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攻略の手順

 非常に今更だが、Aランク上位モンスターであっても、ノットブレイカー自身は無敵でもなんでもない。

 殻が無敵だったとしても、そんなのはAランク上位モンスターとしては普通のことで、というか殻が硬いのは殻の存在意義として普通過ぎて、まったく問題ではなかった。

 殻にこもったまま攻撃できるとか、殻にこもったまま移動できるとか、そんなことは一切ない。

 ある意味普通の『殻があるモンスター』と戦う時同様に、殻以外を叩けば普通に勝てるのだ。そういう意味では、海であるという点を除けば、ノットブレイカーは倒すことが難しくない。(Aランクハンターにとっては)。


 だが、吸収形態の彼女は、そうでもない。

 なにせ全身が無敵なのだ、こっちのほうがよっぽど無茶苦茶である。


「サンダーエフェクト、ゼウス!」


 電撃を纏ったガイセイの拳が、彼女の掌にあたっていた。

 当たってはいたが、まったく影響はなかった。

 ノットブレイカーの殻とはまた違った手応えだったが、それでも何度殴っても効果はない、という感触である。


「へえ……本当にAランクモンスターかもな」

「地力が低いことが救いだな。これも『技』なのだとしたら、彼女もまた狐太郎君達と同じところから来たのかもしれない」


 改めて彼女の正体を確認するべく、ガイセイと大公は破壊検査を試みた。

 その結果は、無敵である。ノットブレイカーとはまた違う理屈で、破壊が不可能だった。


「他の形態も、恐ろしい能力を持っている。彼女がこちらに好意的で助かったよ。そして……ホワイト君がうまく付き合ってきた結果だな」

「それほどでもありません」

「本当にね」


 能力の説明を聞いた大公は、感心こそしても恐怖は抱いていなかった。

 きちんと制御されているモンスターを恐れているのなら、それこそ四体の魔王にシュバルツバルトを任せていなかったはずである。


 なお、彼女としてはホワイトに気を使われたと思っていないらしい。

 実際、その通りっちゃあその通りだった。


「さて……麒麟君、彼女の正体を知っているのかね?」

「……っていうかお前らすげえ顔してるな。初めてだぞ、そんな顔」


 麒麟、獅子子、蝶花。

 彼ら三人は、彼女の能力を聞いて驚き、実際に見てもっと驚いていた。


 それは『既知』への驚嘆だった。

 ノットブレイカーの殻が壊れているような、誰がどうやって壊したんだ、というものではない。

 なんでこんなところに『これ』があるんだ、という種類の驚嘆である。


「……究極のモンスター」

「間違いないわ、本当に……究極のモンスター……」

「で、でも人違いという可能性も……ほら、似た能力かもしれないし……違っていたら失礼だし」


 そして三人は、肯定的ではなかった。

 他でもない、Aランクハンター狐太郎たちの存在を知った時は、もう少し羨望のようなものがあった。

 だが今は、むしろ悲哀以外のものを含んでいない。


「……結論から先に申し上げます。僕たちは彼女と同じ能力を持ったモンスターを知っていますが、似た能力の別のモンスターである可能性は否めません」

「ふむ、そうだな。しかしどうやって確認する?」

「彼女の能力の穴を、実際に確かめようかと。僕たちが知っている『倒し方』で倒せるのなら、それは本当に……『究極のモンスター』なのでしょう」


 それを聞いて、ホワイトは顔を曇らせた。

 一見無敵に思える彼女だが、攻略の仕方は存在している。

 他でもない彼女自身から、直接聞いていることだった。


 だが、ホワイトはそれを他人に話したことはない。

 おそらく彼女自身も、他の誰かに話していないだろう。

 であれば確かに、彼らが知っているのはおかしいということになる。


「……僕はそれでいいけど、そもそも君」

「なんですか」

「僕に勝てるのかい?」

「ええ」


 初めて会った相手に、自分の正体を知っているかもしれない相手に、哀れまれる。

 なんてかわいそうなモンスターなんだと、哀れまれる。

