言うは易し行うは難し
さて、これがもしも現実ではなかった場合の話。
例として、パーティーゲーム。ゴールである役場に、集めたアイテムを納品すると、スコアがもらえるゲーム。
もしもそんなゲームがあったのなら、ルールとして『他のプレイヤーからアイテムを奪う』という行為も認められるだろう。
ほかのプレイヤーが集めてきたアイテムを、道中で奪い、自分のスコアに変えてしまう。
もしもパーティーゲームだったなら、それも面白いのかもしれない。
とはいえ、やりすぎれば怒らせてしまうかもしれないが。
まして現実でやるとなれば、それなりの覚悟は必要であろう。
少なくともそれは、胸を張れる賢さではない。
※
当たり前だが、ハンターと言っても免罪符を持ち歩いているわけではない。
犯罪行為が明るみに出れば、一般人と同様に捕まって罰を受ける。
とはいえ、大都市のど真ん中ならともかく、魔境の手前ならば治安は及ばない。
シュバルツバルトで多くの無礼者が行方不明、というモンスターの餌になっても誰も咎められないように。
人が拓けぬ魔境の近くは、治外法権なのである。
「へっへっへ……兄ちゃんに姉ちゃん、お仕事ご苦労様」
「ここより奥に行くなんて、度胸があるねえ。モンスターに襲われなかったのかい」
「でも残念、ここを通らないと街に戻れない。戻れないと、換金できない。つまり……わかるよなあ」
砂漠の暑さが抜けきらず、しかし蝉の鳴き声も常識の範疇に収まった場所。
奥地から戻ってきた二人を待ち構えていた男たちは、そこで包囲を仕掛けてきた。
(武器が槍の類じゃなくて、ナイフとは……こいつらEランクだな)
(その心は)
(こいつらは最初からここでだけ狩り……蝉の採集をしている連中だ。あのナイフは護身用であり恐喝用で、どっちかというと街の中で見せるもんなんだろう)
(……モンスターを退治するハンターなのに、ナイフでいいのかい)
(蝉採取に槍は要らんだろう。もちろん、俺達もそうなんだと思ってるんだろうな)
(なるほど、名探偵だね)
障害物がない地帯ならば、当然長い射程の武器が意味を持つ。
しかしそれは、最初から完全武装していれば、の話である。
この砂漠に入る者のほとんどは、蝉を集めて小銭を稼ぐものである。タールベアーを殺そうなどという者はまず入ることがないし、入っても出てこないからだ。
であれば、ナイフでも十分脅しになる。
熱砂を越えて戻ってきた者と、街でちゃんと寝ている男たち。
なるほど、ちょっと脅せば十分と言える。
(で、どうする。やるのかい? やるなら僕でもいいけど)
(まあ待て、別に全部分捕るなんてことはないだろう。ここは格上の余裕を見せてやろうぜ)
それは、今回の場合逆に働いていた。
これで槍を持った本物の武装勢力なら、むしろ壊滅させようと思っただろう。
だが二人を包囲しているのは、たったの十人程度で、街のチンピラである。
ホワイトは別に、この街の利権が欲しいわけではない。
長居する予定はないし、正義の味方でもない。
(俺はもうすぐAランクハンターになるんだ、こんなつまらない相手に、一々腹を立てたりしないさ。度量だよ、度量)
加えて、機嫌も良かった。
下位とはいえ、Aランクモンスターを討伐できているのである。もう目標に手が届いていると言っていい。
今からシュバルツバルトに行っても、現役のBランクハンターより戦力になるだけの自信がある。
実力面で言えば、とっくに雪辱しているのだ。これで上機嫌にならないわけがない。
(半分ぐらいだ、渡してやろうぜ)
(……まあ確かに、怪我をさせるのもよくないしね)
(そういうことだ)
「おいおい、なにいちゃついてやがるんだ?」
「状況はわかってるんだろ、相談しても遅いぜ」
もちろん彼らも、ホワイトが腰に下げている剣が見えないわけではない。
しかし荷物を抱えている男が、鞘に収まった剣を抜いて構えても、まったくもって脅威ではない。
ナイフというのは、決して強い武器ではない。あくまでも携帯に便利というだけで、戦闘には不向きと言っていいだろう。
だが、素人でも比較的簡単に扱える上に、早く振ることができるという利点もある。
もしもホワイトが荷物を下ろして腰から剣を抜こうとすれば、即座に襲い掛かって斬れるのだ。
