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Zodiac Sign - ゾディアックサイン-  作者: 真野亜駆
第一章 始まりのGemini
2/29

-日常と変化と-

「朝か……」

カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ます。

ベッドにあるデジタル時計をのぞき込む。

「6時」

目覚ましのアラームは7時30分にセットしていた。

「もうひと眠りするか」

俺は、ベッドで惰眠を貪ろうとすると、

「コウヘー。起きてるー」

黄色い声が、2階にある俺の部屋に響いてくる。

「……」

俺は、その言葉をなかったようにベッドの中で、目を瞑ろうとすると、俺の部屋の扉がどんと、勢いよく開く。

「恒平。朝だよ」

サーっと、窓のカーテンを全開に開く。俺は、眩しさのあまり、その場の布団で顔を隠す。

「恒平。さっさと起きる」

俺の、布団を揺さぶってくる。

「あー、おはよう」

俺は、いかにも今起きましたように装い、眠気眼をこすりながら、黄色い声のする方を向く。

そこには、黒髪ロングのきりっとした顔立ちの、金谷千尋(かなやちひろ)がベッドの前に立っていた。

「おはよう恒平。朝食できてるから、早く下に降りてきて。あともう一度寝ようとしたら、今度は、竹刀で叩き起こすからね」

「うぇ。それは勘弁」

「それじゃあ、さっさと着替えて、下に降りてくる」

「はぁい」

俺は、ドアから出る千尋を見送りながら、着替えを済ませ、下に降りる。

降りてきて早々、千尋が

「朝食。テーブルに出来ているから、食べて。私、朝練あるから」

と千尋は、竹刀袋を持って、玄関に向かう。

「朝から、精がでることで」

俺は、玄関に向かう、千尋に声をかける。

「恒平も部活やったら。中学の頃は一緒に剣道部だったのに」

「俺は、朝の時間を大切にしたいの」

「惰眠を貪る時間を?」

「そう」

はぁ、と千尋はため息をつくと、諦めたように、

「じゃあ、いってくるね」

「いってらっしゃい」

千尋が出た後にでも、もうひと眠りするかと考えていると、

「ちなみに……」

千尋は、間をあけて、

「遅刻したら、部室にある木刀で頭たたき割るからね」

ニコニコする千尋の顔を見て、俺は、寝ることをあきらめた。



俺は、千尋の作ってくれた朝食を食べていた。パンにサラダにスクランブルエッグ、スープまで付いて、ホテルの朝食のようなラインナップだ。

テレビをつけて、マーガリンを付けたパンをかぶりつきながらテレビを見ていた。

俺こと、津田恒平(つだこうへい)は、この二階建て4LDKに、ある事件をきっかけに一人暮らしをしている。親戚はおらず、この家に来るのは、隣のアパートで独り暮らしをしている、千尋だけだ。千尋とは、幼稚園からの幼馴染でいつも、俺の家に来ては、朝食を作って、朝練に向かっていた。俺が、健康的な生活を保てるのも千尋がいてくれたためとひしひし感じている。


俺は、朝食を食べ終わると、食器を持ちキッチンに向かい食器を洗い、身支度を整えて、

「いってきます」

と返事の帰ってこない、家に背を向けて学校に向かった。




俺の通う学校は、自転車で15分ぐらいのところにある。短期大学と併設された学校で、星洋短期大学付属高等学校。毎年2000人以上入学のある私立学校で学部も普通科から専門学科まで数多くの学部があるマンモス校である。

学校内には、コンビニや食堂、はたまたネイルや美容室、スーパーまで完備している。基本、アルバイトは校則で禁止ではあるが、学校内にある施設であれば、許可されている。生徒外の人たちも施設を利用しているため、いつも賑やかだ。