 それは彼女にとって、いいや、誰にとっても屈辱的だろう。


「貴女が自分の弱点を理解しているのなら、むしろ逆に自信のほども理解できます。ですが、僕はそれを突けますので」

「へえ、興味があるね」


 素性を知っているかを確かめる、という口実で、二人は戦おうとしていた。

 既に、そういう空気になっている。


「じゃあ……確かめてみようか」


 大公をホワイトとガイセイが庇う。その後ろに隠れる形で、蝶花と獅子子は下がった。


「じゃあまずは……」


 相手は一人、こちらも一人。

 おまけに室内、であれば最適な形態は決まっている。


「いっくよ~~! コユウ技、アルティメットアイドル!」


 貫通形態。

 一番幼い姿になった彼女は、その特有の能力を発揮した。


「それは確か……第三形態か」

「コユウ技、アイドルパンチ!」


 向かってくる彼女に対して、麒麟はまったく動かなかった。

 それこそ意図して、何の防御行動もとろうとしていない。


「ぐぅ!」

「!」


 そして、そのまま無防備に喰らっていた。

 胸にあたって、実際に痛そうにしている。

 しかしそれでも、まるで動こうとしていない。


「キョウツウ技……」


 逆に彼女も、麒麟の反撃に対応をしようとしていなかった。

 単体攻撃に対して、彼女は無敵である。そもそも対象となることがないからだ。

 たとえ必中効果をもっていたとしても、対象にならないのでは意味がない。


「ブラックトルネード!」

「!」


 しかし放ったのは、室内であるにも関わらず大技だった。

 複数の相手をまとめて切り裂く黒い嵐が、彼女の体を切り裂いていく。


「うう……結構効いたよ!」


 周囲からすれば、お互いに無防備にダメージを与えあっただけだろう。

 なんとも情けない、素人同士の戦いに見えるだろう。

 だが実際には、麒麟が正しく彼女へ対応をしていただけだった。


「コユウ技、アルティメットアイドル。それは単体攻撃の対象とならず、ターゲット指定系の技をゆがめる効果を持った技……全体攻撃、あるいはターゲットを指定しないランダム攻撃には無意味」


 敵全体攻撃、は言うに及ばない。

 ランダム攻撃というのは相手を指定せず、一定回数攻撃する技である。

 一人に何回か当たることもあり、逆に全体へ均一に当たることもある。

 まさにランダム性の強い技と言えるだろう。


 とはいえ、今麒麟が使ったのは間違いなく全体攻撃なのだが。


「コユウ技、アイドルパンチ。これは防御行動を無視し、なおかつその防御の強さと多さに比例して威力が上がる技。逆に言えば、無防備に受け止めるか、普通に防御力を上げて受ければ問題にならない」

「……正解」


 彼女は以前にこの形態で、悪魔と戦ったことがある。

 そのときも不意打ち気味に当てていたが、ノットブレイカーの殻を粉砕するほどの威力は出なかった。

 彼女は存在そのものがメタであるが、逆に言えば相手の行動に著しく依存している。

 相手が逆をしてくれば、大した力は発揮できない。


「それなら、『私』ならって言いたいけど……結局今みたいに戦われたらそれまでだよね」

「……」

「同調形態は、相手が自分を強化したり、相手を弱体化させる技の使い手じゃないと意味ないし……アイドルパンチを普通に耐えるのなら、素の殴り合いになっちゃう」

「そうですね」


 ある意味では、一番対応が簡単なのが同調形態である。

 仮に何も知らない者でも、観戦していればその性質は理解できる。

 貫通形態の場合はよく知らないと意味が分からないだろうが、強化と弱体が分かりやすい彼女は初見でも理解できるのだ。

 現に先日の砂浜でも、他のハンターたちも一度で理解している。


「じゃあ、やっぱり僕の登場だね」

「第一形態……」


 では、わかりやすい上で、絶対無敵に思える吸収形態はどうか。

 あらゆる攻撃を吸収することができる、基本形態ともいえる状態はどうなのか。


「実際どうなんだい? アイドルパンチに素で耐えられる君は、たぶん僕が出会ったハンターたちの中でもかなり強い。それは認めるけども……この形態の穴を、抜けるとは思えない」

