男子高校生と妹
気分であんなの書いちゃったけど、見られたらだいぶ恥ずかしくね。今になって自分の犯した過ちに身悶える。
なんで手にとってしまったんでしょうか。あの時ワクワクしていた俺をぶん殴りたい。
もう外しに戻る気にもなれなくて、深く溜息をつきながら家の玄関を開けた。
「ただいま」
「あ、お兄ちゃん!おかえり!」
リビングから自室へ戻ろうとしていたのだろうか。本来であればまだ学校にいるはずの妹が俺を笑顔で出迎えてくれた。
「おう、てかお前部活は?今日遅くなる日だって言ってなかったっけ?」
この間の夕飯の時に、家族の前でその日は遅くなると宣言していたのだ。
部活で大切なミーティングがあるとか、ないとか。
「そんなのサボったに決まってるじゃん!今日6時から推しアニメあるって知ってたら、まず行こうなんて思わなかったのにさー!」
「おいおい。またそんな理由でサボったのか?大丈夫かよ…」
「そんなことって何よ!?大切でしょ!!」
「はいはいはい…」
帰ってきた途端にアニメの素晴らしさを力説。妹の佐藤椿はラノベ大好き、アニメ愛がハンパなくて、こうして部活を平気で休んでしまうくらいには重症。
何が凄いって常に全力全開で、隠すって2文字を知らないんじゃないだろうかと思ってしまうレベルのオタク。
一度始まったらもうやめられない、止まらない弾丸トークを右から左へ受け流す。
勘弁してくれよ、部屋に帰りたいんだが…。
「ちょっと、お兄ちゃん!聞いてる!?」
「聞いてる、聞いてる!続きは後で聞いてやるから、とりあえず家に入れてくれ!!」
「えーーー!!」
靴すら脱がずに妹の話を聞いてあげる俺ってめっちゃ妹思いのお兄ちゃんじゃね。
うん。神対応だわ。
ぶつくさ文句を言っている妹を押し退けて、家に到着してからすでに数十分。ようやく部屋に入る事ができた。
「あー、なんかもう。今日はやけに疲れたな」
部屋に入って早々におもむろにベットに身を投げ、ようやく肩の荷を降ろせた。
鞄の中から本を取り出して、昼間の続きを読み始める。
俺って1日の半分以上を本に費やしている気がするんだけど、気のせいか。
まあ、いっか。読書って別に悪いことじゃないし。でも、夕飯食べてお風呂にも入らなくちゃいけないんだよな。
しばらくの間動く気になれなかった俺は、黙々と本を読み進めていたんだけど、急に眠気が襲ってきて、抵抗虚しく意識を手放した。
次に意識を取り戻した時、俺は真っ暗な空間にぽつんと佇んでいた。
暗くて視界が悪いが、何の気配も感じないからきっと1人なんだろう。
「というかさっきまで部屋のベットで本を…」
あ、そういえば寝落ちしたんだった。
てことはここは夢の中か?
そう考えると心なしか身体が軽いような気が…しないか。そもそもこれって何の夢?
「ピピピピピーー」
「何だ!?」
急に無機質な音が流れ始める。その音は数秒間流れるとすぐに止まり、辺りはまた静寂に包まれた。
キョロキョロと周りを見てみると、先程までは無かったはずの紙が俺の足元に置かれている。
サイズは…葉書きくらいだろうか。
そこにはこう書かれていた。
『このたびは天の川夢へのご応募、誠にありがとうございました。今年度の当選願望は「異世界に行きたい」に決定しましたことをお知らせ致します』
「は?」
次の瞬間だった。何かに揺すられる感覚ではっきりとした意識を取り戻した俺は、何故か外にいた。