まあ、そんなことをしてくるとは、彼らも最初から想定していないわけだが。
彼らにしてみれば、もう勝った状態である。この陣形になった時点で、警戒もなにもしていない。
「まあ聞け、俺達は強盗じゃない、お前さんと同じハンターだ。禿鷹隊っていう、Eランクハンターだ」
「Eランクだからって、弱いと思ってるんじゃねえだろうな? ランクなんてものはお行儀良くしていれば上がるもんだが、実力ってのはそうもいかねえ」
「それにだ……Eランクハンターが、今更醜聞を気にすると思うかい? まあつまりだ……そっちが対応を間違えたら、こっちはどうするのかわからないってことだ」
ハンターとは職業であり、強盗とは行為である。
Eランクハンターであることと、強盗を行うことは、決して矛盾しない。
彼らは完全に強盗である。
もちろんそれを指摘しても、大笑いをするだけであろうが。
「なに、命までは取らねえよ。その荷物……蝉を全部よこせ」
「わか……まて、全部?」
「おうよ、全部だ」
せいぜい半分だろうと思っていたホワイトは、想定の100パーセント増額に対して困惑していた。
なにせ収入の100パーセントがカットされるのである、これを聞けばホワイトならずとも抵抗をするだろう。
「半分とかじゃなくて?」
「そうだ、全部だ」
「……それは流石に」
別に、金に困っているわけではない。
この蝉を拾ったのも、一種の暇つぶしというか記念であり、砂浜で拾った貝殻のようなものである。
仮に捨てても全然気にしないが、全部よこせと言われると流石に嫌だった。
「はっはっはっは! わかってないなあ、兄ちゃん! 確かにここは、金が落ちているといってもいい魔境だ。だがな、だからこそ……縄張り争いが普通よりも過激なんだよ」
話をしている間に、包囲の人数が増えてきた。二十人どころか、四十人はいる。
それを見て、流石にホワイトも表情を変える。
(バカな、Eランクハンターがこんなに多いわけがない。隊の収入が足りなくて、維持できないはずだ)
(……ここだとハンターって言うか労働者なんだから、人数が多いのは不自然じゃないんじゃ?)
(……そうだった!)
これも、オイルデザートの特性だと言えるだろう。
当人たちも言っていたように、落ちている蝉を拾えば金になるので、人数が多いほど収入も多くなる。
人数が多くて収入がいいのなら、必然的に広い縄張りを主張できるようになり、結果としてさらに大きくなるのだ。
それにも限度はあるだろうが、二十人いても全く不思議ではない。
「確かに普通のところなら、半分奪うだけでも多いだろう。だがそれは長く搾取するためだろ? こっちはそんなことしない。さっさと出て行って欲しいからな」
(なるほどな)
(なるほどじゃないよ、まったく……どうするんだい? 戦わないのが度量だって言っていたじゃないか)
さて、困ったところである。
別にくれてやってもいいのだが、流石に癪だった。
しかし既にホワイトは相棒に対して、つまらない奴らに腹を立てるのは二流、と言ってしまっている。
男は一度口にしたことを、なかなか覆せないのである。
「……わかった。おい、荷物を下ろせ」
「うん。そういうことなら」
周囲に聞こえる声で、ホワイトは降参を指示する。
正直苛立つが、我慢の範疇だった。
暴力を背景にしているが、一応実行していないので、こっちも暴力を振るう口実がなかったともいえるのだが。
「お利巧だな、兄ちゃん。そうそう、ハンターは体が資本、怪我をしちゃあつまらない」
「どれだけ強くても、人数には敵わない。賢明だぜ、褒めてやるよ」
「姉ちゃんも、いい旦那を捕まえたもんだ。普通なら女の前で見栄を張って、そのまま殺されるところなんだからよ」
ホワイトの顔に、苦笑いが浮かぶ。
我慢の限界に達しつつある証拠だった。
「……行こう」
「わかった」
とにかく、ここを離れたい。
二人は砂漠で集めた、蝉の詰まったバックを置いて、包囲を抜けようとする。
決して走らずに、できるだけ黙って。
「……おっと!」
その、包囲を抜けようとした時だった。
蝉の詰まったバッグを確認していた禿鷹隊の一人が、演技のような声を出した。
