―決戦前―
俺は、馴染みの境内に向かっていた。
千尋に気づかれないように、始発の電車に乗って駅を降りる。
少しづつ、境内に近づいていく。
境内の鳥居が見えてきた。鳥居の奥に、一人の少女が見える。
夜の公園で出会った少女が、境内にいた。
「待ってたよ。おにいちゃん」
俺は、待ち構えていた宮本に対峙する。
「約束。守ってくれたんだね」
「あぁ」
俺は、周りを確認する。ここは、貝塚さんの神社だ。巻き込みたくなかった。
「心配しなくてもいいよ」
宮本が、気づいたように話しかけてくる。
「さっき、この街は、人ひとりいないようにしているから」
「人が……、いない」
「あれ―、お兄ちゃん知らないの。サインには、別次元に飛ぶことのできる力があるんだよ。直接、人のいるところで戦ったら目立っちゃうじゃない」
オフィウクスに会ったときを思い出す。あの時の空間は、俺のサインによって作り出したものだと今、理解した。
「それと、おにいちゃん。まだ、契約していないみたいだね。サインと」
「あぁ」
俺は、素直に答える。
「死ぬために来たの?」
「一つ、聞きたいことがあってな」
「何?」
俺は宮本に向かって問いかける。
「お前が、叶えたい願いって何だ」
「私の願い?」
「そう、叶えたいものがあって戦うんだろ。聞かせてくれよ」
宮本は、ニヤっと笑う。
「聞いてどうするの?まあ、いいか。冥土の土産に教えてあげる」
少し間を置いて説明する。
「お兄ちゃんは、Vanishing Twinsって知ってる」
俺には聞き覚えのない言葉。宮本は続ける。
「直訳すると、消えた双子って意味なんだけどね。私は双子で生まれてくるはずだったの。けどね、成長途中で、双子の片方に吸収されてしまう現象が起こる場合があるの。それがVanishing Twins」
「じゃあ、お前の叶えたいことって……」
「そう。私は、双子として生まれてくる泪を望んでいる」
宮本は、少し声を荒げて続ける。
「私の中には、まだ泪がいる。小さい時、話していたのにその記憶も今はない。寂しい思いをさせてしまった泪に、そして泪の犠牲に生きている私が許せないの。だから戦う」
「そうか」
俺は、宮本に問いかける。
「それじゃ、私の事も話したし死んでくれる」
「いや、俺は死ねない」
俺は、宮本の言葉を断った。
「じゃあ、何でおにいちゃんは、私の叶えたいことなんて聞いたの」
「俺は……」
少し間をあけて、宮本に、
「俺は、お前の叶えたい事を犠牲にして、叶える覚悟があるかを確認したかったからだ」
「じゃあ、おにいちゃん、私と戦うんだね」
「あぁ」
俺は、サインに願いと代償をサインに祈る。
願いは、俺と千尋の両親をあの事故から救うこと。そして、代償は、俺自身の今までの記憶をすべて無くすこと。サインは光を発し、腕に星座のマークが入れ墨のように印字された。
宮本は、答える。
「じゃあ、殺しあおうか」
戦いの狼煙が今、上がった。