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「まちがい魔女のつぶやき」

作者: 三毛猫

 小さいころわたしは、魔法少女に憧れていた。

 だから、幼いころに偶然今の師匠に出会って「魔法を覚えてみない?」と誘われたときには、深く考えもせずに元気よくうなずいたのだった。それが、間違いの始まりだとも知らずに。

 それから何年も経って、そろそろ魔法少女と呼ぶにはとうが立つ年齢になった今では、自分が成りたかった魔法少女と全然違うものになってしまったことをよく理解している。


 ……わたしは、魔法少女ではなくて、【魔女】になってしまったのだった。


 確かにどちらも魔法を使う女性という意味では大差ないのかもしれないし、実際幼いころは魔法が使えるなら魔法少女だよね、って自分を納得させ続けていたからまるで疑問に思っていなかったけれど。

 魔法少女はふつう、人間をヒキガエルに変える様な魔法を使ったりはしないし、ホウキで空を飛ぶことはあるかもしれないけれど、大鍋をかき混ぜながら怪しい呪いの薬を作ったりはしない物なのだ。

 まだまだ半人前とはいえ、師匠に一応、魔女を名乗ることを認められるようになってから、「あれ、なんか思ってたのと違う様な気がする」って。

 いくらなんでも、気が付くの遅すぎだろう、わたし。

 それでも、これまでやってきたことが無駄なことだったとは思いたくなかったので、とりあえず師匠に一人前と認められるようにはなりたかった。

 そうして、修行を続けた末に師匠に見習い卒業の試験として言い渡されたのが、わたしオリジナルの魔法を自分だけで創ることだった。

 つまり、要するに。他人から教えられるだけでなく、自分で魔法を創れるようになってようやく魔女としては一人前ということなのだろう。



 ここで、わたしが師匠から教えてもらった魔女の魔法について少し解説しておこうと思う。

 「師匠から教えてもらった」と但し書きが付くのは、どうやらわたしが学んだ以外にも、意外と世の中には魔法というものがあふれているようで、いろんな原理や仕組みがあるからなのだがここでは割愛する。

 ……ちなみに、わたしがかつて恋焦がれていた「魔法少女の魔法」というのも実は存在するらしかったが。

 こほん。

 とにかく。わたしが師匠から学んだ魔法というのは端的に言うと「世界を騙す」方法のことだった。

 AはBと似ている。なら、だいたい同じものとみなしていいよね? ということを繰り返して、世界を騙していくのだ。俗に、類型魔法などと言われる。

 具体的に、人間をヒキガエルに変える魔法を見てみよう。

 目は二つ、手も二つ、足も二つ、おまけに醜い所も同じ、なら、人間もヒキガエルも同じようなものだよねぇ?

 師匠はたったこれだけの言葉で人間をヒキガエルにしてしまえる。具体的にはわたしが何度もゲコゲコ鳴く羽目になった。いつか師匠をブタにしてブヒブヒ言わせたい。ちくしょう。

 わたしはまだそこまで簡単な言葉では世界を騙すことは出来ないけれど、原理は同じ。似ているところを見つけて、置き換えて、別の物にする。この繰り返しだ。

 あるいは。

 嘘でもいいから、本当でなくてもいいから、世間的にそう思われている物事。伝承や言い伝え、そういった物事を根拠として世界を騙す方法もある。こちらは俗に、伝承魔法と言われる。

 例えば、魔女がホウキで空を飛べるのは、「魔女はホウキで空を飛ぶもの」とされているせいだったりする。そういうものだから、そうなってしまう。原理も何もあったものじゃあない。重力を遮る魔法をホウキにかけて浮かぶ、とか、風の精霊の力を借りて浮かぶだの、そんなそれっぽい理屈は全く無い。

 ただ、飛べるから飛べる。

 なんていい加減なんだと思うけれど、わたしの学んだ魔法はそういったものらしい。

 まあ、魔法少女と魔女を同じようなもの、と間違って学んだファジーなわたしにはお似合いな気もするけれど……。



 さて、気を取り直してわたしだけのオリジナル魔法を創ることにしよう。

 といっても、わたしの想像力は貧困だから、結局のところ何かを真似することしかできない。

 だから、「魔女はホウキで空を飛ぶ」を起点に考えてみよう。実際にわたしもホウキで空を飛ぶことは出来るのだけれど、ひとつ問題がある。

 鉄棒なんかにまたがったところを想像してほしい。うん。……ホウキにまたがると、股裂き状態になってとても痛いのですよ。足ぶらぶらするし。短時間なら大丈夫だけど、とても長時間はまたがっていられない。それだけならクッションを挟むとかやりようもあるのだけれど、バランスを取るのが難しくって、くるんって逆さまになっちゃうこともある。スカートだと特に悲惨な目に遭う。

 これを、何とかしたいと思う。

「ホウキ、ホウキ。ホウキってことはまあ、掃除用具ってくくりでいいよね。だったら掃除機とかの方がどっしり座れそうな気がするんだよね」

 そう考えて、部屋にあった吸引力の変わらないただひとつの掃除機にまたがる。

 おお。浮いた。どうやら世界はわたしの言葉に騙されてくれたらしい。

 けど、掃除機も乗り物としては設計されてないし、なんだかかっこ悪いよね。それに、さすがにホウキに比べると重いから持ち運びもしにくい。

「んー、ル○バとかも掃除機だし、これで空飛べてもいいんじゃない?」

 猫がルン○に乗ってぐいーんと床を移動する様子を想像しながら、ちょこんとまたがってみると。

 おお。浮いた! 大きさ的にも椅子の座るとこくらいの大きさだから座布団とか乗せたら丁度良さげ?

