ー 演劇部② ー
「おう、恒平朝早いな」
次の日、教室で翔に挨拶される。
「昨日、早く帰ったからな。看板色付けこんな感じでいいか」
看板の色を翔に確認する。
「おお、いいんじゃない。怪獣感、ホラー感出てて」
「いや、おれはメイド、執事感を出したつもりだったんだが」
俺と翔に静寂の間が訪れる。
「……まあ、結果オーライだ。恒平」
翔は、親指を立てる。
「……」
俺は、納得がいかなかったが、完成した看板を乾かすため、翔と一緒に屋上に運ぶ。
「所で、その後はどうだ」
翔は、今の経過を聞いてくる。
「変わらない」
「そうか。頑張れよ」
「あぁ、頑張るよ」
教室を出て、階段を登ろうとした時背中越しから、
「ねえ、そこの男子」
俺と、翔が声のする方へと振り向く。
すると、そこには1人の女生徒がいた。
規則無視の茶髪で耳にはピアスをつけている。
スカートも短く、ギャルと言う言葉がよく似合っている。
俺は、すぐに反応し、
「おい。翔にお客さんだ。発情期の女の子だ。大切にしてれよ」
翔の方をトントンと叩く。
「誰が、発情期ですか。それより、私の呼んだのは隣のかっこいい人じゃなくて冴えないあんたの方だよ」
「お、俺?」
「ぷっ、よかったな。格好いい俺じゃなくて。じゃあ俺は看板持っていくから。じゃあ発情期の女の子とごゆっくり。冴えない恒平くん」
翔は、笑いをこらえながら1人で軽々と看板を持ち上げ、屋上へ続く階段を登っていった。
「おい、翔」
俺は、翔に置き去りにされ、その場には俺とギャルの女生徒だけが取り残されさ。
「はぁ、俺に用って何? 」
俺はため息をつきながら、ギャルの女生徒に声をかける。
「あなた、涼子先輩のこと演劇部の人たちに聞きまくっているようだけどどういうつもりなんですか」
「どういうつもりって。俺はただ、部室にいないのはどうしてか聞きたいだけだったんだけど」
「今、涼子先輩がどうなっているかも知らないの」
「何が? だから俺は平野さんのことについて知りたいんだよ。何処にいるのか」
俺は、ギャルの女生徒の問いに答える。
「じゃあ、何。あんたは本当に涼子先輩の事を聞きたいだけなの?」
「そうだよ」
「じゃあ、佳菜子先輩の嫌がらせじゃなくて」
「佳菜子先輩って昨日の黒髪ロングの人? 」
「そう。私はてっきり他の人達と同じと思って……」
「他の人? 」
「涼子先輩の事件があってから、佳菜子先輩が一番疑われたから」
「事件? 」
「事件のことも知らなかったの?」
「だからいったでしょ。俺は平野さんが今、何処にいるのかを教えてほしいだけって」
「そうだったんだ。ごめんね。挑発的な言い方して」
「いや、いいよ。俺も配慮が足りなかったから。それより事件って平野さんに何かあったの」
「それは……」
ギャルの女生徒が口ごもる。
「まぁいいや。言いづらかったら」
「……ごめん」
「いいよ。それより、名前は?」
「私? 私は北条花音」
「俺は、津田恒平」
「津田恒平。じゃあ恒平って呼んでいい」
「別に構わないよ。好きなように呼んでくれ。北条」
「わかった。それじゃ。文化祭の邪魔してごめん」
「あぁ。今度は、気を付けろよ。男に迂闊に話しかけると勘違いされるから。見た目もそんな感じだし」
「!! うっ、うっさい」
花音は、顔を赤らめながらその場を走るように去っていった。
「北条花音。これで残りは1人か」
俺は、ポケットに入れた資料を取り出し、名前を確認した。
※※※
「千尋、できた」
「ごめん。まだうまくいかない」
私は、剣道部のなべにだし汁を入れていた。
