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ハロー1216  作者: エル
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プラムとステラ 4

「終わりだ」

 俺の長い戦いも、これで終わる。

 このクォーツさえ手に入れてしまえば、あとはどうとでもなる。いや、して見せる。

「こっちだ、早く、そいつをこっちに」

 この位相空間に取り込めば、あいつらに追跡する手立てはない。俺の、勝ち……。

「あ?」

 パキン、と、なにかこの空間に似つかわしくない、さえない音が響く。

 見れば、シャフトの弟子が腕を上げて、凄まじい形相でクラウソラスを睨み付けていた。

 その手には、硝煙を上げるリボルバーが一丁。

「っは!」

 最後の最後に、無駄だと分かっていても抵抗してきたか。

 だが、あんな豆鉄砲じゃあクラウソラスの装甲には傷一つ付きはしない。

「あんな雑魚に構う必要はねえ。それよりも」

 早くしろと、そう命令した、つもりだった。

「ギ」

 クラウソラスの腕が、止まる。

 なにか、聞いたこともないような音を立てて。

「ギギギギギ」

 そのまま細かい律動を繰り返し、目が怪しい光を放って目まぐるしく動き、片膝をつく。

「こんな時に誤作動か!?」

「プラム!」

 クラウソラスの動きがおかしくなり、あの魔道人形がその拘束から逃れていた。

 それどころか。

「嘘だろ!」

 見れば、俺の周囲を覆っていた空間に亀裂が生じて、そのまま一部が砕け散る。

 ずれていた世界同士が、ほんの一部分だけ、繋がってしまう。

「行ってくれ!」

 片目を抑えて、シャフトの弟子が叫ぶ。

 目は真っ赤に染まり、息も絶え絶えに、必死で。

 なにが、なにが起きているんだ。

 魔道人形が、その声を聴いて駆けだした。

 まずい、俺の後ろには、姫の体がある。

「捕まえろ!クラウソラス!」

 クラウソラスは俺の命令に忠実に従い、魔道人形の義体にその手を伸ばす。

「五条 黒腕」

 だが、五本の影が伸びて、クラウソラスの四肢を押さえつける。

「……行か、せるか!」

 死にかけの、生き迫る執念。

 シンクが、その手を地面に当てて、五本の影を伸ばし、クラウソラスを地面に縛りつけやがった。

「おい、やめろ」

 魔道人形が俺たちの前に迫る。

 しかし。

「よし、いいぞ」

 綻びた空間が、徐々に修復を始めている。

「く、そ」

 元より小さな綻びだ。その修復は早い。これなら確実に、あの魔道人形がこっちに付くよりも早く、この空間は再び閉じるだろう。

「頼む、もう、少しだけ」

 バカが、祈ったって間に合わねえよ!

「ハァ、ハァ、ハァ」

 姫様!あんたはもうすぐ俺のモノだ!

「ギ、ギ」

 クラウソラスが影の腕を引きちぎり、自由を取り戻す。

 そうだ、全ては一瞬のはかない夢さ!

 もう、なにも……。

「姫様」

 シンクのそれは、ただの、負け犬の遠吠え。

「姫様ぁぁぁぁぁ!」

 その、はずだった。

「……シンクさん」

 声が聞こえたのは、俺の背後から。

「なん、で?」

 予想外の、計算違いばっかりが起こりやがる!

 だがこいつは、その中でも最大だ!

「シンク、さん」

「おい!下がれ、リア・ファル!」

 俺に絶対忠実で、その全てを掌握しているはずのリア・ファルが何故。

「何故起きている!何故俺の命令を無視できる!」

「シンクさん、やっぱり、わたし」

 もうこいつは俺の声なんて聞いちゃいなかった。

 虚ろな目は流せるはずもねえ涙を溜めて、俺の横を駆けて、行く。

「わたしは、あなたが、いたから」

「戻れ!戻れー!」

 その手を掴もうとして俺の手は、空を切った。

 そして。

「シンクさん」

「……手を、伸ばして」

「はい」

 その開いた空間の最後、ほんの少しの穴。

 そこから、シンクに向けて、手を伸ばした。

「ハァァァァ」

 伸ばしたその手を、魔道人形の義体が、光をたたえたその腕で。

 掴んだ。


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