憎まれっ子世に憚る
前線基地を離れられない狐太郎に近づくのであれば、前線基地の討伐隊に参加するのが一番確実で堅実だった。
何が確実で堅実かといえば、仮に悪意を持って近づいていたとしても、誰も文句が言えないからだ。
狐太郎の護衛ならばともかく、ただ討伐隊に参加するだけなら出自も目的も一切問うことはできない。
もちろん秘密裏に調べることはあるかもしれないが、それを理由に追い出すことはできない。
大公自ら定めた法であるがゆえに、彼はそれに反することができないからだ。
だが結局、試験に合格し討伐隊に参加できたハンターは一組も現れなかった。
小細工やらなにやらをする必要がないほど、シュバルツバルトの自然は厳しいのだ。
特に厳しくする必要もなく、今まで通り普通に試験をするだけで、勝手に淘汰されていくのである。
正規の道が厳しすぎるとなれば、後は裏道か邪道であろう。
つまり合法ではあるが褒められない方法か、あるいは完全に違法な行動か。
そのどちらかを選んでしまう者が、少なからず現れた。
言うまでもなく一番賢いのは、さっぱりと諦めることである。
※
「ベヒモス討伐の報酬はでかいぞ! 今日は店ごと貸し切りだ! はははは! 道を歩いている奴らも全員店に連れこめ! 今日は俺のおごりだ!」
Aランク上位モンスター、ベヒモス。
その討伐の報酬は、当然ながら莫大である。
蛍雪隊や狐太郎と三等分しても、ツケを返してなお余りある額だった。
彼はそれを使って、カセイの酒場で大騒ぎである。
飲み屋街全部に金をばらまいての大盤振る舞い、もはやお祭りとなっていた。
Aランク上位のモンスターを討伐したのだから、普通に祭として開催されるレベルであろう。
というか地方の都市によっては、Aランク下位のモンスターが討伐されればそれが祭の日に指定されることもある。
このカセイにおいてガイセイは英雄視されておらず、ベヒモスという伝説のモンスターを退治したこともあまり信じられていないが、それでも大金をばらまいてくれていることに変わりはない。
その元は税金なので、結果的には還元なのだろう。
「きゃ~! ガイセイすご~~い!」
「さすが抜山隊隊長、ガイセイ! さすが大公様直属のBランクハンター!」
「もうAランクハンターになる日も遠くないわね!」
彼の周りにいる『プロ』の女性たちも、黄色い声援を惜しまない。
相手は大金をばらまく『御大尽』だ、その声援にも力が入るというもの。
「おうよ! 今日はその前祝だ! じゃんじゃん飲んで騒げ!」
まだ日が沈んだばかりではあるが、それでもすべての飲み屋が大騒ぎだった。
なにせただ酒である、これにつられない男はそういない。
「いやあ、ガイセイには頭が上がらねえなあ! おかげでこうやってただ酒が飲める!」
「まったくだ! で、今回は何を討伐したんだって?」
「ベヒモスだと」
「へ~~。で、本当は?」
「さあな」
「法螺とラッパは大きくふけってか、はははは!」
重要なのは、ただ酒が飲めることである。
ガイセイがどこで何をしてきたかなど、かけらも気にしていない。
むしろガイセイがハンターであることさえ、重要視していなかった。
「なんだかすごい騒ぎね……皆体が大きいから、本当に賑やかで……」
「体が大きいのは関係ないでしょう? これがお祭りだからよ。アレを倒したんだもの、本当にお祭りをするべきだったわ」
「そうですね……皆本当に知らないんだ、ベヒモスが近くに住んでいることを」
ちびちびと、新人類の三人は炭酸水を飲んでいた。
もうすでに何度もカセイに来ているが、ガイセイと一緒に来ると本当に賑やかである。
単に酒を飲んでいるのでうるさいだけだが、それでもガイセイの奢った酒であり、ガイセイの守った平和だった。
