役者が違う
ジュリエットはフーマ十人衆が、直ぐに動くと断言していた。
ジュリエットがロミオと接触した時点で、既に彼らの計画は破綻していたからである。
なにせネゴロ一族のバックには、大公ジューガーがついている。
狐太郎の護衛を探すことに苦心してはいるが、それは大公の手元に人材がいないからではなく、単にシュバルツバルトでの仕事がとてもつらいということだった。
なんのことはない、大公の手元には『人間を倒すことの専門家』がわんさかいる。
その彼らが大量に投入されてしまえば、何もかもがご破算である。
もちろんネゴロ十勇士が大公へ報告せず、己たちだけで迎え撃つ可能性もあった。
だが日没前にワイバーンに乗った騎兵が、空を飛んでカセイへ向かった。
どう考えても尋常ではなく、救援を求めに行ったと考えた方が自然である。
フーマ十人衆は、それを見てどう考えたのか。まだ見ぬ十勇士が、どう思って救援を呼んだと考えるか。
狐太郎を守れればそれでいいと考えたのか、それともフーマ相手に怖気づいたのか。
どちらであっても、大差はない。
救援が来るまでに逃げるか強襲するかの二択であり、心中を考えている場合ではない。
だが仕事の依頼で来ているわけではない彼らは、どうしてもそれを考えてしまった。
毒殺されている同志の死体を弔うと、彼らは怒りを燃やす。
当然ながら、逃げるという選択肢はなかった。
「ことは既に露見したと考えるべきだろう。もはや我等フーマに未来はなくなった、あとは誇りを示すだけだ」
「なにが十勇士か、笑わせる……ネゴロの者だけでは勝てぬと怖気づき、飼い主である大公の元へ救援を願うとは」
「我らの退路を断ったつもりだろうが、それが裏目に出たな。これで我らは、モンスターに殺されたと偽装する必要がなくなった」
「うむ、尋常に暗殺してしまえばいい。そちらの方が、よほど簡単だ」
「かえって殺しやすくなったというもの……奴らは己の首を絞めたのだ」
「我らの接近と目的を知った上で暗殺を防げなかったとなれば、いよいよ奴らの無能は明らかになる……フーマとネゴロの因縁は、フーマが優れていたという結論で幕を閉じるのだ」
フーマ一族の壊滅を、敗北だと思わなくなっていた十人衆。
彼らはあくまでも己たちの勝利のためにだけ、狐太郎の命を狙っていた。
ネゴロに勝てればそれでいい、自分たちが勝てればそれでいい、自分達さえよければそれでいい。
失敗しようが成功しようが死ぬことは決まっているので、命がけではあるのだろう。
だがそれでも、自尊心のために人を殺めようとしていることだけは、なんの弁解もできないことだった。
彼らが証明しようとしていることは、自分たちの優秀さではない。自らの命を賭したとしても美化できないことがある、という証明だった。
「今晩の内に仕掛ける。ちょうど今晩は曇天だ、潜入にはちょうどいい」
「ああ、何もかも今晩で終わらせる」
何もかも読まれていると知った上で、彼らは前に進む。
それは暴走であり、だからこそ当人たちは気づいていない。
己たちの前に掘られた、底なしの落とし穴に。
※
シュバルツバルトの付近には、身を隠せる場所がほとんどない。
もちろんシュバルツバルトそのものを目くらましにして動くことはできるが、それでは遠回りが過ぎた。
だからこそ彼らは、姿勢を低くしながら音もたてずに近づく。
九人になった十人衆は分散し、静かに静かに前へ進んでいった。
(当然だが、城は警戒態勢だな)
シュバルツバルトの前線基地は森側に警戒を敷くことはあっても、カセイのある側には警戒をしていない。
だが今回はフーマ十人衆が接近していることを知っているからか、とても多くの見張りが接近を警戒していた。
もちろん、想定外ではない。むしろこうでなかった方が、何かを疑ってしまうだろう。
強敵を前に武者震いをする戦士のように、十人衆たちは攻めにくくなった城壁を前に身震いする。
攻略が難しいからこそ、達成したときの快感は大きくなる。
元より朝日を拝む気はない、身を捨てて狐太郎を殺せれば万々歳だとさえ思っていた。
