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最終ステージ 月深層

宇宙戦艦(スペースシップ)権限神器(マスターキー)

偽神装填(ゴッドオン)現身召喚(アバターチェンジ)!」

「アバター技! 大、黒、天! シヴァぁああああああ!」


 余りにも強大であるがゆえに、余りにも多くの概念を背負う神。

 その荒々しい姿が描かれた軍服を着て、天命を授かった一般人は、六人目の英雄として立つ。


『来るがいい、偽物め、イカサマめ、インチキめ!』


 それに対するは、この事件の元凶。

 宇宙の怨霊、科学者、技術者たちの総意。

 すなわち……。


 ルナティックシリーズ、ナンバー0 フロンティアスピリット。


 開拓者の魂、フロンティアスピリット。

 新しい明日を求める怨霊と、それの生み出した機械の怪物。


『力を得て、増長しただけの分際が……神気取りが! 大口を叩くな!』


 無数の工作機械を、攻撃のために使用する。

 強固な素材を加工するための工作機械は、必然的に膨大なエネルギーを発揮する。

 それは少しの細工で、攻撃手段へと変化する。


 相手が対丙種級装備、軍事兵器を身に着けていたとしても、突破できない道理はない。

 なぜなら、その軍事兵器を生産するための設備でもあるのだから。


「アバター技!」


 だがそれに対して、兎太郎は一切怯えない。

 むしろ完全に無視して、三叉槍、トリシェーラを取り出して構えた。 


「シン破壊!」


『?!』


 放たれるのは、破壊の魔力。

 三又の槍から放たれた、電撃にも似た力の波動。

 それはフロンティアスピリットではなく、中央部であるエネルギーの蓄積地点を狙っていた。


『貴様!』


 流石に、このアンチムーブバリアの内部で、さらにバリアがあるわけではない。

 フロンティアスピリットは、身を挺して守るしかなかった。

 巨大なチューブの数本が切断され、バチバチと火花が散る。


『貴様……最初からこれを?!』


 困惑するフロンティアスピリットだが、即座に訂正する。


『ああそうだったな! お前たちはもう戻れないのだったな! ならば自分の命よりも、ため込んだエネルギーの解放を狙うか!』


 久遠の到達者が突入したことにより、魔法陣は殆ど崩壊している。

 時間を置けば回復するが、それは一日や二日という単位だろう。

 もちろんフロンティアスピリットにとって、普通ならば少々の遅延でしかない。

 だが目の前に敵がいて、大出力の攻撃手段を持っている以上、その一日二日は永遠に等しい。


『どうせ無意味に死ぬのだからな!』


 無意味な死を蔑む亡霊は、気づかない。

 他でもない己こそが、自爆という手段を選んでいることを。


『お前の死に、意味などない! お前がこれを破壊できたところで、何もかわりはない! お前は死ぬし、世界はお前を忘れる! 永遠に続く昨日と同じ明日に、埋没していくだけだ!』


 変化、革新、飛躍、発展、向上。

 それ以外のすべてが無意味と、亡霊は叫ぶ。


『ならば貢献しろ! ここで負けて、悲劇の英雄にでもなれ! 最後まであきらめない姿勢がどうのと、美談になれ! ここまで来たのだ、それで満足して死ね!』


 重厚な声で、圧迫していく。

 だがしかし、兎太郎はひるまない。

 相手にもしない。


「アバター技!」

『私の邪魔をするな!』

「シン崩壊!」


 小さな破壊の爆弾が、大量に発射される。

 それは一発一発が膨大なエネルギーを秘めており、フロンティアスピリットに当たるや否や炸裂した。


 大量のチューブを破壊し、さらに機能を削っていく。


「アバター技」

『止めろ、止めろ! 私たちの成果を、計画を、信念を、情熱を……砕かないでくれ!』

「シン決壊!」


 放たれるのは、力の波。

 その波を浴びるだけで機体が崩壊していくが、それでもフロンティアスピリットは回避しない。

 

