板子一枚下は地獄
二人の財布は軽くなっていたが、そもそも金に困っていたわけではない。
ホワイトには、知識と経験、身分がある。
Dランクとはいえハンターであるし、日銭を稼ぐことに苦労はない。
なによりも、単純に強い。元野犬隊も言っていたが、強いということは恐怖がないということである。
ホワイトが強くなるために冒したリスクは計り知れないが、下位とは言えAランクモンスターから不意打ちを受けても死なないほど頑丈な肉体を得ている。
禿鷹隊のような輩はどこにでもいるが、そんな格下相手のピンハネで生きているような輩でどうにかなる実力ではない。
普通のハンターなら、数の力に屈し、儲けのほとんどを差し出して苦い思いをするだろう。
だが彼はどれだけ収穫があっても、それを他人に奪われる心配をしない。
誰が何人相手だろうと、倒せばいいだけだからだ。
たどり着くことは困難であり、しかも彼にとっては道半ばだが、しかしそれでも彼はもう英雄の域である。
例え軍隊であっても、彼を屈服させることはできない。
その彼は、海に来ていた。
海と言っても様々だが、彼が今いる場所は砂浜のように遊ぶところではない。
どちらかと言えば、岬。切り立った岩がそびえる、絶景である。
潮の香りが濃く、また波が岩にぶつかる音も定期的に聞こえてくる。
子供には少し退屈で、大人でも一人だと面白くない場所だ。
だがそれでも、ホワイトと彼女は、そこに来ていた。
「うふふふ……本当に海に連れてきてくれたのね」
「なんでその姿なんだ」
「だって、子供だと楽しめないもの」
同調形態、ともいうべきだろう。
一番年齢を重ねた姿になった彼女は、嬉しそうに微笑みながらホワイトの隣を歩いている。
(……なるほどなあ)
ホワイトは、彼女を見ながら納得した。
特に規則があるわけでもないのに、Aランクハンターが個人である理由を、彼は思い知った。
仲間が要らないこともそうだが、単純に邪魔なのである。
自分一人で戦った方が、仲間をフォローしながら戦うよりも楽なのだ。
そして、自分の攻撃で仲間を巻き込みかねない。
仲間が大事だからこそ、仲間を切って、英雄になるのだ。
なによりも、歩幅が違う。彼女も言っていたが、ホワイトは苦労して強くなっている一方で、そのペースは極めて速い。
それこそ、仲間を置いて行ってしまうほどに。そして仲間のペースに合わせれば、いつまでたっても英雄にはなれない。
その点、彼女は完璧である。
なにせ……。
(こいつを殺せる気がしないもんな)
Aランク上位に食い込む死ににくいモンスター。
殺せる気がしないので、連れ歩くことにまったく抵抗がない。
やはりモンスターが相手の狩場で最も信頼できる仲間とは、突き詰めると『殺しても死ななそう』な奴なのかもしれない。
「モンスターもいないし、お宿も近くにあるし、暑くも煩くもない……いいところね」
「まあそうだろうな、この辺りは観光名所として有名なんだ。この結構寒い時期でも、良いところのご家族がいらしているぞ。ちょうどお前と会ったあの山と、シーズンは真逆だけどな」
「あらあら、それじゃあ人が少ない時に来れたのね、嬉しいわ」
人がたくさんいる、という時期に来れるのはそれで楽しいだろう。
だがしんみりしたい時もある、それも本当だ。
「……ところで」
「なんだよ」
「この辺りって、Aランクハンターがいるのよね?」
「ああ、そうだ」
「危なくないの?」
ある意味、もっともな質問であろう。
シュバルツバルトなど最たる例であろうが、Aランクハンターがいるということは、Aランクハンターが必要とされているということだった。
つまり、この近くにAランクモンスターが生息している……と考えても不思議ではない。
「いやいや、そんなはずないだろう。いくらなんでも、そんなあちこちにAランクモンスターの巣なんてない」
「じゃあなんでここにAランクハンターがいるの?」
