男子高校生と魔王城
サマンサの誕生日も忙しなく過ぎ去り、晴れて俺らはパートナーになった訳なのだが、俺には引っかかっている事がひとつある。
「そういえばさ、大事な条約が2つあるって言ってたけど、もう1つって何なんだ?」
52条と101条?だっけ。片方は聞いたけど、パートナーになる、ならないで、結局話さぬまま終わってしまった。
「あー、別にそっちは知らなくていいと思うんだけど…」
「え?必要なんじゃないのか?」
「んー、正しく言うと遭遇率が限りなく低いわ」
俺は小首を傾げながら、サマンサがおもむろに取り出したユニポワールの101箇条に目を向ける。
【101条】
数百年に一度現れると言われている魔王が出現した場合、身分、位に関係なく、ユニポワールに存在する者達全てが勇者となり、戦う権利を得る。また、魔王を倒した暁にはその栄光を称え、この国を管理する権利を授けるものとする。
ま、魔王…。なんか急に異世界感が溢れてきた。
「まあ、確率は数百年に一度な訳だし、そんなに簡単に遭遇する事はないわよね」
「ああ、そうだよな。あり得ないよな」
「ええ、あり得ないわよ」
俺はつい乗ってしまったが、今現在よくよく考えてみると後悔が跡を絶たない。
サマンサさんきっとそれはな、世にいうフラグって奴なんだよ。
俺がそう思ったのもつかの間。
けたたましいサイレンが鳴り響き、続けて焦った様子の神社職員らしき人の声が放送される。
「緊急放送です、緊急放送です!皆さん落ち着いて聞いてください!数百年に一度現れるか現れないかと言われている魔王が、あの魔王が姿を現しました!これより101条が執行されます!繰り返しお知らせします…」
ほら言わんこっちゃない。
「進!大変よ!魔王ですって!」
悲鳴に近い声をあげるサマンサを見て、普段からそのくらい女の子っぽかったら可愛いのに、なんて思ったなんて口が裂けても言えない。
とは言え、なにせ数百年に一度だ。
この街にいる人はほとんど魔王との戦いを経験したことがないのだろう。外から騒ぎ立てる民衆の声がする。
え?お前は平気なのか、って?(そんな事聞いてない)
俺は今までの妄想力によって鍛えられた、華麗なるシュミレーションで魔王なんて倒し終わった。
はい、調子乗りましたごめんなさい。
見事な程の異世界感。
フラグ回収当たり前。
主人公の登場直後に敵が出現!
ここまでなんの狂いもなく、俺の異世界生活は順調に進んできている。
「とりあえず、外の様子を見てみようぜ」
「え、危ないかもしれないじゃない。やめておいた方が良いんじゃないかしら…?」
「大丈夫だって!心配し過ぎだろ」
ひとりだけ変に余裕のある俺はサマンサの制止も耳に止めず、外に歩み出た。
「ちょっと進ってば!」
「目指すはただ1つ!あの魔王城…!?」
そんなことを格好つけて叫んだのは良いのだが、ぱっと目に飛び込んで来たのは酷いものだった。
元は、山々が連なっていたはずのそこには、魔王城という名が相応しい禍々しい建物がそびえていた。
その周りには霧が立ち込め、稲妻が光り輝いている。
妙に感じる生々しさが、先程までとは一変。俺を一瞬で恐怖のどん底へと突き落としたのは言うまでもない。
「さ、サマンサ?お前は見ない方が…」
若干震えている声で、サマンサの方へと再び顔を向けると時すでに遅し。
サマンサは魔王城を見つめてフリーズしていた。




