モンスターパラダイス2-最高のパートナー- グッドエンディング
『いやはや、世の中どうなるかわからないものだ』
そう言ったのは、ディアナである。
『君も聞いた通り彼女たち三体は、元々あの究極のモンスターを倒すために製造した。逆に言って、他の相手にはあまり向いていなかった。道中、ずいぶん苦労しただろう』
のんきなものだった。
目の前には飢えたモンスター。数多の生贄によって特異な力を授かっている、恐るべきモンスター。
まったく制御できなくなっているのに、それでも怯えていなかった。
『君は正しいことをしたよ、馬太郎君。もしも彼らを殺していれば、彼女たちを人殺しにしていただけではなく、彼らを餌にすることはできなかった。結果として彼らは自業自得、私たちの心は痛まない』
「……少しは、いや……結構痛んでるよ」
『そうかい。私が人間のままだったら、小躍りをするほど嬉しかっただろうけどね。ただ……まあ、あの究極のモンスターを退治するところから始めようか』
ここまで来るのに、綱渡りの連続だった。
それもこれも、彼女たちが『不合理』だったからこそ。
お世辞にも、彼女たちは強くない。というよりも、敵に対して有効な攻撃手段が少なかった。
その上、防御手段や自己強化なども不得手である。
それどころか何の意味があるのかもわからない技や、デメリットの有る技も覚え過ぎていた。
「了解であります! 今こそ我らの使命を果たす時!」
「さあ、一世一代の大勝負ね!」
「ヒィートアップォ! ファイヤーぁああ!」
だがそれは、逆に言って『メタ』な存在である究極のモンスターの能力が、全く生かせないということだった。
「お腹、空いたよ……お腹が空いたよ……コユウ技、エリアドレイン」
「ぬぅ! これが吸収形態の技……ご主人様! お下がりください! 我等はともかく、ご主人様たちには致命的です!」
「ああ……頼む、パレード!」
歯がゆいが、馬太郎はディアナと共に下がる。
もはやこの状況で、馬太郎は下がるしかない。
「相手が吸収形態であるならば……まずは弱点を探る! 私の出番であります!」
そして、彼女たちは最初からこの状況を想定して作られている。
最初から指示の必要などない、すでにインプットされているからだ。
「ミミックハンドガンを使用するであります! 火属性、風属性、水属性、土属性の各弾丸を装填!」
コユウ技、アルティメットドレイン。
常時発動型の防御能力であり、常に一つだけ存在している耐性の穴を例外とすれば、絶対に抜けない耐性となっている。
その弱点を知っていたとしても、普通ならば四回攻撃して弱点を探らなければならないだろう。
だがウェポンキャリアーミミックであるパレード・ダンサーには、四つの属性の弾丸を一発ずつ撃つ技がある。
「ミミックぅうううう、セットショット!」
まず一発ずつの威力が低く、加えてバフもかからない。ごくわずかなダメージを与えるだけの、何の意味もない技である。
だが、この状況では大いに意味がある。
「火属性の弾丸の効果を確認! 現在火属性が弱点であります!」
「いやはーー! ならば私の出番!」
ハイブリットエンジンジーニー、ストリート・ダンサーが飛び出す。
常に熱気を帯びた彼女による、灼熱の打撃が叩き込まれた。
「シュゾク技、エンジンハンマー!」
彼女の本体ともいえる、エンジンそのものを鈍器としてたたきつける。
大いに過熱している火属性の武器攻撃は、吸収されずに究極のモンスターへ通っていた。
「火攻撃なら私もできるわね! シュゾク技……ヒートポイズン!」
相手の皮膚にやけどを負わせる、火属性の毒攻撃が当たった。
それもやはりダメージとして通り、究極のモンスターの体を焼いていく。
「う、うう……うう……」
「むぅ! 今の攻撃で耐性の変化をしたと思われます! 再度ミミックハンドガンで弱点の調査を行うので、二体は待機!」
再び弾丸を込め始めるパレードだが、当然究極のモンスターは待たない。
「コユウ技……ピンポイントドレイン」
「う、うぐぅ! なんのこれしき! この程度の攻撃、ここまで何度も受けてきたであります!」
