帯に短したすきに長し
当たり前だが、若き竜は弱くない。
乙種、つまりAランク中位に位置するクラウドラインは、ただそれだけで強い。
天才だとか落ちこぼれだとか以前に、文字通り違う生物なのだから、この森で活動しているほとんどのハンターよりも強い。
格の上で言えば、この森の中でさえ二番目である。
であれば、彼を脅かすのは格上のAランク上位だけであろうか。
如何にこの森の水準が高いとはいえ、Aランク上位のモンスターはそう頻繁には現れない。
ならば、彼は合格したも同然だろうか。
違う。
別に、新事実やこの森特有の何かがあるわけでもない。
他でもない彼自身が、ここに来るまで何をやっていたのか。
Bランク下位以下は、小さすぎて、食べてもお腹が膨れなかった。
Bランク中位を見つけると、少ししかお腹が膨れないと分かっていても、大喜びで襲いかかった。
さて、彼である。
クラウドラインは、体の長さだけならベヒモスよりも上である。
もちろん体重ならば比べるまでもないし、若い個体である彼は更に軽い。
だがそれでも、人間よりははるかに大きく、重く、食べ応えがあるのである。
悲しいことに彼を襲うのはAランク以上だけで、彼が狩れるBランク以下はそもそも姿を見せないのだ。
「ぎゃああああ!」
彼は絶叫する。泣き叫んで、逃げ惑う。
なまじ長い胴体なだけに、反転や逃走には甚だ不向きだったが、それでも必死だった。
「ああああ!」
彼に食らいつこうとするものは、竜の天敵であるエイトロール、ではなかった。
Aランク中位モンスター、バーントルネード。
灼熱の嵐を巻き起こす、スライム型モンスター。
森を焼き払わんばかりに、大量の炎をばらまく怪物。
そのモンスターに襲われるということは、炎の竜巻に追跡されるということである。
Aランク中位モンスター、グレートヘラクレスオオカブト。
巨大な角を誇る、昆虫型モンスター。
昆虫型の中でも特に頑丈な体と馬力を誇り、真っ向からのぶつかり合いでは無類の強さを誇る。
そのモンスターに襲われるということは、完全武装の巨大な騎兵に追われるということである。
Aランク中位モンスター、ガジュガジュマル。
対象に絡みつき絞め殺す性質を持った、植物型モンスター。
主に他の植物型モンスターを圧殺するが、他の動物型と競合することがあるほど貪欲に幹を伸ばす。
このモンスターに襲われるということは、無数の巨大な緑の蛇に追われるということである。
Aランク下位モンスター、齧歯王。
巨大なネズミの姿をしている、動物型モンスター。
単体としてはAランク下位相応の力しか持たないが、恐ろしいことにAランクでありながら群れで狩りを行う。
その長い歯を用いて、生きている獲物をそのままかじり殺すのだ。
このモンスターに襲われるということは、体の末端から呑み込んでくる影と戦うようなもの。
「ああああああ!」
彼は、一瞬たりとも戦おうとは思わなかった。
非常に賢いことに、捕食者たちの姿を見た瞬間に逃走を開始していた。
だが悲しいことに、彼の体は『逃走』に向いているものではない。
もしもここに同種の友人でもいれば、それが食われている間に逃げられるだろうが、あいにくと彼は一体だけだった。
彼は、平和な世界に生きていた。
雌に不自由し、餌に不自由し、将来を悲観していた。
だが、食われて死ぬとは、一秒も思ったことはない。
ドラゴンイーターの存在を知っていても、それが目の前に現れるとは思っていなかった。
そして、この森である。
この森のモンスターたちに、Aランク中位モンスター、クラウドラインの威光など通じない。
ただの大きい餌だとしか思わず、多くの捕食者たちが大喜びで襲い掛かってくるのだ。
「た、助けて~~!」
とても単純に、彼は実力不足だった。
自分の身を狙う相手に対して、抵抗する力さえ備わっていないのである。
