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昇る朝日と機械仕掛けの神

祝! 評価者500人突破!

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 なんでもそうではあるが、人は目印を求める。

 東に行けとか西に行けとか、右に行けとか左に行けとか、道に沿えとか川沿いに行けとか。

 そんな具体的で単純な指示でさえ、戦闘中でなくとも従うのは難しい。

 ましてや戦闘中、戦争中、それも敗走して壊乱していれば、従うことなど不可能だろう。


 だからこそ、文字通りに旗を求める。


「通達! 通達!」


 軍旗を掲げた騎乗兵が、小さな銅鑼を鳴らしながら戦場へ叫んだ。

 Aランクモンスターの出現によって、敗走しつつあった兵士たちはそれへ注目する。


「本陣より指示を伝える! 総員! 退避せよ! この旗に続け!」


 全員敵に突撃せよ、という指示であれば、絶対に従わなかっただろう。

 だが退避するので旗を掲げている騎馬に続け、というのであれば話は違う。

 誰もが泣きそうになりながら、必死でそれに続く。


「大将軍閣下が、現在敵を押している! 閣下が戻るまで、何とか逃げ延びるのだ!」


 包囲していたはずが、打ち破られた。

 ここまで苦戦するなど誰も覚悟していなかったがゆえに、逃げろという指示に喜んで従う。

 逃げても怒られない、命令に従っただけ。誰もが旗を追う、その追う背を、さらに別の兵が追うのだ。


 まさに敗走である。しかし仕方がない、そう、仕方がない。

 生き残った兵士たちは、ほとんどが雑兵。兵役で来ただけで、元は一般人である。

 彼らはその命令を疑うことがない。仮に疑う者がいても、それを誰かに確認できない。

 そもそも、各地の指揮官もそれに従っていた。この状況では、誤報だったとしても『気付かなかったふり』をするだろう。


「総員退却せよ! 大将軍閣下が戻るまで、なんとしても生き残るのだ!」


 大将軍という絶対の存在に対する、絶対的な依存。

 大将軍が率いる軍なのだから、大将軍に全部任せればいい。

 各指揮官たちは、Aランクモンスターの出現によって、普段からある甘えを露出させていた。


「退け、退けぇえええ!」


 逃げるしかないからこそ、本陣の指示に従ってしまう。

 疑っても信じてしまうし、なんなら遅いとまで考える。


「さあ、ついて来い!」


 その騎兵が老いたハンターであり、その着ている鎧が奪ったものであったとしても。

 それに気づけるものなど、どこにいるだろうか。どう考えても、絶対に騙される。


「……さて、ここまではジョー殿の指示通りか」


 敵を誘導する蛍雪隊の隊員は、作戦の成功を理解していた。

 ここまで戦場全体がかき乱されて、本陣が機能を停止していれば、集団心理に従うしかない。

 後は適当なところで近くの騎兵に旗を渡して、『逃げ遅れがいないか確認する』とでも言って離脱すればいい。

 あるいは普通に逃げても、追いかけられることはなさそうであった。


「……あとは、あの大将軍たちを倒せるかどうか、か」



「敵が逃げていくな……よし! では総員本陣へ帰還する!」


 斉天十二魔将三人、Aランクハンター格を三人、Bランクハンター四隊、Aランクモンスター三体、王女一人、Aランクハンターの指揮を担ったジョー・ホースは、息を荒くしながら判断を下した。