しかし悲しいかな、相手にダメージを与えつつ自分の怪我を治す技は、威力そのものはさほどでもない。
相手が無力な人間や格下ならともかく、同等の相手には不足だった。
「ミミックぅうううう、セットショット!」
「あ、あ、あ、う!」
「風属性、効果確認!」
既に究極のモンスターは、焼けていた皮膚を治していた。
自己治癒能力によるものであろうし、パレードから体力を吸収したことも大きいのだろう。
だが、三体が与えているダメージの方が、明らかに大きい。
「風……私は出番なし? オウノー!」
「私も風は……」
「支援するであります! ミミックゥ……マシンガンセット!」
頭からかぶっている宝箱から、三丁の機関銃が取り出される。
それを彼女は、自分と仲間に分けた。
「風属性の弾丸を装填済みであります! 二体とも、吸収されるまで撃ち続けるであります!」
「オッケィ、シスター……ファイヤー!」
「あんまり好きじゃないけども……!」
とにかく当たればいい。決して高威力ではない、風属性の弾丸が大量に発射される。
大威力ではないそれは、むしろ究極のモンスターにとって苦痛だった。
「……ピンポイントドレイン!」
本能による反撃だろう、彼女はバーに単体吸収攻撃を仕掛ける。
それは体が大量の蛇でできている彼女の、その生命力を大いに奪った。
「あぅ?! よ、よくもやったわね! シュゾク技、パラライズカウンター!」
頭部の蛇の髪が、怒りに燃えて究極のモンスターに食いついていく。
その噛みつき攻撃自体は吸収されているが、牙から出る麻痺毒は防げなかった。
「あ、ああ……?」
「対象の麻痺を確認! 相手の行動が一手遅れると判断するであります!」
「スピィディーってこと? オーライ!」
「ああもう、しなびれるじゃないの!」
弱点を探りつつ、状態異常を浴びせながら、四属性の弾丸を当てていく。
三体も吸収攻撃に対しては耐えているだけだが、究極のモンスターも麻痺などによって攻撃的な吸収ができず、ダメージレースでは大いに勝っていた。
「……なあディアナ。もしかしてあの究極のモンスターって……状態異常の回復は早いけど、状態異常耐性自体は低いのか?」
物陰に隠れて、耳を押さえながら戦況を見守っている馬太郎。
彼は気づいたことを口にしていた。
状態異常特化型であるはずのシーアネモネラミアオクトパスだが、多くの状態異常を持つ一方で状態異常の効果を上げる技は使えなかった。
だからこそ相手が少し強いと、麻痺や毒、火傷にできなかったのである。
しかし今は、まったく抵抗なく通っている。それはバーが強くなっているというよりも、相手にその備えがないということだろう。
『その通りさ。究極のモンスターは、その性質上状態異常自体は食らう。各形態は容姿や特性こそ変わっても、そうした基本能力は共通だからね』
「治るのが早くても、一体じゃあ……」
『だから言っているだろう、彼女たちはそのために作られたとね』
まさに、メタの張り合いであろう。
如何に治るのが早いとはいえ、一度は確実に行動不能になるのなら、一体ではどうあがいても手が足りない。
そして相手の状態異常耐性が低いのなら、耐性突破力を上げる意味がない。その分のリソースを、別に注ぎ込んでいるのだろう。
「……いいことなんだろうな」
だが、その結果は一方的な戦況だった。
ここまで苦戦続きだったので初めての体験だが、相手が哀れなモンスターでは喜ぶことはできない。
少なくとも馬太郎の顔は、曇り切っていた。
「むぅ……バー・ダンサー! 相手に形態変化の兆候が見られるであります! 一旦状態異常攻撃は控えるであります!」
「あら……それは残念ね」
究極のモンスターは、三つの形態を持つ。
それぞれに特性があり、仮に知っていても、すべてに対応できるとは限らない。
「おおぅ……大きくなったねえ……」
ストリートが思わずため息をつく。
幼さの残っていた少女の形態から、女性と呼べる成長した姿へと変わっていた。
「第二形態、同調形態であります! 回復や能力の向上をコピーされる上に、相手への状態異常は私たちに返ってくるであります!」