だからこそ、敵に回せば恐ろしい。
狐太郎が恐怖していたことは当然だった、ここまで自棄になられれば防げるものではない。
それを彼ら自身も自覚していた、後先を考えないことこそ最大の勝機。
もはや既に狐太郎を討ち取ったような顔さえして、じわじわと間合いを詰めていく。
(城壁の上には、腕利きの戦士が多数……なるほど、精鋭ぞろいというのは本当のようだ。だが我らは潜入の専門家、防ぎきれるものではない)
前線基地の城壁は強固だが、そこまで高いというわけではない。
あくまでも砦程度であり、本格的な城壁に比べればアスレチック程度だった。
元よりモンスターを防ぐための壁であって、密偵の侵入を防ぐためのものではない。
よってフーマの精鋭である十人衆なら、道具を使わずとも駆けあがることが可能だった。
たとえ侵入がばれてしまったとしても、城壁を超えて中に入ってしまえば問題ない。
狐太郎の居場所をそのまま探り、殺してしまえるだけの自信があった。
しかし接近を続けていた九人全員が、同時に止まった。
別に連携を取っていたのではなく、全員が同時に気付いたからに他ならない。
(やはりか)
かがり火に照らされていた夜の草原の中に、気配を二つ感じた。
九人はそれを察して止まり、逆に気配の主二人は立ち上がっていた。
(アレが……ネゴロ十勇士)
かがり火に照らされた中で立つ二人は、間違いなく自分達と同じ人種だった。
二人とも覆面をしたうえでそろいの装束を着込んでいるが、それでも肩幅が狭いので『この国の人間』ではないことが明らかである。
(……妙だな、我等に気付いたようなのに、仕掛けてくる気はないらしい)
ネゴロ十勇士であろう二人が立ち上がったにもかかわらず、城壁の上で防衛にあたっている面々は動こうとしない。
もしも十勇士がその気ならば、既に城壁の上から雨あられと攻撃が降り注ぐはずだった。
一旦街の中に入ればその限りではないが、城壁の外へなら大規模な攻撃が可能だった。もちろんそれをすり抜ける自信もあったが、相手がそれをしない理由が思いつかない。
正しく言えば、合理的な理由が思いつかなかった。
「フーマ九人衆! とっとと出て来い!」
「今すぐにこの辺りを火の海に変えてもいいのだぞ! 九人まとめて焼き殺されたく無くば、顔を上げろ!」
あえて十人衆と呼ばない、ネゴロの二人。
それは露骨な挑発であり、普段なら聞き流して無視するはずだった。
合理的に考えれば、ネゴロ十勇士のうち二人を倒したところで、目的には一切近づかない。
残った八人が狐太郎の傍にいることを考えれば、置き去りにするべきだった。
あるいは、足止めとして二人をこの場に残し、七人で殺しに行くべきだった。
少なくとも、九人全員が二人と戦う合理的な理由はない。
「九人九人と、ずいぶん連呼してくれるな」
「一人殺せたことが、そんなにも自慢なのか?」
「奴は油断していただけのこと……我等にそんなものはない」
だがそれでも、九人全員が申し合わせたように立ち上がった。
各々の距離は大きく空いているが、それでも全員が立ち上がったことは露骨に危うかった。
だがやはり、城壁の上から攻撃は来ない。
もはや斥候要員でなくともわかるはずだが、それでも誰も射かけてこない。
それはつまり、城壁の上にいる戦士たちは、まだ手を出す気がないということだった。
侮辱と捉えることもできるし、新入りとして試されているともとれる。
だが好ましいのは、ネゴロがこの状況を望んでいることだ。
「残り八人はどうした?」
「どうしたも何も……別の場所で、違う任務に就いている。あいにくだが、フーマ如きならば二人で十分ということだ」
まるで決闘のようだった。
如何に夜の空の下とは言え、裏稼業のプロ同士がながなが話をするなど、普通では考えられないことである。
「侮られたものだな……上の男たちを当てにしてもいいのだぞ」
「下らん……この場は我らの独壇場、ハンターの出る幕はない」
「ふん、後で泣き言を言わないことだな」
フーマ十人衆は、口角が上がっていくことを感じていた。
人生で初めての状況ではあるが、だからこそ歓喜が心に満ちていく。
