討伐隊の最後
狐太郎は、アカネの背に乗ってまで逃げようとしている。
しかしそれを、誰が咎められるだろうか。
Aランクハンター兼斉天十二魔将首席兼征夷大将軍兼央土国大王。
もう兼任し過ぎている。
レギュラー選手兼監督兼スポンサー兼筆頭株主ぐらい兼任している。
もしかしたら違うかもしれないが、それが何の救いになるというのか。
一国の命運を背負う役職を、四つも兼任するなど正気の人間には不可能である。
「絶対に嫌だ!」
「そう言わないでくれ! 頼む!」
しかし逆に言えば、頼むほうだって必死である。
自分がどれだけ無茶なことを頼んでいるのかわかっているが、それぐらいの無茶をお願いしないと危ういのである。
「やった~~! ご主人様と逃避行だ~~!」
「貴女! テンション下げなさい!」
「ご主人様を乗せたまま跳びはねるな!」
狐太郎が飛び乗ってきたことで、跳びはねるほど喜んでいるアカネ。
振り落とす気はさらさらないのだが、二メートルぐらいの小ジャンプを繰り返そうとして、クツロとコゴエに止められている。
「くくく……ふはははは!」
その時であった。
十二魔将と将軍たちのそろった場で、恐ろしい笑い声が聞こえてきたのは。
「あはははははは!」
愉快、愉快、愉快。
人間どもの苦しむ姿を見て、愉悦に浸る悪魔の声が響き渡る。
「ふはあああああああはははは!」
一体ではない、多くの悪魔たちの声。
人間の愚かしさ、醜態を嘲る声。
ブゥの背後から、セキトとアパレ、そして眷属たちがあふれ出てくる。
どの悪魔も、体裁を忘れて、嬉しそうに嘲っていた。
「ひぃ、ひぃ……ああ、すっきりしました。では失礼を……これだから人間の部下になるのは止められない」
「お腹痛い……お腹痛いわ……。封印が解けててよかったわ……予告なしに茶番が始まる……人間って最高ね!」
笑うだけ笑ったら、悪魔たちは引っ込んだ。
それはもう、嬉しそうに愉快そうに戻っていった。
愚かな人間どもよ、また会おう。
笑うだけ笑ったら、満足したらしい。
「こっちは笑い事じゃないんだけども……」
「お、お腹痛い……ご主人様、何時から源氏か平氏の流れをくむようになったのよ……虎威幕府とか……初代大将軍とか……大権現様とか……」
なお、ササゲはまだ笑っている。
自分で言って、自分でツボにはまっていた。
「俺は政権なんてとらないぞ!」
「た、大政奉還してる……!」
まだ笑っていた。
さて、こうなると膠着状態である。
しかしこの場の面々からも、なかなか首を突っ込みにくい話題であった。
現職の大王と、次期大王の『政権争い』である。しかも国家存亡の危機だった。
正直なところ、討伐隊の面々も、この人事には戸惑っている。
確かに理屈を並べればその通りなのだが、いくらなんでも無理が過ぎる。
ただ確実なことは、このままだと狐太郎が離脱し、いよいよ央土国が危ういということだろう。
「おい」
その時である。
戦時中の臨時就任であろうが、将軍になることが決まっている一灯隊のリゥイが、狐太郎たちへと向かっていった。
そして、貧弱だから手加減されていた狐太郎を力尽くで引きはがし、さらに胸倉をつかみ上げる。
「ひぃ!」
「いいか! 狐太郎!」
彼は怒りをあらわにして、全力で怒鳴った。
「黙って聞いてりゃいい気になりやがって……斉天十二魔将になりたくない、大将軍になりたくない、大王になりたくない……ダッキ様と結婚したくない!」
「は、はい!」
「そりゃそうだろうな! 逃げたきゃ逃げろ!」
引き受けてから逃げるのならまだしも、引き受ける前に逃げるのなら悪ではない。
特に今回は、荷が重いどころではない。
単純な話、狐太郎がこの国を乗っ取るどころか、この国が狐太郎を乗っ取るようなものだ。
なにせ大王になって大将軍になって十二魔将首席になるということは、『西重へ進軍し、皆殺しにしろ』という許可を出す立場になるのである。
ある意味、実行するよりも負担が大きいだろう。その重みを彼が察したのであれば、むしろ誠実である。
「だがな!」
「はい!」
「そんな国、滅びちまえ、だと?!」
だがリゥイは、失言中の失言を見逃さなかった。
「この国の何を知っているから! この国に滅びろなんてほざくんだ! 国が滅びたらどうなるのか、考えて言ったんだろうな!」
