男子高校生と転生者
目の前で美少女が顔面からダイブしていった。
「え!?だ、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です・・・ってご、ごめんなさい!!」
俺が差し伸べた手につかまって立ち上がると、我に返ったのかその少女は素早く離れる。顔面から着地ってどんな走り方したらそんなことになるんだよ。登場があまりに衝撃的で気が付かなったが、落ち着いてよく見ると顔が整っているだけじゃなくてスタイルまでいい。うん、可愛い。
俺が妄想を繰り広げている間に俺の隣にいたはずのサマンサがその美少女の横に移動していた。
「サマンサ、いつの間に・・・ってオリビア!お前もか!」
「今、パーティーに入りたいって言ったわよね?私はサマンサ、この子はオリビアよ」
「言ってたにゃ!僕と同じにゃ」
「あ、はい。挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私の名は、な・・・リンカと申します」
リンカと名乗ったその少女はどうも落ち着きがなくて、人目をやけに気にしていて何かを隠しているような気がする。まあ確証はないんだけど。それにどっかで見たことあるような、ないような。
「俺は一応リーダー的なポジションになる佐藤進だ」
「あ、知っていますよ!ゲームが大好きでRPGで使うキャラはいつもエルフ、異世界に行くのが夢って言ってたあの進くん・・・あ!?」
「え?お前何でそんなこと知ってんだ?しかもそれって俺がこっちに来る前の話じゃ・・・」
「わー!!!なんでもないです、頭をぶつけておかしくなったのかなー?急に頭が痛いな」
俺しか知りえないようなことを知ってるって、こいつ何者だ?誤魔化したつもりみたいだが、明らかに挙動不審だし。やっぱりどっかで会った気が・・・
「大変よ、進。早く私の家に帰って休みましょ?リンカの体調が悪化したらいけないし」
「まあとりあえず帰るか。聞きたいことはいっぱいあるしな」
リンカを一瞥するとぱっと視線を逸らされたが、視線をリンカから外してみて開いた口が塞がらなくなった。何故なら俺らを囲むようにして尋常じゃない人だかりが出来ていたからだ。
「え、なんだこの人だかり」
「人がいっぱいだにゃ!」
「なにかあるのかしら、聞いてみましょ!」
「おい、待てって!」
サマンサに手を引かれて人だかりの中にいた若い夫婦に話しかけてみる。人だかりに向かう俺らの姿を見てなんだかざわめきが起こったので、まるで檻に入れられた動物の気分になった。動物園のパンダはこんな気持ちか。
話しかけた夫婦は少し驚いたような反応をしたが快く、いや興奮気味に話を聞いてくれた。
「あの、この人だかりって一体・・・」
「あんたたち凄いね!」
「は?」
第一声がそれだったものだから思わずそんなことを言ってしまう。凄いって何もしてないぞ?まあ強いて言うならリンカがビックリするような転び方をしたくらいだ。
「だってあの転生者様と親しげに話してるじゃないか!」
「転生者って一体・・・?」
転生者って、俺の知っている意味で合っていれば生まれ変わりみたいな意味だよな。しかし返ってきた言葉は俺の想像の斜め上をいった。
「転生者は職業の名前だよ。でも存在はほんとに稀で異世界からの移住者しかなれないらしい」
「へー、そんな人が。俺も話してみたいな」
「何言ってるんだ?お前たちと居たじゃないか、ほら黒い髪に黒い瞳の!」
指さす先にはリンカの姿・・・そういうことか。
あいつ、リンカって絶対そこからとっただろ。本当に一体何者なんだよ。何かを忘れている気持ち悪さに頭を抱え、再びリンカの方へ視線を戻すと1人の女の子がリンカに駆け寄って何やら本を見せている様だった。
「あ、あの転生者様!私、あなたが憧れなんです、サインしてください!」
「サインかー、私のサインなんてあんまり価値ないですけど、ありがとうございますね」
女の子から本を受け取ったリンカはそこにサインを・・・ん?俺はその光景に見覚えがあった。やっぱり何かを忘れている。
「おい、サマンサ。帰るぞ」
「え?わかったけど何をそんなに慌ててるの」
「ちょっとリンカに話があってさ」
話を聞いていた夫婦にお礼を言って、俺たちは元居た場所に戻る。
「オリビア、リンカ。帰るぞ早急に」
「了解にゃ!行くにゃ、リンカ」
「え、ええ」
オリビアとサマンサに手を引かれたリンカは、一足先に人混みをかき分けていく。するとリンカが俺の方を振り返って・・・あ、思い出した。
俺はそこで全てを思い出した。