「この辺りを治めている公爵様が、近隣の領地を含めて守るために雇っておいでなのさ」
基本的に、Aランクハンターは非常時の備えである。
常勤が任じられているシュバルツバルトが異常なのであって、普通のAランクハンターは偉いお人の傍にいて、付近の領地をまとめて管轄としている。
つまり『Bランク上位が近くに来たよ、助けて!』と言われたり『Aランクモンスターに近くの街が滅ぼされた、直ぐに来て』などに対する備えである。
Aランクハンターがどうしても出動しなければならない案件は少ないため、結果として広い範囲を担当することになっている。
「管轄の中心部だからここにいるんであって、ここが危険ってわけじゃない」
「ああ、そうなの……ねえ、名探偵さん? 貴方のお話って、かなり信頼度は落ちているのだけど……」
「……ま、まあ、ありえないとは言い切れないな。なにせここは海に面している、海からモンスターが現れることもある」
最近説得力がなくなっていることを自覚しているらしく、ホワイトは断言を避けた。
「一応名目上は、ここの海岸線を守ることが、ここのAランクハンターの役割なんだ。過去に何度か攻め込まれたことがあったらしい」
「Aランクに?」
「それもある。なにせ海は広いし、どこに何がいるのか、はっきりと調べられないからな。それに、Aランクじゃなくても、Dランクモンスターでさえ一般人には脅威だ。もちろん、そっちの方が頻繁に現れる」
「ねえ、そんなところで観光して大丈夫なの?」
「それも、観光の目玉と言えば目玉だ。流石にシュバルツバルト程じゃないが、ここにも戦力はそろっている。ほら」
高い岬から見える、海岸線の一区画を占める白い砂浜。
そこには遠目でもわかるほど、多くの人たちが集まっている。
もちろん海で遊んでおらず、砂浜の近くにある『海の家』のような建物で海を眺めているようだった。
「あれだけ人がいれば、そりゃあハンターも配置される。安全圏でなら、モンスター退治も娯楽みたいなもんだよ」
「趣味が悪いわねえ、あんなのの何が楽しいのかしら」
「たまに見るぶんには面白いんだろうさ、たぶん。それを言えば、海を見て楽しんでいる俺達だって、現地の人からすれば何やってんだって話かもしれないだろう」
そう言われると、彼女も否定できなかった。
確かに周囲にいるのは皆観光客で、現地の人と言えばガイドぐらいであろう。
もちろん彼女たち二人も、その中に入っているのだが。
「それもそうね……こんなにきれいな景色でも、毎日見ているとありがたいと思えないのかしら」
「そんなもんだろう、観光地なんて」
「もうちょっとムードってものを考えて欲しいわね」
「じゃあどう言って欲しいんんだ?」
「そうねえ……『君はきれいだけど、毎日見ても飽きないよ』とか」
「自意識過剰じゃないか?」
「……どう言って欲しいのか、聞かれたから答えただけなのに」
「要求が厚かましいんだよ」
言ったら言ったで、心にもないことを、とか言われそうである。
彼女の希望はつまり、私にほれ込んでよね、という図々しいものだった。
「……ねえホワイト。Aランクハンターに会ったら、何か話したいことはある?」
「そうだな」
二人で並んで、岬を歩く。
潮風が強いからか、岬に背の高い木は生えておらず、背の低い雑草だけが生い茂っていた。
「言われてみると、何にも考えてなかった。とりあえず会ってみたかっただけだ」
「なにそれ、失礼じゃない」
「確かになあ……俺がAランクハンターになったとして、もしも会ったこともない誰かが訪ねてきて、『会ってみたかっただけで、話したい事はありません』とか言われたらがっくり来るな」
「そうでしょ、もう……」
二人は周りを見ていないが、しかし周りの人たちも同じようなものだ。
景色を見ながら、でも景色のことよりも普段のことを話している。
たわいもないことだったり、大事なことだったり。
旅行とは、話をするための口実作りでしかないのかもしれない。