「……隊長、いいんですか? 隊長がベヒモスを討ち取ったことを、みんな信じてませんけど」
いいんですか、と機嫌を聞くまでもない。
どっしりと座り、四方八方からプロの女性に抱きしめられて、酒や肉をがっつり食べている。
その顔が上機嫌以外には見えない。心底から、肉や酒や女に酔っている。
「あん? 俺が討ち取ったのを信じろって、こいつらに言えってか? はははは! 格好が悪いなあ、お前。三人がかり、いいや四人か? 蝶花が援護して、クツロと一緒に叩いて、シャインが縛って……それで何を自慢しろって?」
「それでも凄いと思いますけど?」
「全然だ! 俺の夢はAランクハンター! 一人で倒せなきゃ、名乗れねえ。それともなんだ、抜山隊と狐太郎と蛍雪隊で倒したって、一々説明しろってか? 面倒くせえ」
みなが楽しそうに酒を飲んでいるが、決してガイセイを祝っているわけではない。
ただ単に、無料の酒が嬉しいだけだ。普段飲めないような高い酒も、ばんばん飲んでいる。
だがそれだけで、この平和をガイセイが守っているとは思っていないのだ。
それでも、笑顔はそこにある。
「アマチュアだな~~麒麟。まさか感謝して欲しいってか?」
「ま、まあ……」
「いいか、麒麟。プロはな……苦労してます、なんて面はしちゃいけねえんだよ」
ぺちぺちと、プロの女性の顔を叩く。
もちろん柔らかいタッチであり、決して傷をつけるようなものではない。
「お前が食ってる料理を作った奴がここにきて、俺がどんだけ頑張ってこの料理を作れるようになって、どんだけ手間をかけて作ったのか考えて食え、とか言い出したらどうする? 飯が不味くなるだろうが」
「ま、まあ」
「俺がこの街を守ってます、なんて吹聴してみろ。みんな湿気た面になっちまうさ、俺なんかに平和なんて任せたくない、なんて感じでな」
景気よく金をばらまいている男は、しかし平和を満喫していた。
「ここに居るこいつら全員が、俺の客だ。こいつらが大公の旦那に納税して、旦那が俺に報酬として支払う。つまり……こいつらはもう俺に金を払ってるのさ。報酬ならそれで十分だろう、それでも感謝されたいってのなら、お前はアマチュアだ」
「……駄目ですか?」
「ふっふっふ……はははは! お前が生まれた国じゃあ、憲兵隊が一々声高に『俺に感謝しろ!』って叫んで回ってるのか? 狐太郎も英雄だったらしいが、アイツも俺に感謝しろって叫んでたのか?」
現在無料で酒を配っている男には見えない、理路整然とした説明だった。
「してませんよ」
「じゃあアイツもプロだ。ああ、プロさ。いいか、麒麟。お前もプロなら……感謝をねだるな。ただでさえ子供なのに、余計子供に見えるぞ」
ぺちぺち頭を叩いてくるガイセイ。
その所作は、小ばかにしたものだった。
「大体どうでもいいだろうが、今が楽しいんだから。誰が守った平和だとか、誰が奢った酒だとか、白けるから止めろっての。そうだな……お前なんか面白いことしろよ」
「え、ええ?!」
「余興だ、余興。なあに、獅子子や蝶花だっていろいろできるんだ。お前だってなにか面白いことぐらいできるだろう?」
「で、できませんよ、そんなこと」
「おいおい、いよいよ子供だな! よし、俺が面白いことをしてやろう、酒の一気飲みだ! 樽をもって来い!」
「それ面白くないですって」
大柄なガイセイが、小柄な麒麟をいじって遊んでいる。
遊ばれている麒麟も、逃げようと思えば逃げられるはずだった。だが逃げようとはしていない。
「あらあら、ガイセイ。その子は? もしかして子供?」
「ガイセイ、何時子供なんて作ったの?」
「ん~~何歳かしら? それにガイセイの子供にしては小さいような……」
ガイセイが楽し気に話している子供を見て、プロの女性たちはいぶかしがる。