 いいねいいねー! この調子でどんどんいっちゃおうかー。

「椅子に似てるわけだし、いっそのこと椅子で空飛べてもいいんじゃない?」

 背もたれついてるし、安定して座ってられるよね!

 そう思ったのだけれど。

 ブブーっと魔法が失敗した音がして、椅子は浮かばなかった。あれー?

 ……世界を騙す判定っていったいどうなってるんだろう。

 師匠曰く「魔法の判定は、魔法スキル+2D6+知力ボーナスさね」って良くわからないこといってたけど。

 椅子がダメなら……と思って部屋を見回して目についたのがワイド型のテレビだった。ウチのは32型でそこそこの大きさだ。寝ころぶには少し足りないけど、うつ伏せになって転がるにはいい大きさかも?

「ル○バは家電製品だし、テレビも家電製品だよね、じゃあ、テレビで空飛べてもいいんじゃないかな?」

 ……はい、なぜか浮きました。

 椅子の方が形も似てるしよっぽど近い気がするんだけど。ほんと魔法の判定は謎だ。

 しかし、乗っている時はともかく、流石にテレビなんてものを持ち運ぶのは不便だよね。

 そもそも、ホウキで空を飛ぶのは目的地へ移動するためなんだし。

 ん?

「ホウキで空を飛ぶのは遠くへいくためだよね。でもって、テレビって遠くのものを映すことができるよね。じゃあ、【映せる】んだから、【移せて】もいいんじゃないかな?」

 少しばかり論理に飛躍があるような気もするけど。


 ……気が付いたら、わたしは部屋着のまま見知らぬ場所に立っていた。

 ここ、どこー?


 幸いにして、家からあまり離れた場所じゃなかったのでなんとか家に帰りつけた。

 散々な目にあったけれど、気分は高揚したままだ。

 ホウキで空を飛ぶ魔法から、転移魔法を創り出せたのだ。もう少し研究と調整の必要はありそうだけれど、これでわたしも立派な魔女を名乗れるのではなかろうか。

 しばらく研究を重ね、【映る】と【移る】の関係から、スマホで撮った写真を媒介に転移魔法が使用可能になった。これはもう、立派なわたしのオリジナル魔法といっていいだろう。

 意気揚々と師匠に魔法が出来たことを報告し、実際に使って見せる。


「魔女はホウキで空を飛ぶ、ホウキ、ホウキ。ホウキってことはまあ、掃除用具ってくくりでいいよね。だったら掃除機とかの方がどっしり座れそうな気がするんだよね。ル○バとかも掃除機だし、これで空飛べてもいいんじゃない? ル○バは家電製品だし、テレビも家電製品だよね、じゃあ、テレビで空飛べてもいいんじゃないかな? ホウキで空を飛ぶのは遠くへいくためだよね。でもって、テレビって遠くのものを映すことができるよね。じゃあ、【映せる】んだから、【移せて】もいいんじゃないかな? そうしたらスマホだって【映せる】から【移せて】もいいと思うんだ!」


 延々と呪文を唱えて、スマホで撮った隣の部屋に転移する。

 何度も試したから、もちろん魔法は成功した。

「どう? どう? 師匠? 結構すごいでしょう?」

 パタパタと元の部屋に駆け込んだら。

「あきれたねぇ、お前は」

 なぜか師匠は深くため息を吐いてわたしの頭に手を乗せた。

「え、ダメですか?」

「どこをどうやったら、ホウキで空を飛ぶ魔法から転移魔法になるんだい。鏡の魔法からならわからなくもないんだが。考えからしたら、そっちの方が早いだろう? 類型魔法としても最後のフレーズだけで呪文たりえるんじゃないかい」

「あー」

 魔女の魔法には、鏡を使った魔法も多い。鏡よ鏡よ鏡さん、というやつだ。

 確かに伝承魔法としてはこっちの方が手っ取り早い。そして、転移に必要なのは【映す】と【移す】の類型だけで十分。

「そうさね、あたしが唱えるなら”鏡は映すもの、なら移すのもまた同じようなもの”といったところかね」

 そう言って師匠は、わたしがホウキからスマホに至るまで延々と唱え続けた呪文を、たったの一言にまとめてしまった。スマホを鏡に見立てていろいろ省略しているのもすごい。

 流石は師匠だった。というか、わたしの頭が回りくどすぎるのだろうか。


 やっぱりわたしは、きっと、いろいろ間違っている。

 そうつぶやいて、深くため息を吐くのだった。

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