ステージ5 地下四階
全世界が、それを聞いていた。
もちろん兎太郎たちも、それを聞いていた。
ここまで来て、核心に近づいて、ようやく理解した。
自分たちが今どこにいるのか、誰と戦っているのか、何がかかっているのか。
それらがすべて、完璧に理解できていた。
今一行は、世界の命運を左右する場所へ潜入しているのである。
「良し、じゃあ行くぞ!」
兎太郎は歩き出したのである。
「えええ~~!? 先に行かないでください!」
「ちょっと整理させてよ! 心の整理をさせて!」
「私たちはご主人様ほど割り切りが良くないのよ!」
「お願いだから待ってちょうだい!」
だが四体は歩き出せなかった。
余りにも刺激的すぎる情報が頭に入ってきて、処理しきれなかったのである。
「そんなことをしている場合か!」
だが兎太郎は真剣に一喝していた。
「月の爆破の規模が、どの程度になるかはわからん! だがここが爆弾の中なのは確かなんだぞ! さっさとぶっ壊さないと、俺達は全員死ぬ!」
正論であった。
先ほどの亡霊たちが、今回の事件の犯人であることに疑いはない。
暴走する浪漫と化した亡霊たちが製造をしたのなら、あの非合理極まる機械たちも説明がつく。
そして立体魔法陣が存在するということは、ここは亡霊の策の要、爆弾の内部である。
爆破解体寸前のビルどころか、爆発寸前の爆弾内部である。誰がどう考えても、死ぬ。
「その上ここは、月面基地の真下だ! 逃げることもできないんだぞ!」
逃げようにも、ここは月面基地の真下。
月面基地が爆破されれば、生き延びることはできない。
「やりこみダンジョンでもない、あと百階もあるわけじゃない! あと一階分降りて、そこを叩けば最悪は避けられる! 少なくとも、ここにいてもいいことはない!」
正論ではあった。
大急ぎで現場へ向かえば、なんとかなりそうな距離である。
兎太郎がかなり慌てているので、やはり議論の余地がなく慌てる場面のようだった。
「……そうですね」
「……不本意だけど、しかたないか」
「ええ、急ぎましょう」
「迷っている暇はないのね……」
都市がどうなるか、自治区がどうなるか、母星がどうなるか。
いろいろ考えすぎたが、結論は出ていた。
とにかく急ぐしかない。
「よし、じゃあ……」
だが当然ながら、それがすんなりと行くはずはない。
相手にしても、兎太郎たちがうっとうしいだろう。
月が孤立した今、妨害しうるのは兎太郎たちだけなのだから。
「……まあ来るか!」
がちゃりと、兎太郎はツールを構えた。
この広い空間で、戦うのは吉か凶か。
四体もまた身構える。
とにかく戦って道を開くほかない。
そして、通路の先から現れたのは、ある意味では浪漫の代名詞だった。
「こりゃあまた……」
ヘンテコ、とは言わなかった。
現れた巨大な建設機械は、それこそ今までに比べてまともに見えた。
だがそれでも、酔狂であることに変わりはない。
安定が悪い二本の足、余り意味があるとは思えない五本の指がある二本の腕。
つまり、人型巨大ロボット。
ルナティックシリーズ、ナンバー4、ムーンブルー。
大量の工具を手に持つ、現場労働者。
巨大な月のブルーカラーが、地下四階のドームで立ちふさがる。
「いくぞみんな、変身だ!」
「はい!」
建設重機としての大きさを持つ、巨大人型ロボット。
しかし今更、ひるむことなどない。四体もまた、変身に対して身構える。
「携帯改造装置、後天的融合投射機!」
「情報装填、融合変身!」
「後天キメラ、+オーガ!」
「キメラ技! ハーピー+オーガ!」
「キメラ技! ワードッグ+オーガ!
