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ステージ2 地下一階

祝、総合評価 10,000 pt突破!

 キメラ技。

 モンスターを後天的に改造する技術。


 各種族だけが持つ得意な力、シュゾク技やその適性を他のモンスターが使えるようにする技術。

 その目指すところはともかく、一応の完成に至っていた。


 しかし、既に人類へすべてのモンスターが恭順を誓っていた状況で、わざわざ他のモンスターの能力を付与する意味はあるのか。

 モンスターから不興を買ってまで、可変式のモンスターにする意味は。


 限られたモンスターで、複数の状況へ対応しなければならない。

 そんな事態など、そうそうない。


 そう、それは永遠に近い時間、眠っていた技術だった。

 今まさに、六人目の英雄へと引き継がれたのであった。



 キメラ技は、一種のバフである。

 戦闘が終わると、四体のモンスターは元の姿に戻っていた。


 自分で体を触って、おかしなところがないのか確認していた。

 なにせ体が全部変わったのである、そりゃあ怖いだろう。


「さて……これで状況は大幅に改善したな! こりゃあ映画化決定だな!」


 なお、兎太郎。

 彼は一気にテンションが上がっていた。

 なにせ彼の認識において、過去の遺跡に入って、封印されていた武器を手に入れたのだ。

 その上恐ろしい怪物を倒したのである、これは伝説の始まりと言ってよかった。


「住! 酸素! 戦力! もうとんとん拍子と言っても過言ではないな!」


 彼の仲間たちは尊厳を脅かされていたのだが、彼はノリノリだった。

 さっきまで幽霊におびえていた、とは思えないほどである。


「さあみんな! 今度は水と食料だ! 月面基地を探検するぞ!」


 目をキラキラさせて次の行動を促す兎太郎。

 なまじ発言に正当性があったので、誰も文句が言えなかった。


「喉乾きましたね……」

「おなかすいたわね……」

「そうね、お茶しましょ……」

「帰りたいわ……」


 本当に冒険めいてきて、彼女たちの心労は甚だしかった。

 本音を言えば、まず兎太郎をしばきたかったが、多分なんの意味もないだろう。

 先ほど宇宙船でどれだけ罵ってもけろりとしていたのである、なんの意味もないと知っていた。


 それに、本当に疲れていたのである。一息入れたかったことも、ウソではない。


 それから彼らはパンフレットに従って、食堂につく。

 幸いというべきか、既に食料の準備はされていて、少し温めるだけで『普通』の食事にありつけた。

 一同、とりあえず自分の種族にあったメニューを選び、食べながら休憩をしていた。


 やはり食堂はとても広大で、五人程度で使っていると寂しさを覚える。

 改めて、この月面基地に自分たちしかいないのだ。


「とりあえず、最悪の事態は避けられたな! こりゃあ映画化決定だ!」

 