学校の方針で、

「社会に出る前の、予行練習ができるように」

との事だが、学校の利益も大分関わっていると俺は思っている。ちなみに俺は、普通科である。


俺は、賑やかな高校内にある商店街を通り抜けて、校舎へと自転車を走らせた。

「おはよう。恒平」

駐輪場に自転車を置いていると、スラットし、さわやかな雰囲気の神谷翔が話しかけてきた。

「おはよう翔。いつも元気な事で」

「おう。お前はいつも眠そうだな」

「あぁ。いつも朝早く起こされているからな」

「金谷か?本当に仲の良い事で」

「勝手に来られているだけだよ。本当はもっと寝ていたいのに」

「わがままなこって」

翔は、苦笑いを浮かべながら、俺を見ている。

「そういえば」

翔が俺に向かって、

「明日なんだけど、恒平と金谷時間空いてるか?もしよければ、明日遊びにいかないか?次の日休みだし」

俺は、

「ごめん。翔。明日は……」

翔は、気づいたように、

「あっ、そうか。ごめん。忘れてた。明日は……」

「いいよ別に。気にしてないから。また誘ってくれ」

「そうだな。金谷にもよろしく伝えてくれ」

キーンコーンカーンコーン。

学校集合5分前の予鈴が校舎中に鳴り響く。

「やべー。翔。俺遅刻したら、千尋に頭かち割られるんだ。急ごうぜ」

「そいつはやべーな……。急ごう」

俺たちは教室に向かって走り出した。

一先ず、教室間に合い同じクラスの千尋には、頭を割られずに済んだことはここで報告しておく。


昼休み。俺は、職員室に向かった。朝、翔が話していた明日の事を伝えるためだ。

「先生」

俺は、担当教師の亀谷の机に向かった。

「すいません。明日ですが、」

と話をすると遮るように、

「あー、津田。さっき同じクラスの金谷からも話があった。明日は休むんだろ」

「はい、すいません」

すいませんと思ってはいないが、一応相槌をうつ。

「いいよ。仕方ないことだからな。明日は、気を付けて行ってくるように」

「はい。ありがとうございます」

そんな相槌の会話をした後、俺は職員室を出た。



職員室をでて、俺は食堂に向かった。食堂は、専門学科の調理科が学食の料理に腕を振るっている。そのため、調理科のメンバーとそれ以外の生徒の昼食の時間が違う。学食のメニューもA定食、B定食とその他カレーやうどんなどがあり、どれも金額は350円学生の財布にはとてもやさしい。今日はAがサバの味噌煮定食、Bがとんかつ定食になっている。

どれにしようかと食券機を悩んでいると、

「まだ、なやんでいるのか?恒平」

後ろから、翔の声が聞こえた。

「男なら、とんかつ定食ごはん大盛り。1択だろ」

「いやいや。翔の基準にあわせないでくれよ」

「なんだ?そんなに悩んでいるなら、あれにしろよ」

あれというのは、食券機のボタンの右下にあるRANDOMと書かれているボタンだ。

「いやだよ。あのボタンは」

そう。RANDOMのボタンは200円と書かれており、どの食事が出るかわからないのである。ちなみにメニュー表にないものまで出てくる。

「俺、この前金欠の生徒が押して、激辛カレーと激辛タバスコトマトジュースが出たってきいたぞ」

「恒平。俺の友達の話だと、お汁粉うどんがでたって言ってたぜ」

「そんなもん、買うわけないだろ」

わいわい翔と戯れていると、

「ねぇ。食券買わないのならどいてくれない」

俺たちの会話を遮るように、千尋が話してきた。

「食券買いたいんだけど」

「あーごめんな。金谷。恒平の奴がなかなか決めないから」

「俺のせいか」

と言い合っていると、

「食券買うから」

と千尋が財布を開いていると、

「あー、しまった。お金下ろし忘れた。200円しか入ってない。仕方ないか」

すると、千尋はなけなしの200円を食券機に入れて購入したのは、

RANDOMのボタン。

俺は、

「おい。千尋知ってるのか。このボタンは」

「知ってるよ。RANDOMのボタンでしょ。なにが出るかわからないんでしょ」

「おい、知ってて購入したのか」

そのまま、千尋は食券を学食にもっていく。

「あーサバの味噌煮食べたかったな」

そうぼそっとつぶやくと、学食の調理科生徒が、

「はい、サバ味噌煮定食です」

「えー、やった。ラッキー」

と満面の笑みをしながら、千尋はテーブルに向かっていった。

「おい、翔」

俺が翔に向かって、

「もしかして、RANDOMのボタンの食券を買って、食堂の前で呟けば」

「食べたいものを用意してくれると」

翔も俺の言葉に合わせて相槌を打つ。

「よし」

と俺と翔はRANDOMのボタンを押し食券を購入して、食堂へ向かった。

「とんかつ定食たべたいな」

と翔。

「カレーライスたべたいな」

と俺。

そして、到着したのは、

「間違いない」

俺と翔は、同時に言葉がこぼれた。

来たものは、とんかつ定食、カレーライスだった。

「よっしゃ。完璧だ」

翔は、攻略法を見つけた子供のようにはしゃいでいた。

「よし、食べるか」

翔と俺は、テーブルに着き、食事をした。

翔はカラっと上がったとんかつを口に頬張る。

俺は、カレーに手をかける。

「うっ」

俺と翔は、二人で苦悶の表情を見せる。

「辛―――」

と翔。

「甘―――」

と俺。


翔のとんかつ定食と思われていたものは唐辛子、ハバネロ、タバスコを練ったものがあげられており、俺のカレーは砂糖たっぷりのカレーパフェであった。俺たちは、一口で地獄を味わうこととなった。ちなみに、昼食後、俺たちはショックのあまり授業に集中できなかった。

後から聞いた話だが、千尋の定食はちゃんとしたサバの煮込み定食であった……。学食、恐るべし。



学校が終わると、俺は自宅に帰宅した。

千尋は、剣道部。翔は陸上部だ。

どちらも、学校では有名人で、剣道部の千尋と翔どちらも全国大会まで行くほどの実力だ。

そのため、部活をやっていない俺は、いつも一人帰宅だ。いつもなら、まっすぐ帰るのだが、携帯に千尋からのLOIN(ロイン)が入っている。

「明日の買い物。お願いしてもいい?」

「わかった。買っておく」

と返事を返して、俺は少しの遠回りをして、帰路についた。

家に着いた、俺は明日の準備をしていた。忘れ物がないか確認していると、ふと机の中にしまっていたものを思い出した。コンビニ帰りに怪しいローブの男からもらったチェーン付きの球を取り出す。そこにはマークがついており、その下には「Aries」と書かれている。

