期限切れとカカオの香り
「今度こそ、小太郎しゃんの理想の女の子に慣れましたか? 」
そう微笑みかけた苺を見て、俺は純粋に可愛いと言う気持ちと、胸に刺さる痛み。
それがなんでなのか分からないが苺の微笑みが冷たく笑っていない様に感じた。
「むぅ〜小太郎しゃん!苺が近くにいるのに何だか上の空じゃないですぅ?」
そう言って苺はほっぺたを膨らまし、口を尖らして怒る。
「あぁ。ごめん苺……ちょっとぼーっとしてたみたいだ。まだ頭が寝ぼけているかもしれない 」
「この世界に戻ってきたばかりだけど、苺は構ってくれないと寂しいのですぅ〜 」
上目遣いをし頬を赤く染め、右腕にしがみ付くと自分の大きな胸を俺に押し当ててきて甘え始めた。
「苺……当たってる…… 」
「ふぇ?なにが当たってるんですぅ? 」
そう言って嬉しそうにしがみついて離れようとしない。
……本当に分かっていないのか?
無防備な雰囲気と無邪気で子供っぽいあどけない表情が可愛い。
確信的な誘惑なのか、ただ単に俺が帰ってきて安心して無防備になっているのか恋愛経験があまり無い俺にはわからない。
ただ苺が俺の事が大好きで大好きで仕方ない事だけは分かる。
でも、時たま不意に見せるあの瞳の暗さに素直に苺を好きだとはけして言ってはいけないそう本能が
警告しているように感じる俺自身がいた。
この世界に帰ってきて丸1日がたち俺も苺も疲れて寝始めた頃。
ぐぅぅうううぅ〜 !っという大きな音が大きなかまどから聞こえた。
「 なんだ ⁈ 」
慌てて部屋から出て大きなかまどに向かうと、カカオの芳醇で甘い香りが立ち込めていた。
よく見ると大きなかまどの前には黒髪の小さな女の子が倒れていた。
「あぁ!!!ショコラちゃんですぅ〜 」
そう言って苺がその黒髪の小さい女の子に近づく。
するとまた
ぐぅぅううううぅ〜
っという音が黒髪の小さな女のこから聞こえた。
「苺……その子お腹が空いてるんじゃないか?」
そう聞くと苺は無表情になり、首を横に振る。
「違うですぅ〜!ただ疲れてるだけなのですぅ!大きなかまどに入れてあげると疲れを癒す効果があるって聞いたことがあったですぅ!だから大きなかまどに苺が入れてあげるですぅ〜」
そう言って苺は黒髪の小さい女の子を握って持ち上げた。
「いッ………!!!!」
苺は咄嗟に手を振り、小さい彼女を振り落とす。
苺の指からは真っ赤な血が滲んでいた。
黒髪の小さい女の子が苺の手を噛んだようだ。
苺の手から振り落とされた黒髪の小さい女の子は俺の足元に飛ばされてきた。
俺はその子を拾い上げようと手を伸ばす。
「触らないで!!!!!!!」
苺が凄い形相で俺を睨み絶叫する。
’‘ いつもの ’‘ 苺とは違う姿に一瞬、戸惑ったがすぐに冷静になり、俺は迷わず黒髪の小さい女の子に触れた。
すると苺の時同様に、記憶のかけらが脳に直接流れ込んでくる。
すぐに顔が赤くなっちゃう恥ずかしがり屋。
チョコが大好きな食いしん坊で優しく気配り上手な女の子。
不意に大胆な大人な一面を見せ、いつも俺をドキドキさせる。
この子は_______________……第二案内人……ショコラ
目を開けると俺の掌にはちびショコラちゃんがいた。
俺はぐったりしたちびショコラちゃんを優しく抱え、走って食品庫に行きチョコレートを必死に探した。
でもチョコレートが見つからない。
「何処にあるんだ ⁈ 確か此処にあったはず……なのに……」
俺が必死に探していると
ドアの方から
「小太郎しゃ〜ん!! なに探してるんですぅ? 苺も一緒に探すですぅ〜」
その声はどこか歪んだ重い声をしていた。
その声の怖さに一瞬にして身が凍る。
決死の思いでドアの方を見ると苺が微笑みながらこちらを見ているが目が笑っていない。
「アレ?小太郎しゃん!どうしたんですぅ?そんな怖がった表情して具合いでも悪いのですぅ?それとも…… 」
そう言いながら苺は一歩ずつ俺とちびショコラちゃんに近づく。
「こっちにくるな!!!!!お前なんて嫌いだ!!!」
普段の俺なら決して言わない一言が思わず口から出ると上の方から声がした。
「ふぉふぉふぉ!!!ストーップじゃ!!!!!プレイヤーすまんのぉ〜!!全ての乙女の再調理した筈だったのだが、抜け道から異物が入り込み賞味期限の切れた者が混ざっていた様じゃ。今すぐ白をそちらに派遣し、異物の除去を開始するぞぃ!!!!まぁすぐ終わるから気にするな 」
そんな声がしたかと思うと
頭までフードをかぶり、目元しか見えない状態の小さい女の子が入ってきた。
「プレイヤーである佐藤小太郎、お久しぶりですわ。また貴方の世話をするなんて吐き気がしますがシュガー源老師様の導きですので仕方ありません。決してわたくしが選んだわけでは御座いませんので勘違いなさらないでください……もう一度言いいますが白は嬉しくなど無いのです!むしろ迷惑……」
そこまで言っていた白い小さい女の子は俺とちびショコラちゃんを見るなり驚いた表情になり
急いで近くに来た。
「プレイヤー佐藤小太郎!!なにをなさっているのですか⁈ 早く麗しの第二乙女ショコラにこれを!!」
そう言って白い小さい女の子はチョコレートを差し出した。
続く