彼は、自分の価値を守れないのだ。
「助けて、お爺ちゃん! 助けて、父さん、母さん!」
虚飾など、一瞬で消え去った。
少し度胸がついただけの彼は、自分がちっとも強くないことを思い出していた。
格下を倒して調子に乗っていただけで、同格以上が大量に追ってくる状況を想定していなかった。
「助けて、竜王様!」
彼は、賢かった。
「わかった!」
今彼を助けるものが、ここに来たのだから。
「人授王権、魔王戴冠! タイカン技、竜王生誕!」
彼に比べればはるかに小さいが、それでもなお圧倒的な力を誇る竜の王が現れる。
尾の末端をガジュガジュマルの幹に捕らえられかけていた彼の、その進行方向から走ってきた。
他でもない、同種を救うために。
「シュゾク技、ヘルファイア!」
対象を継続して焼き続ける炎が、一気にばらまかれた。
ガジュガジュマルの細い幹には格段に効果を発揮し、一瞬で炭化させ、なおも炎上し続けている。
だがグレートヘラクレスオオカブトは炎上しながらも突進を続け、齧歯王の群れは炎上した個体を置き去りにして進み、バーントルネードに至っては一切影響を受けずに猛追している。
「人授王権、魔王戴冠。タイカン技、氷王顕現」
そこへ、灼熱と対極の存在が現れる。
冬に差し掛かりその力を増大させているコゴエが、さらに魔王となって強大化する。
「シュゾク技、大黒霜柱」
土中の水分が凝結し、巨大な柱となってそそり立つ。
炎の竜巻を巻き起こすバーントルネードの本体を真下から突き上げて攻撃し、その体を反対方向へと押し飛ばしていた。
「シュゾク技、大寒波」
さらに加えて、周辺一帯の温度を下げていく。
一体一体はそこまで大きくない齧歯王の群れへ吹雪を浴びせ、一体ずつの動きを鈍らせていく。
だがそれでも、グレートヘラクレスオオカブトは止まらない。
飛翔しながらの猛追を続け、その巨大な角でクラウドラインの若者を貫こうとする。
「人授王権、魔王戴冠! タイカン技、鬼王見参!」
それを阻むのは、巨大昆虫に比べて小さすぎる大鬼だった。
翼もなく跳躍し、手にした金棒を叩きつける。
「シュゾク技、鬼の金棒!」
真っ向からの力比べ、空中での正面衝突。
巨大な金棒が、さらに巨大な甲虫の外骨格に亀裂を生じさせる。
火花と共にはじけ合い、双方が下がる形で着地した。
「ああああ!」
追手が止まって尚、彼は逃げていく。
彼は賢かった、あくまでも逃げていく。
一瞬でも捕らえられれば、そのまま食われると本能で理解していた。
自分を救ってくれた魔王たちへ目もくれず、生存だけを求めて飛翔する。
彼は森を抜けて、そのまま空の彼方へ逃げようとして……。
「ああ、ちょっとごめんね。待った待った」
先ほど自分を襲おうとした怪物たち。
自分を助けるために足止めしてくれた、頼もしい三体の魔王。
それらが束になっても勝てるかわからない、巨大極まる存在。
Aランクハンター、大将軍。
それらに匹敵する、悪魔使いの理論値。
悪魔の翼を広げて飛ぶブゥは、金縛りにあった様に動けなくなった若き竜を押しとどめていた。
「逃げたくなるのはわかるよ。凄いよくわかる、僕もそうだからねえ」
彼自身、自分が賢いとは思っていない。
自分が賢ければ、もっといい生き方があるとは思っている。
しかしそのうえで、彼は賢い竜を止めていた。
「でも君が、今大空の彼方に逃げると、みんな困るんだよ……だからその……ほら、あっちに着陸してね」
『……はい、わかりました』
抵抗の意味がない。
賢い彼はブゥの誘導に従って、竜の着陸場へ向かっていった。
※
※
※
『……なんでこのあたりの人間は、こんなところに里なんて作るんだ……頭が悪すぎる』
現れたモンスターたちを倒しきった後、魔王の姿を解除した面々は竜の着陸場に集まっていた。
