男子高校生と格差社会①
俺は固まったまま動かないサマンサの元に慌てて駆け寄って肩を揺すってみた。
「おい、大丈夫か?」
「進…?」
先程までは気が付かなかったけれどよく見てみると、華奢な身体が小刻みに震えていた。
それはそうだよな、16歳になりたての少女がこんなもの見せられて怖がらないはずが…
「あれ!格好良いわ!行きたいわ!」
「あ、え?そ、そっち!?」
そうだったわ、コイツ普通じゃないんだった。
サマンサの震えは感動の震えだったようで、俺は何だかこの一瞬で一気に疲れた。
少しでも心配した俺が馬鹿でしたね。
エルフっ娘はキラキラした瞳で、遠い魔王城の様子を眺めている。今ほどサマンサを羨ましいと思うことは、きっと金輪際ないんだろうな。うん。
ほっと、ひと息ついて周りを見渡してみると
先程までざわついていた街の人々は、足早にどこかへと向かって行く。
「皆どこに向かっているんだ?しかもあんなに大勢で」
「何言ってるのよ、さっきの放送聞いてたの?」
「さっきの放送って101条が執行されるってやつか?それとこれがどう関係があるって言うんだよ」
そう言うとサマンサは凄く不服そうな顔をして、気怠げに俺の問いに答えた。
「だから、私達勇者になる権利を得たのよ!みんな、職業につくためにギルドに向かっているの!」
「あぁ、そういうことか」
ようやく納得出来た。
すいません、どうも頭の回転が遅いもので、本当にすいません。心の中でペコペコとサマンサに頭を下げるが、態度に出すと調子に乗るのであえて行動にはおこさない。
つまり街の人々は職業につくためにギルドに行ったと…なんだって?!
「それ、俺にも反映されてるんだよな?!なあ、そうだよな?そうなんだよな!?」
勢いに任せて荒々しく尋ねた俺の様子を、まるで汚らわしい物を見るようにチラ見したサマンサは2、3歩後退って、
「え、ええ、あなたもユニポワールの住人だからね。嫌だけど」
「悪口なんて聞こえないし、清々しい日だな!さあ、神社に行こうじゃないかサマンサくん」
「今日の進、何だか凄く気持ち悪いわよ?」
「ありがとう」
誰も褒めてないけど。
ひとりでノリツッコミまでしちゃって、三次元RPGを経験出来るなんて、舞い上がるなっていう方が無理な話だ。
嫌がるサマンサを引きずって、俺は街の人々に続いて神社へと向かった。
神社へと着くと予想はしていたが、沢山の人で溢れかえっていた。
エルフ国に住む人々ほとんどが集まっているのだから、当たり前と言えば当たり前なのだけれど、こんなに居たんだな。
「職業ってどんなのがあるんだ?魔法とか、剣士とかか?」
「出会った時から思っていたけど、あなた異世界人なのにユニポワールのことをよく知っているのね」
「ま、まあな。勉強してるから!」
サマンサが心の底から驚いたという風に目を見開いたので、ゲームやラノベのお陰ですなんて言えずに微笑んで誤魔化した。
「35番でお待ちのお客様ー、7番カウンターにて御用件をお受け致しますー!」
「あ、はい!俺です!」
しばらく待っていると受付嬢のお姉さんから、呼び出されたので俺は7番カウンターへと向かった。
ほとんど同じタイミングでサマンサも9番カウンターに呼ばれたようだ。正直、前科があるから何かやらかさないか心配なのだが、大丈夫だと信じよう。
「すいません、勇者登録をしに来たんですけど」
「勇者登録ですね。では職業を選ぶにあたり、適性テストを行わなくてはいけません。こちらでお調べしてもよろしいでしょうか?」
「え、えっと、適正テストってなんですか?」
「適正テストとは、進様にあった職業をピックアップするものでございます。例えば、魔法適正値が高ければ魔法系の職業が、物理適正値が高ければ物理系の職業といったように、数ある職業の中から選択肢を絞ってくれるのです。」
めちゃくちゃ丁寧に説明してくれたけど、アバウトに言うと俺にあった職業を見つけてくれる訳ね。
「お願いします。でもそれって個人のステータスとかによって選べる職業の数って変わるんですか?」
よくあるラノベ展開だ。主人公のステータスが低くてたいした職業に就けないなんて、テンプレ中のテンプレだからな。聞いておくことに超したことはない。