「でも来るかもしれないよな~~……来たらちょっと舞い上がると思う」
「しょっちゅう来たら、直ぐに嫌になるわよ」
「そうなんだよな……塩梅が難しい。せっかく苦労してAランクハンターになったのに、誰も褒めてくれなかったら寂しいだろうし、しょっちゅう褒めに来たらうんざりするし……」
「野犬隊の子たちにも、そう思ったの?」
「ああ。正直、言われてみたかったことを全部言われたからな~~。血迷いかけていた……危うくシュバルツバルトに連れて行くところだった」
「本当に危ういわね……」
道中でも話したかもしれないこと、これからも話すであろうこと。
それを、一々指摘することもなく、交わしていく。
「でもあの子たち、可愛かったわよね。貴方のことを、まるでお父さんのように見ていたわよ」
「まあ……親に頼れない子たちだったんだろう。俺のことが、なんでも解決してくれる人に見えても、不思議じゃないよな」
「あのままハンターとして部下にしていたら、どうしていたかしらね? 貴方のことをお父さんとか親父さんとか言い出して、私のことをお母さんとか言うかも……うふふ」
「……お前、マジで言ってるのか」
なお、相手との距離感を測りなおす機会でもある。
「お前、人間を何だと思ってるんだ?」
野犬隊の子たちを思い出して笑う彼女を、ホワイトは恐怖の目で見ていた。
「お前まさか、人間の子供を拐うモンスターだったりしないだろうな……」
「そ、そんなことないわよ?! 冗談よ、冗談」
「冗談に聞こえないぞ、まったく……怖いこと言いやがって……お前のそういうところが、俺は怖いんだ」
「……怖いって、嫌いよりもひどくない?」
「事実そうだからな」
「ひどくない?!」
「あんなかわいそうな子を見て、可愛がりたいとか言い出すお前が酷いんだよ。人間の尊厳を何だと思ってるんだ、ペットじゃないんだぞ?」
じりじりと、ホワイトは彼女から距離を取る。
彼女は間合いを詰めたかったが、流石に今詰めるとまずいことぐらいは、既に察していた。
「確かに俺がハンターとして隊長になったら、あの子たちの命を預かることになったとは思う。だけどな、それと親云々は別だろう」
「も、もうやめましょ、ね?」
「まあ俺だって、この話を長く続けたいわけじゃないんだが……でもお前、本当に子供を拾ってきそうで怖いんだよ。俺はただのDランクハンターだし、お前もその飼い犬みたいなもんなんだから、身の程を弁えないと」
「私の尊厳は?」
「こっちの尊厳を尊重してから言え」
こうやって、外したことを言っても、まあいきなり別れるようなことにはならない。
いまさら会話のチョイスを間違えたぐらいで、揺らぐような関係でもない。
お互いに、相手のことは知っている。
自分にとって都合のいいことを言ってくれる人だとは、お互いに思っていない。
「……それにしても」
岬の、先端に行く。
特別嵐があるわけではないが、海の波は高かった。
初めて海を見たので、荒れているかどうかもわからない。
仮に荒れていたとしても、海に出るわけではないのだから、気にする意味もないのだが。
「お前、海は怖いか?」
「特には……」
「俺は怖い。正直、行きたくないな」
ホワイトも、彼女を連れて多くの魔境を歩いた。
その間にたくさんの経験を積んだが、流石に海までは来ていない。
そして、海というのは厄介だ。
自分がどれだけ強くても、それとは別の問題があり続ける。
「俺がどれだけ強くても、海の上では船が沈没したらそれまでだ。だってのに、海の中にもAランクモンスターはいる……正直、行きたくはないな」
「プロじゃないわね」
「そうだな……まあ俺はシュバルツバルトでAランクハンターになるから、海のこととは無関係なんだが……」
仲間を守ることだって大変なのに、自分が乗る船を守るなど考えたくもない。
正直情けないことだが、情けなく思うからこそ素直だった。