「……貴女は記憶がないそうですね」


 麒麟は、それでも彼女を哀れんだ。


「そうだけど、それがどうかしたのかい?」

「辛くはないのですか」

「いいや、全然」


 だが彼女からすれば、哀れまれるのはただ侮辱だった。


「この二年ぐらい、ホワイトと一緒に旅をしたよ。いろいろなところに行って、いろいろなものを見た。それしか覚えていないけども、十分な日々さ」


 幸福で充実している自分を、不幸扱いされてはたまらない。


「君が僕の正体を知っているかどうかだって、そこまで興味はないんだよ。僕は自分の能力の穴を理解しているし、ホワイトと一緒だったから不足もなかった。これからだってそうさ」

「……」

「その上で聞くけども、君は僕には勝てないんじゃないかい? 倒し方を知っていても、どうにかなるもんじゃない」

「……」

「僕の経験上……僕を一人で倒せるものは……一体で倒せる者はいなかった……!」


 吸収形態は、攻撃力こそ低いが圧倒的に無敵である。

 弱点を聞かされたホワイトでさえ、到底無理だと諦めてしまうほどだ。

 そして多くの地を巡ってきてなお、一人も彼女に傷を負わせることができていない。


「一対一では、僕は無敵だ」

「……記憶がないのは本当のようですね」


 麒麟は、まったく脅威を感じていなかった。


「貴女になくて、僕に有るもの。それは……経験と知識です。確かにこの辺りで、貴女に一人で勝てる者は一人もいないでしょう。Aランク上位でさえ、傷一つつけることはできない。ですが……僕と、『ササゲ』さんだけは違います」

「ササゲ……悪魔の王だっけ?」

「ええ、悪魔の王です。ですが、悪魔であることは関係ない」


 麒麟の手に、赤い炎が灯った。


「大事なことは、魔法が使えるかどうかです」

「!」

「キョウツウ技、レッドファイア」


 おそらく、物凄く手加減しているであろう、赤い炎が彼女にあたった。

 当然だが、彼女のコユウ技、アルティメットドレインには意味がない。

 赤い炎は、一瞬で吸収される。


「キョウツウ技、グリーンウィンド」

「え?!」

「キョウツウ技、ブラウンアース」

「そ、そんな!?」


 緑色の、弱い風。

 茶色い、小さな土の塊。

 それらが当たっても、彼女にはまるで意味がなかった。

 何もかも吸収しており、まったくダメージはない。


 だが、彼女はこの上なく慌てていた。

 彼女の経験上、こんなことができる人間は一人もいなかったからだ。


「キョウツウ技、ボールアクア」

「くっ……!」

「なるほど、()は水が有効なようですね」


 少し冷たい水が、彼女にあたった。

 それは吸収できず、わずかにダメージとなる。


「な、なんで一人でこれだけの属性の攻撃を……!」

「驚くことではないのですよ、僕たちにとってはね。キョウツウ技……ソードアクア!」

「ううっ?!」


 今度は、圧縮された水が彼女に襲い掛かった。

 コゴエのそれに比べればとても弱いが、しかし確かにダメージとなっている。


「だ、だけど……!」

「ええ、知っていますよ。貴女の耐性は、今また変わったんでしょう?」

「!」

「コユウ技、アルティメットドレイン。あらゆる属性の攻撃を吸収する能力ですが……常に、一つだけ属性の穴が生じる」


 再び、麒麟は弱い攻撃を当て始めた。


「キョウツウ技、レッドファイア。キョウツウ技、グリーンウィンド。キョウツウ技、ブラウンアース。キョウツウ技、ボールアクア」


 繰り返される、四つの弱い攻撃、

 そのうちの三つは吸収され、わずかに彼女の滋養となり、回復となる。

 しかし、一つだけは傷となって、ダメージとして蓄積される。


「火、土、風、水。そのどれかが必ず穴となり、一定以上のダメージを受けるごとに変化する。一撃で大ダメージを与えようとすれば、途中で耐性が変化して吸収されてしまう。複合属性の場合でも、結局他の属性が吸収されるので意味がない」


 淡々と、麒麟は弱点を探りながら当てていく。


「第一形態を倒すには、強い攻撃と弱い攻撃を、四つの属性すべてで持っている必要があります。そして僕は、それが全部使えます」

「君は……スロット使いなのかい?!」

「いいえ、僕は『勇者』ですよ。ほぼすべての技に高い適性を持つ……貴女の天敵です」


 驚いているのは、彼女だけではなかった。

 大公もガイセイもホワイトも、麒麟の多芸さに驚いている。

 恐怖ではなく、驚いているのだ。

 

