逃亡~はじまり~
「はぁ…、はぁ…、ッ…。」
壁に身を隠しながら辺りを見回す。
「っ…、もう大丈夫かな…。」
散々走ったからか呼吸が乱れる。
鼻に付く色々な物が焼ける匂いが不快だ。
『どうしてこんな目に合ったの?
どうしてこうなったの?
どうして私なの?
意味わかんない!』
様々な思考が頭を廻ってく。
「考えてる暇ないよね。
ここから抜け出さなくちゃ…。」
戸惑う自分に言い聞かすように呟いた。
《ギイィ…》
「っ…!」
背後の音のした方へ身構える。
『扉…?誰かいるの?
…でも、この街はもう…。
…確かめなきゃ。』
恐る恐る少し開いた扉に近づく。
「ふぅー…。」
深呼吸をして、そっと扉を開けた。
「何これ…?」
扉の先は列車の中だった。
『え?列車?
ってゆーか窓の外の景色動いてる?!』
窓に近寄って行く。
《バタンッ…》
「えっ?バタン…?
ってあッ!!扉が!!」
閉まった扉を開けようと引いたり押したり繰り返した。
「なんで開かないのッ?!」
ガチャガチャ音がむなしく響く中、扉はびくともしなかった。
「なんなの…本当に…。」
全く開く気配のない扉に絶望する。
「疲れたしもういいや…。」
ぐったりして席に座る。
すると疲れからか睡魔が襲ってきた。
『起きてから考えよう…』
…………………………………
………………………
………………
…………
…
「いらっしゃいませ。素敵なお嬢様。」
「ヒゃアァアァーッ!!!」
《ガンッ》
勢い余って窓に頭をぶつけ、そのまま床にうずくまった。
「うぅ…。いたい…。」
「大丈夫ですか?」
手を差し出される。
「ありがとうございます…。」
寝起きでうまく回らない頭を、必死にフル回転させて言葉を続ける。
「き…聞きたいんですが、あなたは誰ですか?」
「これは大変失礼を致しました。
私はこの列車の管理者の■■■と申します。」
「え?」
ちゃんと聞いているはずなのに■■■の部分が聞き取れない。
「やはり認識できませんか。
お嬢様のお持ちの概念では私の名を把握できないようですね。
とりあえずの名としてラドとでもお呼び下さい。」
ラドが笑顔を浮かべる。
「ラドさん…」
「はい。ちなみにあなたは今、
この状況に疑問をお持ちですね。」
「!」
「やはりそうですね。
現在あなたを乗せて走ってるこの列車は、
あなたが居た世界と別世界を繋ぐ狭間を走っています。
窓の外をご覧下さい。」
近寄って窓の外を眺めてみた。
「夜空の中を走ってる…?」
窓の外は数えきれない星の浮かぶ、夜空のようだった。
「フフ…素敵な表現ですね。
ですが、残念ながら違います。
ここは夜空の中ではなく、世界と世界を繋ぐ通路。
泡沫の廻廊と呼ばれる場所です。」
「うたかたのかいろう…。」
「あの星に見える光はそれぞれ別の世界へと繋がっています。
あなたはこの回廊を通り、別世界へと行く事になります。」
「どういう事ですか…?」
「あの世界から抜け出したかったのではありませんか?
その願いが***の元に届き、私を迎えに送ったのですよ。」
「え?
…確かに私はあの場所から脱出することを望みました。
ですが何故、別世界に?」
「***も理解できない概念でしたか…。失礼を致しました。
あなたの居た世界で、あなたは知られ過ぎていました。
なので、あの世界にそのまま居させるのは危険と判断し、列車で迎えに来ました。」
ラドが微笑む。
「本人が今いる世界を捨てたいと望み、回廊の管理者が許可すれば別の世界に行く事が可能です。
あなたには管理者より許可が出たので、こうして別世界に行く事ができるようになったのです。」
《カツカツカツ…》
「ねぇねぇ。
その説明もう飽きたんだけど。」
後ろから急に声が聞こえた。
「ひぇっ!」
「アンタさっきから驚きすぎ。」
声のした方からご令嬢感溢れる金髪の少女が近づいてきた。
「ソフィー様。アリア様は状況を把握しきれていない様子ですので、もう少しお待ち頂けるとありがたいのですが…」
「ラド、アンタさ、この子の名前も知ってるの?
なんか気持ちわる…。」
金髪の少女はげー…と目を細めた。
「えーと…あなたは誰ですか?」
「他人に名前聞く時は自分から名乗るのが礼儀じゃないの?」
髪をかき上げながら少女が答えた。
「まぁいいわ。もう礼儀とか気にする必要もないし。
私の名前はソフィー。
あなたとはまた違った理由で別世界に行く事になったの。
乗り合わせた以上よろしくね。」
ソフィーが手を出してきたので握手した。
「お互いに今は詳しい事情、話さないでおきましょう。
めんどくさそうだしね。」
ソフィーがおどけて笑う。
「レイン!アンタも自己紹介すれば?」
ソフィーが歩いて来た方の席から黒髪の青年が手を挙げてやって来た。
「やぁ。はじめましてアリアさん。
なんか、はじめて会った感じがしませんね。」
アリアに青年が笑いかける。
どこか懐かしい雰囲気にアリアは少し、ドキッとした。
「ちなみにソフィーさん…、僕の名前はレインじゃなくて礼です。
さっきから何回も言ってると思うんですけど…」
「レインだって礼だって、どっちだって良いわ。
私に関係ないじゃない。早く自己紹介しなさいよ。
それに出会い頭にはじめて会った気がしないとかキモい。」
「ははは…。はぁ。」
礼がため息をついて項垂れる。
「まぁ良いや。あらためて、はじめましてアリアさん。
俺の名前は刻那礼。
アリアさんとも、そこにいるソフィーさんとも違う世界から来ました。
よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
アリアは礼とソフィーに頭を下げた。
「あのー…。そろそろ話してもよろしいですかー?」
アリアはラドの存在を忘れかけてた事に気づいた。