「……まあ、私たちに自分を治す力や、自分を強化する力はないんだけどもね。毒や麻痺も、私が自粛すればそれまでだし……」
「ノーノー! マイシスター! 私たちも力を吸われて弱ってる! このまま殴られるだけでもノックアウッ!」
形態が変わった究極のモンスターだが、ある意味先ほどよりも対処は楽である。
もちろん自分たちを治せないという問題もあるが、強化や状態異常を使わなければいいだけなので、このまま戦えばいい。
しかし、三体は第一形態から吸収を受けている。
元々体力は多く与えられている彼女たちだが、このまま連戦すれば倒れかねない。
「それじゃあ、行くわねぇ……ストリート」
「バー! 今こそあの技を!」
だが、回復なしで戦うことなど、最初から想定済みである。
何よりもストリート・ダンサーとバー・ダンサーには、この形態と戦うためだけに与えられた技がある。
「シュゾク技……クールダウン!」
「シュゾク技……セルフアタック!」
ハイブリットエンジンジーニーのシュゾク技、クールダウン。一ターンだけ、自分の全能力値を大幅に低下させる技である。
加えてシーアネモネラミアオクトパスのシュゾク技、セルフアタック。一ターンだけ、自分に麻痺や毒、火傷の状態異常を負わせる技である。
もちろん、ただの自爆技である。
通常のデメリット技と違って、他の能力値が上がることや、体力が回復するということは一切ない。
だが第二形態、同調形態になった究極のモンスターには、大いに意味があった。
「きゃああああああ!」
コユウ技、アルティメットレゾナンス。
回復と強化をさせないというあまりにも無体な技であるが、当然デメリットも存在する。
相手が自分の能力値を下げたり、或いは自分で自分を状態異常にした時、それを自分で勝手に受けてしまうのである。
それも、能力強化と同様に、永続化さえして。
「……うう、レゾナンスインパクト!」
それでも究極のモンスターは、健気に反撃する。
しかし力も速さも大幅に下がっている今では、その攻撃は余りにも心もとない。
まして相手が自分を強化していないのだから、特効効果はまったく望めなかった。
「ベタ踏みニー! ベタ踏みタックル! ベタ踏みキック! エンジンハンマー! エンジンスロー!」
「ミミックハンドガン! ミミックマシンガン! ミミックショットガン! ミミックドローン!」
「オクトパスホールド! ミリオンテイル! ミリオンバイト! テイルアンドバイト!」
もうこうなれば、能力値や状態異常が治った段階で、袋叩きにするだけだった。
永続化した複数の状態異常に侵され、さらに能力値まで大幅に下がったままでは、三体一で抵抗などできるものではない。
後はバー・ダンサーが毒などを相手に与えない限り、この形態で負けることはないだろう。
「……あの技、ここで使うためだったのか」
『そうだよ』
「状況がピンポイントすぎるんじゃないか?」
『メタってそういうものだし』
「まあそうだろうけども」
馬太郎が呆れるほど、究極のモンスターは強みを発揮できなかった。それどころか、どんな能力を持っているのかもわからなかった。
聞けばなんとも恐ろしい能力を持った形態ばかりだったが、それ専用の技をこれでもかと用意していれば勝負になるわけもない。
如何に究極を謳おうと、設計に関わった者なら対応は簡単なのだ。
悲しすぎる現実である。
「あ、ああああああああ!」
「むぅ! 第三形態であります!」
「いったん離れるわよ! このまま単体攻撃をしていたら、同士討ちになるわ!」
「ノゥ……せっかくのテンポだったのに……」
第一形態よりもさらに幼くなった究極のモンスター。
その姿は、先ほどまでよりもさらに弱っている。
「うう……ああ……あああ!」
第三形態、貫通形態。
単体攻撃の対象にならず、尚かつ特殊防御を無効化する形態。
格上のボス相手への常道を根こそぎ否定する、無体極まる形態である。
しかしそれも、当然対応できることだった。
「シュゾク技、ミミックマイン!」
パレード・ダンサーが大量にばらまいたのは、対モンスター地雷である。
武器攻撃、或いは格闘攻撃による接近戦を仕掛けた相手に反応して、一斉に爆発する単純な地雷である。
