冴えない俺と都市伝説
2XXX年2月。俺は脱サラをした。
長年愛し続けているアニメや漫画に囲まれて、大好きなアイドルや声優と関われる生活を夢見て某アニメーション学院に夢を乗せ胸を高鳴らせて入学した。だが現実はそんなに甘くはなかった。
脱サラして学生になった俺に世間の目は冷たく、10代から20代が多い某アニメーション学院では特に32歳の俺はクラスに馴染めずにいた。
毎日同じことの繰り返しの退屈な日々。学校と家だけの往復の毎日、家族やクラスメイトからの冷たい目。そんな生活が2年ほどたち次第に嫌気がさしていた頃、
久しぶりに高校時代のオタ友の武からコミケのお誘いがあり俺は気分転換に行くことにした。
久しぶりに武と会って大好きな声優の姫野りんごさんのグッズやいろんな話をしていく中で
武は思い出したかの様に話し出した。
「そういえばさぁ。小太郎お前さぁ、あの噂のアプリの話知ってるか? 」
「唐突になんだよ。噂のアプリ?なんの話だ? 」
「お前、最近SNSで話題のあの都市伝説しらねぇのかよ‼︎ ‼︎ ‼︎ 」
俺が知らないと言うと武は興奮した様にいきなり立ち上がり懇々と話し出した。
その内容はなんでも2月14日2時14分にしかダウンロードが出来ないアプリの話で
そのアプリの名前は「シュガープロジェクト」と言うらしい。
このアプリはアプリから選ばれた者だけがダウンロードを許されていて
ダウンロードできた者にだけこの世のものとは思えないくらいのとてつもない幸福が手に入る。
ただし、ダウンロードをする為の審査の仕方も不明。詳しい内容も不明らしい。
だが、武のサバゲー仲間が実際にアプリをダウンロードしてダウンロード出来てから一年で、
今まで彼女いない歴=年齢でしかもニートだった人がいきなり可愛い彼女が出来て仕事も見つかり、人生大逆転したのだとか。
ただの噂なんかじゃないと熱弁していた。
俺は呆れた様に溜息をつきながら武に言った。
「武さぁ。そんなアニメの様な話本当に存在すると思ってんのか?都市伝説はただの噂なの。何処かの誰かが面白半分でSNSで拡散して楽しんでるんだよ。じゃなかったらお前のそのダウンロード出来たサバゲー仲間に詳細やどんなアプリだったか聞いてみろよ。答えられないなんておかしいだろ? 」
俺が論破してバカにした様に言うと武は拗ねてムキになった。
「絶対、俺はこの噂を暴いてアプリをダウンロードして可愛い彼女をゲットするからなぁ‼︎ 後からダウンロードの仕方を聞いてきても絶対‼︎ 小太郎には教えてやんねぇからな‼︎‼︎ いいんだな俺だけ幸せになっても‼︎」
武が余りにもしつこく言うので俺は少しなだめる様に
「わかった、俺が悪かったから俺にもその「シュガープロジェクト」て言うアプリのダウンロードURLを教えてくれ。俺もダウンロードしてみるよ」
そう言うと武は満足した様に
「このURLは俺のサバゲー仲間の奴にダウンロードのコツを聞いたら、こっそり渡して来た物だから他には絶対に教えるなよ!!内緒な!!」
URLが書いてある紙を渡された。
「2月14日は明後日だからな‼︎忘れるなよ‼︎2月14日2時14分だからな‼︎絶対俺は可愛い彼女をゲットして人生大逆転してやるからな‼︎小太郎も絶対ダウンロードしろよな‼︎」
武に念を押されて俺は帰宅した。
2月13日、俺にとって今後が決まる運命の日。
俺の通う学校では毎年進級試験があるのだが俺は毎年試験に落ちていて留年していた。
3年連続で落ちると退学になってしまう制度で俺にとっては今回のテストがラストチャンスだったが、本番に弱い俺はセリフをかつてないほど噛みまくった。
その結果
「佐藤さぁ……お前、才能ないわ。役者に向いてない。俺も講師を何年もやってきたから分かる。お前の為にもクラスの為にもお前はやめた方がいい。」
俺は結局、退学する事を促されてしまった。
何もかも捨てて脱サラしてまで追いかけた夢は尽く砕け散った。
家に帰宅する途中の電車の中で俺は不甲斐ない自分が情けなくて、悔しくて何もかも失った喪失感が俺を襲い、何年か振りに泣いた。
その後、心の隙間を埋めようと俺は強くもないのに家の近くのコンビニで酒を買って帰宅した。
どん底の気分を変える為に撮り溜めしていたアニメを見ることにした。
このアニメには俺の大好きな姫野りんごさんが出ている。
「くせ毛フレンド」を肴に酒を飲んでいると武からメッセージが来た。
「小太郎‼︎後5分だぞ‼︎スタンバイできてんのか?ちゃんとダウンロードしろよ‼︎‼︎」
俺はそれを見て武からもらったURLの存在を思い出した。
失意のどん底位にいた俺にはこれが自分の人生を変える最後のチャンスな気がして、急いでパソコンをつけURLにアクセスした。
時間ギリギリでなんとかURLを読み込み、アクセス出来た様だったがただひたすら真っ白な何もないホームページに辿り着いた。
時刻は2時14分になろうとしていた。
何もない真っ白なホームページを見るが何も出てこない。
やっぱり噂は只のデマかと思い、パソコンの電源を落とそうとした瞬間。
さっきまで真っ白だったホームページに薄っすら文字が浮かび上がって
『甘い女の子は好きですか?』と一言書いてあった。
その文字を見つめ、手に持っていた缶ビールを一口飲みながらふと、頭の中で男はみんな女の子…好きに決まってるよ…な…?。と考えていると
「好きで良かったですぅ〜。あなたを待っていたですぅ〜」
突然の声に俺は驚き手に持っていた缶ビールを床に落とし、慌てて缶ビールを拾おうとしゃがもうとするとパソコンからまた声が聞こえてきた。
「あらら〜大丈夫ですぅ〜?一緒に今からシュガーキッチンに来て欲しいですぅ〜」
そんな声が聞こえたと思い恐る恐るパソコンを確認すると、画面が暗くなり俺の意識もだんだん遠のき気を失ってしまった。
「小太郎しゃん〜起きてくださいですぅ〜」
俺は遠くから聞こえる女の子の声とバニラの甘い香りで目が覚めた。
続く