普段から子供を可愛がっているのなら驚かないが、ガイセイの近くに子供がいること自体珍しい。
「ははは! こいつは去年入った、抜山隊の新入りだ! 見てのとおり、ちっちゃい奴だ! よしよし……どうれ、お前ら、そいつの唇を奪ってみろ! そうすりゃあ……金一封、金貨一袋だ!」
「ええ?!」
金貨一袋。
狐太郎はとことん雑に扱っているが、それでも一般人にとっては『お宝』だ。
それがガイセイの口からでれば、もはや女性たちも目の色を変える。
逆にそれはそれで、麒麟の目の色が変わるのだが。
「う、宴中、す、すまない! Bランクハンター、抜山隊のガイセイ隊長だろうか」
変えるが、また別の客が来た。
体格こそいいものの、顔色の悪い五人の男だった。
周囲には酒の匂いが満ちているのに、彼らからはそれがない。
「おう、そうだ」
ガイセイは金貨を人数分出して、それを周りの女性たちに渡した。
それを受け取った彼女たちは、黙ってガイセイから離れていく。
「どこのどちらさんか知らねえが……今日は俺の奢りだ。近くの飲み屋に金を配ってある、肉でも酒でも俺持ちだ。遠慮なくやってくれ、挨拶なんてしなくていいんだぜ? 挨拶しに来なくちゃ肉も酒もなしなんて、けち臭いことは言わねえさ」
「うっ」
遠回しにバカにされていることに気付く麒麟。
しかしそんなことをしに来たわけではないと、誰もが分かっていた。
「……Eランクハンター、当車隊の者だ」
「ほう、同業か!」
「よしてくれ、そんな大したものじゃない」
当車隊の隊員は、周囲を見て縮こまる。
ガイセイの近くにいた他の隊員も、或いはその周囲にいる者たちも、彼らに対して目を向けていた。
陽気に酒を楽しんでいた者たちが、困窮している男へ注目している。
「客から見れば似たようなもんだ、そうかしこまっても仕方ねえ」
「……かしこまりたくもなる。今日はお願いがあってきた」
「ほう」
「……抜山隊に入れて欲しい、他に行き場所がない」
麒麟や獅子子、蝶花にとっては懐かしい言葉だった。
「抜山隊は、他の隊を受け入れてくれると聞いた……頼む、俺達を入れてくれ」
彼らの体格から見るに、弱くはないだろう。
少なくともEランクモンスターを相手に苦戦するとは思えないし、それどころかDランクやCランクのモンスターさえ相手どれるはずだ。
だがそれでもEランクということは、ハンターになって日が浅いか、もしくは……。
「前線基地で討伐隊に参加すれば、前科があってもチャラになると聞いて、故郷を出るときに無茶をした……これで討伐隊になれなきゃ、直に首にお縄だ」
素行に、問題があったかだ。
その点さえ含めて、麒麟たちには懐かしい話だった。
「なればいいじゃねえか、討伐隊に」
「無理だ。アンタは気づかなかったかもしれないが、ベヒモスを討伐する時に居合わせた……。あんな化物が棲む森で、俺達だけで狩りをするなんて無理だ……」
「そうかい」
ガイセイは笑った、実に意地悪く笑った。
「駄目だ」
「な、なんでだ?!」
自分達だけで討伐隊に参加せず、既存の討伐隊に入れてもらうことは麒麟たちもやったことである。
だがガイセイは、一切悩まずに断った。
そこには明確な根拠があると、誰にでもわかった。
「大公の旦那から、新しい隊員を入れるなと言われている。それじゃあ不足か?」
「……な、なんでだ?」
「さあ? だがな、理由なんてどうでもいいだろう?」
自分達だけの力で討伐隊に参加せず、他の隊の戦力になる。
それはそれで合法ではあり、やはり大公に止める権利はない。
ガイセイが大公の指示を拒否すれば、それまでの話だ。
「なんで俺が大公の旦那に逆らってまで、お前を隊に入れないといけないんだ?」
だがしかし、判断の権利は隊長にある。
大公がお願いをして隊長がそれに従えば、それはそれで合法なのだ。