それを聞いて、申し合わせて、包囲の網が狭くなる。
「おいおい、兄ちゃんたち。これはどういうこった? てっきり奥地から戻ってきたと思ったら、この蝉は奥地にはいない種類だぜ?」
不機嫌そうではなく、むしろ嬉しそうだった。
明らかに、最初からこうする予定だったようである。
「他所の奴らには見分けがつかないだろうが、俺達にはわかる。これは俺達の縄張りで捕ったもんだ」
「なんだって? じゃあこれは、俺達のところから盗んだってわけだ! どうりですんなり返してくれたはずだぜ」
「普通なら、全部よこせって言われても、交渉して半分ぐらいにしてもらうところだもんなあ」
禿鷹隊の面々が、それこそ猿芝居を始める。
最初から荷物を奪ったうえで、難癖をつけて、さらにはぎとるつもりだったのだ。
「なあ兄ちゃん、どうしてくれるんだい? 盗んだもんを全部返したからって、チャラってわけにはいかないぜ」
「そういうことだ、世の中には筋道ってもんがある。せめて、ことがばれる前に謝っとくべきだったんじゃないか?」
「姉ちゃん、残念だったなぁ……悪い彼に誘われて、犯罪の片棒を担いで……おかげで人生が台無しだぜ」
あるコロッセオに、サンショウという強い拳闘士がいた。
彼は強かったが、多くの者から恨みを買って、結局袋叩きにあってしまった。
強大なモンスターでも、武器を持って多数でかかれば倒せてしまえる。
ましてや人間なら、なおのことだった。
「兄ちゃんにも姉ちゃんにも、体で返してもらおうか」
「兄ちゃんはこれからずっと、俺達の下で蝉捕り。姉ちゃんは街の歓楽街にご就職だ。なに、たまには会えるさ、たまにはな!」
まな板の鯉は、もう勝ち負けの段階ではない。
仮に反抗をしても、勝ち目などないのだ。
「ホワイト、どうする?」
「……」
しかしそれは、俎板の上にのっているものが、鯉だった場合の話である。
「まいったな、こんなことになるなんて、思ってもいなかった」
ホワイトは、想定外の事態に苦笑する。
「本当だ、信じてくれ。俺は蝉を差し出せば、全部解決するって信じてたんだ」
「で?」
「俺は……お前を守る、お前を売り渡したりしない!」
「こういう時に、こういう相手に、言わないで欲しいね」
白々しいまでに、二人は構えた。
この上なく露骨に、戦闘態勢をとる。
「ちっ……しょうがねえな、殺すなよ。死体はカネにならねえんだ」
これには、禿鷹隊もうんざりである。
俎板に乗った鯉が跳びはねれば、どんな料理人もうんざりするだろう。
彼らは鯉を俎板に戻す程度の意気込みで、襲い掛かろうとする。
「がっ……」
「おぐっ……」
「おっ……」
ホワイトに襲い掛かった五人が、全員膝から崩れ落ちる。
ナイフを持って襲い掛かったはずが、取り落としていた。
「おいおい、何やってるんだお前ら……油断しやがって」
なまじ、まだ四十人以上の仲間がいたからだろう。
あるいは、五人を一気に倒せる程度の強者なら、どこにでもいると知っているからだろう。
もしくは、膝から崩れ落ちただけで、はるかかなたまで吹っ飛ばされたわけではなかったからこそ、甘く見てしまったのかもしれない。
「おい、兄ちゃん。腕に自信があるようだが、逆効果だぜ? 俺たちの仲間に怪我させたんだ……覚悟してもらおうか」
ホワイト達が生半な実力者なら、むしろ状況が悪化していただろう。
仲間が怪我をした時点で、多少はあった手心や油断がなくなった。
そのぶん、苛烈な暴力がホワイト達を襲うだろう。それこそ、後に使い物にならなくてもいいと、殺すことさえ考えて。
「おい。俺ごとでいい、吸え」
「いいのかい」
「減らず口はうんざりだ」
「了解、ご主人様」
だがその自信は、一瞬でひっくり返る。
「コユウ技、エリアドレイン」
周囲にいる四十人、全員の体に疲労感が襲い掛かってくる。
それこそ長距離走を走り続けているような、どうしようもない負荷だった。
体験したことのある負荷だからこそ、それが今襲い掛かってくる異常に驚きを隠せない。
「な、て、てめえ?! きゅ、吸収属性か?! しかも、この広範囲……クリエイト使いか?!」
だが、起こりえる異常だった。
僕を名乗っている時の彼女のコユウ技は、この世界においてあり得る技である。