「ひぃ! よく考えてませんでした!」
「ぶっ殺す!」
逃げるのはいい。
だが滅びちまえ、とこの状況で言うのは最悪だ。
この国を守ろうとしている、大王に向かって言っていいことではない。
リゥイの怒りは極めて正当だった。
「そこまでです!」
しかし、それを止めたのは、大王の娘であるリァンだった。
「リァン様……!」
狐太郎を下ろしながら、振り向いたリゥイ。
そこには、キンカクから奪った大矛を、高々と振りかぶっているリァンがいた。
「たあ!」
ガイセイに劣らぬ体格を持つキンカクが使う、片刃の大矛をフルスイングする。
無防備に喰らったリゥイは、頭部を床にめり込ませていた。
「ひぃ!」
何時かの再現だった。
狐太郎の目の前で、知っている人間が凶行によって倒れた。
大矛の峰が、リゥイの頭を捉えた。ぼたぼたと、赤い血が垂れている。
矛を鋭利な刃物としてではなく鈍器として使った一撃によって、明らかに重要な部位がへこんでいた。
「ブゥ・ルゥ! 貴方は狐太郎様の護衛のはず! なぜ見過ごしたのですか!」
「す、すみません!」
その凶行を知っているブゥは、王女からの激憤に身をすくませていた。
(そうか……ケイはこうやって殺されたのか……)
(ランリ……貴方はこうやって殺されたのね……)
そして他でもない王女によって身内が殺された者たちも、一種の既視感めいた納得を得ていた。
「リゥイ! 貴方は状況が分かっているのですか! 狐太郎様へ抗議するならまだしも、暴力を加えるなど! 言語道断、極まれりです!」
そしてリァンは、自分で殴ったリゥイへ、熱い叫びをぶつけていた。
「こんな国、滅びてしまえ? その通りでしょうが! 自分の国の問題を解決できず、他国の人間へ責任を押し付けなければ存続できないのなら、そう言われても仕方ないでしょう!」
彼女は狐太郎の正当性を認めていた。
なお、狐太郎は彼女の行動に引いていた。
「一国の大王になったお父様ご自身へ、それを言って何が悪いのですか! なんの罪もない一般の民に言うのならともかく、あらゆる意味で責任者となったお父様には、それを受け止める義務があるのです!」
彼女の熱い魂は、彼の耳に届いているのだろうか。
彼の魂が異なる世界へ旅立っていたとしても、一切不思議ではない。
「それとも! お父様は! こう言われると覚悟していなかったとでも! 思っていたのですか! ただ慈悲にすがれば、良い答えが返ってくると、そんな風に甘く考えていたとでも!」
怒り狂うリァン。
対照的に、周囲は鎮まっていた。
「リァン……リゥイを治してあげてくれ」
娘の過激な行動に対して大王は、必要な処置を依頼していた。
※
全員が、再び椅子に座った。
リゥイはリァンに負けない程体を鍛えていたので、頭部への強烈な打撃を受けても、死なずに済んでいた。
とりあえず全員、暴力は良くないという結論に達していた。味方同士の争いは、余りにも惨い。
悪魔たちも笑ったことを反省し、普通に戻っている。
「娘が……うむ、すまない」
大王も謝った。
やはり普通に謝ったほうが、誠意が伝わる。
「リゥイ。気持ちは嬉しいが、暴力は止めよう。ここは会議の場なのだ」
「申し訳ありません!」
リゥイも謝罪する。
確かに手を出したのは良くなかった。
あのままだと殺していたかもしれない。
「……狐太郎君。君に無茶なことを言って申し訳ない。だがしかし、いろいろこじつけたが……つまり結論は単純なものだ」
「どのようなものですか」
狐太郎も努めて冷静になっていた。
自分が騒ぎ出すと、ろくなことにならないと再認識していた。
「雑に言えば、指揮系統を単純にするためだ。十二魔将首席と征夷大将軍、そしてAランクハンター。それらが別々の人間であれば、誰が一番偉いのか、誰が何を担当するのかでもめてしまう」
なるほど、もっともである。
「征夷大将軍は本来、国境を守る大将軍が討ち取られた時に、国内に入った侵略者を倒すべく、別の大将軍か十二魔将の首席が就任するものなのだ。つまり、十二魔将の首席と大将軍を兼任することはさほど珍しくない。むしろ十二魔将首席は、いざという時にそれを兼任する立場でもある」
(ではむしろ、無駄に役職が増えているだけなのでは……?)
