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源頼政の怪物退治

 狐太郎は学生時代のことを思い出していた。

 狐太郎は夏休みの宿題をきっちり終わらせるタイプだったので、学校なんて始まらなければいいだとか、火事になればいいだとも思っていなかった。

 むしろ無趣味だったので、はやく学校が始まればいいとさえ思っていた。


(はやくモンスターが襲い掛かってきてくれないかなあ……)


 森の中を進む狐太郎は、そんなことを考えてしまっていた。

 理由はわかり切っている。背後でちょろちょろしている、三体がうっとうしいからだ。


「かちかち山! カチカチ山!」

「カチカチ鳥が鳴いている! カチカチ鳥が鳴いている!」

「ぼうぼう燃やせ、ぼうぼう燃えろ!」


 楽しそうに殺害計画を語っている三人の娘。

 しかし彼女たちは気づいているのだろうか。この状況だとクツロの背中が燃やされても、他の面々が気付くのだと。


「ブゥ君、すまないね……」

「いえいえ、気持ちはわかりますよ。気に入らないから殺すっていうのは、狐太郎さんらしくないですし」

「それで君に迷惑をかけているからね……」


 改めて、今の自分が管理側だと気づかされる。

 狐太郎が狩りに行くとなると、周囲の面々も動くことになり、狐太郎が勝手な判断をすれば周囲も巻き込まれるのだ。


 ただでさえ命がけの仕事だ、余計な負担をかけるのはやはり心苦しい。


 とはいえ、この森に入った以上は、問題の解決は確実だった。

 彼女たち三人は「戦闘中の背中」を狙うつもりのようだが、この森でそんなことをする余裕はない。


 というよりもこの森では、並大抵の実力者では身動きさえ取れない。

 下位のBランクやCランクの群れを殲滅する強さを持っていたとしても、それは最低限でしかない。


 ガイセイのようなAランクに達しうる、才能と実力を持っていて、それでようやく闊歩が許されるのだ。

 この森で奇策を行うには、奇策を打つまでもない力が求められるのである。


「狐太郎様! 前方から敵です! Aランク中位、バーントルネードが接近しています!」


 ネゴロ十勇士の一人が、撤退しながらそう告げた。

 相手がCランクやBランクの奇襲なら破裂する矢で警告するが、相手がAランクともなればきちんと脅威を口で伝えたうえで避難する。

 やや情けない話だが、実力を考えれば正しい対応だった。


「……バーントルネードか、厄介ですね」


 ここから先は、ブゥや四体の仕事だった。

 狐太郎を守る形で、臨戦態勢に入る。


「私はご主人様の守りに入ろう。相手はAランクの中位、防御しなければ焼かれてしまう。何よりも、相性が悪い」

「ん~~私もサポートかな。タイカンしても意味がなさそうだし……」


 コゴエとアカネは、自分が主体となって戦うことを諦めた。

 この森でAランクハンターになり一年以上経過し、大抵のモンスターとは戦っている。

 もうすでに、ある程度の攻略法は構築されていた。


「じゃあ私が攻め立てるわ。ブゥ、セキト、援護しなさい。クツロは……」

「ササゲのサポートね。任せてちょうだい」


 相手の正体が分かり、方向が分かり、なおかつくるタイミングもわかっている。

 であれば、対応できるのは当たり前だろう。

 だがしかし、その当たり前ができるのは、この場の戦闘要員が全員Aランクに達しうる実力者だからだ。


「……来た」


 モンスターが来て欲しいと心の中で願ったことを、思わず後悔する強敵。

 怒涛の如き数百のCランクモンスターよりも、強大で凶暴なBランク上位モンスターよりも、さらに恐れるべきAランクモンスター。


 スライム系モンスター、バーントルネード。

 赤く巨大な水銀の水滴、と言えばわかるだろうか。

 光沢があり、蛍のように淡く光る、弾力か表面張力かもわからない力で揺れる『水滴』。

 Bランク中位モンスター程度の大きさしかないそれを見て、初見で警戒することは難しいだろう。


 だがもしも、このモンスターをBランク程度だと認識すれば、その直後の『起動』にさえ耐えられない。

 目も耳もない水滴は、ぶるりと震えた。あきらかに、こちらを認識している。そして、攻撃を開始した。


「シュゾク技、薄氷壁!」


 コゴエは狐太郎を抱きしめながら、氷の壁を構築する。

 その氷の壁に、大量の穴が開き始める。


「ご主人様、コゴエ、危ない!」


 その二人をかばうように、武装したアカネが身を挺して盾とする。


「相変わらず……!」


 全身が燃料でできているかのように、バーントルネードは激しく燃焼した。

 大火災の折に発生する火炎の竜巻を自分だけで生み出し、高熱の火花を四方八方へスプリンクラーのように発射している。

 その火花が周囲の木々を燃やし、森林火災へと発展させている。火事の中へ放り込まれたこの状況では、コゴエは満足に力を発揮できない。


 なおも火炎の竜巻を生み出し続けるAランク中位モンスターに対して、ササゲとクツロ、ブゥは立ち向かおうとしていた。


「……アンヨ、ポンポン、オッポ。よく見ておきなさい」


 戴冠しないまま金棒を構えた彼女は、後ろを振り向かないまま三人の娘へ話しかけた。


「これが、鬼の王である私の戦いよ!」


 強大なモンスターが潜む森に入り、真っ向から叩きのめす。

 その雄姿を、かつてキョウショウ族に見せたように、彼女たちにも見せようとしていた。


「クツロ」

「なによ、コゴエ」

「あの三人ならもう逃げているぞ」

「え?」


 クツロが振り向くとそこには、三人の姿はなかった。

 狐太郎が慌てて周囲を見れば、十勇士同様に姿を消している。


(……ある意味賢いな!)


