男子高校生とロスラリス
目の前がフラッシュして、次に目を開けた時、そこにはさっきまでの草原はなかった。
城…?だろうか、めちゃくちゃ大きい建物を取り囲むように街が広がり、沢山のお店が賑わっている。
そこはまるで18世紀ヨーロッパのような(18世紀のヨーロッパなんて知らないけど)それはそれは素晴らしい光景が広がっていた。
あまりの衝撃に数秒間フリーズしたレベルだ。
「サ、サマンサ?ここは…?」
「素敵なところでしょ!私の住んでいるエルフ国よ!!」
「こ、ここが、俺の天国…」
なんてことだ。周りを見渡せばエルフ、あっちにもこっちにもエルフ。きっと天国だ。
ゲームのキャラは絶対エルフ派の俺。押しキャラ達が現実に目の前にいるなんて、興奮するなと言う方が無理な話だ。
「ここに住んでるのはエルフだけなのか?!」
「え、ええ、そうよ。他国からの移住者もいるみたいだけど基本的にはエルフしかいないと思うわ。というか、なんか燃えてない?」
「いや、感動のあまり、な」
すると小首を傾げたサマンサが俺に、こうたずねてきた。
「進が住んでいた、チ、キュウ?にはエルフ種はいないの?」
「ああ、いないぞ」
いたら嬉し過ぎて飛び跳ねるから、俺。
引きこもりだけど、会えるなら外行くもん。
「そうなのね、じゃあ何が住んでいたの?」
「何…?何だろ」
人間って何…?まずこの世界に人間って言葉はあるの?しばらく考えたが分からなかったので、とりあえずよく分からないってことで落ち着いた。
「そうだわ!」
落ち着きなくソワソワしている俺を見て、何かを閃いた様子のサマンサに、気が付いたら腕を掴まれていた。
「え、待って。いや、何!?」
「べ、別に来てほしいとかじゃないけど、私の家に来ないかなとか、あ、ほらお腹が空いてるのかなとか思った訳じゃないのよ!」
なるほど、お腹空いてないかなって思って俺を家に連れて行ってくれようとしたのかー、あれ?まさかツンデレなのか…?!
ここにきて、まさかの属性がプラス。うん、大いに構わないよ。私、嬉しい。
あはは、俺、金髪美少女に手を引かれてお家に向かってる。なんかもう涙が溢れてくるよ。
最後に泣いたのはいつだったかな、確か大好きなおじいちゃんが亡くなったときだったと思う。越えたわ、ごめん、おじいちゃん。
「ちょ、ちょっと!?なんで泣いてるのよ、そんなに嫌なら言いなさいよ!!」
めちゃくちゃ焦っているサマンサに向かって俺は良い笑顔で一言だけ告げた。
「幸せで」
静かにそう言いました。本当にこの数分間で俺のロマンを沢山叶えて頂きました。もう悔い無く死ねます。ありがとう、この世界を作った人。
「意味が分からないけど、着いたわよ?」
もはや軽蔑に近い視線を俺に向けながら、サマンサが家の扉を開く。
外見からしてさぞかし素晴らしい部屋なのだろう。
でも、そう思っていられたのは一瞬だった。
天井には蜘蛛の巣が張り、お世辞にも綺麗とは言えない。100年の恋も一瞬で冷めるような、荒れ果てた部屋の様子がそこにはある。
控えめに言って『ごみ屋敷』といったところだろうか。
「うんと…?これは一体どういう?」
「そ、そうね。お客様を入れるには、ちょっと汚過ぎたわね」
「ちょっとじゃねーよ!」
もう、自覚症状あるなら片付けろよ。何年間放置すればこうなるんだ?
割と綺麗好きな俺には、室内にいることすら耐えかねる部屋だ。
さっきまでのワクワクを返してくれ。
まあ、これから多分世話にならなくちゃいけないし?この世界のこと教えて貰わないとだし?
「まずは掃除だー!!!」
「え?!掃除!?」
これが俺とサマンサの、限りなく異世界感のない異世界生活の始まりだった。