要するに多数から体力を吸っているだけなのだから、そこまでおかしくはない。
「な、なんでクリエイト使いが、こんなところで、蝉なんか拾ってるんだよ!」
「ふ、ふざけやがって……!」
「畜生、体力を吸われているからって、二人程度……」
「バカ、逃げるんだよ! そっちの女だけでもこれだぞ、そっちの男が暴れだしたら……!」
だが、ここにいるのはおかしい。
オイルデザートにはFランクのスナアブラゼミと、Aランクのタールベアーしかいないのだ。
だからこそここにいるハンターも、FランクかEランクだけなのである。
クリエイト使いならば、その実力は軽くてもCランクだ。
同じハンターだったとしても、プロのスポーツ選手と地元の同好会ぐらいの差がある。
自分や武器にしか効果が及ばないエフェクト使いなら、まだ多数でかかれば勝ち目はある。
だが射程と有効範囲が段違いであるクリエイト使いが相手では、この程度の数など意味を持たない。
「おい、このまま続けていいぞ。一人も走らせるな、逃がすなよ」
「やれやれ、度量はどこに行ったんだい?」
「俺の心の中に、正義が芽生えたと思え」
「ずいぶん勝手な正義だねえ」
「嫌いか?」
「愛してるよ」
「……それは止めろ」
「急に正気に戻らないでくれ」
Eランクとはいえ、荒事に慣れているハンターたちである。
狐太郎などよりもはるかに屈強で、体力も有り余っている荒くれ者である。
その彼らがどんどん倒れていくほどの、体力吸収空間。
だがその中で、ホワイトは平然と行動していた。
「安心しろ、殺しはしない。ただ、あそこで倒れている奴らと同じようになってもらうだけだ」
疲れてへたり込む禿鷹隊に対して、ホワイトは慈悲を示す。
最初に倒した五人を指さして、彼らよりひどい目には遭わせないと宣言していた。
それに安堵した彼らは、倒れている最初の五人を見て、さらに青ざめた。
顎が、砕かれている。
「美味しいものが食べられない人生の始まりだな」
ホワイトはにっこり笑って、憂さを晴らし始めた。
※
今更ではあるが、オイルデザートの近くには大きめの街がある。
比喩誇張抜きで油田があるわけなのだから、当然それなりに栄えている。
もちろん科学文明が発達していないので、油と言っても調理や燃料程度であり、オイルマネーというには少しばかり寂しい。
しかしそれでも、年中安定して生産が可能なのである。(狩猟も漁業や農業と同じ、生産職である)。
なので十分に賑わいの有る街があった。
そこには当然歓楽区画もあり、宿屋があり、ちょっとした潤いにもなる劇場もある。
もちろん、宿屋だってある。民家が『やどや』と看板を下げているだけではない、ちゃんとした宿屋だ。
豪勢なところもないではないが、Dランクのハンターが泊まれるランクには限度がある。
「で、どうだい? 僕に搾り取られた感想は」
「自分が強くなったと思ったよ。お前の吸収が、全然効かない」
二人は、ツインベッドの部屋に泊っている。数日の間は、ここで寝起きをする予定だ。
ホワイトにしても急ぐ修行ではないし、きっちりと休息をとるつもりだった。
もちろん既に蝉は納品し、金に換えてある。蝉の死体と一緒に宿に入る趣味はない。
「君は強くなったからねえ……僕はちっとも強くなってないけど」
「そうでもないだろう。結構強くなってると思うぞ、経験も積んでいるしな」
「それでも君のペースには追いつけない。君の歩幅は、もはや跳躍の域さ」
ホワイトは本当に強くなった。
流石はAランクに達せる才能の持ち主、伸び幅が尋常ではない。
うぬぼれるだけの才覚が開花し、うぬぼれるだけの実力に達したのである。
「だがお前の特殊さはやはりありがたいけどな。やっぱりお前は、分類上Aランクに位置する」
「Aランクハンターの相棒がAランクモンスターなら、むしろ適正じゃないかい?」
「そういうことだ」
彼女がホワイトの成長を間近で見てきたように、ホワイトもまた彼女の底知れなさを見てきた。
(試しにスロット技を浴びせたこともあったが……Aランク下位モンスターにさえ通じる、今の俺全力の攻撃でさえ、こいつにはまったくダメージにならない。つまりこいつは……正真正銘、無敵ってことだ……間違いなく、Aランク上位に食い込む!)