 今まで何をするにも口にしていた三人だが、逃げる時だけは無言だった。

 それだけ大慌てだったのだろう、だが的確な判断であった。

 明らかに勝てない、巻き込まれただけで死ぬような相手に遭遇したら、さっさと逃げるのは極めて賢明である。



「きゃあああ!」

「いやあああ!」

「ふぎゃああ!」


 そして、彼女たちは森の中を四足歩行で逃げていた。

 軽業師であり獣でもある彼女たちは、それこそ大型肉食獣に出会った小型草食獣のように、極めてスムーズな動きで逃走していた。


 絶叫できるようになった、声を出す余裕が生まれたのも、ある程度逃げてから。

 それこそあのバーントルネードの姿を見た時点で、全身の毛が逆立ち脳内が真っ白になって、気づけば逃げていたのである。


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 絶対死ぬ!」

「やだやだやだやだ! アレ無理!」

「たたたたたたたた、お助けぇ!」


 クラウドラインたちが、この森に近づくことを忌避していることは知っていた。

 しかし近くに人間の街があり、前線基地まであるのだから、そこまで危険なはずがないと高をくくっていた。

 まさか最初の最初から、自分よりも格上のモンスターが現れるとは思っていなかった。


 脱兎の如き、全力の逃走。

 獣の本能は、一瞬でも早くあの火災から逃げるべきだと警鐘を鳴らしていた。


 しかし、それでも彼女たちは忘れている。

 あのバーントルネードをして、この森では最強でもなんでもないということを。

 速く走るということはそれだけ、他のモンスターに遭遇する可能性が上がるということを。


「え、あれ? 暗い? 暗くない?」

「なんかいきなり暗くなった?!」

「遠くで音がしたような? って……ぎゃああああ!」


 全力疾走していたが、全力でUターンする。

 彼女たちが走っていた場所、広範囲が、まとめて踏みつぶされた。


「あああ! アレ、絶対雲の糸の爺様よりも格上!」

「獣の王だよ! 私たちの頂点だよ!」

「動く山だよ! 無敵の獣だよ!」


 Aランク上位モンスター、ベヒモス。

 その巨大な足の一つが、彼女たちを踏みつぶしかけていた。

 もちろんベヒモスは、彼女たちなど気にも留めていない。

 この化物はただ歩いているだけでも、クレーターを形成する。

 巨象の歩みに巻き込まれかけたアリでしかない彼女たちは、まさに虫のように逃げ去っていく。


「さささ、さっきの方がマシだった! なんでちょっと走ったら、あんなのに遭遇するの?!」

「魔境って言っても限度があるよ! なんなのこの森?!」

「って、ちょっと待って、なんか匂う……っていうか、凄い音が……!」


 彼女たちの走っていたすぐ脇を、紫色の突風が吹き飛ばしていた。

 その突風は、ただ圧力だけで木々をなぎ倒し、その毒性を以って倒れた木々を枯れ果てさせていた。


「う、うんぎゃああああ!」


 彼女たちは見た。

 多頭竜系最強種、Aランク上位モンスター、ラードーンの威容を。


「あんぎゃあああああ!」


 そしてそのラードーンに食らいつく、節足動物型最強種、エイトロールの姿を。


「あばばばばば!」


 ラードーンが巨大なエイトロールに食いつき、一瞬で呑み込んで消化する。

 頭からバリバリと、口よりも大きいはずの百足を呑み込んでいく。


 しかしエイトロールもまた分裂し、ラードーンに有る大量の首すべてに噛みついていく。