「そ、そんな……ハンターの隊に新入隊員を入れるかどうかは、隊長であるアンタにだけ決める権利が……」
「ああ、そうだ。その俺が、嫌だと言ったんだぜ? それともなにかお前、俺がお前を仲間に入れないことが法律違反だとでも?」
当車隊は正規の方法で討伐隊に参加したわけではないが、違法行為をしたわけでもない。
同様に大公も、違法行為をしたわけではない。ガイセイもまた、違法行為はしていない。
全員が合法的な行動をした結果、当車隊が弾かれただけだった。
「俺や大公の旦那が悪いってんなら、どんな法律に違反したのか言えるんだろうなあ? 言えないのに文句を言うってんなら……憲兵隊、呼んじゃうぜ?」
ガイセイの質の悪さを、麒麟は思い知っていた。
実際ガイセイは何も悪いことをしていない、ただ入隊を断っただけだ。
にもかかわらず、あえて悪人のような振舞をしている。
「俺は、断る権利を行使しているだけなんだぜ? 善良なハンターなら、潔く諦めるべきだと思うんだがなあ」
「隊長、その言い方はちょっと……」
ガイセイはあえて、相手を傷つけるいい方ばかりしている。
いくら酔っているとはいえ、なかなか質が悪かった。
これではすんなり諦めてくれるとは思えない。
「ん? 新入り、こいつらがかわいそうだと思うのか?」
何かを思いついた、とぼけた顔のガイセイ。
彼はわざとらしく麒麟を新入りだと呼んでいた。
「確かになあ、大公の旦那が止める前に、お前は入ってきたもんな。タイミングよかったよなあ」
「え、ええまあ」
「それに考えてみれば……俺が無理に入れたいって言えば、旦那も引き下がってくれるだろうし……」
どん、とガイセイは麒麟の背を押した。
「おい、当車隊の隊長さんよ。ウチは今満席だが……こいつから席を奪うってんならアリだ。コイツとその仲間の姉ちゃん二人……三人分の椅子を用意してやる。二人分は……おまけってことで」
「ええっ?!」
「新入り、この隊長とケンカしてみろ。もしも負けたら、お前の姉ちゃん二人も追い出すからな」
何を軽率に決めているのか、この男は。
思わず抗議しそうになるが、それよりも先に別の声が先に聞こえた。
「悪いな坊や」
ごん、という音が聞こえた。
耳にではなく、骨に届いた。
「こっちは……必死なんだよ!」
「あららら」
まさに決死の形相で、麒麟を殴りつける当車隊の隊長。
麒麟がガイセイの方を向いている隙に、徹底して殴りつける。
それどころか、近くにあった椅子まで使って、殴打に殴打を重ねた。
椅子が砕けるまで殴り、倒れている麒麟を蹴り飛ばした。
「おうおう……ケンカ慣れしてるな、隊長さん。もしかしてモンスター相手よりも、そっちが本職とか?」
「ああ、ちょっとはな……!」
呼吸が荒いのは、自分よりずっと小さい少年を殴った罪悪感か。
それともただ慌てて殴りつけたからか。
どちらにせよ、彼はガイセイの方を向いた。
「文句はねえよな、これはケンカだ……卑怯もくそもねえ!」
「ああ、卑怯じゃないぜ」
だがガイセイは、彼を見ていなかった。
「だがまだ、ウチの新入りは負けてねえぞ」
殴られて蹴られた麒麟は、平然と立ち上がった。
抜山隊は一切驚かないが、しかし他の客たちは驚いている。
この世界においても、体格こそが力。
相手が悪魔ならいざ知らず、人種こそ違えども人間でしかない麒麟が強いわけがない。
しかしそれは、この世界の理屈である。
「ケンカなら、今から始めるぞって言ってくださいよ」
麒麟は少し痛そうに頭を押さえているが、まるで堪えていなかった。
「ははは! お前の国じゃあ、ケンカに挨拶やら礼儀やらがあるのか? お上品だなあ、まったく!」
「それに椅子まで使うし……凶器じゃないですか、死んだらどうするんですか」