 後半はほとんど走っているだけだったが、そもそも道中走り続けていた。精強なる白眉隊をして、疲労が隠せない。


「速足で続け!」

「はい! わかりました~~!」


 普段の姿に戻ったアカネも、彼に続いている。

 というよりも、すぐそばを並走していた。


「お見事な指揮でした……ジョー殿」

「いえ、私など……結局、皆が強かったというだけですから」


 同行していたドッカクの賞賛にも、彼は謙虚だった。


 包囲が解けたカセイへ戻ることなく、一旦であれ本陣へと向かう。

 現地へ到着するまでの短い間で立てた作戦ではあったため、細かいところまでは詰められなかった。

 カセイがどうなっているのかわからなかったので、とりあえずことが済んだら本陣へと集合する運びにしていた。


 もしも連絡を取り合うことができれば、また別の場所へ集合していたかもしれない。

 だが今は、本陣を目印にして白眉隊は駆けていた。


「そうですな……確かに誰もが、非常に強かった……」


 やはり寡兵を分散して十万の軍勢に突っ込ませる時点で、作戦がめちゃくちゃすぎた。

 もっと言えば、狐太郎のモンスターを、一体も彼の元に残さなかったこともおかしい。

 その作戦に全員が従って、全員が成功させている時点で、全員異常だった。


 精神も実力も、完全に異常だった。

 結局十万からなる軍勢を、千以下の寡兵で蹴散らしきってしまった。


(やっぱり討伐隊はヤバいな……本当に俺達十二魔将より強いぞ……)