己の意志で標的を定め、己の意志で戦うことの、なんと甘美なことか。
暗殺の常道から外れている自覚はあるが、それでもこの誘惑には勝てない。
もとより、この命は使い切る所存。負けても勝っても、既にフーマは壊滅する。
であれば、どうしてこの茶番が持つ誘惑に抗えるだろうか。抗う必要性など、一切なかった。
「まあもっとも、二人だから狐太郎とやらを守れなかった、と言ったところで大公は許すまいが」
「ふん……」
まるで申し合わせたかのように、会話が弾む。
「フーマ一族とは仕事の最中でよく遭遇した。正直に言えば、手ごわい相手だと思い、その手腕に敬意を抱いてもいた。同業者の中で、ネゴロに匹敵する者はフーマだけだとな」
「だがそれも昔の話だ。大公閣下にご指導を頂き、十勇士の称号を得た我らの前には、フーマと言えども敵ではない」
フーマ十人衆は察した。
これはネゴロにとっても決別であると。
もはや裏の世界の住人ではなく、表の世界を歩いていく者になるという、脱皮のような瞬間。
フーマという過去の象徴を切り捨てることで、先に進もうとしているのだと。
「お前達には想像もできない過酷な試練の数々……脱落していく同志たちに想いを託されながらも、我等十人は難行を超えた」
「それによって、我らがどれだけ強くなったのか……お前たちに教えてやろう。もはやフーマなど、ネゴロ十勇士の前では子供同然なのだとな!」
一人は身をかがめて、もう一人は小さな小石を両手の掌につかみ取っていた。
二人の連携で一気に決める気だと察した九人は、何時何が来ても動けるように身構える。
まさに名乗り合ったあとの決闘開始直前であり、両陣営の間にわずかな時間が流れた。
そして、ネゴロ十勇士の一人が大量にばらまいた小石が『爆発』したことを合図として、戦いが始まる。
(エフェクト技か? いや、流石に爆発属性は修めまい。エンチャント技とみた!)
(なるほど……密偵で無くなったのだから、派手な武器を使ってもいいということか)
文字通りの、爆発炎上。
周囲に炎の臭いが広がり、さらに夜の闇が照らされた。
かがり火を遠く見ていただけの九人は、わずかながら閃光を浴びたように前が見えなくなる。
暗闇で光を見ると目がくらむという、とても原始的で基本的な目くらましであった。
(装備が豪華になったというのが、お前たちの自慢か? 馬鹿め、一発も当たってなどいない!)
(この爆発に乗じて、奇襲を仕掛ける気か? 陳腐にもほどがある!)
目の前がいきなり燃え上がったのだ、動揺しない動物はそういないだろう。
だがフーマ十人衆は、当然ながら訓練を受けている。突然の火にも一切ひるむことはない。
だからこそ、爆発による炎上の壁を破る人影が突入してきたときも、一切動揺はなかった。
ネゴロ一族が爆発物を使ってくるはずがない、という虚を突いたつもりかもしれないが、先ほどの予備動作で狙いはわかり切っていた。
爆発は想定外だったが、一瞬驚いただけ。
むしろその後の奇襲は想定内だったからこそ、九人全員が同時に対応しようとする。
しかし、想定外のことが一つだけあった。
「が……!」
突入してきた人影一つに、一人目がいきなり殴られた。
腹部への突き刺さる打撃は、フーマの九人の内一人をあっさりと倒していた。
「が、がほっ!」
地獄の苦しみとは、まさにこれであろう。
気絶できない中で、呼吸がままならない。
密偵としてのプライドも何もなく、口から液体をまき散らしながら悶絶する。
「ば、バカっ……!」
目にもとまらぬ早業とは、まさにこれであろう。
そこに、装束を来たネゴロ十勇士がいる。
透明になっているわけでも迷彩を施しているわけでもなく、死角に潜んでいるわけでも遠くに隠れているわけでもない。
目視できるところにネゴロ十勇士はいるのだが、あまりの速さに見失いそうになる。
いいや、それ以前に反応ができない。予想していたように、奇襲を仕掛けてきただけなのだが、その速さが尋常ではなかった。
(バカな……加速属性、強化属性か?! いや、だとしても速すぎる……!)
