神に支える女神と小悪魔
___……小太郎しゃん!×××は小太郎しゃんがだいしゅきですぅ〜頭をなでなでして欲しいですぅ
可愛い女の子の声が聞こえる。
でも俺にはその声の主が誰だったのか、思い出せない。
とても大切だったあの子の名前が思い出せない……。
夢の中で無我夢中に必死に追いかけても見つからない。
もがき苦しんだ後、眼が覚めると泣いていた。
そんな俺に、戸惑いながらも優しく声をかけて来たのは、巫女服姿の林檎だった。
林檎は涙を流す俺に気遣いながらも、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして
「どう……かな僕でもこんな女っぽい服が似合うかな?」
普段男勝りで勝気な林檎からは想像できないほど、しおらしいその態度に俺はドキドキした。
林檎が自信がなさそうに、もじもじこちらの様子を伺っている。
そんな林檎を見ていたらどうしょうもないくらい可愛く思えて
自分でも信じられないくらい歯の浮く様な甘い言葉が自然と口から出た。
林檎が特に好きなわけでも嫌いなわけでもない。
可愛いとは思うが、好きという特別な感情はないのが本心だ。
彼女が俺にとって特別な存在でもない。
それでも久し振りに発した言葉は甘い囁きだった。
林檎は、はにかんだ笑顔で恥ずかしそうに俯く。
甘いくて幸せな時間が流れる。
「小太郎が気に入ってくれて僕、嬉しい……僕は小太郎と出会うのが遅かったけど僕を選んで欲しいと思ってる 」
林檎は真剣な表情でまっすぐ俺を見た。
俺は視線を外し
「出会った順番なんて関係ないさ……林檎は素敵な女の子だから」
「小太郎!僕、嬉しい……君に出会えて良かった……」
そう喜ぶ林檎を尻目にずるい俺は逃げ道も作る
「でもショコラちゃんもちーちゃんも気合が入っているからな……林檎が一番だけどまだ分からないな 」
そう林檎に聞こえる程度の小さい声で呟く。
林檎はむーっとした顔をして
「絶対負けない!僕は大好きなちーちゃんにだって君を取られたくないんだ……小太郎が好きな服をまた着て見せるから僕を選んでくれ」
そう言って林檎は部屋から出て行った。
俺は深くため息を吐く。
俺の事を一途に好きでいてくれる……。
こんなに甘い女の子に、可愛い表情をさせるなんて現実世界ではあり得ない事だ。
そう思いながらも、ショコラちゃんもちーちゃんもいるこの世界の中では、やっぱり林檎は可愛いけど
それ以上でもそれ以下でもなかった。
ただこんなに俺に好かれようと必死な女の子を、無下に突き放す様なことは俺には出来ない。
傷つけたくない。
嫌われたくない。
泣かれたら困る。
面倒な事は避けたい。
好かれていたい。
だから何も言いたくない。
ずるい俺は、決断しない。
それがどんなに、酷い事だとしても俺にとって都合が良い方を選ぶし
誰も傷つけないで、このまま一人に絞らないでちやほやされたいという邪な気持ちが勝ってる。
かつて特別な感情を抱いたショコラちゃんに対しても、ちーちゃんに対しても今は、そういう気持ちは薄れていた。
目の前にいるこの女の子達より、消えてしまって白や夢で追いかけていた女の子が気になっていた。
あの子は誰だろう……恋煩いにも似た感情を少なからず夢の中の女の子には抱いていた?
そんな妄想に似たことばかり考えて、言い訳を作る。
あの甘い声はどこか懐かしく聞き覚えがあったし
俺にとっての特別な女の子はきっと夢の中のあの子だったのかもしれない。
だからこんなに可愛い女の子が近くにいても、何か物足りない気がしているのかもな……。
夢の中のこの子が特別な存在だから決められないんだ。
でもその子は夢の中の子だから現実にはいない。
現実にいないあの子を追っても意味はない。
だから近くにいる女の子で隙間を埋めればいい。
一人に決めるなんてもったいない。
一人に決めたら悲しむだろうし
みんな幸せで、俺も幸せが一番。いつしか自分のそういう暗示をかけるが
不意に冷静な自分に現実に戻され、自分のゲスな考えに追い詰められる。
都合のいい言い訳だと自分でも思う。
でもこれしか俺は選ぶことが出来ない。
ここに来た当初の俺は、こんな俺を見たら何と思うだろうか……。
ピュアで好きと言われただけで、幸せに慣れたあの時……。
隣にいたのは……小さいピンクの髪の女の子……?。
記憶の残像が瞳に写る。
俺は確かに、ピンクの髪の女の子といた。
でもそんな子はこの世界にいない。
夢と現実の狭間の世界で俺は曖昧記憶を探る。
忘れてしまった大事な記憶。
そこに全てがある気がしていた。
白が渡してくれた黒ずんだサファイア……。
それを触ったらまた、あの子に会えるのかな?
そう思い、俺はサファイアに手を伸ばす。
バッン!!!!!!
すると部屋のドアが勢い良く開いた。
際どい部分だけ隠れているだけの服と呼んでいいのか分からないくらい、布が無いコスプレ?をしたちーちゃんが入ってきた。
「小悪魔ちーちゃん参上なのです!! ちーは小太郎さんのサキュバスになって吸い尽くす事にしたなのです!ちーと契約して魔法男子になって欲しいなのです」
ちーちゃんはドヤ顔で、自信満々に俺に言った。
続く