そこには狐太郎とブゥは当たり前のことながら、鵺のサカモもいた。
同郷の彼が愚痴る姿に、全面的に同意している。
「俺もそう思う。だけどそれはそれとして、御礼も言わずに逃げ出そうなんて、ちょっとひどすぎるんじゃないか?」
魔王の姿になることは、四体にとって負担である。
それを使ってでも助けた相手に、狐太郎は説教をすることにした。
そうしないと、特にアカネが報われない。
「まあこんなに弱くて、何もしていない俺に言われても腹が立つだけだろうけども、とりあえずアカネたちに言うことがあるだろう」
『……はい、すみませんでした』
来た時とは大きく違う、しょんぼりとした態度だった。
おそらく、これが素と思われる。
『竜王様だけではなく、鬼の王様や精霊の王様も、ありがとうございました……危うく食べられてしまうところでした』
理屈はわかる。
誰だって同格の相手に集団で襲われれば、そりゃあ逃げるだろう。
特に、戦うための訓練をしていなければ、なおのこと怖いに違いない。
だが彼は、アカネの部下になると言って、自分で森へ入ったのである。
それでノータイムで悲鳴をあげれば、そりゃあがっかりもする。
『僕はここで戦うなんて無理です……故郷に帰らせていただきます……』
「ああそう……」
物凄くがっかりした顔で、アカネはそれを受け入れていた。
むしろ、さっさと帰ってほしいとさえ思っていたのである。
「情けないよ……がっかりした」
『ううう……』
食われかけて、逃げ出してきた相手へ、厳しいことを言うアカネ。
しかしそれを、誰も止めていなかった。
無理もあるまい、アカネは一応期待していたのである。
それを裏切られれば、失望を露わにしても文句は言えまい。
「僕も逃げたいなあ……」
「俺も」
なお、人間の男二人は逃げたいと思っている模様。
夢破れて帰るところがあるというのは、やはり幸せなことなのかもしれない。
力不足を理解すれば無理と素直に言って、恥も外聞もなく逃げ出せるのはやはり賢いのだろう。
長老が言っていたように、胸を張れない賢しさだとしても、正直羨ましく思えてしまう。
(この軌道修正能力が、人間にあればなあ……)
サカモも言っていたが、こんなところの近くに街を建てて、しかも危険性が分かった後でも逃げないのだから人間は愚かである。
この切り替えの早さは、やはり見習うべきなのかもしれなかった。
我が身可愛さの賢しさが胸を張れないのなら、失敗の帳尻合わせで命を賭ける愚かしさも胸を張れないのだろう。
「あのねえ、君! 怖くて逃げるなんて最低だよ! お説教だよ!」
『ううう……』
「そりゃあさ、あんな怖いのに追いかけられたら、逃げたくなるし、二度と近づきたくなくなるよ!」
逃げ帰ることは認めたうえで、アカネは説教をしていた。
竜王云々以前に、同種がみっともなさ過ぎて怒りたくなったのだろう。
「でもね! そんなのはご主人様も一緒なんだよ!?」
『でも……そのお方は、魔王様たちがお守りしているじゃないですか……』
「そんなことないよ!」
アカネは、己の主を弁護する。
「ご主人様はね! ツリーアメーバっていうスライムに吊り上げられたり、アンダーバンブーっていう竹に地面へ引きずりこまれたり、グレイモンキーっていう猿にさらわれたりしても! それでも私たちと一緒に森へ入ってくれるんだよ!」
なお、それを聞いている狐太郎の心中。
(忌まわしい過去が……)
ブゥもネゴロ十勇士もいなかった時期のこと。
まだAランクハンターではなかった時に、短時間で流れるようにさらわれた時のことを思い出してしまった。
「私たちだけじゃあ、全然守れてなかったんだよ! それでもご主人様は! 私たちと一緒に頑張ってくれてるんだよ!」
(どうしよう……全然嬉しくない……)
アカネが自分のことを誇ってくれているのだが、まったく嬉しくなかった。
