プラムとステラ 5
夜が、ずっと怖かった。
地下の工房で、マスターと離れて、人間の真似事のように眠るのは、私にとって孤独そのものだったからです。
まるで子供みたいですよね。
沈まない太陽の下で、温かな人と、ずっと一緒に居られたらなんて。
けど、仕方ないですよね。私は、目覚めてから半年しか生きてない魔道人形だったんですから。
「ここは?」
気が付けば、周囲は闇。
まるで、星のない夜のよう。水面のような地面に立つ私は、一人ぼっち。
この世界が、私の終わり。
それはあまりにも、寂しすぎます。
「ねえ」
最初に認識したのは音でした。
鈴のなるような少女の声。
振り向けば、そこに最初からいたかのように、一人の少女。
麗しい金髪の、お転婆そうなお姫様。
「あなたの日々は、楽しかった?」
その問いかけに、思い出されるのはあの町での穏やかな暮らしです。
見ればいつの間にか、私の周囲には、思い出の光の数々。
マスターのお仕事を眺めているのが好きでした。可愛いメイド服が、とっても大事でした。ジャンク屋さんにナンパされること、実は悪い気はしていませんでした。私のことを、お友達だと言ってくれた人が居ました。宝物だったティーセットで、もう一度、マスターとお茶を飲みたかった。
色鮮やかなマスターとの日々。平和で慌ただしく、賑やかで楽しかった、そんな。
「はい」
それも、もう終わり。
私は、私の日々をこの人に返さなくちゃいけません。
「とっても、幸せでした」
ああ、けど、もう少し、マスターと一緒に、居たかったなぁ。
「マスターのこと、よろしくお願いします」
私は今、笑えているんでしょうか?
自分の役目を終えて、笑っていられているでしょうか?
「うん」
ステラ姫が、私に抱きつきます。
「大丈夫です。あなたは私なんですから」
その一言で、私の孤独は全て消えてしまいました。
ずっと、会いたかった、わたし。
「絶対に忘れない。もう二度と、手放したりなんかしない」
私も、その人を抱き返します。
「だから、泣かないで?」
そうか。
私は今、泣いて、いるんだ。
「嬉しいな」
魔道人形の私は、泣くことなんて出来ませんでした。けど最後に、本当に、人間みたいに。
「ずっと、一緒だよ」
うん。
もう、私とわたしの境界は、曖昧になっています。
これで、魔道人形プラムの物語はおしまい。
「さあ、行こう」
マスターが、待っています。
それは現実では一瞬にも満たない時間だったのでしょう。
私の手が、今しっかりと、義体の手を握っていました。
「あなたも、ありがとう。ずっと私でいてくれて」
ついさっきまで私だったその魔道人形は、意識を失って、まるで眠っているかのようです。
「やっぱり、可愛い」
あの義体とメイド服を用意してくれたジャンク屋さんに、感謝。
「ハァァァァ!」
私は、その手を離して、小さな空間の亀裂を星の力を使って無理やりこじ開けました。
こんな場所には、一秒たりとも居たくありません。
「姫様?」
「…………」
その部屋に降り立ったとき、シンクの顔を見て、本当に懐かしい気持ちになりました。
「ただいま。シンク」
ステラとしての私の帰還。
そして。
「マスター」
これが、プラムだった、私の気持ち。
「あなたのおかげでこの半年間ずっと、幸せでした」