 助太刀として参戦したドッカクだが、ほとんど仕事がなかった。

 もちろんいるだけで意味はあったのだが、流石は白眉隊、全員が強い。


「……ササゲ、まだ頑張ってる。もしもの時は、私も行かないと」


 そして、最後の手段として配置されたアカネは、なおも続く戦いに目を向けていた。

 Aランク上位モンスターさえも葬る怪物たちの、真っ向からの三対三。

 この戦争の最初から始まっていた戦いは、ようやく最終盤へと向かっていた。



 ノイズ、雑音。

 この戦いの場において、目の前の相手への集中を乱す何もかもが、完全に雑音である。


 たとえ仲間がどれだけ倒れても、たとえ自軍がどれだけ削られても、たとえ本陣が乗っ取られたとしても。

 それを感じ取ることは、どうしてもノイズだった。


「くそ! くそ! くそ!」


 若き左将軍、クモン。

 彼は目の前にいるブゥへ、炎の矛を打ち込みながら、しかし焦燥に焼かれていた。

 味方が壊滅し、さらに窮地へと暴走していることを感じているため、目の前の相手に集中しきれなかった。


「慌ててますね……」

「当たり前だ!」

「そうですよね」

「ぶっ殺す!」

「う、うわああ……!」


 禍々しさの塊であるブゥは、しかし覇気をまったくもっていなかった。

 荒々しいクモンの攻撃に耐えつつも、しかし表情は気が抜けていた。


「てめえ……邪魔すんな!」

「ええ? 攻めてきたのはそっちじゃあ……」


 にもかかわらず、クモンは叩きのめしきれなかった。

 慌てて雑になっていることは否めないが、中々隙を見出すことができない。

 戦場全体への戦術眼だけではなく、目の前の相手への戦闘眼も持つ彼は、しかし崩れ切らないブゥに苛立ちを隠せない。


「俺は! お前を殺して! あっちを助けに行かないといけないんだよ!」

「だから攻めてきたのはそっちじゃないですか」


 クモンの武技は、戦場の武技である。

 クリーンなファイトなどどこにもなく、極めて荒いラフなものだった。

 まさに戦場で研磨された戦いの技、それを以て彼は左将軍まで上り詰めた。


 だがしかし、それがブゥには通じない。

 目つぶしや前蹴りなどの無作法な技を使っても、却ってこちらが反撃を食らっていた。


「この……悪魔使いが! 自分の力なんぞ持ってないくせに……!」


 クモンの想像する通り、ブゥはほぼすべての戦闘能力を他者に依存している。

 ブゥがもしも自分一人の力で戦えば、それこそ蛍雪隊の隊員にも負けるだろう。

 セキトはともかく、アパレやササゲも、自分で契約を交わしているわけではない。


「将軍の戦いに、入り込んでるんじゃねえよ!」

「僕も入りたくないんですよ……」

「だったら出ていけ!」

「貴方が出て行ったらいいじゃないですか」


 こんな相手に、勝てないことが呪わしい。

 嫌々戦っているブゥを、切り伏せられないことが許せない。

 なぜ自分は、こんなやつに手こずっているのか。


「ファイヤーエフェクト……ソル!」


 自分の後方から炎を放出し、速度を得る。

 一瞬の加速によって間合いを詰めて、渾身の拳を叩き込む。


「へぐぅ?!」


 ブゥの顔をとらえた、入った、当たった、畳みかける。

 彼の体は、まるで型稽古のように、淀みなく次の行動へ移る。


「このっ!」

「無駄だ!」


 ブゥもとっさに距離を取ろうと、前蹴りを打つ。

 それを腹で受け止めると、さらに前へ出て押し込む。


「お前の攻撃は! 軽いんだよ!」


 元より、街の喧嘩自慢。

 拳の間合いならば、むしろ殴ったほうが強い。


「ファイヤーエフェクト! ソール!」

「ギフトスロット、レギオンデビル……エバーデ!」


 ブゥは体を鎧で覆い、防御に徹する。

 亀のように受けへ回った彼は、当然ながら反撃ができなくなった。


「おおおおお!」

「いだだだだ!」


 燃え盛る炎を纏って、クモンの拳がブゥの鎧を砕いていく。

 同等の相手との戦いにおいて、審判のいない実戦に於いて、亀の構えなど悪手の極みだ。

 クモンは一瞬でも早く友軍を救うべく、一気に畳みかける。


「あだだだだ!」


 防御していても、痛いものは痛い。

 亀に徹しても、同格の相手の猛攻では防ぎきれるものではない。

 彼の鎧は、砕けて剥がれ、消えていく。


「い、痛くないんですか?! その拳、壊れちゃいますよ!」

「知ったことか!」

「こ、この鎧を……素手で壊すなんて……!」


 ブゥには信じられなかった。

 この防御を、力づくの連続攻撃で突破されるなど。

 クモンの持つ勢いに、彼はついに呑まれてしまった。


「ぐ、ぐ、ぐぅ……も、もう……だ、駄目かも……!」

「てめえは……てめえは一体何なんだよ!」


 戦場で多くの敵を葬ってきたクモンは、目の前の相手が信じられなかった。