Ariesとは牡羊座のことである。マークも牡羊座シンボルだとはわかってはいたが、あのローブの男は、

「願いが叶う」

といっていた。今思えば、この牡羊座の球といい、何かの宗教の勧誘であったのかもしれない。怪しいとは思いつつも、なぜか捨てられず、机の中にしまっていた。

「別に必要ないけど」

と思いながらも、明日の準備をしているカバンの中に、一緒にAriesと書かれた球を入れた。



次の日の朝。俺は、いつもより早く起きていた。

着替えを済ませて、荷物を1階に下ろそうとしたとき、

「恒平」

と、千尋が、玄関先にいた。

「準備できたか」

と俺が聞くと、

「うん」

とだけ、返事が返ってきた。いつもの勢いはなく、少し、神妙な様子である。

「じゃあ。いくか」

「うん」

と、俺と千尋は目的地に向かう。



向かう先は、俺たちの町から電車で30分の場所である。駅を降りると、歩いて10分ぐらいでついた。そこは神社の境内。小さな神社だが、しっかりと草木は手入れされている。

「やあ。津田君。千尋ちゃん」

ついて早々、坊主姿の年配の住職が出迎える。

「お世話になります。貝塚さん」

「……お久しぶりです」

俺はすぐに、千尋は少し間をおいて返事をする。

「二人とも。大きくなって。さぁこちらへ」

住職の貝塚さんに連れられて俺と千尋は目的地についた。

「津田家代々の墓」

「金谷家代々の墓」

俺と千尋は、各自分の墓の前に立った。

「さて、掃除してやるか」

俺が、言うと、

「うん……」

と千尋も自分の墓を掃除する。掃除をした後、昨日買ってきた線香に火をともし、花を添えて二人は手を合わせた。

貝塚さんが

「もう3年か。ご家族さんが亡くなってから」

「そうですね」

俺は、貝塚さんの言葉に返事を返す。

「……」

千尋は手を合わせて、聞こえていないようだった。

「津田君と千尋ちゃんのお父さんとは、仲良くさせてもらっていたからね。まさかあんな事になるなんて」

「……」

「……」

俺も、千尋も返事は返せなかった。



元々、俺の父親と千尋の父親は同じ会社の同僚だった。父親同士も仲が良く、そのため千尋とも幼馴染としていつも一緒にいた。

中学2年生の夏休み。両親同士が、企画して家族ぐるみでペンションでキャンプに行くことになっていた。しかし、その前日、千尋は千尋のお父さんと大喧嘩をしたらしい。理由は聞いていないが、次の日にキャンプにはいかないといい、キャンプも予約をとってしまったため、父親たちも後に引けず、そのまま向かうこととなった。俺も千尋がいかないと聞いて、俺も千尋が心配だからと家に残った。その日の夜、雷を伴う大雨だった。雨の中、家の中で電話が鳴り響いていた。俺は電話に出ると、

「消防署の者ですが。津田様のお宅でしょうか?」

「はい」

俺は、消防署の消防員から流れるように続ける。

「津田様と金谷様のご両親が、土砂崩れに巻き込まれました」

と。

本来であれば、そんなことはありえなかった。ベンションは平地にあり、土砂崩れの心配など皆無である。両親は、俺と千尋が心配になり1泊するはずのペンションを出て、自宅に戻ろうとしていた。その道中の事故だった。

「……」

千尋は、言葉を発しない。ずっと手を合わせていた。

貝塚さんは、親戚も身寄りもない俺と千尋を後見人として見てくれている。通常後見人は難しいのだが、いろいろと手を回してくれてをしてくれて今に至っている。

「いつも、本当にありがとうございます」

「いやいや。大丈夫だよ」


そんな世間話をしていると、時間も夕方になっていた。

「もう夕方だな。千尋。帰ろう」

と話しかけたが、まるでこけしのようにその場から動かない。

「千尋」

と大きな声でもう一度声をかけると、こけしのように立ちながら祈っていた千尋は、顔だけを俺の方に向ける。千尋は首だけを下に振る。

俺は、貝塚さんに挨拶をして、神社を出た。


帰る道中。俺は、電車の中で、千尋に話しかける。

「大丈夫か」

「うん」

「いつもの元気な、感じでないと調子狂うから明日からはいつも通りな」

「うん」

まるで、ゲームに出てくる、村人のように同じ返答がかえってくる。

その日は、千尋が「うん」という言葉以外かえって来ることはなかった。




間幕


同日。夕暮れ時。

一人の少女が、嬉しそうに、高台の望遠鏡を眺めていた。ショートカット、まだあどけなさの残る顔立ちだ。

「みつけたよ。泪」

やっと見つけた。

「これで、私たちは……」

一緒になれる。

あの、おにいちゃんを……せば。


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