男子高校生と異世界人
「ん?耳が長い?」
その耳はファンタジーによく出てくるエルフのように見えた。
あれ、俺妄想のし過ぎでとうとう幻覚が見えるようになったのか。夢でも見ているんだ、きっと。
仮説として、もしここが異世界的な場所なら俺は飛んで喜ぶけど、そんなの夢さ。
そうだ、頬をつねって痛かったら夢じゃないってよく言うよな。よし。
真相を解明すべく、俺は笑顔を崩さぬまま頬をつねる。
「ほらな、痛くな…くない!?」
さっき殴られた時に痛かったことをすっかり忘れていた自分って馬鹿だ。
夢だという可能性が消え去った今、有力なのは俺の頭が狂った説なんだが、どうしたものか。
「な、なぁ?サマンサ・レミファニール?」
「サマンサでいいわよ」
「じゃあサマンサ。ここは何処なのか聞いてもいいか?」
もう思い残したことは何もない。
この謎の草原の真ん中で頼れるのは今知り合ったばかりの、目の前の少女のみ。
途方に暮れた俺はたずねる。
でもその返答は予想していたものとはかけ離れていた。
「ここがどこって…始まりの間に決まってるじゃない」
「は?」
「忘れちゃったの?」
意味が分からない。始まりの間なんて県、日本にあったか?
なかったと思うんだが地理に弱い俺の記憶力じゃ怪しい。
サマンサは俺の戸惑った様子を見て、何かを閃いたようで、しばし閉じていた口を開いた。
「あなた、もしかして異世界人なのね!!!」
「いや、何言ってるの?」
「凄いわ!本当にいるのね!異世界人って!私初めて出会ったわ!」
異世界人…?ってあの異世界人!?
全く状況を掴めずに俺はオロオロする。
「いいわ。教えてあげる、ここはね…」
「ここは…?」
するとサマンサは少し上から目線で、大問題をさらりと口にした。
「ここはユニポワール。今立っているこの場所はさっきも言ったけど始まりの間よ」
「ユニポワールっていうのは…?地球とは違うのか?」
「チ、キュウ…?それが何か分からないけど、私が知らないから違うんじゃない?」
とりあえず問題発言が多過ぎて、俺一人じゃ処理しきれない。どこから突っ込めばいいんだよ!
ていうことはあれか?ここは異世界で地球じゃないってことか?
数秒間考えた後、キャパオーバーした。
「待って、ここはどこ?俺は誰?だってさっきまで部屋のベットにいて…あれ?当選したとか言われて、気が付いたら異世界で…ファンタジーがエルフで、あーーーー!!!」
普通に考えて、目が覚めたら異世界でした。あ、はい。そうですか。じゃあ済まないだろ。
誰がそんなの信じるねん。俺は半泣きでキレていた。
「何だかよく分からないけど、23条に『異世界の者とは進んで交流を深めること』とあるし、街に連れて行ってあげるわよ」
「街?」
「ええ!私が住んでいる街よ」
「連れて行くって、どこに街があるんだ?」
辺り一面に草原が広がっているのは、パニック状態でも流石に理解出来る。
「ちょっと静かにしててね」
サマンサは俺の問いかけをガン無視すると、無造作に手を取り、先程までとは違う真剣な声で呟いた。
「我がエルフ国を護りし女神よ。私の問いに応えよ」
大地へとその手を振りかざすと、目の前が急に光り始めて大きな魔法陣が現れた。
「うわっ、え、何だこれ!?」
俺が慌てふためいているのを、特に気にした様子でもなく横目でチラリと見ると言葉を続けた。
「私の名はサマンサ・レミファニール!今、始まりの間とエルフ国との間に光の道を築き上げ、祖国へと導き給え、扉よ、開け!!!」
何そのかっこいい詠唱…。
俺は次の瞬間、異世界の凄さを痛感することになるのだ。