「キメラ技! ミノタウロス+オーガ!」
「キメラ技! オーク+オーガ!」
四体全員が、たくましき大鬼へと変化する。
それでもなお相手の方がさらに巨大だが、四体は勇ましく挑んでいった。
「足下から切りくずせ! うかつに跳びあがると、着地までに叩き落されるぞ!」
「はい!」
なるほど、適切であった。
確かにうかつに跳びあがれば、そのぶん隙が生じる。
相手の重心が高いことも含めて、跳びあがらないほうが正しい。
しかし、それは戦術上の話である。
構造上、足元が硬いのは当然であった。
「うっ!」
「ぐっ!」
「ああっ!」
「きゃあ!」
四体は各々の技で、足首へ攻撃を仕掛ける。
しかし大鬼の体格や性能をもってしても、巨大なロボットの体重を支える足首を砕くことはできなかった。
(硬い! 当たり前ですけど、普通に硬い!)
(四体同時でも、全然効いてない!)
(攻撃した私たちが先に壊れちゃいそう!)
(このやり方じゃダメだわ!)
全員が、一気に諦めた。
鍛錬したことが一度もなく、そもそも自分の体でもない。こだわりも誇りもないからこそ、諦めが早かった。
「一旦下がれ! 攻撃が来るぞ!」
その、頑丈な体を活かした攻撃。ただの踏みつけ。
大鬼よりもはるかに大きな足による、四体を一度に叩き潰そうとする攻撃。
それを四体は、なんとか避ける。
こだわりがなくムキにならなかったからこそ、四体とも下がることができていた。
「……まずい!」
兎太郎は、そう叫んだ。
そしてそれを聞いて、四体は耳を疑った。
(ご主人様が弱音?!)
(ってことは、本気でヤバい?!)
(どうしましょう、このまま負けちゃう?!)
(なんで素直なの?!)
基本的に、兎太郎が『ヤバい』と思うのは、本当にヤバい時だけだ。
なまじ普段が楽天的だからこそ、今が極限のピンチであることを表している。
四体は一気に不安になって、一気に逃げ腰になった。
「マズいヤバい、このままだと全滅だ……! どうにもならん……!」
世の中には禁句というものがある。
如何に本当のことだったとしても、下の者へ言ってはいけないことがある。
それが、禁句だ。兎太郎はそれを連発していた。
「一体どうすればいいんだ~~!」
「ご主人様! 諦めないで!」
「いや、本当に、諦めちゃダメ! ご主人様が諦めたらだめでしょうが!」
「そうよ! ご主人様らしくないわ!」
「なんとかして~~!」
それこそ、虫のように逃げ回る四体。
彼女たちは猛烈な踏みつけを、なんとか走り回って避けている。
大鬼は見た目ほど遅くない。筋肉があるからこそ、足も速いのだ。
ただ踏んでくるだけなら、さほど問題ではない。
問題なのは、相手が別の攻撃に切り替えてきたときだ。
「きゃあああ! なんか、手に工具を持ち始めましたよ!?」
「ど、どうする気?! そのスパナとかドライバーをどうする気?!」
「ま、まさか?! 投げる気じゃ……」
「逃げて~~~!」
手に持った工具、巨大なそれを、無造作に投げてくる。
一つ一つが大鬼の倍はある工具は、当然ながら重くて頑丈だ。
そんなものが当たれば、大けがは免れない。
四体は必死に逃げ惑うが、不規則にバウンドする工具から逃げ切るのは難しい。
元より戦う心得などない四体である、無様に逃げ惑う他なかった。
「んん……まずはこの場を凌ぐ!」
比較的安全そうな場所へ下がった兎太郎は、その場しのぎに徹することにした。
突破口は見つからないが、諦めるわけにもいかない。
「携帯改造装置、後天的融合投射機!」
「情報装填、融合変身!」
「後天キメラ、+フェアリー!」
「キメラ技、ハーピー+フェアリー!」
今までは、あえて四体すべてを同じモンスターに変身させていた。
それを捨てて、ムイメだけをフェアリーに変える。
「シュゾク技、転ばせるいたずら!」
工具を投げ続けていたムーンブルーが、あっさりと転倒する。
その重量ゆえに、自ら受けたダメージも大きいだろう。