部活の仲間が、
「時間ないからね。あ、そうだ。これ」
と渡されたのは、歴代の部員たちが残していったおでんのレシピだった。
「これ、昨日も見たよ」
「え? 」
部員の仲間が同じ冊子を渡してきたので嫌みを言う。
「まだ、味変かな」
「んー、けどすごいよね。結構手間かかるって先輩たちいっていたから。才能あるんじゃない。千尋。」
「ありがとう」
私は、昨日と同じようにおでんの具を入れていく。
「そういえばさ、最近恒平君と会えてないんじゃない?」
「うん。そうだね。今日も忙しそう」
「なに? 向こうの出し物のほうの手伝いの方がよかった?」
「そ、そんなことないよ」
私は、否定する。
「全くもう、ラブラブでなにより」
「もう、昨日も同じ事言ってたよ。嫌み?」
「? 今日始めていったけど。さっきのレシピもそうだしどうしたの?」
「あれ? 気のせいかな?」
私は、気になりながらも、おでんの出汁の作成に勤しんだ。
※※※
「翔ごめん。今日も早くあがっていいか」
「おい、恒平。まだ、教室の飾り付け終わってないぞ。もう明後日だぞ」
「明日、早くくるから」
「わかったよ。明日早く来いよ」
「すまない。翔」
俺は教室を出た。
日が暮れて、生徒達が下校を始めていた。
俺は、約束の場所に足を運んだ。
体育館の扉を開ける。
体育館は夕日が差し込み、静まりかえっていた。
「津田くん。早かったね」
ステージの縁に座っている宮内さんの声が体育館中に響き渡る。
「すいません。待たせてしまいましたか」
「ううん。今来たところだから」
ポンっと、宮内さんが体育館の床に飛び降りる。
「君が知りたいことは何かな」
「平野さんの今いる場所が知りたい」
「何で、知りたいの」
「平野さんと約束したことがあるから」
「そう。それじゃあ諦めた方がいい」
「諦める。何で」
「彼女は、もう目覚めないから」
「どういう意味ですか」
「本当に知らないんだね。所で約束ってなんなの」
「それは、今は言えません」
「そっか。それじゃあ私もここまでしか話せないな。言ったよね。交換条件だって」
「……」
俺は、宮内さんの言葉に口を紡ぐ。
「なんてね。嘘。冗談」
そんな事を言いながら、宮内さんは一枚の紙を俺に渡す。
そこには住所と電話番号が書かれていた。
「そこに行けば、涼子に会えるよ」
「平野さんはここに」
「えぇ、けど会うのなら覚悟してね。私は会わない方がいいと思うよ」
「どうして」
「行けばわかるよ」
そう伝えると、宮内さんは体育館の出口に向かって歩き出す。
「明日の朝、ここにいるから。聞きたいことあれば聞いて」
宮内さんが俺に言葉を残して出口から出ていった。
俺は、渡された紙を見る。
「ここって……」
その住所は、俺がよく知っている場所だった。
俺は、急ぎで体育館を出て、その場所に向かった。
※※※
「お疲れ様」
私は、部活の準備が落ち着いて、自分の教室に戻る。
「お疲れ」
翔君が挨拶を返してくれた。
「あれ? 恒平は?」
「今日は、もう帰ったぞ。何か、用事があるようだった」
「今日もそうなんだ……」
私は、答える。
「なんだ、恒平は金谷に挨拶して帰らなかったのか?」
「うん……」
「そうか、まぁ明日もあるし、俺も今日は上がろうと思っていたんだ。帰るか一緒に」
「そうだね……」
「じゃあ、帰るか」
「ねえ、翔くん」
「なんだ」
「昨日も、同じ話しなかったっけ」
「いや、何で」
「ううん。何でもない。帰ろう。翔くん」
私は、翔君と今日も一緒に学校を後にした。