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ハロー1216  作者: エル
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プラムとステラ 5

 夜が、ずっと怖かった。

 地下の工房で、マスターと離れて、人間の真似事のように眠るのは、私にとって孤独そのものだったからです。

 まるで子供みたいですよね。

 沈まない太陽の下で、温かな人と、ずっと一緒に居られたらなんて。

 けど、仕方ないですよね。私は、目覚めてから半年しか生きてない魔道人形だったんですから。

「ここは?」

 気が付けば、周囲は闇。

 まるで、星のない夜のよう。水面のような地面に立つ私は、一人ぼっち。

 この世界が、私の終わり。

 それはあまりにも、寂しすぎます。

「ねえ」

 最初に認識したのは音でした。

 鈴のなるような少女の声。

 振り向けば、そこに最初からいたかのように、一人の少女。

 麗しい金髪の、お転婆そうなお姫様。

「あなたの日々は、楽しかった?」

 その問いかけに、思い出されるのはあの町での穏やかな暮らしです。

 見ればいつの間にか、私の周囲には、思い出の光の数々。

 マスターのお仕事を眺めているのが好きでした。可愛いメイド服が、とっても大事でした。ジャンク屋さんにナンパされること、実は悪い気はしていませんでした。私のことを、お友達だと言ってくれた人が居ました。宝物だったティーセットで、もう一度、マスターとお茶を飲みたかった。

 色鮮やかなマスターとの日々。平和で慌ただしく、賑やかで楽しかった、そんな。

「はい」

 それも、もう終わり。

 私は、私の日々をこの人に返さなくちゃいけません。

「とっても、幸せでした」

 ああ、けど、もう少し、マスターと一緒に、居たかったなぁ。

「マスターのこと、よろしくお願いします」

 私は今、笑えているんでしょうか?

 自分の役目を終えて、笑っていられているでしょうか?

「うん」

 ステラ姫が、私に抱きつきます。

「大丈夫です。あなたは私なんですから」

 その一言で、私の孤独は全て消えてしまいました。

 ずっと、会いたかった、わたし。

「絶対に忘れない。もう二度と、手放したりなんかしない」

 私も、その人を抱き返します。

「だから、泣かないで?」

 そうか。

 私は今、泣いて、いるんだ。

「嬉しいな」

 魔道人形の私は、泣くことなんて出来ませんでした。けど最後に、本当に、人間みたいに。

「ずっと、一緒だよ」

 うん。

 もう、私とわたしの境界は、曖昧になっています。

 これで、魔道人形プラムの物語はおしまい。

「さあ、行こう」

 マスターが、待っています。


 それは現実では一瞬にも満たない時間だったのでしょう。

 私の手が、今しっかりと、義体の手を握っていました。

「あなたも、ありがとう。ずっと私でいてくれて」

 ついさっきまで私だったその魔道人形は、意識を失って、まるで眠っているかのようです。

「やっぱり、可愛い」

 あの義体とメイド服を用意してくれたジャンク屋さんに、感謝。

「ハァァァァ!」

 私は、その手を離して、小さな空間の亀裂を星の力を使って無理やりこじ開けました。

 こんな場所には、一秒たりとも居たくありません。

「姫様?」

「…………」

 その部屋に降り立ったとき、シンクの顔を見て、本当に懐かしい気持ちになりました。

「ただいま。シンク」

 ステラとしての私の帰還。

 そして。

「マスター」

 これが、プラムだった、私の気持ち。

「あなたのおかげでこの半年間ずっと、幸せでした」

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