だがしかし、速やかに起き上がる。転倒しやすい体だからこそ、復帰を想定していたのだろう。
「携帯改造装置、後天的融合投射機!」
「情報装填、融合変身!」
「後天キメラ、+エンジェル!」
「キメラ技、ワードッグ+エンジェル!」
しかしその間に、キクフを天使へ変身させた。
編成を大きくいじり、前衛二体と後衛二体へ切り替える。
「キクフ! ハチクとイツケへ強化を!」
「分かったわ! シュゾク技……聖戦の天使!」
天使得意の強化技。
それによって大幅に攻撃力を上げた二体が、金棒を装備して襲い掛かる。
「シュゾク技、鬼の金棒!」
ごん、ごん、と装甲が大きくへしゃげる。
それは目視できるほどに、大きなへこみだった。
だがしかし、それは全体から見ればごく一部。
どう見ても、このまま倒しきれるとは思えない。
「時間だ……時間がない! 時間をかければ勝てるかもしれないが、みんなもう連戦で疲れている……!」
兎太郎は、このまま押し切れないと判断していた。
おそらくそれは、四体も感じていることだろう。
なにより、心が焦っている。
こんな戦い方、長く持つわけがない。
「……仕方ない、これだけは使いたくなかったが」
そう言って、兎太郎は一本のカートリッジを取り出した。
「これだけ、何の効果があるのかわからなかった。試しに使おうとしたが、みんな嫌がって断った……」
「そりゃそうですよ!」
「ご主人様、それを使う気?!」
「ど、どうなるかわからないのを使うの?!」
「待って、他の作戦がある筈よ!」
「だがやるしかねえ!」
ただでさえ自分の体が変わることは、とても恐ろしい。
何のモンスターとのキメラになるのかもわからないのでは、それこそ尊厳にかかわるだろう。
試し撃ちというのも、普通に怖い。
なにせ普通に不良品の可能性もある、その場合どうなるのか考えたくもない。
しかし、そんなことを言っていたら全員爆死だ。
それだけは避けなければならない。
「アレを使うぞ! 覚悟を決めろ!」
「いやああああ!」
「他人の体だと思って、好き勝手に~~!」
「今度はどんな体になっちゃうの~~!」
「あとで殺生するわ!」
キメラ技が廃止された理由の一つが、そこまで強くないという単純なことであった。
シュゾク技を使い分けられるというのは魅力的ではあったが、海辺で本物のマーメイドと戦うのなら、当然相手はショクギョウ技も使うだろう。
結局キメラ技は、違う姿になるのであって純粋な強化とは違う。今回キメラになった彼女たちは、元々弱いから結果として強化になっているだけなのだ。
とはいえ、それに対してなんのアプローチもなかったのか、と言えばそれも否だ。
そして、そもそも、キメラ技の目指すところからすれば必然の試みと言えただろう。
「携帯改造装置、後天的融合投射機! 情報装填、融合変身!」
「後天キメラ、+コンバット!」
四体のモンスターへ、本人確認のない施術がされた。
しかしそれは、今更であろう。
「きゃああああ!」
四体は、光の中へと吸い込まれた。
※
四体は、同じ幻を見ていた。
それは、確かにあった過去である。
「あのね、ご主人様がね、私の誕生日プレゼント、何がいいのって聞いてくれたの」
「よかったわね、聞いてくれて。場合によっては、とんでもないのをプレゼントされるから」
ハチクの誕生日、その一週間前のことであった。
「私、慌てていたから……ついケーキがいいって言ってしまって……」
「ああ、ケーキ……それなら……」
「ご主人様の手作りだったらどうしましょう……!」
ハチクは、とても怯えていた。
「私、ご主人様の作ったものを食べたくないわ!」
「ですよね~……ご主人様、無駄に張り切りますから」
「レシピ通りじゃなくて、俺独自の、とかやりそうだよね」
人間やオーク、オーガなどは、雑食性である。
バランスなどはともかく、大抵のものを食べることができる。
しかしミノタウロスやハーピー、ワードッグなどは食べられるものが限られている。