「何言ってやがる、俺に剣で斬りかかったのは誰だ? 俺を殺す気だっただろうが、お前」
「……そうでした」
「お前の記憶力はどうなってるんだ? お前自分のことを棚に上げて、偉そうに文句をつけやがって……お前の方がよっぽど危険だ」
全幅の信頼を置いた声で、隊長が命令する。
「殺すなよ、酒が不味くなる」
「了解しました、隊長」
実年齢はともかく、見た目からすればガイセイの子供のように見える少年。
その彼は、まるで歴戦の雄のように前へ出る。
「よくもやってくれましたね」
「な、て、てめえ!」
当車隊の隊長は、あわてて殴ろうとする。
麒麟はその手をあっさりつかむと、そのまま振り回して床にたたきつけた。
木でできた、飲み屋の床。巨大な男たちが踏み鳴らす、頑丈なはずの床。それが、ただ一撃で叩き割られていた。
当車隊の隊長は、割れた床に背中から沈み込む形で、びくりとも動けなくなっている。
床の頑丈さを知っているからこそ、麒麟の力技に誰もが声を失う。
いいや、抜山隊だけは違った。
「おおし! さすが新入りだ! よくやったぜ!」
「おうおう! もっとやっちまえ! まだ生きてるだろうが! この際床をぶち抜きまくれ!」
「修理費は、俺らが持ってやるぞ~~!」
抜山隊の隊員がはやし立てる中で、当車隊の隊員はあまりのことに言葉を失う。
自分たちの中では間違いなく一番強い男が、一撃で黙らされた。しかも、ただの力技で。
エフェクト技やクリエイト技を使うことなく、素の腕力でねじ伏せられていた。
「悪いなあ、ウチの新入りが店壊しちまって。店長呼んで来い、俺から謝る」
「わ、わかったけど……あの、あの子なに?」
嬉しそうに笑うガイセイが、自分の元に戻ってきたプロの女性に形だけ謝った。
だが彼女たちは、店を壊した少年に目を向ける。
はっきり言って、彼女たちの常識から外れている強さだった。
「くっくっく……うちの新入りだ。抜山隊の新入り、原石麒麟。あんななりだが、前線基地のハンターの中でも俺の次に強い」
白眉隊隊長、ジョー・ホース。同じく竜騎士分隊分隊長ショウエン・マースー。
一灯隊隊長リゥイ、同じく副隊長グァン、三番手ヂャン。
そうした面々よりもさらに強いと断言できる、小柄な少年。
「で、どうするよ。当車隊の隊員君」
「あ」
「隊長の仇をとるかい?」
あえてガイセイは慇懃に振舞う。
ガイセイがベヒモスを倒すところを見たからこそ、そのガイセイが強さを保証した麒麟が化物に見える。
いいや、実際そうなのだろう。Aランクにこそ届かないものの、Bランク上位モンスターさえ単独で撃破しうる実力者。
そんな相手に、喧嘩自慢如きが勝てるわけがない。
「う、うわあああああ!」
彼らの判断は、逃走だった。
共に故郷を旅立った隊長をおいて、無様に逃げ出した。
「ははははは! どうだ、Eランクハンターは格好が悪いだろう! なかなかできねえぞ、あんなにきれいに逃げるなんてな!」
「そうですね……同情した自分が馬鹿でした」
「いいや、お前同類だろ。なにを偉そうに言ってるんだ、ええ?」
「……そうでした。僕はバカです」
動けなくなった仲間を見捨てての逃走。
それは麒麟の価値観では許されないことだが、客観視すると自分と大差なかった。
「まあいい! 中々面白く勝ったな! お前実はケンカ得意なんじゃないか?」
「はい、ケンカは結構やってましたから。倒した相手を傘下に入れるために、いろいろと……」
「やっぱり同類じゃねえか! はははは! 上品に見えて、お前も抜山隊だぜ!」
悪い子供を褒める、悪い大人。
「麒麟……よかったわね、昔の経験が生きて」
「ええ、何が役に立つかわからないわね……」
それを見つめて感動している頭の悪い女性が二人。
抜山隊は、みんなワルだった。