『もう嫌だ、なぜ私たちは夢を諦めないといけないんだ! なぜ誰にも迷惑などかけていないのに、悪者呼ばわりされないといけないのだ!』


 まさに、怨念だった。

 それは今の行いを省みることなく、過去の後悔を叫ぶばかりだった。


『いやだいやだいやだ! みんな死んでしまえ!』


 この球体の内側にある、すべての工作機械が狙いを定めた。

 トリシェーラを振り回す、兎太郎を射殺しようとする。


「そんなことは、させません!」


 そのうちのいくつかが、爆発とともに砕け散った。


「私たちのご主人様に……手出しなんかさせません!」


 ハーピーであったはずのムイメは、まるで幽鬼のような姿になっていた。

 限りなく人間に近づいた姿で、鎧や剣で武装し、工作機械を支えるチューブを切り刻んでいく。


「そうよ! ここまで来たんだから……最後までやり切ってやるわ!」


 ワードッグ、キクフ。

 彼女もまた人に近づき、手にした武器で砲台となった工作機械たちを切断していく。


「この旅がここで終わってしまうなら!」

「ここまでの苦労を水の泡にしないためにも!」


 ハチクもイツケも、分かれて切り裂いていく。

 シヴァの眷属である、ガナ。仮想された存在の力を受けた四体は、その武器を主のために振るう。

 もはやこの空間は、一方的な破壊によって満たされていった。


『止めろ、止めろ! 兵器など嫌いだ、科学の忌み子だ! そんなもの、あってはならないのだ!』


 所詮、工作機械。

 どれだけ出力があったとしても、どれだけの精度をもっていたとしても、想定した使い方をしているわけではない。

 実際に軍事兵器と戦うのならば、まずあてることが無理だった。


「アバター技……!」


 ぎん、と兎太郎の第三の目が光った。

 一瞬光っただけではない、より一層輝き続ける。

 力を溜めている、これでもかと溜めている。


 それが、最大出力だと分かる。

 工作機械に取り付けられた、高精度のセンサーによって威力が想定される。


『待て、待て、待ってくれ! 死ぬならお前ひとりで死ね! これを壊さないでくれ! 壊すのなら、魔法陣の修復が終わってからにしてくれ!』


 怨念が叫ぶ。統一されていない意思が、好き勝手にてんでばらばらのことを言う。


『これを作るのに、どれだけ苦労したと思っている! お前にこれを壊す権利があるのか?! エネルギーを集めることに、どれだけ計算したと思っている!』


 まさに実体無き、個我を持たぬもの。


『ああだめだ、どうしてこうなる、こんなはずじゃない、宣伝したのが悪い、いや違う、そうか? そもそも宣伝なんかしたか?!』


 開拓者たちの怨念、ある意味では純粋な想い。

 他のすべてを切り捨てた、願いの塊。


『宇宙、星、外、世界……こんなに行きたいのに!』


 邪魔するものを、一切許さない。

 自分以外を悪とする、正義の心。


『邪魔を、するなあああああああ!』


 工作機械を通さない、純粋なエネルギー放出。

 それが、力を溜めている兎太郎へ向かった。

 だが、遅い。


「シン死壊!」


 第三の目から、今までで最大規模の光が溢れた。

 それはフロンティアスピリットの放つ攻撃を、あっさりと吹き飛ばし、さらにフロンティアスピリットの機体を完全に打ち砕いていく。


『あああああああああ!』


 そして、機体の崩壊によって、本体がむき出しとなった。

 兎太郎たちが当初の目的としていた、亡霊の本体。

 つまり本来の開拓者魂。


『やめろおおおおおお!』


 それさえも、破壊の力に呑まれていく。

 その本体は、理解していた。見届けることができないと分かったうえで、このまま果てるのだと確信した。


『やめてくれえええええ!』


 久遠の到達者は、自分が壊れた後、見届けられない結果が不安だった。

 未完成であるがゆえに、彼には成否がわからなかったのだ。


 だがその怨霊はわかっていた。

 自分が消えた後、この破壊の力は、エネルギーを溜めこんだ球体を粉砕すると。

 それによって、月の爆破は半端となり、地球を不安定にすることができないと。


「……みんな、こっちへ!」


 何の意味もない叫びを、兎太郎はした。

 そしてそれを悟ったうえで、四体も集まる。

 破壊の力を発し続ける、兎太郎の背中を全員で支えたのだ。


「……俺は、楽しかった。みんなは?」

「最悪ですよ、宇宙船の中は狭いし動けなかったし」