そのため、自動販売機などでも、どの種族が食べられるのか、アレルギー表示のように細かく書かれているのだ。
もちろん、素人には危険である。
「ご主人様のことだから、レシピ通りに作っても、自分で味見をして『不味い! こんなもの、ハチクには食わせられない!』とか言って、人間好みにしそうなのよね」
「お腹壊しちゃう~~!」
なぜ誕生日プレゼントで、健康被害を心配するのか。
それは相手が馬鹿だからである。
「案外、材料を自分で調達しようとするかもしれませんね……」
「ありえる……間違えて違う野草を……」
「いやああああああ!」
毒キノコをケーキに使う可能性さえ考えられた。
少なくとも四体はそう思っていた。
「よし、みんな揃ってるな! ハチク、お前の誕生日のケーキなんだが!」
颯爽と、上機嫌な兎太郎が現れる。
「ご主人様、お願いします! お店で売ってるケーキにしてください!」
「何言っているんだ、ハチク。そりゃそうだろ」
彼はそう言って、一枚のチラシを見せた。
「この都市の近くに、ミノタウロスの自治区があるんだ。そこに有名なケーキ屋があったから、誕生日当日に全員分予約したぜ」
「……やったわ!」
その有名なケーキ屋は、本当に美味しいと評判だった。
ちょっとお高いが、それでも誕生日プレゼントと一緒で考えれば、恐縮するほどではない。
普通の意味で、嬉しいプレゼントだった。
「ご主人様にしてはやりますね~~」
「一応聞くけど、私たちの分はミノタウロス用じゃないのよね?」
「ああ、ミノタウロス用なのは俺とイツケだけだ」
(食べられるけども、別に好きってわけじゃ……)
中々の気配りである。ちょっとできすぎなぐらい、最高の誕生日になりそうだった。
「じゃあ今から出発だ。ミノタウロス自治区まで行こうぜ」
だが、それまでが大変だった。
「……まさか徒歩ですか?!」
「いやいや、ムイメ以外は自転車。もうレンタルしてあるから、直ぐ出発できるぜ」
「大差ないわよ! っていうか、一週間自転車の旅?! 帰りもいれたら二週間?!」
「帰りはバス」
「行きもそれでいいでしょ!」
「盛り上がってきたな!」
「違う!」
※
そして、ミノタウロス自治区まで、一週間での強行軍。
疲れ切った一同は、なんとかケーキ屋にたどり着き、ケーキを食べた。
そして 帰りのバスに乗った。
「……あんま美味しくなかった」
「ミノタウロス用だもの、仕方ないわ」
「ハチクは美味しかったか?」
「ええ、もちろん!」
一人と四体は、もう疲れ切っていた。ムイメは自転車ではないが、一週間飛んでいたので同じである。
それこそ、バスの中に入ったら眠気が襲ってきたほどだ。
「……今気づいたんですけど、私たちハチクの誕生日プレゼント用意してませんね」
「一週間自転車だったもの……買う暇ないでしょ」
「ご主人様が悪いわ……全部」
「うふふ、いいわよ。結局ケーキは美味しかったし、みんなに祝ってもらえたし……帰りはバスだし」
救いがあるとすれば、ハチクが結構嬉しそうだったことだろう。
それを見ていると、他の三体も救われていた。
「忘れられない誕生日になったわ。ご主人様、ありがとう」
「じゃあ来年も」
「来年は、通販で買って」
※
彼女たちは、思い出していた。
あの揺れるバスの中で、全員で一緒に寝て、家でも寝て、そのまま一週間ぐらいダウンしていたあの誕生日のことを。
忘れられない、あの、誕生日前後の二週間を。
もう二度とごめんだと思った、辛かった二週間を。
馬鹿なご主人様の、馬鹿ぶりを。
なぜか思い出すと、悪くないような気がしている、馬鹿々々しい思い出を。
それが詰まった、あの星を。
『……死にたくないです』
『うん、みんなで生きていたい……』
『嫌なことも、みんな一緒なら、後で笑い合える……』
『この旅だって、きっと笑える思い出に……!』
思い出す。
彼女たちの心は、人に従ってきた日々を思い出す。
人に従ってきた、素晴らしい日々を思い出す。
『感じます、私たちの中の力を!』
