曲がり角アタック
物語序盤の通学路はラブコメの宝庫。初登校のこの日に、なんとしてでも美少女とぶつかっておきたいところだ。しかし、同じ学校の人間とぶつかるのは容易ではない。目的地が同じの場合、進行方向も重なってしまい、ぶつかるチャンスが極端に減ってしまうのだ。
7時前に学校に到着した俺は、くるっと向きを変え、家に向かって歩き出す。周囲の流れに逆らって歩けば、衝突の確率も上がるだろう。
「こっこっこっ」
学校から500m程歩いただろうか。俺の体は、曲がり角の向こうから迫り来る、微かな足音を感じ取った。身長は148cm、体重は38kgといったところだろう。神はサイコロを振らない。人の発した足音は、その人間の物理的特性を確実に伝える。少なくとも俺には分かる。特にここ近辺のアスファルトは振動の伝導率が高く、まるで生足で踏まれているかのようにそのままの情報が伝わってくるのだ。既に興奮が止まらない。
ストライド44cm、ピッチ2.3回転/秒。一定のペースで歩くなんて、なんて可愛らしい子鴨なのだろう。チェンジオブペースは兵士の基本だぜ。おっと、そろそろ…3、2、1…
「ドンッ」
イメージ通りの小さな体とぶつかった。相手が怪我をしないように、優しくその子に尻もちをつかせた。