Aランクハンターの域に達しつつあるからこそ、底がないということを痛感するホワイト。
この怪物は基礎能力こそBランクだが、殺しにくさに限ればAランク上位に値する。
Aランクハンターが全力で攻撃しても傷を負わないなど、通常ではありえないのだ。
(俺が知る限り、Aランクハンターの攻撃を受けて無傷で済むのは、プルートの卵とノットブレイカーの甲殻だけだ。俺の攻撃力がAランクハンターに達しつつあるからこそ、コイツに底がないと検証できた……こいつを作った奴の趣味は最悪だが、実力は本物だな)
思い出すのは、Aランクモンスターを従えている先達、狐太郎である。
彼は今も、あの地で必死に戦っているのだろう。
(Aランクモンスターを従える、Aランクハンターか。昔は八つ当たりで憎んでさえいたが、今はあいつの後追いか……もうすぐ追いつく、待ってろ。今度は俺が助ける番だ)
ベッドに座って、まさに英気を養うホワイト。
そのご主人様の誇らしい姿を見て、彼女は頬を緩ませていた。
「ふふふ……君も忙しい人だよねえ。僕が三面相であることを笑えないぐらい、顔がしょっちゅう変わってるよ。黙っていても、何を想っているのかわかるぐらいさ」
「隠すことがないからな」
「さっきは酷かったもんねえ、弱い者いじめ。大義名分を得た、って感じで輝いていたよ」
「うるさい……忘れろ」
素面に戻ると、少しばかり恥ずかしい。
どれだけ取り繕っても、あの行動に度量はなかった。
結局全員ボコボコである。
「でもいいのかい? あの連中、きっと他にも仲間がいるよ。僕たちに報復に来るんじゃ?」
「来るわけがない。ああいう連中は、困ったときに見捨てるのが普通だ。どうにかできる範囲なら、それを口実に襲い掛かってくるだろうが、四十人をまとめてボコボコにできる俺達を相手にしたくないだろう」
むしろ、ホワイトが彼らを制圧し配下に置けば、何かの反応はあったかもしれない。
しかし、彼らが復帰するのが難しい以上、支配に興味がないことは察されるはずだった。
この地で儲けようと思えばマンパワーが必要なのに、ホワイト達はそれを真っ先に放棄している。
つまり長居する気がないことは、誰の目にも明らかなのだ。
「ここのハンターは、Fランクの蝉拾いと、それを搾取しているEランクだけだ。俺達に関わってくる度胸なんて、誰にもねえよ」
「なるほど、名探偵だねえ」
勝てない相手とは戦わない。
なるほど、処世術としてはまっとうである。
「ま、明日はお前が行きたいところにも付き合ってやるから、今日のところはもう寝ようぜ。砂の上は寝苦しかったからな」
「ははは! そうだね、じゃあ楽しみは明日ってことで……」
なんだかんだ言って、ホワイトも少しは遊びたいのだろう。
浮かれている主人を察して、彼女は休もうとするが……。
「失礼します、お客様を訪ねてハンターの方が……」
ドアがノックされ、従業員が呼び出しがあったことを伝えてきた。
その声色は、すこし面倒そうである。どうやら、穏やかなお客様ではないようだ。
「……ねえ名探偵、君は確かさっき」
「ああ、うん、そうだよ! 俺が適当なことを言ったら、全部外れたよ! でもいいだろうが! どうでも! Aランクハンターに、推理力なんて必要ないんだからな!」
やはり、度量はまだ備わっていないようである。
実力相応の落ち着きが備わるのは、当分先のことのようだった。
祝、二百話!
祝、感想1000件突破!
今後も精進いたします。