 この世界における技とは、エフェクト技、クリエイト技、エンチャント技、スロット技の四種類である。

 もちろんギフト技やデット技も存在するが、極めて珍しいと言ってもいい。


 一般的な兵士や低ランクのハンターでは、エフェクト技さえ使えない。

 一人で複数の属性を使いこなせるのはスロット使いだけであり、その数は極めて少ない。

 ましてやモンスターならば、一種で一種類使えるかどうかだろう。

 麒麟が見せた技の幅は、この世界では非常に珍しいものだ。


「貴女が得意とする相手は、特定の技に尖った者たち。特に編成の段階で、一つの戦術に特化したもの。特化していれば特化するほど、連携が噛みあっているほど……貴女には餌に見えるでしょうね」

「うっ……」

「もう十分でしょう、貴女は確かに『究極のモンスター』のようです」



 長いシリーズが続くゲームでは、ままあることなのだが。

 同じシリーズでも、同じ系統の技の効果が、まったく変わることがある。


 特に変化が大きいのは、強化や弱体化だろう。

 倍率の変化や、他の技とのすり合わせ。あるいは突破できない敵の耐性など。

 

 仮に、1.5倍の上昇が2倍になれば。

 あるいは『攻撃力が上がる技』が二つかかった時、片方が無効化されず加算され続ければ。

 そして『特定の攻撃を無効化する耐性』をさらにぶち抜く技があれば。


 それらが全部重なっていけば、ゲームはどんどん極端になる。

 難易度が下がる、簡単になってしまうと言えるだろう。

 難易度は高ければいいというものではないが、低すぎても問題である。

 

 モンスターパラダイスのシリーズで特に顕著だったのが、モンスターパラダイス2だった。

 二作目ということもあったのだろう、多くの技が増えていった。

 強化も大味で、重複することはなく、何かに特化したパーティーを作ればサクサクと進行できるようになっていた。


 バリアを張る技があるのなら、全体を無敵にする技があるのなら、特定のキャラクターが全部の攻撃を受けてくれるのなら、撃たれ弱いモンスターをいくら入れてもいい。

 火属性が得意なモンスターと、火属性の威力を上げるのが得意なモンスターが複数いれば、火属性に耐性があるモンスターだって倒せる。


 そうやって、簡単なコンボに気付いて、ダメージの数値がどんどん上がっていって。

 なんだ、楽勝じゃんと思っていたプレイヤーを、ラスボスが恐怖のどん底に落とすのだ。


 ラスボスに特別なギミックを仕込むのは定番だが、このゲームの場合はラスボスでゲームバランスを取っているのである。

 レベルを十分に上げることなく、必要だと思っていた技だけ覚えていて、ゲーム内で示唆される『ラスボス情報』のテキストを集めずに、常にワンパターンで勝ってきたプレイヤーは、ラスボスで詰むのである。


 一ターンだけ攻撃を無効化する技を、毎ターン使用できる。

 ただし、アイドルパンチに耐えられない。


 火属性の攻撃は半減させる敵がいるけども、火属性の技を十倍にできる技がある。

 でも火属性だけだと、アルティメットドレインを抜けない。


 バフの重ね掛けで能力を百倍にしたり、デバフの重ね掛けで相手の能力を十分の一にしたりできる。

 でもアルティメットレゾナンスで、全部倍になってひっくり返る。


 質の悪いことにこのゲームは、レベルを上げるのに時間がかかるが、新しい仲間モンスターを増やしたり、技を覚えるのは簡単なのである。

 そのくせラスボスを倒すのは、ラスボスへさらにメタを張れる弱い初期モンスターで編成するか、あるいはとにかくレベルを上げまくるしかないのである。


 まさに、製作者の悪意であろう。

 合理的にゲームを進めようとすればするほど、どんどんラスボスに対して弱くなっていくのだから。

 こうしたゲームの原点であるテーブルトークRPGなら、間違いなくリアルファイトに突入するだろう。


 しかしその一方で、これを擁護する声もある。

 ゲームバランス、あるいはゲームデザインという意味では、大きな意味もある。

 