『私たちの中で、眠っていた力を!』
『他から加わったものじゃない、お父さんやお母さんから受け継いだ力を!』
『もっともっと、ずっと昔から継いできた……必死で生きる力を!』
人に従ってきたモンスターが、さらなる力を求める。
人を守るために。
『そして、その先にある力を!』
※
「シンカ技! コンバットハーピー!」
「シンカ技! コンバットワードッグ!」
「シンカ技! コンバットミノタウロス!」
「シンカ技! コンバットオーク!」
四体それぞれが、本来の種族に戻っていた。それどころか、体格が増している。
タイカン技同様に、小型犬が大型犬、狼へなるように。
種族として、正当に進化していた。戦うための進化を遂げていた。
「……これはまるで、品種改良を重ねたみたいな」
兎太郎は、自分の仲間を見ていた。
軍用生物として進化した、己の仲間の背中に見ほれていた。
「肉体へ情報を加えて、戦うための進化を想定し、一時的に発現させたのか」
モンスター本来の肉体を、さらに進化させる。
人間を、守るために。
「シュゾク技! ウルトラバードストライク!」
ドームの中で、巨大なハーピーが飛翔する。
本来ハーピーに備わっていたシュゾク技を、強化された肉体で使用する。
巨大な翼をもつにも関わらず、一瞬で加速し、敵の胴体へ突撃する。
先ほどまでのように、無理やり本来と違う形にされていたのとは違う、純粋な強化による純粋に強力な一撃。
それは強固だったムーンブルーの装甲をゆがめ、さらにその先にあるフレームにさえ悲鳴を上げさせた。
「シュゾク技! ウイングトルネード!」
さらに追撃として、大量の羽をばらまきながら竜巻を起こす。
ムーンブルーに搭載された、各種センサーを完全に妨害する。
「シュゾク技! ポールアタック!」
その隙をついて、キクフが体当たりを仕掛ける。
犬が走り、自ら当たっていく。
その衝撃によって、さらに機体は破壊されていく。
だがムーンブルーもただでは負けない。
工具を手に取り、妨害されながらも投擲する。
「シュゾク技! ボールキャッチ!」
しかし、遠距離攻撃など無意味。
四方八方へと投げられる工具を、すべて口で咥えて吐き捨てた。
この程度、今の彼女にとって遊びにもならない。
ならばと、素手の攻撃に切り替える。
相手が巨大化したのなら、むしろ殴りやすい。
乱雑に腕を動かして、どこかにいるモンスターを潰そうとする。
「シュゾク技! 大牛車輪!」
その雑な攻撃を、回転するハチクが殴り飛ばす。
ミノタウロスの、連続攻撃。
一度当たり出せば、決して止まることはない。
「いやああああああああ!」
裂ぱくの気迫と共に、猛牛の連続攻撃が体へ刻まれる。
弱点もへったくれもない、単純に力負けして押し込まれていく。
「シュゾク技! 雄牛大斧!」
鬼が金棒を操るように、ミノタウロスは大斧を操る。
巨体に見合う巨大な斧で、装甲の歪みへ深々と切り込んだ。
火花が散り、異臭が溢れる。
ブルームーンは、いよいよ崩壊の時を迎えつつあった。
「ふしゅううううううう……」
そして、控えていたのはイツケ。
最大まで力を溜めこんでいた彼女は、その技を発動させる。
それは先制技の逆、後攻技。
敵や仲間の誰よりも遅く行動する代わりに、特殊な効果を得る技である。
オークの、得意とする技である。
「シュゾク技! 八百万豚々拍子!」
仲間の行動回数、敵の行動回数。
それらを合わせた分だけ攻撃する、オークの最終奥義。
「はあああああああ!」
ムーンブルーの、手がちぎれる足がちぎれる。
フレームが折れ、装甲が吹き飛び、モーターが砕け、バッテリーがつぶれる。
原形を粉砕する、巨大化したオークの殲滅戦。
それは味方が強いほど、敵が強いほど効果を発揮する。
「これ以上……私たちの旅を……邪魔させない!」
精緻なドームに、ムーンブルーの破片が突き刺さっていた。
もはやどれだけ修理しようとしても、元に戻ることはないだろう。
ムーンブルー、撃破。