これ見よがしにばらまかれたそれを見て、しかしそれでも究極のモンスターは突っ込んでくる。
「コユウ技……アイドルパン……」
当然、地雷は爆発した。
技を出し切るまでもなく、彼女は吹き飛んだ。
その小さな体は、宙に舞ったのである。
「こ、コユウ技……」
それでも立ち上がり、抵抗を試みる。
「アイドル、パンチ……」
今の彼女は攻撃力が著しく下がっている。
もはや防御行動をとるまでもなく、素で受けてしまえた。
「シュゾク技、カウンターステップ!」
攻撃を受けたところで、反撃技を発動させるストリート・ダンサー。
彼女に与えられた知識は、反撃技ならばアルティメットアイドルの対象にならないと教えていた。
普通ならば、物理攻撃にしか反応できないカウンター技など無意味である。
ダメージを食らう前提がある以上、普通に攻撃したほうが早いに決まっている。
しかし今の状況では、反撃技は有効に働いていた。
「シュゾク技、アトランダムハリケーン!」
地雷が爆発しきった床で、ブレイクダンスを踊るストリート・ダンサー。
当たるを幸いのランダム攻撃が、追撃として究極のモンスターを追い詰めていく。
「……なあディアナ」
『何かしら?』
「もしかして究極のモンスターって……」
メタを張っているとしても、一方的極まりない展開。
それを見ていた馬太郎は、ある事実に行き着いていた。
「攻撃技が一つか二つしかないんじゃないか?」
いくら生まれたばかりとはいえ、出す技が単調すぎる。
どう考えても使わないほうがいい状況でも、それしかないとばかりに使い過ぎている。
『その通りだよ。第一形態は全体吸収と単体吸収があるけど、他の形態は特効単体接近攻撃しかない』
「それのどこが究極なんだよ……」
『だから、あれは恥なんだって』
「……哀れな話だな」
なるほど、防御手段が各形態に一系統で、しかも攻撃も一種類しかないのなら、メタを張るのはこの上なく簡単である。
なにせ形態ごとにワンパターンなのである、抵抗のしようがない。
『あのねえ、あの小さな体一つに、三つの形態と三つの防御システムを搭載するのが、どれだけ大変だと思っているんだい? そのうえで特効攻撃まで載せたら、そりゃあ他の技を乗せる余裕なんてなくなるよ』
「まあそうだろうけども……」
究極のモンスターは、豪華な機能を乗せすぎたのだ。
なので数値的なスペックは極めて低く、使える技も形態ごとに一種類である。
むしろよく一体にまとまっていると感心するほどで、仕方がないのだろう。
「素人の客の、要望に応えすぎた結果か……」
『ね、恥だろう?』
「……その点は全面的に認めるよ」
仮に対策の取れないメンバーで挑んだとしても、ひたすら単調に戦いが続くばかりだ。
勝っても負けても、見ていて面白いものではあるまい。
これがモンスタースポーツの社長の求めたものなのだから、皮肉にもほどがある。
「本当に……かわいそうなモンスターだ」
おそらく完成して納品されていれば、クレームが入っていただろう。
彼自身が言っていたように、捨てて次のを用意させていたはずだ。
それを想うと、涙がこぼれそうである。
『だが、倒さなければならない。スポンサー様も言っていたが、アレを制御する手段はもうないのだから』
「ああ……それも含めて哀しいよ」
何のために生まれてきたのかわからない。
それは悲劇だろう。
だが何のために生まれてきたのか、わかったとしても悲劇である。
人間の悪業、その結実を馬太郎は見ていた。
「……そんなモンスターを倒すために生み出された彼女たちも」
今こそ、彼女たち三体はフルスペックを発揮しているのだ。
この状況以外では全く役に立たなかった能力がフル回転し、何もかもが噛みあって圧倒できている。
だがそれは今だけであり、今後一切役立つことはないのだ。
あまりにも異形な彼女たちは、モンスターの中でも異端だ。
それは、彼女たちの非ではなく、人間たちの非である。
モンスターたちが戦っているのは、人間の悪のせいなのだ。
「全部……人間のせいだ……」
彼女たちが悪ではないのなら、守られている自分こそが悪であろう。