 その鋭利な顎は大量の首を一瞬で切断し、さらに食らって呑み込んでいく。


 だがラードーンもさるもの。

 胴体だけは引き裂かせまいと、毒息を吐きながら大量の首を生やす。

 分裂したエイトロールの、その長い胴体を一瞬で毒殺する死の吐息。

 自ら吐いたその毒ごと、ラードーンは死んだエイトロールの部位を食っていく。


 もはやウロボロス。

 互いに食い合い貪り合い、殺し合い潰し合う絶望の空間。

 終わりが見えない戦いは、つまり近くにいるだけで死ぬくじを引き続けるようなもの。


「あああ~~!」

「いや~~~!」

「助けて~~!」


 この森でさえ頂点に位置する、Aランク上位同士の戦い。

 それに巻き込まれた彼女たちは、やはり深すぎるこの森を全力で走ってしまった。


「って!」

「ひっ?!」

「きゃあ!」


 そして、この森の脅威とはAランクの上位だけではない。

 Aランクの中位も下位も、多種多様に生息している。


 逃げていた彼女たちを発見したのは、奇しくも三つ首のケルベロスだった。

 Aランクの中では下位に位置するこの怪物だが、それでも英雄以外では討ち取れない化物である。


「ね、ねえもしかして!」

「う、うん……これって……」

「私、狙われてる?!」


 今まで出会ったAランクモンスターと違い、このケルベロスは彼女たちを獲物だと認識していた。

 今までは相手にされていなかったが、今は狙われているのである。


「ひゃああああ!」


 三人は絶叫し、互いに抱き合った。まさに絶体絶命の大ピンチであった。



「えっぐ……えっぐ……」

「うう、ぐすん……」

「怖かったよ~~!」


 その日の夕方、彼女たち三人はぼろぼろになって帰ってきた。

 めそめそと泣きじゃくる様は、迷子の童女のようであった。


 這う這うの体で逃げ帰ってきた彼女たち三人を見て、狐太郎は。


「凄いな! よく生きて帰ってきたな!」


 自力で生還した彼女たちに、物凄くびっくりしていた。

 この森の過酷さを知るからこそ、五体満足で生きて帰ってくるとは思っていなかったのである。


 ネゴロ十勇士のように隠れ潜む技を持ったうえで、何度も入っていたのならわかる。

 しかしまったく初めて入って、順路を逸れてそのまま迷って、なんとか帰ってくるなどもはや偉業であった。


「怖かっただろう、ほら家に入りな」

「ありがとうございます~~!」

「お腹空いた~~!」

「体拭きたい~~!」

「よしよし、フーマに用意させるから待ってなさい」


 ただうざいだけだと思っていた彼女たちが、偉業を成し遂げた。

 狐太郎は普通に感心して、彼女たちに優しくなっていたのである。


 というか彼女たちもこの状況だと殊勝なものであり、普段の図々しさはひそめていた。

 弱っているときに優しくされたこともあって、狐太郎にとてもなついていたのである。


「てっきり死んじゃったと思ったけど……凄いね」

「ええ……そうね」


 なお、クツロは自分がいいところを見せる予定だったのに、彼女たちが逆に凄いことをしたので喜べずにいた。


「とはいえまあ、もう諦めるでしょ。あの調子じゃあ、この基地にだって長居したくないでしょうし」

「それはわからないぞ」


 自力で生還したので、迷惑をかけられたわけでもない。

 ササゲは当初の予定通り、彼女たちが心折れて帰るものだと思っていた。

 しかしコゴエは、まだ何かを感じていた。



 かくて再び、彼女たちは落ち込んだ。

 与えられた部屋の中で数日引きこもり、恐怖に震えていた。