「というか、ハンターって海に行く用事があるの?」
「基本的にはないな。ただ、要人の護衛や付き添いで同行することはある」
モンスターを倒しても、ちゃりんとお金に変身するわけではない。
この広い海の何処かに潜むAランクモンスターを、わざわざ探して殺しても、Aランクハンターには一文の得もないのだ。
「俺は、そういうのが嫌だと思うよ。まあ断るようなら、Aランクハンターにはなれないんだろう」
「頼られるお人も、大変ね」
「ああ……まあ、陸に上がってきてくれれば、いくらでも相手をしてやるんだけどな」
うぬぼれた発言だった。
ホワイトは笑う、二重の意味で。
「まあ、海にもAランク上位モンスターはいる。今の俺じゃあ、とてもじゃないが手に負えない相手だ。流石に今のは誇張だな!」
「今の俺じゃあ、ね……確かにまだ早いかも」
「そうそう、まだ早い、まだ早い」
調子に乗っている自分がいて、それを戒めている自分もいて、しかし客観的にもあと少しで勝てるようになる。
それが嬉しくもあった。
「Aランク上位は、中位や下位とはまた段違いだそうだ。海のAランク上位と言ったら、リヴァイアサンやらマリンナインやらノットブレイカーやら、ストーンバルーンやらテラーマウスやら……お前もびっくりするような、意味の分からん本物のモンスターがわんさかだ」
「リヴァイアサンはまあ分かるけど……マリンナインってなに?」
「ん? 知りたいか。体の99.9999999パーセントが海水でできているモンスターでな」
「それもう完全に海水じゃないの?」
「そうらしいぞ、ただ恐ろしいことにマリンナインは、陸上にも上がるんだ」
「……ほとんど海水なのに?」
「そうなんだよ、だから塩害が酷いらしい。とくに陸上でカームオーシャンとぶつかり合って混ざり合った時は……」
「凪の海と海ナインがぶつかり合って混ざり合って……?」
「ああ、カームオーシャンを知らないんだったな。ちょうどいい、教えてやろう。なにせカームオーシャンは、シュバルツバルトにもいるモンスターだからな。俺達もそのうち戦うことになる」
やはりホワイトは、モンスターに詳しい。
自分で戦うつもりだったからこそ、特にAランク上位について調べているのだ。
「ただ……そろそろ移動しないか? 空いている飯屋を探そう、その道中で説明する」
「あらいやね……ご飯を食べるところを探しながら、モンスターの話を聞くことになるなんて」
「飯を食いながら話すよりはマシだろ。それに、流石に街に戻るまでは話も終わってるさ」
ホワイトとしては、今からでもシュバルツバルトのモンスターについて、彼女に教えておきたかった。
基本仕事に真面目なので、その予習というわけである。
ただ彼女としては食事をするのだから、その道中でもどんなものを食べたいのか話したかった。
「ねえ、あっちの方に行きたいんだけど」
「あっちは特に金持ちが行くところだから、俺達じゃあ店にも入れないぞ」
「そうなの? 残念ね……」
岬から見える、砂浜の人々。
彼らは富裕層であり、その下の者とは関わりたくないのだろう。
もちろん下の者も、上の人間と関わって、トラブルになど発展させたくないだろうが。
「なあに、新鮮な海の幸なら、焼いて塩を振ればなんでもうまいさ。とりあえず適当に歩いて、いい匂いがしたら店に入ればいいだろ」
「それは確かに楽しそうね。でも、混んでないといいけど……」
「時期が時期だから、たぶん大丈夫だ。ちょっと混んでても、時間がずれれば一気に引くだろう」
「それもそうね……じゃあ……あら?」
砂浜の方で、動きがあった。
百人以上の武装した男たちが、一気に海岸へ走っていったのである。
「モンスターが現れたみたいだな」
「そうね……でも、ハンターがあんなに沢山いるなんて驚きだわ。そんなにたくさんモンスターが来るのかしら」
「いや、そんなには来ないと思うぞ」
程なくして、海から数体のモンスターが現れる。