 ここまで自分を手こずらせたくせに、気が弱すぎる、軟弱すぎる。

 こんな輩のせいで、多くの仲間が倒されたことを思うと、とてもではないがやっていられない。

 悔しい、悔しすぎる。

 栄達、栄光を求めて戦場に参じた、多くの戦友たち。彼らが今、どれだけ倒れたのか。彼らが今、どれだけ生き残っているか。

 それを考えるだけでも悲しいのに、自分の敵がこんな奴で悔しすぎた。


「てめえなんかのせいで……てめえのせいで……!」


 痛みではなく悔しさで、目から涙が滲む。

 しかしそれは、彼の拳を妨げない。

 ついに鎧が砕け散り、腕によるガードもはじけた。

 後はもう一度、その顔面に一発入れるだけだった。


「死ねええええ!」


 握りしめた拳を、全力で振るう。

 それで頭を砕いて、御終いだ。


「ああ、痛かった……」


 そのはずだった。

 しかし、ブゥは平然としていた。

 拳を避けたわけではなく、防いだわけでもない。


 もちろんクモンは、しっかりと攻撃をしたつもりだった。

 彼は何が起きたのかわからずに、自分の手を見て……。

 手がないことに、今更気付いた。


「あ?」


 幻覚ではないか、と思った。

 自分の両腕が、肘の少し先でちぎれていた。

 よく見れば、両腕とも皮一枚だけつながっていて、ぶらりとぶら下がっている。


「死んじゃうかと思いましたよ……」


 ブゥは、まったく驚かなかった。

 そのまま鎧を完全に解除して、方天戟を構える。


「ギフトスロット、レギオンデビル……アビューズ」


 悪魔の力を込めた長柄の武器が、茫然としていたクモンへ迫る。


「ファイヤークリエイト、プロミネンス!」


 とっさに出た技は、全身から炎を噴出させる防御技。

 それによって受けきろうとするが、しかしガス欠のようにちまちまとしたものだった。


 そして、『これっぽっち』も痛くないままに、方天戟が体を切断していた。


「ふぅ……凄い疲れました……」


 この世界の住人は、圧倒的に頑丈である。

 だからこそ、胴体を斬られても、しばらくは意識があり生きている。

 もちろん、直ぐに死ぬのだが、大将軍に近い力を持つ彼にとっては長すぎる時間だった。


「貴方、教養が足りませんね。悪魔使いと長く話すなんて、完全に悪手ですよ?」


 見下しながら、ブゥはため息をつく。

 なんのことはない、ブゥの攻撃が痛くなかったのは、麻酔がかかっていただけなのだ。

 攻撃をかすらせるたびに、少しずつ呪い、痛覚を下げていった。

 それを決定づけたのは、質問へ答えさせたこと。


『い、痛くないんですか?! その拳、壊れちゃいますよ!』

『知ったことか!』


 ただでさえ戦闘中で興奮し、元より痛みや疲れを感じていなかった。

 そのうえで悪魔の呪いにより痛覚が下がり、問答をしたことによって『自分の拳が壊れても気付けない』状態にまでなってしまった。


 それでも、もう少し持てば、それこそブゥを殺せたかもしれない。

 その程度には、彼もブゥを追い詰めていた。

 だがそれも、もう過ぎたことである。


「クモン……!」


 その死を、キンソウも見ていた。

 自分よりも一枚上を生き続けた、切磋琢磨してきた好敵手。

 恵まれた生まれではなかったが、腐らずに鍛錬し、少なからず尊敬していた男。

 彼が、すぐそばで死んだ。


「プッシュエフェクト、スラッシュハンマー!」


 それは、特大のノイズであった。

 友との思い出が脳裏を駆け巡った一瞬、その無防備をホワイトは見逃さなかった。

 極めて出の早い技が、キンソウの体を吹き飛ばす。


「ぐぅ!」


 実力では、ホワイトよりもキンソウが勝っていたのかもしれない。

 故に一度クリーンヒットをもらっても、立て直せたかもしれない。

 しかしそれは、クリーンヒットが一度であった場合だ。


「がっ……!」


 同等同格の戦いは、つまり削りあい。

 小さなミスの積み重ね、大きなミスの一撃。

 それらが重なって、決定的な差を生む。


「い、インパクトクリエイト……!」

「プッシュ、プレス、アース! トリプルスロット!」


 味方の身を案じ続けた将軍と、目の前の相手と戦い続けたハンター。

 その心の違いが、この状況を生んだ。


「ポール!」

「レクイエ……ム……」


 圧縮された土の柱が、キンソウの頭上へと落下してくる。

 それを防ごうとしたキンソウだが、重なったダメージによって対処が遅れた。


 頭が首が、背が腰が。

 それらの骨が悲鳴を上げつつ、彼は屈しながら地面へと埋まっていく。


(だ、大将軍……大王様……)


 仲間を想う気持ちが、敗因だった。

 それを分かったうえで、彼は最後まで仲間を想っていた。


(クモン……ごめん……)