断じて一網打尽ではない。高速で移動しながらとはいえ、一人一人を悶絶させながら倒していく。
対応できるはずだった、迎え撃てるはずだった。一人が倒されている間に、他の者が動けるはずだった。
だがしかし、あまりにも早すぎた。
なまじネゴロ一族を知っているからこそ、同じ人種だからこそ、ここまで速いはずがないと困惑したのだ。
己たちも鍛錬は積んだ、特に足の速さは重点的に鍛えてきた。にもかかわらず、その差は歴然としていた。
「がふっ!」
殴られると、わかってしまう。
相手はこちらを殺さないように『加減』して殴っている。
気絶しないように、しかし立ち上がれないような塩梅で、圧倒的な力の差を見せている。
「ごふっ……!」
まったくの想定外であれば、もう少しは体が動かせた。
仲間が倒れていく中でも、冷静に離脱することができただろう。
だがしかし、単純な数値差だけが異常だった。
だからこそ、脳は体を動かすことよりも想像に容量を割いてしまう。
(い、いったいどんな鍛錬を積めば、ここまで早く強くなれるんだ?!)
なまじ自分たちの実力に自信があるからこそ、極限の鍛錬を積んだという自負があったからこその困惑。
それが、彼らに対処をさせなかった。
(た、大公はどんな魔法を使ったんだ? どうやったらこんなに強くなれるんだ……?!)
爆発が起きてから、何秒程度が経過したのだろうか。
燃え盛る炎はまだ衰えず、爆発音は耳の中に残り、異臭は鼻に刺激を与えている。
それらが記憶に残らない、印象にならないほどに、彼らは敗北と苦痛を味わっていた。
(以前とは、まるで別人だ……!)
「ふん……どうだ、地面の味は」
見下ろしているのは、息も切らせていないネゴロ十勇士の二人。
まるで立ったまま動いていなかったかのように、疲れた様子も何かを成し遂げた高揚もなかった。
普通に歩いて近づいて、倒れた同業者を見下ろしている。
「どうやら実力差が分かったようだな、手遅れだが」
「我らはもはや、ステージが違うのだ。お前たちのような日陰者とは違う……選ばれた者だ」
覆面の中に隠れた顔は、愉悦と優越に染まっていた。
いや、そうとしか思えない声だった。
「これからお前たちがどうなるか教えてやろう。大公閣下が友とさえ呼ぶ我らが主を暗殺しようとした罪は重いぞ……この場で死んだほうがましと思うような、残酷な拷問と処刑が待っている」
「なにが十人衆……所詮は自称しただけ……大公閣下から授かった十勇士の称号に比べればメッキどころか絵の具同然」
二人は縄を取り出した、倒れている九人を拘束するのだろう。
抵抗しようと思えば、噛みつくことぐらいはできたはずだった。
しかしそれさえできない程、倒れた九人は心を折られていた。
たった一撃、腹部を殴られた。それだけで、何もかもが否定されていたのだ。
「我らの手にかかったことを光栄に思え」
「それがお前達フーマの最後だ」
さて、覆面に隠れたロレンスとロミオの顔である。
まるで薬物でも使われたかのように、筋肉が引きつっていた。
なんのことはなく、強がっているだけであった。
※
さて、この一瞬の間に何があったのか、説明をしよう。
ロレンスが爆発属性を込めた石をばらまき、ロミオがわずかに腰を落とした。
そのあと、二人は正真正銘、何もしていない。
実際に九人を倒したのは、ロレンスやロミオと同じ服を着ていた麒麟である。
「蝶花さん」
「ええ……ショクギョウ技、疾きこと風の如く!」
「キョウツウ技、フィジカルチャージ、スピードアップ!」
城壁の上で他のハンターに紛れていた蝶花から支援を受けた彼は、Aランクハンターでもなければ対応ができない速さを発揮して城壁を飛び降り、さらにそのまま爆炎の壁を突っ切ったのである。
そのあとは、自分を倒そうとした九人を一人一人殴り倒しただけである。
(キョウツウ技、ファストナックル!)