己の、人間の、非力さと罪深さに、彼は涙を禁じえない。
「シュゾク技、スネークスコール!」
最後の決め手は、シーアネモネラミアオクトパスのバー・ダンサーによる、全体攻撃だった。
大量の蛇の髪が伸びて、弧を描くように前方へ降り注ぐ。
それを浴びた『究極のモンスター』は。
否、人間の悪の犠牲者は。
「い、嫌だ……」
泣きながら、逃げようとする。
その小さな拳で、広報区画の壁を叩いた。
彼女の特効は、この異次元に存在する研究所の壁に施された結界に、効果を発揮していた。
堅牢故に特効の効果を受けた壁は、あっさりと破壊される。
「嫌だよ……死にたくないよ……」
それは、行き先のわからぬワープ、自殺だった。
だがそれでも、彼女は逃れていく。
「アタシ……死にたくない……!」
逃がすわけにはいかない、逃がせない。
究極のモンスターを倒すためだけに生み出された三体は、その製造された理由に従うべく攻撃しようとして。
「いいんだ! もういい!」
馬太郎に、静止されていた。
彼は三体に抱き着き、動きを止めていた。
「ご、ご主人様?! 危ないであります!」
「ちょちょちょ?! え、エンジンが熱くなってるって?!」
「私の蛇も興奮しているから、噛んじゃうわよ?!」
いびつな怪物たちは、それでも馬太郎の身を案じる。
自分たちがどれだけ悲劇的な出生なのか、どれだけ世間から浮いた存在なのか。
それを知らぬまま、人間という悪しき神の身を案じた。
今まで、ただ指示をしてきた彼を、慕ってしまっていた。
それさえ、馬太郎には耐えがたかった。
「もういいんだ……俺なんかのために……人間なんかのために……戦う必要なんてない……あのモンスターを倒す必要なんてないんだ!」
馬太郎が三体を止めている間に、異空間の中へ、哀れなモンスターは消えていく。
「で、ですが……私たちは、そのために……」
「そうだって、私たちはそれが……」
「私たちに、それ以外で何ができるって……」
偽善だった。
役目を果たそうとする彼女たちを、人間を守ろうとする彼女たちを、人間が邪魔をするなど。
あのモンスターが虚空で苦しむことを思えば、殺してやるべきだったのかもしれないけども。
それでも彼は、飛び出さずにはいられなかった。抱きしめずには、いられなかった。
「いいんだ! お前たちは……お前たちは!」
先ほど、あのスポンサーが言っていたことを思い出す。
あの悪しき男の言葉を聞いて、彼女たちはどう思ったのだろう。
もしかしたら、傷ついてさえいなかったのではないか。
それは、傷つくことより、泣くことより悲しいことだ。
「お前たちは、お前達ってだけでいいんだ!」
『……三体とも、馬太郎君の言う通りにしなさい』
静かに、創造主は三体を許した。
「……りょ、了解であります」
「で、でも……私たち、何をすれば……」
「その通り! この後のことなんて、インプットされてないって!」
『いいのよ、まずは休みなさい。疲れたでしょう?』
彼女たちを生み出した創造主は、変わり果てた姿のまま三体を労わる。
『任務は達成されたわ、貴女たちには新しい仕事をあげる。だからまずは、疲れた体をさっきのポットで癒しなさい』
「なるほど! ではその通りに! 1、2! 1、2!」
「わかりましたわ! とぅっとぅとう~~!」
「まずはお休み、もうぺこぺこ! 次のステージ、もうワクワク!」
自分たちの存在を疑わぬモンスターたちは、その場を去っていく。
なぜ主人が泣いているのか、その理由さえ疑問に思えずに。
「……ディアナ」
『何かしら、ご主人様』
「あの子たちを……普通の社会で生きていけるようにできるか?」
『もちろんよ、設備は無事だしね。キメラ技っていう大戦期の技術があるから、それを応用して……』
「技術的なことはいい……できるんなら、それでいい……」
一体ここに来て、何ができたのだろうか。
何もかも、流されるままだった。
もちろん、仕方がないと知っている。
シルバームーンを離反した、ディアナの尻馬に乗っただけなのだから。
だが、しかし。
今馬太郎は、何かを求めていた。
彼女たちにとって、良き神として、何かを与えたかった。