大きさからして、Bランク下位か中位だろう。
だが百人以上のハンターが集まれば、流石に海から上がり切ることもできなかった。
「本当ね……お給料、足りるのかしら?」
「一番忙しいのは、人がたくさん集まる夏だそうだ。でも夏だけ雇われて、他のシーズンは雇われないってなると大変だろう? だからこの時期でも、護衛の数は変わらないようにしているらしい」
「いろいろ考えているのねえ」
Bランクと言えば、かなりの大物である。
それが数体も現れたのに、大騒ぎには成らなかった。
それどころか、まばらな拍手が聞こえる程度である。
岬から他の観光客たちが眺めていたが、直ぐに視線を切っていた。
やはり対応できる範囲なら、モンスター退治も娯楽のうちらしい。
「さ、行こうぜ。何も起こりはしないよ」
「そうね……」
富裕層が集まる、公爵のおひざ元。
モンスターが現れると知ったうえで、観客を招いているのだから、それはもう万全の戦力が整っているのだろう。
以前に悪魔を倒した時とは、状況がまったく違う。
戦力が手薄なのではなく、むしろ過剰なのだから。
「で、カームオーシャンなんだが」
「その話、やっぱりするの?」
「しないわけがないだろう! 真面目に聞けよ?! シュバルツバルトに生息するAランク上位モンスターの中でも、特にカームオーシャンとダークマターは、知っておかないと悲惨なんだからな」
「もう、色気のない……」
二人はAランクハンターに会うことも忘れて、ただの観光客として歩いていた。
他の観光客から見ても、彼らはただの二人連れとしか思えまい。
だが、異常事態は。
何時だって、備えを飛び越える。
「?!」
「!?」
砂浜から、悲鳴が聞こえてきた。
それも一人二人ではない、大量の悲鳴である。
それを聞いた二人は、あわてて其方を向く。
すると海岸には、先ほどの何十倍ものモンスターが溢れてきていた。
「まずい! アレは流石にキャパシティを越えているぞ! 俺の押出属性で飛ぶぞ、一旦捕まれ!」
「ええ……ホワイト!」
岬の岸壁を登って、多くの巨大なモンスターがその姿を現していた。
砂浜には最初からハンターたちによる防衛網が整っていたが、ここにはそんな戦力など割かれていない。
「サンドクラブ!」
全身を砂で覆った、巨大な蟹。
甲殻型Bランク中位モンスター、砂蟹。
悲鳴が上がって、岬の観光客が逃げ出す。
ホワイトと彼女はその場で構えるが、しかし岬の出口、陸への道にもモンスターが立ちふさがる。
「あっちはエビね……」
「ロープロブスター……あっちもBランク中位だ! くそ……こっちにばかり気を使っている場合じゃないのに……!」
巨大なロブスター、としか言いようがない、巨大なエビ。
Bランク中位モンスター、ロープロブスター。
その最大の特徴は、ハサミの有る手の形状だろう。
通常の甲殻類のハサミの形とは違い、先端にハサミがある一方で、しかし高枝切りばさみのように腕が長い。
その上柔軟性があるのか、うねうねと揺らめいている。
ロープのような腕を持つロブスターが、やはり群れを成して人間の退路を断っていた。
「どうしましょうか、ご主人様。このままこっちを守ります?」
「……理屈で言えば、戦う必要もない。だがここで逃げる俺じゃない、そして……」
躊躇している今も、モンスターは溢れかえりつつあった。
このまま何もしなければ、Aランクハンターへ救援要請が届くまでに、多くの犠牲者が出るだろう。
「どっちも諦めない! どっちもどうにかする!」
「あらあら……惚れ直しちゃいそうだわ」
突如の鉄火場だが、誰よりも準備ができているのは、皮肉にもこの二人だった。
海から湧き上がる膨大なモンスターを、迎撃できるだけの戦力を既に持っている。
「Aランクハンターが来るまで、なんとか持たせるぞ! お前のことも酷使する!」
「ええ、私のこと……上手に使ってちょうだいね」
 