 勝利とは、目の前の相手を殺すこと。

 その基本を忘れた彼は、詫びながら、生きたまま、地面へと埋まった。

 そして、生きたまま地表に出ることはないだろう。


「ブゥ、お前に先を越されたうえに、それが決定打になった……負けた気分だ」

「それじゃあ勝ってきてくださいよ……正直、魔王の姿に疲れました……もう戦えません」


 互いの勝利をたたえ合うこともない。

 疲れきった二人は、憎まれ口をたたく。


 そのうえで、最後の一人を見た。


「ふぅう……はぁあ……」

「ぜぇっ……ぜぇっ……」


 己の両腕であったはずの二人が殺されたにもかかわらず、満身創痍にも関わらず、ガイセイと互角以上に戦っている男。

 大将軍ウンリュウ。彼はまだ燃えていた。


 なるほど、ジョーの言うとおりである。

 これを倒すのは、極めて至難だ。

 まさかここまで来ても、倒れる見込みがないとは。


「ブゥ! お前はもう戻っていいぞ! ホワイト、お前もあっちに行きな!」

「そうさせてもらいますぅ……」

「ああ、戻ってきたときには始末しておけよ」


 クモンを倒したブゥは、狐太郎たちの待つ本陣へ。

 キンソウを倒したホワイトは、一塊になって逃げる敵へ。

 それぞれ、消えるような速さで向かっていった。


 それでもなお、大将軍はガイセイを見ている。


「……なあアンタ、もしかしてクモンってのは、弟子かなんかだったのか?」

「ああ、私が鍛えた。同じ属性だったのでね」

「そうかい……」


 ガイセイは、アッカを思い出した。

 クモンとウンリュウが、似た関係なのだろうと、少しだけ浸った。

 だがそれでも、お互いにお互いだけを見ていた。


「ずいぶん余裕だなあ、アンタ。弟子が殺されたのに、全然動じねえ」

「決まってるじゃないか、勝った後で泣くよ」

「ふぅう……旦那、格好いいぜ」


 互いに、勝たなければならない身だった。

 だがしかし、敬意はある。敬意を抱かなければ、勝てない相手だ。


「……まったく、思わぬ敵に遭遇したものだ」


 ウンリュウは、まだ力尽きていなかった。

 ウンリュウは、まだ燃え尽きていなかった。

 まだ彼は、勝利を諦めていない。


「おかげで部下を失った……」


 ガイセイに勝ち、ホワイトを追い、ブゥへ向かい、全員殺す気だった。

 他の誰もを殺し、そのまま故郷へ帰って、大王から沙汰を受ける気だった。


「私一人で、全員殺すことになるとはね……!」


 最後まで、何も投げていなかった。


「まだ終わらないとも……始まったばかりだとも!」

「いいやあ、終わりだ。人生なんてそんなもんだ、いつだっていきなり終わっちまう」


 奇しくも、ではない。

 二人とも、同じ技を発動させる。

 それは、エフェクト技ではなく、クリエイト技でもなく、エンチャント技でもスロット技でもない。

 ましてや、ギフト技でもデット技でもない。


「ファイヤー……」

「サンダー……」


 それは、ただの力技。

 膨大なエナジーを実体化させたうえで、切り離して停滞させる。

 そのうえで、自らにエナジーを込め、切り離した力と合流させる。


「アルティメット!」

「アルティメット!」


 エフェクト技と、クリエイト技の同時使用。

 膨大なエナジーを持つものにしか使えない、後先を考えぬ最終手段。

 悪すぎる燃費、長すぎる予備動作。

 それと引き換えに放つ、限界を超えた異常火力。


 握りしめた拳に、迸るのは炎と雷。


 互いに助走をつけて、目の前の相手だけに、それを直接叩き込む。


栄光の始まりライジングサンシャイン!」

終幕の天空神デウス・エクス・マキナ!」


 笑う二人は、己の勝利を疑わず、ただ思いっきりぶん殴った。


 最大規模の衝突が、今更のように天蓋を焼く。

 雪に覆われていた戦場が、一瞬で乾ききる。


 カセイの城壁のほとんどが崩壊し、内部でも家屋が崩れていた。


「アッカの旦那、大公の旦那……悪いな」


 満足げに、二人は立ち尽くす。


「カセイを死んでも守るって約束は……果たせなかった、ぜ……」


 彼の視線の先には、崩れた大都市が見える。

 彼の目には、勝利とは程遠いものが映っていた。


「……申し訳ない、大王様」


 大将軍は、今更のように詫びた。


「私は……もう……」


 彼の目は、もう何も映さない。


「貴方の力には、なれないようだ」


 二人は、倒れなかった。

 何もかもが砕けた後で、しかし二人は立ったまま決着を迎えていた。


「……ウンリュウの旦那、アンタは」


 西重国大将軍ウンリュウ、戦場にて果てる。

 諸国に名をとどろかせた英雄は、最後まで国家のために、大王のために、勝利のために尽くしていた。


「いいや、ああ……ああ……」


 彼を誉める言葉を、ガイセイは持っていなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんというか改めて戦力が揃ったなあって まさか一国の軍に勝てるぐらいまでになるとは、まあAランククラスの戦力が5つもあればそんなものなのかもだけど
[良い点] 大将軍、敵ながら天晴れな人物だったなぁ・・・ [気になる点] 問題は今後だな 災厄の種はまき散らされた気がする [一言] さて、じゃあ最後の始末だね
[良い点] カセイが目出たく崩壊したので結果は「引き分けor敗北」 この勝者が利益が皆無なのに全てを失い後の禍根すら残し、敗者は… 大公・討伐隊「これであの森から離れられるから、ヨシ!」 なんて理不…
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