狐太郎は、気付いてはいけないことに気付いていた。
「次期大王については、だ。以前はダッキの立場が軽かったのでどうでもよかったのだが、今となってはそうもいかなくなった。形式上でも君とダッキが仲がいいということにしないと、周囲から不信感を買うのだよ」
「なるほど……ササゲ」
「……ごめんなさい」
歴史の闇に隠れた真実が、今明かされていた。
なお、記録として正確に残された模様。
「そして……君の発言力を可能な限り上げる狙いがある」
「どういうことでしょうか」
「私にはできないことを、君にやってほしいのだよ」
大王は、静かにこの場を見渡した。
この場に限ってさえ、大王に恨みを持つものはいる。
「遅くなったが……ショウエン、コチョウ君。君たちは私に恨みがあったはずだ。恨みを超えて慕っていた、などという幻想はない。私への憎しみよりも、国家やカセイへの想いが強かった、ということだろう。それでも……だからこそ嬉しい。感謝している」
大王は、二人の恩人を処刑させた男だ。
もちろん二人が望んで彼の傘下に加わったのだが、だとしても恨みがあるのは当然だろう。
「しかし、誰もが君たちのように、私への恨みを捨てているわけではない。反逆をしないまでも、私へ反発する者は多いだろう。普段ならそれも諦められるが、今回はそうもいかない」
大王は、獅子子から聞いていたことを思い出す。
彼女の報告は、端的ながらも結論を導き出すには十分なものだった。
「本来なら君たちと、各地に散っているAランクハンター、そして大将軍たちと連携することで王都の西重軍を倒すべきだろう。だがおそらく、それは不可能だ」
全軍を侵略にぶつける。
普通ならばありないことだが、敵はそれを実行している。
馬鹿は馬鹿なりに、対策を練っているということだ。
「西重は他の三か国と連携し、我が国を攻めていると考えるべきだ。相互に攻め込まないことは当然として……各地の大将軍やAランクハンターの足止めに協力しているのだろう」
東威、南万、北笛。
西重と同様に、央土と隣接する国家。
普段は互いに攻め合うこともあるのだが、今回は協力しているのだろう。
そうでもなければ、まず本国をがら空きにすることができない。
「もしも我らが王都奪還の助力を求めれば、南と北の大将軍、それから残る二人のAランクハンターも助けに来てくれるだろうが……南と北の領地が南万と北笛に荒らされ、奪われてしまうだろう。できることなら、避けたいことだ」
言外に、東の大将軍は助けに来ないと言っていた。
そして、それに対して特に異議はないようだった。
「もちろん、西を守っていた大将軍は、既に殉職しているだろう。つまりこの場の我等と、中央に残っている人材を集めて何とかするしかない」
「そうはおっしゃいますが……可能なのですか」
進言したのは、他でもない大将軍と戦ったうちの一人、ホワイト・リョウトウだった。
「十二魔将と戦ったことで消耗しているとしても、敵の戦力は膨大でしょう。加えて我らに対して油断もしていないはず。前回のようにはいかず、負ける公算が高いです」
「そうだな、その通りだ。少なくとも……今戦えばそうなるだろう。もちろんお互いに休憩を挟んで、体調を万全にしても結果は同じだ」
大王に勝算あり。
一同は静かに彼の戦略を聞く。
「とはいえ、それは双方望んでいないことでもある。ホワイト君の言う通り、敵は油断をしないだろう。だからこそ逆に、今すぐ攻めてくることはないし、数日休憩を挟んだ後に攻めてくることもない。時間をかけて、策を練るだろう」
とても悪い顔をした大王は、狐太郎たちを見た。
「その間に……我らは準備をする。大将軍よりもさらに強い戦力を、ぶつける準備をするのだ」