 死んでもいいとは思っていたが、目の前でおびえられるとそれはそれで気分が悪い。

 ちょっと悪いことをしたかもな、と一行が思っていた時である。


 彼女たち三人は、狐太郎たちの前でそろって現れた。


「雲を縫う糸の爺様たちが、どうして皆さんに敬意を持っているのかよくわかりました」

「こんな地獄みたいなところで、よく狩りができるものです……私には無理です」

「なんでこんなところの近くにあんなでっかい街なんか建てたの……この国の人間はバカだよ……」


 謝りながらも、この国の人間を侮辱していく三人。やはり心の声が駄々洩れである。

 だがしかし、その本音には思わず一行も苦笑いである。なぜなら、関係者全員がそう思っているからだ。

 ましてや現場の人間は、その馬鹿さの尻拭いに命を賭けているのである。

 言ってはいけないと分かっているが、本当にバカみたいな話だった。この点に関しては、彼女たちの方がよっぽど賢い。


「とはいえ……私たちもここに来るにあたって、それなりに覚悟をしてきました」

「ぶっちゃけ、こんな怖い思いをしたのに、手ぶらで帰るなんて無理です」

「このまま帰ったら、笑われてバカにされちゃいます……」

(それは今に始まったことでもないだろうが……)


 あの森で迷子になったことによって、彼女たちも流石にへこたれていた。

 よほど怖いモンスターに遭遇したのだろう、想像に難くない。


「鬼王クツロ様、謹んで申し上げます。私と戦っていただけないでしょうか」

「もしも負けたのなら、貴女様の家来になりましょう」

「力も勇気も及ばぬとは知りましたが、このままだと諦められないのです」


 おそらく、家来になりたいわけではないだろう。だが家来になるとでも言わなければ、この挑戦を受けてもらえるとは思わなかったに違いない。

 そんなことはわかりきっているのだが、これを言われた時クツロはもう得意満面であった。


「実はね、アカネ。私は貴女やササゲが羨ましかったのよ……だってほら、眷属が身近にいて率いてるじゃない。私も正直、私のことを王様だって崇める眷属が欲しかったのよね……」

(すごい本音が出たな……まあアカネの場合、眷属って言うか同僚だけどな)


 キョウショウ族が逃げてしまったことは咎められないが、それはそれとして仲間は欲しい。

 アカネが騎竜と駆けるところや、ササゲがセキトと楽しくやっているところを、羨ましく思っていたのだ。


「仕方ないわねえ……相手をしてあげるわ!」


 元よりクツロは力比べが好きである。

 試合を申し込まれたのなら、最初から受けるつもりであった。

 むしろ最初からそうして挑戦してくれれば良かったのに。そう思いながらも、狐太郎たちを連れて前線基地の外に出た。


 誰の迷惑にもならぬ、試合で使われるなだらかな草原。

 そこでクツロ達は王位を賭けた試合をすることになったのである。


「絶対勝つぞ~~! お~~!」

「王様になるぞ~~! お~~!」

「故郷の奴らを見返すぞ~~! お~~!」


 この期に及んでも勝つ気満々の彼女たちは、スクラムを組んでいた。

 家来になるどころか、殺して王位を奪う気満々の三人を見て、しかしクツロは笑っていた。


「いいのか、クツロ。凄い殺意を感じるけども」

「いいんですよ、勝つ気がある相手に勝つから楽しいんです。負けても家来になれるからいいや、なんて奴は試合をする価値も家来にする価値もありません」

(現時点でかなり試合をする価値がないと思うんだが……)


