暴力的な意識革命
牢にとらわれていた逮捕者たちが、大王の指示のもと解放されていた。
逮捕した憲兵たちに対してにやにやと笑い、或いは怒りの顔を向けている。
そして、憲兵たちは、それを止めることができずにいた。
普通に考えれば、大王が悪人だろう。
大王の部下だという主張を、嘘だと思って逮捕したのでなければ。
「なるほど……状況はわかった」
大王に状況を説明するよりも先に、憲兵隊の隊長は抜山隊を解放した。
幸い本格的な『取り調べ』はまだだったが、それでもかなり荒々しく捕縛されたので、怪我をしている者も多かった。
その中で困惑していた大王は、ため息を吐いた。
「……まずは抜山隊の諸君、申し訳ない。私は君たちが犯罪を犯したのだと信じ込んでいた」
「僕もです。貴方達ならやりそうだと思って……」
実際抜山隊も、カセイではもめごとを起こしていた。
お世辞にも褒められた素行ではなく、『前科』は多くあったのだ。
「大王様、俺達だって馬鹿じゃあありませんぜ? 今この状況でそんなことしたら、どうなるかわかってますって」
カセイでは割とやりたい放題だった抜山隊だが、それはある意味大丈夫だと思っていたからそうしていたのである。
もちろん現地の住人からすれば堪ったものではなかったが、それはそれとして退去処分などにはならなかった。
暴れていい場所などないが、ある程度は許容されている場所で暴れていたのである。
そのあたり、小悪党の方が賢しいのだ。
そして今のこの街は、どう考えても暴れてはいけない街である。
「ただまあ……ちょっと傷ついたっていうか?」
「な、大王様のために命がけで戦ったのにな?」
「いきなり謝られてショック~~」
「すまない」
「すみません」
大王と十二魔将が、そろって抜山隊に頭を下げている。
これが、既にとんでもないことだった。
「さて」
不快そうな顔で、大王が憲兵たちを見た。
憎悪や激怒ではない、不愉快。普通ならば、そこまで脅威ではない。
だが一国の大王が、憲兵に向けているとなれば話は違う。
「……この街を守るために奮戦している、君たちには頭が下がる。これだけの人数を逮捕するとなれば、さぞ大変だろう」
「も、申し訳ありません!」
一切、議論の余地がない冤罪事件だった。
大王の部下だと言い張るから逮捕したのに(実際には憲兵へつかみかかったことではあるのだが)、大王本人が来て自分の部下だと保証されたら、もう謝るしかなかった。
「市民たちの不安もわかる。いくら通常通りに営業している酒場の中とはいえ、見ない顔の男たちが連日昼から酒を飲んでいれば、さぞ不気味に思えるだろう。憲兵へ助けを乞うのも仕方がない」
大王は、謝罪を取り合わなかった。
「であれば、市民が悪いわけもない。この状況で疑心暗鬼においこまれても、仕方がない」
「もちろんでございます!」
「私の手勢に、非がないとはいえない。市民たちにも、何か心配りが必要だな」
疑わしきは罰せずとは言うが、疑わしいのなら通報するのも市民の義務であろう。
この状況である、市民の目は有効なセンサーだ。普段ならともかく、今ならばよそ者に過敏になることは正しい。
そうしてスパイや密偵の尻尾を捕まえる、というのもよくあることだ。
むしろ、市民を味方にしなければ、憲兵という仕事は成り立たない。
「身分証明書の提出を求めることも、極めて妥当だ。普段でもそうだが、今は有事だからな。携帯していないほうに問題がある」
「……はい」
「そして……身分証明書が盗品、あるいは贋作であると疑う気持ちもわかる。実際のところ、私の手勢であるという証明書は便利すぎるからな」
憲兵たちの気持ちもわかる。なぜなら、『大王直属のBランクハンター』という身分は、現状では便利に過ぎる。
麒麟がそうであるように、どこにでも入りこめてしまう。その身分証明書を見せれば、相手はうかつに踏み込んだ質問をすることができなくなるのだから。
