―ゾディアック / サイン―
「いててっ。ひどいことするな」
「お前のせいだ」
俺は、オフィウクスの殴った頬の手当をしていた。
丁度、近くに薬局があり、誰もいない店内に入って、金だけおいておいた。
意味はないかもしれないが……。
「ところで」
俺は、オフィウクスに問いかける。
「なんで今、この街に人ひとりいないんだ。ほかの人たちは……」
オフィウクスは答える。
「いなくなったわけではないよ」
「じゃあ、どこにいったんだ」
「君の考え方が違う。いなくなったのではなく、君自身が違う場所にいるんだよ」
「違う場所……」
俺は、オフィウクスの言葉の理解ができなかった。
「そうだよね。説明不足だった。今、君は僕の渡した「サイン」を持っているよね」
「サイン?」
「君に渡した、球の事だよ」
俺は、ポケットの中に入れていた球を取り出す。球は白く光を放っていた。
「その球がサイン。この空間を作っているのはその球の現象だよ」
「サイン……」
「そう。サイン。サインは自分の理想とする空間を作り出す。そしてこの空間では、何を行っても現実には反映されない。例えば……」
パチンとオフィウクスが指を鳴らすと、さっき俺が入った薬局が燃え出した。
「おい、何やってるんだ」
「見ての通り、建物を燃やしたんだよ」
「そうじゃない。こんなことしたら……」
「言ったでしょ。現実には反映されないって。ここから出た時に確認してみてほしい」
「……わかった」
「それと、サインを持っている君たちの事を、ゾディアックっていう」
「ゾディアック」
「ゾディアックは、選ばれた12人の事を指す。皆、それぞれの願いをかなえるために12人の持っているサインを集めなければいけない。そしてゾディアックには、そのサイン特有の能力をもつことが出来る」
「ちょっと待て、その願いが叶うのは……」
オフィウクスはニヤっと笑う。
「そう、一人だけ。だから皆そのサインの奪い合いをしなければいけない。交渉でもよし、渡してもよし、能力を駆使して戦い、殺しあって奪ってもよし」
「なんだよ。それ」
俺は、オフィウクスに向かって、
「俺は、叶えたい願いなんてない」
「いや、あるでしょ」
「俺には……」
俺の言葉を遮り、オフィウクスは、
「君たちの家族が生き返ってほしいって思ってないの?」
また、オフィウクスはニヤっと笑った。
「俺は……」
「あぁ、言いそびれるところだった」
オフィウクスは続けて、俺に話しかける。
「因みに負けた場合の話だけど、代償があるから気をつけてね」
「代償……」
「そう」
「俺の場合は」
「君が賭けるものを決めるんだ。賭けるものを大きくすれば大きくするほど能力は強いものになる」
「じゃあ、俺が勝てば、相手はその代償を支払なければいけないってことだろ」
「そうなるね」
オフィウクスは、さらっと答える。
「そんなのって……」
俺は、相手の代償を奪ってまで願いをかなえるぐらいならと思っていると、
「そうそう。もう君は、別のゾディアックと対峙してしまっているのなら、後戻りはできないよ。」
オフィウクスは、俺に向かって
「何か代償を決める。決めた時に君のサインの能力が解放される。そうしなければゾディアックとの戦いは完全に君の負け。僕から話せることはこのぐらい」
オフィウクスは、その場で薄くなっていく。
「おい。オフィウクス」
「ごめんね。僕、1年間、君を探していたから少し力が足りなくなっているんだ」
「おい。俺は、どうしたらいい」
「戦う。そして最後の一人になった時に、また僕は君の前に現れるよ」
そう告げると、オフィウクスはその場から姿を消した。
「俺は、どうしたらいい」
その場で、崩れ落ちていると、
「ねえ。大丈夫」
その場に、近くの薬局のお姉さんが俺に話しかけてきた。
街並みは、人通りが復活していた。
オフィウクスが焼き払っていた薬局は、何事もなかったかのように燃える前のままの姿で佇んでいた。
「大丈夫です」
俺は、時計を見る。授業の予鈴が鳴り響いていた。
「戻らなきゃ」
俺は、薬局のお姉さんに別れを告げ、学校に戻った。