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♯1 バカ降臨

まず、落ち着いてひとつずつ説明しよう。





そこは、虚無の世界。

道路は朽ち果て、建物は倒壊し、いたるところに炎が燻っている。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


人々は逃げ惑う。

助かる見込みがないのにも関わらず。


だが、災禍は止まらない。


「────」


()()は、軽く右手の人差し指を下に振る。

まるで、そこにある埃を払うかのような気まぐれで。



ドゴォォォォォォン‼︎‼︎‼︎




それだけで、"悪夢"が降り注ぐ。


「ぁ、あぁ、ぅぁぁ……」


がくりと、人々は膝をつく。

空に浮かぶ、隕石を見上げながら。

絶望の顔で。



ドォン、ドゴォォン、ドドドォン‼︎



数多の隕石が襲いかかる。


「……うるさい蝿だ。ったく、始末にも困るよ……」


その天変地異を起こした張本人は、空に浮かぶ黄金の玉座に肘をつきながら、退屈そうに言う。

手にはワイングラスがあるが、中にはなにも入っていない。ただ、それを左右に振って弄んでいるだけだ。


やがて、数分が過ぎると。

先ほどよりもさらに果てない虚無が広がっていた。

あるのは、ただ一面の炎のみ。


「ふぁ〜ぁ」


玉座にいるそいつは、だるそうな欠伸をする。


「……帰るか」


そう言い残し、宇宙へと消えていく。




「っ……助かった……」


片膝をつきながら、体についた血を払う。


「……何が豊穣神だよ、クソが……」


その男は見てわかる通り、満身創痍だった。

体じゅうに負った傷は深く、もう助かりはしないだろう。

血だまりは炎で蒸発し、あと残ったのは右腕以外の体のみ。


その男は、ニレンの何代か前の先祖だった。

名は、ハルク・スレース。


「神なんて……ロクなものじゃねぇじゃねえかよ……」


先ほどここを襲ったのは、神。

正確には、豊穣神イシュタル。

シュメール神話の豊穣神だ。


だが、豊穣神なんてのはまやかしだった。

全ては人間の理想像。

この世のほとんどの神は、破壊神だったのだ。


「……イシュタル……‼︎名を覚えたぞ……」


そこで、がくりと倒れる。

ハルクが再び起きることはなかった。






「……らしい」


へぇぇ、とセーツは感心の息をつく。


「なんか、すげぇな……いろんな意味で」

「いろんな意味ってどういうことだよ」


ニレンは尋ねる。


「まずは、お前ん家族にそんなすごい昔話があるってこと」


あぁ、とニレンは納得する。

数百年前、地球は神に滅ぼされた。

「ちょっと地球でも滅ぼすか」という気まぐれで。

だからここは()2()()()()

辛うじて良心を取り留めていた音楽神ハトホルが、新たな地球をつくりだした。


そしてハルクはその時代に生きた者。

なぜ伝承者がいないはずなのにニレンに伝わっているのかは不思議でならないが、ニレンはバカなのでそのことには気づかない。


「んで二つ目は……よくバカのお前にこんな難しい話が理解できたな、ってこと」

「っ!お前な」

「否定するか?え?"地球最強のバカ"が?」

「くっ……」


まんまと、ニレンはセーツのからかいに乗せられてしまった。

乗せられたというか、自分から地雷を踏みに行ったようなものだが。


「にしてもスケール大きすぎだよなー……、神が地球をブッ壊したとか」

「んま、じゃなきゃこんな状況にはなってねーだろうけどな」


セーツはそう言って、足元に置いてある剣を撫でる。


「弁当のときにも剣常備とか、まじで腐れ」

「ははは……ま、お前が言っても『まずはそのバカを直せ』って返ってくるだろうけどな」

「ぬぐぐ……まあ仕方なくもあるけどな……」


剣を常備する理由。

それは「地球破壊の余波」らしい。

急激に破壊されて質量欠損を起こしたマグマが、その形を変え性質を変え、どういうわけかドラゴンになっている。


(……くっだらね)


セーツはそう思う。

まるで漫画のような世界。

だが、実際問題漫画ほど上手くはいかない。


その理由のひとつが、この"地球最強のバカ"、ニレンである。


「………」


こいつはさっきの数学の授業で、、10×32を1032と言った。


(……日常って、バカひとつでこんなに壊れるものなんだな)


セーツは切にそう思う。

成績が優秀なセーツからすると、ニレンのバカっぷりは理解不能だ。


……だからこそ、セーツはニレンが許せない。

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