「しかし……いきなり逮捕、或いは連行を要求するのは、些か問題だな。これでは、偽物だと決めつけているようなものだ。彼らが腹を立てても不思議ではない。私へ……とまではいわずとも、確認できるものへ連絡をするべきだったな」
「おっしゃる通りでございます!」
「身分証明書とて、本人確認ができるまでは紙切れだ。だが……これでは何のための身分証明書なのかわからない」
十二魔将や将軍、或いは大王や王女たち。
そうした面々の顔や名前を憶えてもらうことはできるだろうが、まさか討伐隊全員の顔や名前を憶えてもらうわけにはいかないだろう。
そんな手間をかけるより、普通に仕事をしてもらった方がありがたい。
ではどうすればいいのか。
そのための、身分証明書であろう。
「それともなにかね、君たちも憲兵隊の服を着ているというだけで、その服が盗品だったりするのかね?」
「い、いえ、そのようなことはありません!」
「まったく、困ったものだ……」
模範解答としては……。
『すみません、憲兵隊の者です~~不安に思われる市民の方から、通報を頂きまして~~身分証明書の提示にご協力願えませんか~~?』
『はい、はい、確かに本物ですね。ご提示ありがとうございます。大変恐縮ですが、このままここでしばらくお待ち願えませんか? 今、下の者に確認へ向かわせておりますので』
『……はい、ご協力ありがとうございました。ごゆっくりどうぞ~~……』
『市民の皆さん、ご安心ください。彼らはああ見えて、ハンター上がりの兵士なのです。身元もしっかりしております。もちろん問題が起きたときは、即座に対応いたしますのでご安心を』
などであろう。
下手に出過ぎている気もするが、慎重であるべきだった。
(警察って大変だったんだなあ……)
なお、麒麟は故郷に想いを馳せていた。
警察署を襲撃したこともあったので、いろいろと感慨深い。
多くの刑事ドラマで『証拠がないだろうが~~ん~~?』と犯人に挑発されるシーンがあるが、それは極めて正しい警察の体制だろう。
とりあえず逮捕しちまえというやり方では、一回はうまくいっても常態化させるとろくなことにならない。それを憲兵隊は、身をもって証明してくれていた。
「君たちが言った様に、私に雇われているBランクハンターであると詐称することや、身分証明書を窃盗することや偽造することは大罪だ。だが……偽物でなかった場合のことも考えて欲しかったな」
「おっしゃる通りでございます!」
誰がどう考えても、憲兵隊が不味かった。
この街の治安を守るべき憲兵が、率先して秩序を無視してしまっていた。
今回に限って、抜山隊は一方的な被害者である。
だがそれは、抜山隊と憲兵隊に限ったことであろう。
「しかし、しかしだ」
この場合、当事者はまだいる。
他でもない、通報をした市民たちだ。
「市民が怯える気持ちもわかる。彼らの気持ちを考えれば、我が手勢の身元うんぬんよりも、さっさと出て行ってほしかった、と言うのが本音であろう」
もちろん、抜山隊が犯罪を犯した、とは思っていない。
彼らはあくまでも法の範囲で動いていたし、周りが勝手に怯えただけである。
だが逆に言えば、周りを怯えさせてしまったことも事実だ。
市民が通報したのも、『誰なのか確かめてくれ』ではなく『追い出してくれ!』という趣旨のはずだ。
「麒麟、そして抜山隊の諸君。君たちには申し訳ないが、市民が怯えていることは真実だろう。彼らへの配慮として……君たちの宿舎の近くに簡易の酒場を用意する。恐縮だが、今後はそこで飲み食いをしてほしい。もちろん他の店に行くことを禁止するほどではないが、大勢で連日行くことは避けてくれ。特に、今回いた酒場には近づかないでくれると助かる」
大王は憲兵隊へ裁きを下すよりも先に、抜山隊へお願いをしていた。
まず市民がかわいそうである、という理由である。
抜山隊にしてもこんなことで大王から不興を買うのもつまらないので、あっさり頷いていた。
「足下をおろそかにして、市民の不満を見逃していた。これは私の不徳だな。それが私の耳に届かず、憲兵隊に届いていたというのは……それだけ君たちが市民に寄り添っているという証拠だろう」