この世界において、Aランクハンターなどの英雄よりも強い怪物は存在しない。
英雄たちに勝つには、相手よりも多い英雄を用意するほかにない。
だがしかし、今この場に、二つの例外が存在する。
「コゴエ君。王都の近く……と言ってもそこそこに距離はあるが、王都から見えるところに、霊峰コンロン山がある。万年雪が残る、とても高く寒い山だ」
狐太郎が就任している間、シュバルツバルトにも何度か冬が来た。
だがしかし、特に何も起きることはなかった。
理由は単純である、真冬のコゴエには、どんなモンスターも勝てなかったからだ。
今まで散々、コゴエは専門家に驚かれていた。
周囲の環境に依存する精霊が、自力で周辺の環境を変えるなど前代未聞であると。
しかしそれは、コゴエの性質ではない。ただ単に、コゴエが強いので、自力で環境を変えられるだけなのだ。
普通の精霊同様に、適した環境で戦った方がずっと強いのである。
「君はそこに陣取って、冬に向けてひたすら力を溜めこんで欲しい。複数のAランクハンターを倒せるほどに、だ」
「……無理ではありませんが、遠目でも気づかれるのでは?」
「短期間でやるとなれば、君一人では難しいかもしれない。だが複数の精霊と、精霊使いが協力すればどうだ」
精霊と精霊使い。
それは、皮肉にも大王が排斥した者たちである。
「娘は君の弟を殺し、私は学長を処刑し、学部を潰した。そのことに後悔はないが、この状況では精霊使いと精霊の力が必要だ。君を将軍に据えたのは、今の私が精霊使いを重用するつもりだという証だよ」
「で、ですが……私はそんな大したものでは……」
理屈はわかる。
確かに局地戦ならば、精霊使いの右に出る者はいない。
特に高山でコゴエが力を溜めこんだのなら、それを利用することで大将軍とも戦えるだろう。
だが、コチョウは所詮若手のホープ。そこまでの発言力はない、むしろ愚弟の姉として恨まれているだろう。
「そこで、コゴエ君と次期大王だ。コチョウと協力して、各地から精霊使いをかき集めてくれ」
(……そう来たか)
ある意味ことの発端と言っていいのだが、狐太郎が従えている四体の魔王は、それぞれの専門家からするととんでもないお宝である。特に氷の精霊であるコゴエは、精霊使いを魅了してしまうのだ。
だからこそランリは興奮しすぎて『自分に運用を任せてくれ』と言った。熟練の使い手であるアルタイルでさえ、我を忘れかけたほどである。
今回はそれを利用して、精霊使いを釣り上げようという算段だった。
「現在多くの精霊使いは、冷や飯を食っているかあるいは学者として各地に散っているだろう。だからこそ、引っこ抜いても支障がない。特に、王都にある魔女学園には、もう一人もいないはずだからな」
運命の皮肉に、彼は笑っていた。
なるほど、結果的にうまく回っている。
「しかし、いくら何でもコゴエ君だけに命運を任せるわけにもいかない。そこで、ブゥ君だ」
「……僕ですか」
「そうだ。今の君は、以前ほどの力が出せないのだろう?」
つい先日、左将軍クモンを打ち取ったブゥ・ルゥ。
しかしそれでも、彼は最大の力を出し切れたわけではない。
手抜きをしていたのではなく、悪魔が足りなかったのだ。
「はい……初めてベヒモスを倒したときは、セキトの眷属の力も束ねていました。今はその分の力がないので、多少は弱くなっています」
ブゥは悪魔の力で汚染されず、なおかつ強化に限界のない二重の特異体質である。
本人の戦闘能力はまったくないが、その代わり悪魔がいればいるほど、上限なく強くなれる。
しかも魔王であるササゲがいるのなら、その冠の力をすべての悪魔へ上乗せできるほどだ。
「ですがそれでも、将軍を複数倒せるほどじゃありませんよ?」
「だがもっといれば話は違うのだろう。入れれば入れるほど強くなり、何のデメリットもないのだろう」
