男子高校生と大掃除
口をぽかんと開けているサマンサをとりあえず放置して、俺はテキパキと掃除を始めた。
「どんだけ掃除してなかったらこんなんになるんだよ!汚過ぎだから!」
「どのくらいかしらね」
あからさまに知らん振りを続けているこいつに、もはや殺意に近い感情が湧いているのは皆さんお分かりだろう。
「というか、突っ立ってないでお前も手伝う!」
「はい、ごめんなさい」
しばらく2人で窓拭きをしていたんだが、なんだかやけに視線を感じて寒気までする。
バッと辺りを見渡してみるけど別に誰も居なかった。
「変だな…見られてた気がしたんだけど」
小首を傾げているといつの間にか掃除から脱走していたサマンサが、紅茶をいれてくれていて、
「頑張ったから休憩にしましょ、疲れたし」
いや、お前何もしてねーじゃん。
心の中でツッコミをいれつつ、罪なき紅茶を口にする。この紅茶美味しいな。
なんか今のところ異世界感は特にない。家の掃除をして、休憩に普通の紅茶を飲んでいるだけだ。
「違う…」
「え?」
「なんか既に思ってたのと違う!!!」
思わず口にしてしまった言葉を慌てて飲み込むが、サマンサは全く話を聞いていないので気にした様子もない。
とりあえず掃除も一段落したし、異世界漂流ものっぽく、まずこの国のことを知らないとな。
「ところでサマンサ、この国のことをーぐぅぅぅ」
少し真剣な声色で話しかけたのに、タイミング良く俺の腹が鳴る。
思わず赤面してしまうくらい盛大に。
「あー、もうお昼をだいぶ過ぎているものね。ご飯にしましょうか」
「あ、ああ」
笑いを堪えながらそう言うサマンサを見て、俺がこの場から消えたくなったのは、まあ、言うまでもない。
でも、料理って一から全部作るのか?それってかなりの時間と手間が…
「出来たわよ」
「は?!」
よそ見をしながらそう考えているうちに、先程まで何もなかったテーブルの上に沢山の料理が並べられていた。
「え、どうやって?!何もなかったじゃん!」
「どうって、魔法で隣の家から…」
「魔法?!魔法で料理も出来るのか!すごいな」
「え?あ、あーうん。まあね」
サマンサが何かを言いかけていた気がするがまあいいか。とりあえずお腹が空いた。
どれも全部美味しそうだからどれから食べるか迷うな。
俺が思考を巡らせていると、先程感じた視線をまたもや感じた。
振り返ってみても誰も居ないようなので、料理を口に頬張りながらサマンサにたずねてみる。
「なぁ、さっきから凄い視線を感じるんだけどさ、お前は感じないの?」
「ええ、知ってるわよ」
どうやら俺の思い過ごしではなかったらしい。心配して聞いてあげたのに、そんな俺とは対象的に、パンを咥えたサマンサは何故かワクワクした様子で答えてくれた。
「そうね、もう1ヶ月くらい前からよ!」
「長くないか?大丈夫なのかよ」
「やだ、そんな深刻そうな顔しないでよ。だって…」
これを深刻に考えないで、何を深刻に考えるんだろう、こいつは。
更に、次に続いた言葉にもう唖然だ。
「ほら、よく考えたら、1ヶ月も私を見てくれているのよ!ありがたいじゃない!」
その言葉を聞いて確信した。
『あ、こいつ、もう駄目だ、イカれてる』
なんかもう期待を裏切らない。
もうアホ過ぎて話しにならないってことを十分に理解した俺は話題を変えることにした。