を置いていくつもりだった。
実際、あの四人が今回役に立つとも思えなかったわけで。
※
「うぅ……わ、我が校から、近衛兵が誕生するとは……!」
「なんという光栄……なんという栄誉!」
「家柄ではなく実力で……戦場での武勲で名を上げる……君たちこそ真の貴族だ」
今回の動員で、ドルフィン学園の教員や生徒も、心得の有るものは招集されていた。
当然ながら、彼らはバブルたち四人に会いに来て、彼らの出世を大いに喜んでいた。
(やっぱりとんでもないことになっちゃったね……)
(ああ、想定通りだがな……)
(どうするんだよ! 想定していたんならなんとかしろよ!)
(なんだか、物凄いことになってない?! 雰囲気が異様なんだけど!)
ネゴロやフーマのような日陰者は、そうそう立場が変わらない。
しかし侯爵家の四人が、四冠の側近として、王女の護衛さえ務めている。
これは実質近衛兵と言っていいだろう。
「あの……風が吹いたら割れるバリア……投石も防げなかったクリエイト使いたちが……こんな立派に……!」
大喜びしている教員たちだが、当然一切誤解などない。
彼ら四人は狐太郎の護衛になるため数年かけて鍛え、そのままの流れで大戦争に参加して武勲を上げたのだ。
総大将である狐太郎とダッキを守るという、この上ない誉を。
彼らは四人の実力を知ったうえで、戦争に参加して生き残ったことを喜んでいたのだ。
「戦場で怪我を負い、引退して……失意の日々を過ごしてきたが、こんな望外の喜びを得られるとは……私の人生は、お前達を鍛えるためにあったのだな……!」
「もう君たちのことを、生徒扱いすることはできない。英雄として、偉人として扱うべきだろう」
「あの何一つ褒めるところがなかったバブルが……こんな素晴らしい貴族になるなんて……」
「ロバーがよくやってくれたんだろう、ロバーは以前から素晴らしい生徒だったからな」
(私に対してなんか失礼じゃない? 英雄扱いされてなくない?)
(適切だぞ)
(うん)
(俺もそう思う)
先日ホワイトへシュウジが『私は発破をかけただけだ』と言っていたが、この四人に対しては違う。
元があんまりよくなかった生徒たちを、学園が総出で推して結果大成したのだ。ある意味学園の勝利である。教員たちが喜ぶのも当然だろう。
「聞けば、今度は空論城へ赴くそうじゃないか! あの危険地帯へ踏み込む四冠様を、警護するとは……」
「ああ……これはもう、彼ら四人で本を作れるほどですね!」
(なんか行く流れになってる……!)
ドラゴンズランドへ行きたいだけだった四人は(うち二名はそんなに行きたくない)、なぜかドラゴンズランドへ行く前に悪魔の巣窟へ行くことになっていた。




