男子高校生と親友
長かった午前中の授業が終わり、おもむろに席を立ち上がったクラスメイト達はまばらに廊下へと出ていく。
今日はお弁当を持ってきてないから食堂に行かないといけないのだが、何を食べよう。
カレーにするかラーメンにするかでめちゃくちゃ悩む。
昼食のメニューを考えながらふらりと教室を出ると、ものすごいスピードで横切った誰かに腕を掴まれ、拒否をする間もなく引きずられるようにして教室からどんどん離されていく。
「ちょ、えっ!?」
「急げよ!そんなにのろのろしてたらカレーもラーメンも無くなっちまうぞ!!」
「いや、なんで俺の食べたいもの知って…って大地!?」
どうやら俺を引きずっている犯人は友人だったようだ。
彼、長谷川大地は俺が小学校の頃からの親友で高校には陸上推薦で入学したごっりごりのスポーツマンだ。
勿論高校に入った後も陸上部のエース的存在で部を引っ張っているのだが、まあ一言で言えば超人ってやつ。
走ることに関しては右に出るものはいないだろう。
「進!もっと速く走らねーと無くなっちまうじゃねーか!置いて行くぞ!」
「いやいやいや、無理矢理連れてこられたんだけど?!充分走ってるし、お前が無駄に速いだけだから!!ついでに言うと俺ら先頭だからー!!!」
そんな超人のスピードに合わせて走ってる俺って実は陸上の才能があるのかもしれない。
陸上部のトップランナーと対等に張り合い、大声で口論を繰り広げながら食堂へ向かう廊下を駆け抜けていく。
うちの高校の食堂は美味しいと有名で、その影響か男子生徒のほとんどが食堂利用者なのだ。
競争率が高いから目当ての品を獲得するには無我夢中で走るしかない。
だから大地程ではないにしても皆走ってくるんだが、たかが昼飯にガチ過ぎやしないか。
少なくとも出遅れたはずの俺がごぼう抜きして、一番はじめに食堂についてしまうくらいには本気だ。
肩で息をするようにして食堂の中に入ると、
俺より一足先に着いていた大地はすでに注文を終えたらしく満足そうにほくほくとしていた。
「お前本当に人間かよ、速すぎだろ…才能の無駄遣いだ」
「なんか言ったか?」
「なんでもねーよ」
尊敬を越え、もはや呆れに変わりつつある思いをぽそりと呟いた。
大地は内容までは聞こえなかったらしく特に何も言ってはこなかった。
本当に馬鹿だな。
「あー、醤油ラーメンで」
結局俺は一度も食べたことのなかったラーメンを頼んで、椅子へと腰を掛けた。
しばらく座っているとぞろぞろと他の生徒たちが食堂へとやってきて、ついさっきまで二人しか居なかったテーブル席はいつのまにか満席になっている。
わざわざ教室からここまで出向いて彼女の手作り弁当を食っているクソリア充が隣に座っているのが凄く不愉快だ。
目が合った気がするけど気のせいだな、無視無視と…。
「いや、なんで目が合ったのに無視するわけ!?」
「切実にウザイと思ったからかな?」
実は結構仲が良かったりするけど、あえてスルーしておこう。
隣で騒いでいるのを無視して出来上がったラーメンを口へと運ぶ。
「うま」
「うちの学校のラーメンは美味いよな!スープのコクと何とも言えない風味が…最高、最高!」
「お前が今食ってるそれはカレーだけどな?」
カレーを食いながらラーメンの素晴らしさを語り出した親友に思わず笑みがこぼれる。
本当に付き合いが長くても飽きないのはこういうところがあるからなのかな。
「だって食べ物はなんでも美味いぞ?」
「はいはい、そうですね。俺先に教室戻ってるからな」
「おう!わかった!」
食欲馬鹿を残して俺は食堂を後にした。
早過ぎたのか教室には二、三人しか残っておらず先程までの活気は感じられない。
静かに自席に座ると読みかけの本を机の上に広げた。