「ほんと。買った服、全部置いてきちゃった」

「うふふ……家にも帰れないしね」

「お父さんもお母さんも、心配しているんだろうなあ……」


 破壊を放ち続ける兎太郎を、誰も止めない。

 ただ、背中を押すだけだ。


「よし、行くぞ!」


「はい!」

「やっちゃえ!」

「いいわ……みんな一緒よ!」

「これで、御終いだわ!」


 第三の目が、ついに、完全に、エネルギーを溜めた個所を破壊した。

 それは使いようによっては、月を吹き飛ばしかねないほど危険なものだった。

 たかが対丙種装備では、防ぎようもない力。


 光の中へ、一人と四体は消えた。




「ご主人様は、あの亡霊をどう思っているんですか?」


「どうもこうもない、未練の塊だろ」


(凄いこと言うわね……)

(まあ母星を滅ぼそうとしている人を、他に言い表せないけども……)

(もうちょっとこう、言い方とかないのかしら)


 久遠の到達者内部の脱出ポッドで、最後に会話があった。

 宇宙の果てを目指す亡霊へ、ロマンの塊へ、兎太郎は何を想うのか。


「いいか、結局怨霊のやってることは、ただのテロだ。しかも、死んだ後のテロだ。なお質が悪い」


 周囲から見れば、兎太郎もまともではない。

 周囲へ負担を強いるし、勝手に物事を決める。

 しかしそれでも、確かに違うのだと彼は信じている。


「いいか、あの怨霊は死ぬ間際に『テロしてりゃよかった』と思っていた連中の、その残りカスだ。テロを実行しなかった連中の、愚痴の塊だ」


 数千年以上残った、宇宙への怨念。

 実体化しているそれを相手に、愚痴の塊とはよく言ったものである。


「あの怨霊の元になった連中はな、結局テロを実行しなかった。理由は色々あるんだろうが、やらなかったことに変わりはない」


 少なくとも記録上、ここまで大規模なテロは起きていない。

 そしてあの怨霊たちも、待ったとは言っていた。生前も死後も併せて、これが初犯なのだ。


「つまり、大してやりたくなかったってことだ」


 無茶苦茶である。


「本当にやりたいんなら、絶対に何があっても実行していたはずだ。財産を失おうが、仲間を犠牲にしようが、地位を投げ出そうが、生活を捨てようが。それが本当にやりたいことってもんだろう!」


 行動力の権化たる男は、生きている内に行動しなかった者たちをののしっていた。

 彼らは、彼らこそが、まず諦めたのだ。


 死んだ後で、他の物を失った後で、残った物にすがることが上等であるわけがない。

 他の物が残っているうえで、選択をしたわけではない。その逆なのだ。


「もうすぐ死ぬってときに、あれをやっておけばよかったと思うのなら、それは大したことじゃねえんだ。どうしてもやりたかったなら、生きているうちにやってるはずだからな」


 多くのことが、生前の彼らを縛ったのだろう。

 多くの事柄、どうにでもできないことが、彼らに我慢を強いたのだろう。


「我慢できる程度のことなんか、大したことじゃない。あれこれ理由を並べて諦めるなら、大したことじゃない」


 我慢なんかできないはず、諦めることなんてできないはず。

 そうでないのなら、大したことではない。


「今俺が皆を犠牲にしてまで突っ込むのは、俺にとって大したことだからだ。我慢なんかできない、諦められないからだ」


 自分の行動こそが、唯一の証明手段。

 自分のやりたいことが、自分にとって大したことだと証明するには、それを実行し続けるしかない。



「俺がみんなと一緒に旅をするのは、旅をしたかったからだ。それが俺にとって、大事なことだったからだ。それを嘘にしたくないから、俺は……みんなを旅に誘うんだ」

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― 新着の感想 ―
所詮生きていない死者の未練でしかない、生前には結局なんらかの……良心、保身、あるいは大切な人がいたかで実行しなかった妄念だからな……
[一言] 第318前コメントに対して 正しくそのとおりだろ、持説が一般人に信じられてるより教会の機嫌ひいては自分の命のほうが大事だったんだから てか本人は 「まいったどうでもいい採番にとんでもなく…
[気になる点] ガリレオの地動説が大したことじゃない事にならん?この論評の仕方だと
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