アカネは自分の至らなさを恥じているのだが、狐太郎は必然的に自分の愚かしさと向き合うことになってしまう。
「狐太郎さん、そんなことになってたんですか……」
「うん……」
「逃げたほうが良かったんじゃ……」
「うん……」
胸を張れなくてもいいから逃げるべきだったのでは。
狐太郎は、麻痺していたこの状況を再認識してしまう。
「ほかのドラゴン君達だってね! 君より全然弱いのに、ショウエンさんたちと一緒に戦ってるんだよ?! 情けないよ、本当に!」
『でも……』
「でもじゃない!」
アカネに怒られて、泣きそうになっている若きクラウドライン。
しかしそもそも彼が無謀なことをしてしまったことが原因なので、誰も彼を慰めない。
今彼は、罪に対して罰を受けているのだ。
だからこそ、泣くのはむしろ当たり前である。
『おっしゃる通りです、竜王様。まこと、恥としか申し上げられません』
弱り目に祟り目であろう。
さらに説教をしてくる相手が、空から降りてきた。
彼の祖父、ドラゴンズランドの長老が頭を下ろしてきたのである。
『お、お爺ちゃ……』
『黙れ!』
周囲の雷雲をとどろかせて、怒りをあらわにする。
『そこな鵺でさえ、拝謁に際して手土産を忘れなんだというのに……お前ときたら、なにも持たずに飛び出しおって! この礼儀知らずが!』
(そこなんだ……)
竜らしいというか、人間のマナーと変わらないことで怒っている長老。
もちろん他にも怒っているのだろうが、最初に怒ったことはそれだった。
『ましてや、故郷でも劣っているお前が、竜王様の下で働こうなどと……笑止の至り! まず故郷で並々ならぬ実力を身につけてからであろう! 落ちこぼれの分際が、竜王様の世話になろうなどとは、厚かましいにもほどがあるわ!』
(確かになあ……)
故郷では一番だったと豪語する身の程知らずが、新天地でのレベルに違いによって恥をかくことがある。
そういうパターンのお話は、結構ある。
逆に、故郷では落ちこぼれだった者が、新天地では才能が開花し活躍するという話もある。
おそらく彼は、その話を知らないまでも、そうした状況を期待していたのだろう。
だが普通に考えて、王様の下で働きたいと思ったら、まず王様に認められるぐらい強くならなければなるまい。
故郷の皆を見返すためならば、順番が逆転している。まず故郷の皆に認められなければ、王様へ会うこと自体が不遜であろう。
なんで故郷の住人に認められることが、王様に認められることよりも後回しにされるのか。
『よいか! 儂もエイトロール恐ろしさに、こうしてしり込みしている臆病者だ! 目の前で友人が食われても逃げ出した、どうしようもない小物だ! 逃げたこと自体は、儂に咎める権利などない!』
『じゃ、じゃあ……なんで』
『だが儂は、挑んだわけではない! エイトロールと戦うと、竜王様に誓ったわけではない! それは臆病云々以前の問題だ!』
確かに、臆病なので戦わないというのは、迷惑ではない。
鵺や長老は戦っていないが、それでも迷惑ではなかった。
『誓いとはな! つまりは自分が不利益を被ることを請け負うものだ! お前は自分が損をすると知ったうえで竜王様の部下になると誓い、そのくせ逃げ出して竜王様たちに始末をつけさせたのだ!』
『……でも、最初はどうにかなると思って』
『それが迷惑なのだ! 死ぬ覚悟もないのなら、最初から誓うな!』
ササゲを筆頭として、悪魔たちが大いに頷いていた。
彼らは命に頓着がないが、しかしそれはそれとして誓約の重みは理解している。
命が惜しいのなら、最初から誓わなければいい。
自分の意志で決めたことを自分の都合で翻すなど、彼らの価値観において最悪のことである。
そりゃあ軽蔑もするだろう。
『お前はおめおめ帰るつもりだったようだが、帰るところなどない!』
『……えっ』