先制効果を持つ技で、腹部を殴る。
もとより対人戦の経験も豊富な彼は、気絶しない程度の力で倒すことにも慣れていた。
(キョウツウ技、ゴーストステップ!)
蝶花から支援を受けている麒麟は、Bランク上位のモンスターさえ圧倒しうる。
直接戦闘が不得手なフーマ一族では、どうあがいても抵抗できなかった。
(速すぎる、まるで別人!)
(別人のように強い!)
(信じられん、本当にネゴロなのか?!)
言うまでもないが、麒麟の背は低い。
同じ服を着ているとはいえ、下駄をはいているわけでもないのだから、よく観察すればすぐにわかったはずだった。
しかし夜の闇を裂く爆炎によって目は一瞬くらみ、正しく相手を視認できなかった。
麒麟が早く動き過ぎていたこともあって、『ネゴロ十勇士と同じ服を着ている誰か』の体格に気付けなかったのである。
もちろん真正面から殴り掛かっていれば、流石に自分との体格差に気付いただろう。
だが真横や真下から突き上げるように殴っていたこと、その動きが密偵として正しかったこともあって、彼らは視線を合わせることさえできなかったのだ。
最大の理由は、フーマが麒麟や狐太郎という人種を見たことがなかった事だろう。
作戦会議でも言われていたが、ガイセイがネゴロと同じ装束を着ていても、肩幅の大きさから別人だと一発で看破できたはずだった。
だが麒麟は小柄であり、フーマやネゴロと比べても小さい。自分達よりも小さい人種に遭遇したことがなかったからこそ、『大きくないということはネゴロだ』と信じて疑わなかったのだ。
あとは麒麟がそのまま駆け抜けて基地に戻り、蝶花は曲を止めて、ロレンスとロミオが歩み寄れば終わりである。
検証映像でも残っていていれば話は違うのだが、当然記録などしていないし、残っていたとしても彼らはそれを確認することもできない。
この基地が抱える事情を知らない彼らは、自分たちを騙すために芝居をしていると疑うことはなかった。
もはや信じ込むだけであり、思い込むだけだった。
「お、教えろ……ネゴロ……」
「お前達は、いったいどうして、ここまで強くなれた……!」
「先日までは、我等と大差などなかったはずだ……!」
何もしていないロミオとロレンスは、疲れてなどいなかった。
だが自分達と同格の相手に『強者のふりをする』という苦行を強いられていた。
「さっきの動き……まるで別人だった……!」
「そうだ……人が変わったようだった……! ありえない!」
拘束している最中も、優越感に浸っているふりをしなければならなかった。
羞恥の余り、真実を口走りそうになるほどだった。
「野良犬のお前達にはわからないだろうが……大公閣下から信頼を受ける、それだけで我らは強くなれた」
「一族を救ってくださった、大公閣下への忠義。それらが我らをここまで強くしたのだ……!」
「バカな……そんなことで強くなれるわけがない……!」
「そんな理由で、ここまで差がつくものか……!」
「実証してやったはずだが?」
「ぐぅ……!」
悶えそうになる中、余裕を取り繕うロミオとロレンス。
しかし二人にはまだ、大一番が待っていた。
自分たちが大金星を挙げたことで大喜びするであろう大公へ、得意満面で報告するという大一番が待っているのだ。
彼らの忍耐が試されるのは、ここからである。