今回の件は、特大の不祥事である。
一般ピープルが過敏になるのはいいが、プロである憲兵が極端なことをするのはいただけない。
今後も似たようなことが頻発すれば、それこそ密告社会の出来上がりである。
だがしかし、ここで憲兵隊を全員解雇、というのは無理だ。
押し通せなくはないが、実務に影響が及ぶ。
「そんな君たちへ罰を下せば、憲兵隊への不満が募る。あるいは……私への不満だな。チョーアン市民の目線で考えれば、私の手勢が周囲に迷惑をかけて、それを捕まえた憲兵を私が権力でつぶしたことになる」
プロの目線は大事であるが、アマチュアの目線、お客様の目線を忘れてはいけない。
今回のことで憲兵の信頼が上がっているだろう、客は満足しているのだから。
そんな彼らを解雇して、新しい人材をいれてもうまくはいかないだろう。
「今は非常事態だ。非常事態だからこそ、できないこともある。普段なら現場の責任者と憲兵隊の責任者をこの場で殺すところだが、諦めざるを得まい」
東方前線など知ったことか、という勢いで将軍一人を処刑した男である。
法への厳正さは、彼らも知るところだ。脅しではないこともわかっている。
「それに……元をただせば、抜山隊と君たちがお互いを良く知らないことが問題だったのだ。加えて言えば、私の手勢が昼から酒場に入り浸っているというのも、外聞が良くない」
憲兵隊に対してではなく、抜山隊へ顔を向ける大王。
彼の顔は、悪に満ちていた。
「抜山隊の諸君。君たちも他の隊のように、これからの戦争に向けて鍛錬を積んだ方がいいと思わないかね?」
「……いいですねえ」
抜山隊の顔もまた、悪に濡れていた。
※
憲兵隊というのは、ハンターではない。大きな街だけにある、警察組織である。
小さな町ならばハンターに防衛隊を任せることもあるが、大きな街では専門家が必要になることもあるのだ。
しかし当然ながら、腕っぷしの世界でもある。
強くなければ、暴れる者たちや逃げる者を拘束できないからだ。
当然訓練施設が存在し、体力づくりや試合の場もある。
比較的広く、何もない部屋。そこが格闘試合の場であった。
「憲兵隊と討伐隊。ともに役割こそ違えど、国家の為、市民のために戦う者たちだ。こうして拳を交えれば、きっと分かり合えるだろう」
「は、はい……」
「それにだ、お互いの技量を上げることも期待できる。今後はマメにこうした交流を行おうではないか」
今その試合場に、大王と憲兵隊の代表者が並んで座っている。
その周囲には抜山隊と憲兵隊がいて、これから試合をする者たちを見守っていた。
もちろん、麒麟ではない。
逮捕された者、逮捕した者が、お互いに武器防具を抜きで、一対一で向き合っている。
これから正に、試合をすることになっていた。
「へっへっへ……流石大王様だ、話が分かるぜ」
だがこれが試合だろうか。
笑っているのは抜山隊の隊員で、憲兵は笑うどころではない。
(これじゃあ私刑だ)
要は、抜山隊の隊員に直接暴力を振るう機会を与えただけのこと、
憲兵はただ、一方的に打たれるしかないのだ。
「やっちまえ! ボコボコにしてやれ!」
「すぐ終わらせるんじゃねえぞ!」
「なに言ってやがる! 後が閊えてるんだ、すぐ終わらせろ!」
「おう、任せとけ!」
抜山隊は、単純な集団である。
自分たちを不当に痛めつけた連中がいるのなら、そいつらを自分の手で直接痛めつけたいのである。
とはいえ、それは田舎の村娘でも同じなので、咎めるには値しないだろうが。
(……私刑で済むのなら、温情だな)
実際のところ、試合の場に立つ憲兵も、見守っている憲兵たちも、自分たちの非は認めていた。
頭から彼らを悪人と決めつけすぎて、法の基準を逸脱していた。彼らはあの瞬間、秩序ではなく感情で動いてしまったのだ。
自決するほど気に病んでいるわけではないが、処罰は当然受けるつもりだった。
ましてや暴行を加えた相手から、自分が暴力を受けるのは当たり前である。