 どんなゲームもワンパターンになってはいけない、どんな相手にも通じる必勝法などあってはいけない。

 ゲームの製作者は、プレイヤーをある程度悩ませなければならない。どうやってクリアしようかと考えさせるための障害を用意し、ヒントをちりばめて気づく快感と、クリア時の達成感を与えなければならない。


 もちろん、事前情報がばらまかれているとはいえ、今まで通じていた戦術が全部ひっくり返るようなラスボスが用意されているのは悪意以外の何物でもないのだが。


 そして彼女、モンスターパラダイス2-最高のパートナー-のラスボスの悪性は、それにとどまらない。

 彼女のあらゆる設定が、このゲームのコンセプトを根こそぎ否定することになっている。



「究極のモンスター……?」


 大公は、その言葉の意味を測りかねていた。

 魔王だとかAランク上位だとかならわかるのだが、あえて『究極のモンスター』と呼ぶ意味が分からない。


「よくはわからないが、君なら倒せるのだろう? 倒し方が分かっている時点で、そう呼ぶ意味が分からない」

「おっしゃる通りです、大公閣下。確かに倒せるのなら、究極のモンスターと呼ぶのは不適当でしょう。ですが……」


 軽く、ため息をついた。


「先に言っておきますが、僕たちの故郷では、僕ら三人のように強い人間は極めて少なかったんです。この国の人は信じられないでしょうが、狐太郎さんのような人のほうが、ずっと多かった」


 この世界は、麒麟たちにとって過ごしやすい。

 少し背が低いという程度で、周囲に溶け込むことができていた。

 溶け込み過ぎていて、特別扱いされていないのは残念だが、それでも窮屈ではなかった。


 この世界で生きている者にとって、麒麟たちの故郷は想像を絶する楽園だろう。

 だが彼女は、楽園だからこそ生まれた悲劇の存在なのだ。


「ですが、モンスターたちは人間に従っていました。アカネさんたちのように強く、従順なモンスターたちを、貧弱な人間が飼いならしていたんです」


 普通なら一笑にふすだろうが、他でもない狐太郎を知っているこの場の面々なら、それは疑う余地がない。

 少なくとも彼らは、何か強烈な契約に基づくものではなく、確かな信頼関係によって主従を成立させていたのだから。


「ですが……人間の中には……悪人もいます」


 その悪人の一人である麒麟は、自嘲しながら、元の世界で行われた狂気の悪を語る。


「禁じられた技術によって、『究極のモンスター』が、彼女が製造されました。悪魔のように発生するのではなく、亜人のように両親がいるわけではなく、クリエイト技やエンチャント技のようなものでモンスターが製造されたのです」


 それを聞いても、ホワイトは驚かなかった。

 こんなけったいなモンスターが、自然に生まれるわけがないのだから。


「そして、究極のモンスターとは……その製造目的は……」


 名前のない、近代の英雄、二人目の英雄、塞翁馬太郎。

 彼は三人目の英雄である猫太郎と同様に、異世界に旅立つことはなかった。

 だからこそ、この悲劇が二度と起こらないように、その詳細を公表したのである。


 麒麟は、蝶花は、獅子子は、それを知っていた。

 だが、今ほど重く受け止めたことはない。




「悪趣味な金持ちに売りつけるための、無駄に豪華なペットです」

次回

モンスターパラダイス2-最高のパートナー-

真相、ラストバトル

塞翁馬太郎の前に、真の悪が現れる。


「究極のモンスターを、どうするのか。それは貴方が決めていい」


「でもね、アレを作った連中には……アレを作らせた馬鹿には……罪に相応しい罰を与えなさい」


「悪しき人間(かみ)は、良き人間(かみ)が討たなければならないのよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] まあなんとなく欲によって作られてるとは察していたけどそれにしてはスペックが高いと思ってたけど金持ち用の高級品か 人の業ってやつはなんというか……
[良い点] 読者の意識の死角を突く話の進め方! [一言] >彼女の『私』の形態は、敵の強化が激しいほど意味を持つ。 >強化された敵が多いほど、その強化幅が大きいほど、その全てを自分に加算することがで…
[良い点] >実際、その通りっちゃあその通りだった。 時に、こういう文をぶち込んでくるところが良い。
感想一覧
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