 相変わらず映画化うるさい男だが、この状況ではその賑やかさがありがたい。

 確かに『伝説の武器をゲットしたが食べ物が無くて餓死』というのは映画になるまい。

 サバイバルをする余地でもあれば話は別だが、月面にたんぱく質もでんぷんもあるまい。

 畑で食料を得るとしても、まあ期待できないだろう。


「確かにご飯があってよかったですね」


 ハーピーのムイメは、消化が簡単で量が少なくて、高栄養の食事をちまちま食べている。

 手が無いこともあって、それこそ鳥のように頭を直接皿に突っ込んでいる。


「本当よ~~それこそご主人様を食べるところだったわ」


 割と冗談にならないことを言うワードッグのキクフは、両手で直接大きな塊を食べていた。

 手があまり器用ではないワードッグは、こうして手でつかんで食べることを好んでいる。


「おなかがいっぱいになったら、少し落ち着いてきたわね。宇宙食だと、どうしても変な感じがするもの」


 ミノタウロスのハチクは、どっさりと量のある植物性の食事をたくさん食べ続けていた。

 一度に口に入れる量は多いのだが、その一方で長くかんでから呑んでいる。


「本当だわ。こうやって机の上において、みんなで食べるのが一番よ」


 オークのイツケは、わりと普通の食事を、上品に箸で食べている。

 それこそ、普通の人間の食事と大差がないだろう。


「んで、食べながら聞いて欲しいんだが……」


 兎太郎は、楽しそうに話題を切り出した。


「ムイメが知ってるかわからないから最初から説明するんだが……幽霊対策についてだ」


 馬鹿にされているムイメだが、実際幽霊対策など知らないので、黙って啄んでいる。


「みんなで倒したアレは、幽霊の本体じゃねえ。どこかにある本体を叩かなければ、俺たちはまたアレに襲われるぞ」


 この世界において、幽霊とは存在が証明されている。

 どんな条件で幽霊が生じるのか、既に再現可能なほどはっきりわかっているのだ。


 そして通常の『幽霊』とは、一種の分身である。

 本体が発した魔法のようなものであり、自動追尾性能を持っているだけで、倒してもそれは魔法を相殺した程度の意味しかない。


 雪女で例えれば、人の形の雪像を遠くから操っているようなものだ。

 その雪像を砕いても、本体に影響を及ぼすことはないのである。


「幽霊の本体は、遺体とか、墓地とか……怨念が集まりやすい場所にできる。場合によっちゃあ、屋敷そのものが本体になることもあるらしいな」


 幽霊の本体を叩かなければ、時間を置くごとに分身が放たれてくる。

 それを根絶しなければ、長期的に安全が確保できない。


「なんで月面基地に幽霊がいるのか、怨念が集まっているのかはわからねえ。だが助けがくるまでこの基地で暮らす以上、その本体を掃除しねえと夜トイレにもいけねえぞ」


 子供を嚇すような文句だが、実際幽霊がいつ現れるのかわからない状況では、トイレの個室に入るのも怖いだろう。普通に死ぬ。

 なお、食事中である。


「やっぱり、これってサプライズじゃないんですね……」

「幽霊をサプライズで用意するってどういう状況だよ」


 幽霊を発生させる条件は、簡単といえば簡単である。

 吹雪の山の中で雪女が生まれるように、活火山の溶岩でサラマンダーが生まれるように。

 膨大な人間の怨念を一か所へ向かわせたとき、幽霊の本体は生まれる。


 サプライズで幽霊を用意するには、それだけたくさんの怨念を準備する必要があるということだった。


「で、幽霊を掃除した後はどうするの?」

「幸い、食事自体はたくさんあるからな。あの宇宙船に乗っていた人たちの、二日分の食料がある上に、いざってときのための保存食もあるはずだ。それを使えば餓死はねえだろう」


 幸か不幸か、この基地の中には十分な食料や水がある。

 あの事故によって生き残ったのは一人と四体だけだが、だからこそ逆に食料は余っているのだ。

 この時代、この世界では食料の保存技術も発展しており、それゆえに腐ることを心配する必要もないのだ。


「とにかく、母星からの救助を待つ。長丁場になるんだ、気を強く持たねえとな! 月面基地でサバイバル……映画化決定だな!」

(ご主人様なら平気なんだろうな……)


 おなかが膨れて冷静になると、兎太郎の能天気さが頼もしく思えてきた。

 よく考えれば、兎太郎は間違っていない。

 救助を待つしかない状況では、この心の強さが大事なのだ。


「そうですよね、ポジティブに行きましょう! 本当に映画化すると思いますし!」

「ポジティブねえ……私ご主人様に会ってからその言葉が嫌いになったんだけど、今はそうするしかないか」

「みんなで戻りましょうね、帰るまでが旅行だもの」

「ええ、なんとかなるわよ!」


 兎太郎の性格を心が強いというべきかは議論の余地がある。

 だが確かにこの馬鹿なら何か月でも大丈夫なんだろうなあ、という安心感があった。

 そのあたり、ある意味人徳なのかもしれない。



「で、幽霊の核を探すのが私ってわけね……」

「仕方ないだろう、幽霊の後を追うマジックアイテムなんてねえんだから」


 ワードッグのキクフが、四足歩行をしながら床に鼻を押し付けている。

 普段は二足歩行をしているワードッグだが、やろうと思えば普通の人間よりも上手に四足歩行ができる。

 それこそ、骨格の構造が違うのだ。


「私、特殊な訓練とか受けてないんだけど……あんまり期待しないでよね」


 人間が幽霊を目視するように、幽霊の持つエナジーを鼻で探るのはキクフにしかできないことだった。

 とはいえ、斥候職などの訓練を受けていない彼女には、そこまで自信がなかった。

 ワードッグならどうにかできるだろうと思われても、じゃああらゆる人間は人間の特殊技能を全て兼ね備えているのか、という話だろう。


 それでもキクフがしたがっているのは、それこそ他に当てがないからである。


(っていうか、行きつく先は墓とか実験場とか……遺体があるところなのよね……)


 あんまり考えないようにしているが、今自分は墓から出てきた怨念の匂いをたどっているのである。

 ワードッグだとしても、人間の遺体やら怨念やらが平気というわけではない。

 あんまり気乗りしない作業ではあるが、しかしトイレに行けないという事態は避けたいのだ。


(他にやりたいことがあるわけでもないしね……)


