-間幕 金谷千尋-
「おそいなぁ」
私は、恒平の家にいた。
キッチンを使っていいと言われ、スーパーで買った食材でテーブルの上には、2人分の料理が並んでいた。
恒平からLOINの返事が入っていたのは、私が部活の終わった、16時ごろ。
現在の時計の針は19時を示している。
私は、LOINを送る。
「どこにいるの?」
「ご飯できてるよ」
「先に、食べていい?」
何度か、送るが、既読スルーされた。
「はぁ」
私は、リビング窓に向かい、のカーテンを開く。
いい天気だった、日中とは異なり、ぽつり、ぽつりと雨が降っていた。
雨の中一人でいると、あのことをいつも思い出す。
中学2年生、あの事故が起こる前日。私は、父親と口喧嘩をした。
「なんで、転勤なの」
私は、父親に食って掛かる。
「仕方ないだろ。会社の都合なんだから」
「でも、早く言ってくれないと困る。友達にもはなしてない」
「決まったのが、昨日なんだ」
父親はいつも温厚なのだが、この日は仕事が遅く、疲れのせいか声を荒げていた。
「それなら、一人でここに残る。一人で生活していく」
「そんな事、できるわけないだろ」
口論は、30分ほど続き、父親は、
「今回の、キャンプの件も恒平君のお父さんが、転勤になる前に千尋と思い出ができるようにと企画してくれたものなんだ。行かないと失礼だろ」
「お父さん同士が、勝手に決めたことでしょ。私、いかないから」
父親は、諦めたように、
「わかった。好きにしろ」
と投げ捨てるように、部屋を出て行った。
それが、父親と交わした、最後の言葉だった。
次の日、恒平の両親と、私の両親は私を残して、キャンプに出た。
恒平も、その日は、行かず私の家を訪ねに来ていた。
しかし、私は会う気分になれなくて、そのまま部屋で居留守を使っていた。
その日、私は一人、ベッドの上で悶々としていた。
「なんで急に転校? どうして今? 仕事なんて……」
いろいろと、頭を巡らせていると、一つの言葉がぼそっとでた。
「私の何かがなくたっていい。転校はしたくない」
その一つの回答が、私の頭を巡っていた。私は、ベッドの上で仰向けになりながら、涙を流し続けた。
そんな事を考えていると、泣きつかれたのか、私は、ベッドの上で寝ていたよう。
時計の時間を見る。夜10時。どうやら、長く寝ていたようだ。
外を見る。雷が鳴っていて、雨も土砂降りだった。
まるで、私の心のようだと思っていると、
「ピーンポーン」
静かな、家に玄関チャイムがこだまする。
夜の10時なので、私は、そのまま無視していると、
「ピーンポーン」
何度も、鳴るので私は耐え切れずに、TVモニターの画面を見る。
その、モニターには、いつもの顔なじみが映し出されていた。
「恒平・・・」
傘もささず、ずぶ濡れになっており、必死な顔をしていた。
私は、急いで玄関先に向かう。玄関のダブルロックを外して、玄関を開ける。
「あっ、千尋」
恒平は安堵したように、話しかけてきた。
「どうしたの? ずぶ濡れじゃない。一先ず玄関に入って」
「いや、いい」
恒平は、私の提案を断ると、そのまま続けて、
「落ち着いて聞いてほしい……」
「うん」
私は、恒平の言葉を待つ。
「俺の両親と千尋の両親、土砂崩れに巻き込まれた」
私は、言葉を失った。
私と恒平は、病院で動かない両親の顔を確認した。
私たちの家に、警察が来て、この病院まで送ってくれた。
「君たちの両親に間違いは、ないかい?」
若い警察官が私に向かって、話しかける。
「はい……」
と、恒平が私の代わりに返事をしてくれた。
私は、両親の顔を見てすぐに、病院から逃げるように、抜け出した。
どのぐらい、病院内を走っていたのだろう。
気が付けば、病院の屋上に出ていた。外の雨は、明るい月が顔を出してやんでいた。
警察官の話を聞くと、両親は、私たちを心配して、ペンションに一泊する所を、早く出て家に帰る途中の出来事だったと聞いた。
「私のせい……」
私は、自暴自棄に陥る。
もしも、あの時、父親と話していた時に、一緒に行っていればこんな事にならなかったのではないか。そして、今日、ベッドで考えていたことを後悔していた。
「私の何かがなくたっていい。転校はしたくない」
こんな事を思っていると、ドン、と屋上の扉が開く音がした。
開いた扉の奥には、いつもの幼馴染の顔が現れる。
「ここにいたのか。千尋」
私は、少し安堵する。恒平を見て安心したのか、突如、顔から涙が溢れ出す。
「おい、俺何かしたか?」
いつも通りの、恒平の口調にさらに涙がこぼれだす。
「ご、ごめんね。恒平。本当にごめん」
「なんで、千尋が謝るんだよ」
「だって、私が……、私が」
言葉が出てこない。私は泣きじゃくることしか出来なかった。
「一先ず、落ち着け」
私が、泣き止むのを、恒平はずっと傍で待っていてくれた。
「落ち着いたか」
私は、少し落ち着きを取り戻し、恒平に言えなかった事を伝える。
「私のせいで、両親……が」
私は精一杯の言葉を、恒平に伝える。
「そんな事ない」
私の伝えたいことが分かったのか、即答で答える。
「だって、私が行くっていっていれば、こんな事にならなかった」
「仕方ないだろ。不慮の事故だ」
恒平は私を慰めてくれるが、思いが止まらず、
「私、望んだの。私の何かがなくたっていいって。そんな事望まなければ、私は、私は……」
そこで言葉が止まる。恒平が私の頭を撫でる。
「俺が、一緒にいるよ」
「えっ……」
「千尋の両親の分、俺が傍にいてやる。だから泣くな。前を見ろ。俺も不安だし、この先どうなるか分からないけど、絶対に千尋の傍にいるから。だから今は、何も考えないようにしろ。大丈夫、何とかなる」
私は、恒平のその言葉に、枯れたはずの目からまた、潤んでいた。
恒平はその日は、ずっと傍にいてくれた。
……。
「夢……」
私は、リビングのカーテンを開け、外を確認した後、テーブルに戻り、そのまま伏せて寝てしまったようだ。時計を確認する。夜の10時。
どうやら、小一時間ほど寝してしまったようだ。雨音がする。どうやら、雨が強くなっているようだ。恒平の姿はない。恒平の事を考えていると、
「ピーンポーン」
部屋に玄関チャイムが、鳴り響く。
恒平と思ったが、恒平ならチャイムを鳴らさなくても、鍵を開けられるはずだ。
「ピーンポーン」
私は、恐る恐る、TVモニターを確認する。
そこには、昨日会ったばかりの顔が映し出される。
「貝塚さん」
私は急いで、玄関に向かう。
「貝塚さん。どうしたんですか?」
「やあ、千尋ちゃん。こっちにいたんだね」
どうやら、貝塚さんは私の部屋に行ったが、いなかったので恒平のリビングの光を見てこっちに来たようだ。
「雨、強いです。中に……」
「いや、いいよ。それより、今、車で来ているのだが乗ってくれないか。大変なんだ」
「大変って……」
私は、私は、一抹の不安を感じる。
「今、警察から連絡があって、恒平が……」
その言葉を聞いて、私の頭は真っ白になっていた。