「それはそうですが……そんなにたくさんの悪魔が、どこに……」
さあ、とブゥの顔から血の気が引いた。
「空論城にいるだろう、わんさかと」
「あの無法地帯に行くんですか?! あそこの悪魔をぞろぞろ連れて来いと?!」
どうやら悪魔が大量にいる場所に、彼は心当たりがあるらしい。
しかしながら、悪魔が大量にいるところに、彼は行きたくないようだ。
「別に君だけで行けとは言っていない。君と、次期大王とササゲ君にお願いしたいのだ」
(次期大王じゃない、パシリだ……)
この場合は、次期大王というか全権大使のような扱いである。
精霊使いと悪魔を口説いてこいという、ある意味魔物使いらしい仕事ではあった。
ただ、楽しくはないことも確実である。
「そして、それでも不足があるかもしれない。君の兄と姉にも来てもらう」
「ええぇ……」
今更だがルゥ家は、大公だった時のジューガーによって、爵位を一つ上げてもらっている。
もちろん狐太郎の護衛を務める見返りによるものだが、派閥としてはジューガー一派ということになるのだろう。
声をかければ、ズミインともう一人も来るはずだった。
「君の兄と姉は、元々武将を名乗れるほどの実力者だ。十二魔将の席も相応しいだろう。三兄弟で力を合わせて、狐太郎君とササゲ君を支え、多くの悪魔から一時の助力を引き出してほしい」
「兄さんと姉さんか……逃げようかな……でも逃げたらセキトの奴隷……」
逃げるに逃げられないブゥは、悲しみの涙を流していた。
まったくもって、これっぽっちも出世を喜んでいなかった。
「そしてそれとは別に、通常の戦力も欲しい。王都に立てこもるであろう敵軍と戦うのだから、屈強な兵士が多く必要だ。クツロ君、君に亜人の招集をお願いしたい。報酬は用意するのでできるだけ精強な亜人を、士気を高めて連れて来てくれ」
「……無理強いはしませんが」
「構わない、現地で逃げるようなら無駄だからな」
ピンインが連れているキョウショウ族のように、人間に傭兵として雇われているのは、一族の中では出稼ぎ労働者である。
もちろん普通に招集しても、来てくれないだろう。
だがクツロが招集するとなれば、話は違う。相手が英雄だったとしても、参加者は期待できるだろう。
「あ、ああ……アカネ君、別に君の眷属を侮辱しているわけではない」
「……いいんですよ、どうせ竜は臆病ですから」
「それはそれで、使い道はある。彼らには比較的安全な役割を任せるので、逃がさないようにしてくれ」
「逃げたら焼き殺しますから……」
「逃がさないで欲しいのだが……」
内実はともかく、貴竜を従えているインパクトは計り知れない。
しかも複数、複数種類従えているのだから、敵にしてみれば恐ろしいだろう。
そして、相手はシュバルツバルトのモンスターではない。
本当に少ない数人を除けば、Bランク中位以下なのだ。
内実を知られたとしても、そこまで問題にはならない。
「もちろん、ホワイト君やガイセイにも力を尽くしてもらう。この討伐隊の……新しい十二魔将と将軍たちのすべてをかけなければ……多大な犠牲が……さらに積み上がるだろう」
既に、多くの死者が出ている。
敵の無謀な愚策によって、十二魔将も王族もこの世を去った。
王都の民も、財産や家族を失っただろう。
これ以上なくすわけにはいかない。
他の国に、国土を奪われるわけにもいかない。
だからこそ、持てる力をすべて注ぎ込むのだ。
「……大王陛下。私達討伐隊は、ここを離れるということですね」
ここまで聞いた狐太郎は、今更のように聞く。
「そうだ……討伐隊の戦力を注ぎ込むために……カセイは放棄する」
そして、長きにわたったカセイの繁栄は、ついに終わるのだった。