 追跡そのものは、当然のように順調だった。

 なにせここは月面基地、密閉空間である。定期的に管理者が巡回する程度なので、『雑音』が少ない。

 これが繁華街のど真ん中で人の出入りが激しければ、流石に追跡などできなかっただろう。


「こっちだわ」

「地下一階か」


 階段ではなく、スロープ。

 下へのなだらかな坂道の先に、幽霊の本体があるらしい。


 正直に言えば、坂を下るというのは気分が良くない。

 その先に幽霊が待っているのなら、なおさらだ。

 あくまでも気分の問題ではあるが、それでも前に進みにくかった。


「よし、行くぞ!」

(強い……)


 率先して先へ進むのは、やはり兎太郎だった。

 それこそ、意気揚々としたものである。

 勇敢な馬鹿も、この状況では頼もしすぎる。


「それにしても……月面基地にも地下ってあるんですね」

「そりゃああるでしょ。地下の方が相対的に安全だし」


「地下に怨念の元がある……どういう状況なのかしら」

「余り考えたくないけど、あの銃、キメラ技を見る限り……モンスターの実験施設でもあったのかもね」


 灯があるとはいえ、広くとも密閉された、無音の空間。それはやはり恐ろしい。

 彼女たちは無駄話をしながら、己を奮い立たせて主に続いた。


 そして地下一階に降りても……特に変化はなかった。

 それこそ同じ施設なのだから、内装に違いなどなかった。


「地下一階か……臭いはどうだ?」

「ちょっとまってね……ん?」


 幽霊の臭いを嗅ごうとした、その時である。

 キクフだけではなく、他の面々も何かに気付いた。

 無音の密閉空間だったからこそ、その『音』に早く気付いたのである。


「……おい、みんな。準備しろ」


 明らかな、機械音だった。

 モーター特有の回転音や、タイヤやキャタピラなどの駆動音が、反響しながら近づいてきている。


 それに対して、兎太郎は後ろへ下がりながら銃のカートリッジを抜いた。

 天使ではなく、別のカートリッジを探す彼に対して、他の四体は不安そうになる。


「今度は私たちを、何にする気ですか?」

「スライムとかは止めてよね……その時は、アンタを殺すわ」

「どう考えても、幽霊じゃないわよね? 一体どうして……」

「考えている余裕はなさそうよ……!」


 明らかに、先ほどとは『敵』が違う。

 脅威の接近に対して、四体は想像力を働かせてしまった。


 そして、その予想を裏切ることなく、大量の『重機』が突撃してくる。

 遠隔操作が可能な、ショベルカーや掘削機、フォークリフトや月面用のトラックが走ってくる。


 どう考えても、幽霊ではない。

 その一方で、警報に反応して警備ロボットが動き出した、というわけでもない。

 どう見ても、異常事態であった。


携帯改造装置(チートツール)後天的融合投射機(ピースメイカー)!」


 だが状況は単純である。重機が暴走して、襲い掛かってきているだけだ。

 暴れてくる重機ならば、ぶっ壊すだけである。


情報(ロード)装填(オン)融合変身(メタモルフォーゼ)!」


 兎太郎が変身用の銃を構える。

 彼が選んだ『弾丸』は、極めて単純なものだった。


 大鬼、オーガである。

 

「後天キメラ、(プラス)オーガ!」


 重機をぶち壊す戦力。

 それは重機さえも遥かに超える、圧倒的な力を持った戦士であった。


「キメラ技! ハーピー(プラス)オーガ!」

「キメラ技! ワードッグ(プラス)オーガ!

「キメラ技! ミノタウロス(プラス)オーガ!」

「キメラ技! オーク(プラス)オーガ!」


 ミノタウロスであるハチクには、さほどの変化がなかった。

 その体の脂肪が減り、筋肉へ変わったぐらいである。


 だが他の面々は顕著だった。

 筋肉量が増えるだけではなく、体格も大きくなっていく。

 小柄だったはずの三体は、一気にハチクに近づいていった。


 その強壮なる姿は、もはや戦士そのもの。

 強化を授かった彼女たちは、決死の表情で迎え撃とうとしていた。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 幽霊が自動操縦型スタンド扱い受ける世界なんか(スットボケ
[一言] 狐さんが、自分で決めた事と大差ない結果になるだろうと思っても話し合いをしたのは、こういうことになるからなのかー 「言ってることは正しいけど、死ね!」
[良い点] 筋肉筋肉ムッキムキ! 乙女が……! まぁ、そんなこと言ったら普段からそんな感じのハチクに悪いけど。 [気になる点] 食糧の話題が出たけど、種族が違えば食べるものも違うし食べる量も違うだろう…
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