この程度で済むのなら、と諦めていた。
厳正に法の裁きを受けるより、よほど軽いはずである。
(大王様の配下を、偽物だと断じて捕縛してしまったのだ。殺されても文句が言えないところだ……しかし)
改めて、憲兵達は思う。
抜山隊は、Bランクのハンターに見えない。
なぜこんな野卑な連中が、大王様の側近、十二魔将の配下なのだろうか。
(アッカというお人は貴族の子息だったらしいが……まさかこの場の全員がそうであるわけもないし……)
疑問は尽きないが、罪は罪だ。
確認を怠ったことや、彼らの行動に非がなかったことは事実。
法を守るべき人間が、法を守らなかったこと。その報いを、試合会場に立った彼は受けるつもりだった。
「さあ、交流を始めようではないか。私に気を使うことはない、存分に競いたまえ」
「……はじめ!」
公開処刑になってもおかしくないことが、こんな密室の私刑で済むのだ。
憲兵の責任者は、諦めながら試合開始を宣言する。
「おらいくぜえ!」
(……仕方ない)
抜山隊の隊員は、荒い動きで殴り掛かってくる。
それに対して憲兵は、裁きを受けるような心境で、ノーガードだった。
その直後、彼の意識は消えた。
「……あん?」
殴った抜山隊の隊員が、一番驚いていた。
試合が始まったのに、ガードをせずに黙って立っていたのである。
そしてそのまま彼の拳が憲兵の顔に当たり、床に倒れて白目をむいて気絶していた。
これではサンドバッグにもなっていない。
「……!」
そして、憲兵たちは慄いた。
いくら無防備に殴られたとはいえ、真正面からの一撃で気絶するなどありえない。
倒れている憲兵が、演技をしているとも思えない。
つまりとても単純に、抜山隊の隊員が強いのだ。
(……そ、そんななんでこんなに強いんだ?!)
(いくら何でも、力がありすぎる……!)
(昼から酒を飲んでいる奴が、こんなに強いわけがない……?!)
「……これは、どういうことだ?」
大王が、より不機嫌になって憲兵隊の責任者に問う。
「私は、試合を通じて交流をしろと命じたのだが?」
「お、お許しください! 大王陛下の御前で、緊張したのでしょう!」
憲兵隊の責任者は、慌てて取り繕った。
しかし内心では、他の隊員同様に動揺している。
(確かに憲兵は、一人で戦うことを想定していない。素手での戦いに、そこまで時間を割かない。個人の強さよりも、集団での捕縛を優先している。だがそれでも、素人ではない。そこいらの荒くれ者なら、一人でも抑えられるのに……)
なんでこんなに強いのか、納得ができなかった。
当たり前すぎて、気づけなかったのだ。
「つ、次の者!」
「はい!」
一人目の憲兵が担架で運び出され、二人目の憲兵が場に出た。
これが私刑ではなく、少なくとも格闘まがいをする必要があると理解して、最初から腕で頭をガードしている。
「まったく……これじゃあ憂さが晴らせねえじゃねえか」
「同僚が失礼をしました……ではお願いします」
二試合目が始まった。
抜山隊にしてみれば二人目だが、もちろんまったく疲れていない。
「おらおら!」
「う、ぐぅう!」
抜山隊の隊員は、気持ちよくガードの上から殴っている。憲兵は、必死にそれに耐えるばかりだ。
それだけ見れば、八百長にも見えるだろう。だがしかし、憲兵は決して手抜きなどしていない。
(う、腕が折れる! 頭が揺れる! なんて馬鹿力だ!)
反撃をしないのではない、反撃できないのだ。
もう完全に、腕の感覚がなくなっている。
忖度もなにもない、目の前の男に普通に圧倒されているだけだ。
「ほらよ!」
「ほぐ!」
あまりにもベタだが、顔を守らせたところで、腹に一撃。
うずくまる憲兵は、辛うじて吐しゃ物を大王の前でまき散らさなかった。
「どうだい? 大王様直属の、Bランクハンターの実力は」
「……!」
今更過ぎた。
本当に、バカすぎた。
(最初から、勝てるわけがなかった……大王直属のBランクハンターに、勝ち目なんてあるわけがない!)
