男子高校生と世界事情
遅くなってしまって申し訳ありません!
サマンサのアホさ具合に呆れ返っていた俺だったが、ふと疑問に思ったことがある。
この家には片付けられた様子もまるでなく、家庭ならではの生活感みたいなものがない。
「お前、家族は?出かけてるのか?」
家に誰も居ないようなので、勝手にお邪魔しているのもなんだかなと思ってたずねたのだが、さっきまで無邪気に笑っていたサマンサの顔が急に暗くなった。
「あ、言いたくなかったら…」
まずい質問をしてしまったらしい。慌てて話題を変えようとしたのだが、少し悲しい表情を見せたかと思うと、再び笑顔でこう言った。
「ママもパパもどこにいるのから私は知らないの」
「え?」
知らないって、どういうことだ?行方不明という言葉が俺の頭を過ぎったが、次にサマンサが告げた事実は遥かに予想を越えていた。
「私、幼い時の記憶が何もないの。気が付いたらここに1人で住んでいたわ」
記憶喪失か…。俺はなんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして、罪悪感でいっぱいになった。
俺のそんな気持ちが伝わったのかサマンサが慌てて弁解しようとする。
「別に進が気にすることじゃないのよ!私、そんなに悲しくなんてないんだから!」
「いや、でも俺、無神経だったし…」
「まあ、それはそうね!」
「はっきり言うなよ!!」
サマンサはわざとおどけて見せてくれたけど、その目はどこか切なげで、泣いているようにも見えた。
「サ、サマンサ。俺はこの国のことを何も知らない。何か絶対に知っておかなくちゃいけないルールみたいなものはあるのか?」
しんみりとしてしまった空気をなんとかしようと俺は質問を投げかけた。
突然異世界へと放り出された俺は、この国の法律的なものを知らない。
それで何かをやらかして、犯罪者扱いなんてされたらたまったもんじゃないからな。
サマンサは少し考えると、戸棚の中から出してきた教科書くらいの分厚い本を差し出してきた。
「なんだこれ?」
「それは、"ユニポワールの101箇条"よ」
確かに、その本の表紙には『ユニポワールの101箇条』という文字が刻まれていた。
すごくすごく典型的な本だなって正直思ったが、あえて口には出さない。
「これはユニポワールのルールの全てが書かれた本よ。重要…んー、52条と101条くらいかしら」
本を開きもせずにサラッと答えるサマンサの姿を見て、あれ?こいつ実は馬鹿じゃない?って心から思いました。
全部暗記してる…訳ないか。
【52条】
齢16を迎えたらその日をもって成人とし、原則異性と行動を共にしなければならない。(例外としてエルフ種でない者、異世界からやって来た者は、例えユニポワールに籍が移っていても強制はしない)
なんだこのルール。ラブコメか。
そして異世界から人間がやって来ることを想定していることに驚いたのは俺だけでしょうか。
「ツッコミどころは満載なんだが、あえて触れないでおこうと思うよ」
初めはキョトンとしていたが何かを思いついたようで、サマンサがキラキラした目で詰め寄ってくる。
「ねぇ!」
「な、なんだよ」
「私ね、明後日で16歳になるのよ。だからパートナーを見つけないといけないのだけど…」
チラチラとこちらを見ているサマンサ。
「え?俺がサマンサのパートナーになるってこと?」
「話が早くて助かるわ!これで決まりね!」
突然のこと過ぎて正直驚きまくりなのだが、どうやら明後日、俺はサマンサのパートナーになるらしい。