「俺は……俺はどうすればいいんだ!」
悪しき神の残骸、封印知性にそれを問う。
何もできない無力な男は、悪しき存在に問うてしまう。
「教えてくれ……なんでもする! あの子たちのために……俺は……」
『そうかい。それなら……』
人でなくなった人でなしは、彼にだけ出来ることがあると知っている。
その素性を知られれば、誰もが哀れむだけの存在を、哀れまぬ男に使命を与える。
自分の後始末をしてくれた、心優しい男の願いをかなえる。
『彼女たちにとっての……』
「彼女たちにとっての?」
『最高のパートナーになるんだ』
この後、匿名にて事件の詳細を記した資料が、警察や各メディア、ネットなどに拡散された。
それによってモンスタースポーツの大企業は倒産し、多くのモンスターや人間が職を失い、モンスタースポーツそのもののイメージまでも損なわれる。
何よりも、人間という支配者そのものへの不信感さえ生まれた。
しかし、それでも。
この事件が余りにも馬鹿々々しく、人間にとって恥部であったからこそ。
それがほぼ公開されたことを、自浄の証だと思う者はいた。
ほぼ公開。
それはただ巻き込まれた百人に加えて、解決のために立ち向かった一人の勇気ある若者の素性が隠されていたということ。
二人目の英雄は、かくて史に『名』を刻んだのである。
モンスターパラダイス2-最高のパートナー-
完
第一形態(吸収形態)
十代後半
コユウ技 アルティメットドレイン、エリアドレイン、ピンポイントドレイン
特性 あらゆる属性の攻撃を吸収する
攻撃力は低いが、無類の防御能力をもつ。少なくともこのゲーム内で、この吸収能力を無効化する手段はない。
詳細
火、水、土、風の属性の内、どれか一つだけが常に耐性の穴になっている。
しかし一定以上のダメージを負うと耐性が変わってしまうので、どんな属性の攻撃でも一発で沈めることはできない。
まず弱い威力の四つの属性攻撃を当てて弱点を探り、強すぎない威力の攻撃を当て続けてダメージを蓄積させ、耐性が変わったところで再度探る、ということを繰り返すことになる。
なお、あくまでも『攻撃を吸収』する能力なので、能力低下や状態異常自体は通る。すぐに治るけども。
第二形態(同調形態)
二十代中ごろ
コユウ技 アルティメットレゾナンス レゾナンスインパクト
特性
回復技、状態異常や能力値の変動を、永続化して跳ね返し合う。
相手が自分の傷を治せば自分の傷を治し、相手が味方を強化すれば自分も強化する。
こちらの能力が下がれば相手の能力値も下がり、こちらが毒などになれば相手も毒になる。
影響を与えた側の持続時間と関係なく、影響を受けた側は永続化する。
加えて、レゾナンスインパクトは相手の能力値が上昇していればいるほど特効が入るため、仮に防御力を上げまくっても補えない程の威力になる。
詳細
この形態の弱点は、相手の能力が下がった時も発動してしまうことにある。
つまり相手がそのターンだけ攻撃力を下がる技を使えば、彼女は永続的に自分の攻撃力を下げてしまう。
もちろん相手が自分で自分に毒をかける技をつかえば、彼女は永続化して毒を負う。
これらは自然治癒しない。
よって敵がデメリットの有る技を使い続ければ、彼女は際限なく弱体化してしまう。
また、相手が特殊防御行動をとってきた場合、これを破る手段はない。
あくまでも能力の変動や状態変化に対応しているのであって、バリアや身代わりなどには対応していない。
第三形態(貫通形態)
十代前半
コユウ技 アルティメットアイドル アイドルパンチ
防御面においては単体攻撃の対象外となり、なおかつターゲット指定系の技をかき乱す効果を持つ。
仮に単体攻撃を相手が撃った場合、味方にあたる。
また、バリアや無敵化、身代わりや幻影など、攻撃を無効化する特殊防御を無効化し、なおかつ威力が倍増する特攻攻撃を持つ。
詳細
あくまでも単体攻撃に対応しているのであって、敵の中の誰にあたるのか指定できないタイプのランダム攻撃や、敵全体を攻撃する全体攻撃などには意味がない。
また、反撃系や設置系のように、攻撃してきた相手にあたる技などは普通に通る。
 