人数で酒場を包囲して、あっさり逮捕できたから勘違いしていた。
Bランクハンターと言えば、正規軍の精鋭兵なみの実力者である。ましてや大王直属であれば、弱いわけがない。
犯罪者を取り締まる憲兵に、負けるわけがないのだ。
(忖度をされていたのは、私たちの方だった……!)
改めて、抜山隊は正しかった。
やろうと思えば、憲兵隊を全滅させることもできた。
にも拘らずあっさり捕まったのは、大王への配慮だろう。
彼らはちゃんと、一線を守っていたのだ。
「よし、次!」
「おいおい、俺に代われよ~~!」
「そうだぜ、俺らもむかついてるんだからよ」
はやし立てる強者たち。
彼らは身分証明書ではなく、実力で身分を証明していた。
(やっぱり抜山隊は強いですねえ……)
なお、麒麟。
彼は自分が倒したばかりの山賊を思い返していた。
やはり強いか強くないか、には明確な一線がある。
本当に強いから、本当の地位を手に入れているのだ。
「……どうだね、彼らは強いだろう」
「はい……流石は大王陛下直属のハンターです」
大王の言葉を、お世辞抜きで憲兵隊の責任者は認めていた。
自信満々だった自分たちが、完全にバカだった。
「ひひひ……」
「へへへ……」
他の憲兵たちも落ち込んでいる姿を見て、抜山隊はやはり溜飲を下げていた。
大王の計らいによって、彼らの名誉は取り戻されたのである。機嫌が戻ったともいう。
「勘違いして欲しくないのは、君たちの間違いは実力を見誤ったことではない、ということだ」
不愉快そうな大王は、その上で行政指導をしていた。
「市民の不安へ耳を傾ける者がいなければ、国家は腐敗する。君たちには正義がある、それは事実だろう」
抜山隊が見るからに怪しいこと、それは認める。
周囲を不安にさせる、不快にさせる、それは彼らの過失だ。
市民を想う余りに暴走したのだ、とは思っていた。
「だが、正義に酔ったこと、暴走したことは褒められない。手順をしっかり踏んでいれば、避けられたことなのだからな」
「おっしゃる通りです」
「市民感情に配慮して、規律をおろそかにするのは雑としか言いようがない」
「申し訳ありません」
「今収監されている他の犯罪者も、正当なのか疑わしくなる」
「……返す言葉もありません」
やはり組織に必要なのは、コンプライアンスであった。
手順を勝手にカットしてしまうと、こうした事故を引き起こす。
「私は、正義とは報いだと思っている。この街に以前から暮らしていた市民には、この街のために納税し仕事をしていたのだろう。それに君たちは報いようとしている、それは正義だ。だが、抜山隊もまた正義だ」
じろり、とにらむ。
憲兵隊、全体をにらむ。
「抜山隊はカセイの民のために、モンスターや西重の軍と戦ってきた。その彼らが合法の範囲で遊んでいたところを、君たちは無思慮に踏みにじったのだ。処罰は下さないが、猛省はしてもらう」
萎縮と慎重、手抜きは全部別だ。
それを分けるものが、秩序と手順の順守であろう。
正義だけで国家が回るのなら、法律など必要ない。
「……心に刻みます」
「足りんな、体に刻め」
今大王の前で、憲兵がまた一人倒れた。
抜山隊の隊員によって、正面から殴り倒されたのである。
反撃や抵抗を試みる者もいるが、真面目に鍛錬をしている程度の憲兵と、命をかけて戦ってきた抜山隊では力に差がありすぎる。
才能の差ではない、環境の差、鍛錬の差であった。
「流石に全員がぼろぼろになることは好ましくない……適当なところで切り上げさせる。だが……」
嫌悪をむき出しにした大王は、厳命を下した。
「抜山隊は、また何度も来させる。訓練なのだから、文句は言うまい」
「……お待ちしております」
こうして、憲兵隊は確かめることになったのだ。
抜山隊を名乗る者たちが、本当にBランクハンターなのかどうか、その実力を肌で感じることになる。
(結局僕と同じことをしている……つまり僕のアレは正しかったということなんだな)
なお、麒麟は微妙に勘違いを深めていた。
次回から新章
怱々たる兎は月で跳ねる