『当たり前だ! お前はまだ若年の身でありながら、人間の供も連れずに勝手に出歩いたのだぞ! それが禁じられていることは、知っているはずだ!』
思えば、最初にここへ来た竜たちは、誰もが若かった。
そのうえで人間を供として連れていた。
まあ、その助言を聞いていたわけではないが。
やはり、帰る故郷があるということは、幸せなことなのだろう。
もう帰れないので、この上なく不幸なのだろう。
『若年のうちは、外に行くときは人間を連れて行き、その指示に従うべし。その掟を破り、竜王様へご迷惑をかけた罪は重い! ここで殺してくれよう!』
『そ、そんな……!』
悪いことはしてしまったが、殺されるほどではない。
そう思っていた若きドラゴンは、助けを求めて竜王たちを見た。
狐太郎たちも実のところ、同じように考えている。
迷惑はかけられたが、死んで欲しいわけでもない。
もう少し罪を軽くしてほしかった。
(でも長老さんに進言するほどじゃないなあ……)
だが別に助けたいわけでもなかった。
彼を捕食者たちから助けるために、既に多くの労力を割いている。
これ以上、彼のために頑張りたくなかった。
若いドラゴンとしては、一回助けてくれたのだから、もう一回助けてくれると思っているのかもしれない。
しかしこちらは、一回助けたのでもう助けたくないのだ。
「ご主人様、恐れながら進言いたします」
しかし、そんな若いドラゴンへ、助け舟を出す者がいた。
ササゲやアカネは、彼を軽蔑している。
クツロもそれなりに怒っており、ブゥは面倒に思っていた。
そして狐太郎も、ブゥと同様である。
「コゴエ……」
「このまま彼を死なせるのは、少々惜しいかと」
氷の精霊、雪女。
コゴエだけが、彼に救いの手を差し伸べていた。
「ネゴロ十勇士へ最初の護衛を命じたとき、彼らが瀕死になったことを覚えていらっしゃいますか」
「ああ、まあ……」
「死んでしまえと思っている相手でも、実際に死なれると嫌なものです」
「まあ確かに……」
コゴエの指摘を受けて、狐太郎も冷静になる。
確かにこのまま、若いドラゴンが死んだら嫌な気分になるだろう。
そうだったからこそ、最初は助けたのだし。
「とはいえ、アカネにしても、このままの彼をここに置きたくはあるまい」
「もちろんだよ! 恥ずかしいよ!」
落ちこぼれが課題を達成できなかったため、周囲から失望されて、傷ついてしまうパターンもある。
しかしこの場合は、失望したというほかあるまい。
「かといって、ドラゴンズランドから放逐するというのも、やはり好ましくはない」
『ええ、おっしゃる通りです』
結局若いドラゴンは、ドラゴンズランドやシュバルツバルト以外では無双できる強さがある。
もしも彼を追放してしまえば、逆に好き放題できるようになってしまうのだ。Aランクハンターや大将軍が派遣されるまで、多くの被害が出かねない。
むしろそれをこそ、長老は危ぶんでいる。
「そしてそもそもの原因は、ドラゴンズランドの管理や教育が甘いことのはず」
『面目次第もありません』
「であれば、そちらに折れてもらうとしよう」
若いドラゴンに、生きる道が示された。
「ドラゴンズランドで特訓し、十分な実力を身につけてから再度ここで戦ってもらう」
別に、楽ではない模様。
『あの、そんなに短期間で強くは……』
竜の寿命は長く、クラウドラインは特に長い。
だからこそ逆に、短期間での成長は望めなかった。
冷静になった若いドラゴンは、それが無理だと悟っていた。
「では一年で。これから一年でどれだけ強くなれるのかわからないが、ここに戻ってきて戦ってもらう」
なお、悪化した模様。
『ではそれで』
「そうだね。ササゲ、呪っちゃっていいよ」
承認された模様。
こうして、彼の『竜王の部下になる』という最初の誓いは、強制的に守らされることになったのだった。