 狐太郎の気遣いにも、彼女は笑って応じるのみ。

 彼女も苦戦するなんて思ってもいないが、やるからには全力で応えるつもりだった。


「なんかワンパンで決着が尽きそうだよね」

「そうね、さっさと終わらせてほしいわ」

「二人とも、そう思うのは早計だぞ」


 一応念のため距離を取っている狐太郎と三体だが、しかしコゴエだけは何かを感じ取っているようだった。

 真面目で遊びの少ない雪女が、あの三人に何を警戒しているのか。狐太郎たちにはわからない。


「なあコゴエ、何がそんなに気になるんだ?」

「あの三人は、しきりにクツロを殺して王になると言っていました」

「そうだな」

「ですが、三人のうち()が王になるとは、一言も言っていません」

「……たしかに」

「私たちも倒して三人全員が王になるのならわかりますが、そんなことは一言も言っていませんでした」

「……そうだな」


 彼女たち三人は、思ったことを口にしている。

 一切隠し事がないからこそ、誰が王になるかでもめていないことに違和感があった。

 誰か一人が王になると決めていたとしても、それさえ言っていないのは明らかにおかしい。


「それに、あの名前です」

「ポンポンにアンヨにオッポだったか」

「おそらく適当な偽名でしょう。ですが……「お腹(ぽんぽん)」に「(あんよ)」に「尻尾(おっぽ)」というのは、何かを感じさせませんか?」

「……おいおい、まさか!」

「多頭竜同様に、私たちの世界では伝説とされている、実在しないはずのモンスター。この世界にいないとは限りません」


 狐太郎とコゴエの会話が届かないままに、クツロは拳を構えた。


「さあ、いつでもどこからでも、三人まとめて相手にしてあげるわ!」


「よし、じゃあ三人まとめて行くよ! お~!」


 そのクツロの挑発に合わせるように、三人は「肩車」をした。


 一番上は、猫のポンポン。

 間に挟まるのは、狸のアンヨ。

 一番下で支えるのは、狐のオッポだった。


「……本当にまとまらなくてもいいのに」


 クツロがまたも呆れかけた、その時である。



「合体!」



 一瞬にして煙に包まれた彼女たちは、その正体を現した。


「!」


 クツロの表情が、一気に引き締まる。


「鬼の王よ、覚悟せよ」


 三人の少女がどう重なったところで、到底あり得ない巨体を晒す。


「これぞ我の真の姿」


 彼女たちは一度たりとも、己が亜人だと名乗ったことはない。

 獣のような特徴を持っているだけの、人間のような姿をした『なにか』でしかなかった。


「王冠を被らぬまま勝てると思うな!」


 その妖怪は一種のキメラ、多くの動物の特徴を併せ持つ合成獣。

 頭は猫、胴体は虎、四本の足は狸、尻尾は狐。


「我は雷獣(ぬえ)なり!」


 果たして彼女たちは、俊足なるケルベロスに狙われて、如何に命を拾ったのか。

 逃げたのではない、戦って返り討ちにしたのだ。


 合成獣型Aランク(・・・・)モンスター、鵺。

 英雄ならざる者には討ち取れぬ、都を騒がす大妖怪であった。


「……人授王権、魔王戴冠」


 真の姿をさらした大妖怪と戴冠した大鬼が、王位を賭けて戦おうとしていた。


「タイカン技、鬼王見参!」

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、合体すればAランク下位の実力者だったんですね 逆にそれでも半日でぼろぼろになるこの森がやばいな
[一言] 更新お疲れ様です。 なるほど、合体できるとは…面白いですね! あとラードーンやらベヒモスやらが闊歩しまくるこの森が森であることを保っているのが、今更ながら凄いなと思いました。とっくに更地にな…
[一言] 合体して「鵺」になるんなら、物理特化のクツロだけは狙ったら駄目なような 他の3人の方がまだ勝ち目があるような…
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